んー…十キロぐらい?
「びっくりした。いきなり電話してくるんだもんなあ」
「ごめんって。そんな怒んないでよ」
見慣れたポニーテールがぴょんぴょん跳ねる。
楓が髪の先っぽを押さえる。来てくれたのは助かる。しかし押さえた時に脇が見えるのはエロいわね。男なら鼻血だしてる。
「バカじゃない? あと別に怒ってないよ。それよりなんなの今日は」
「そういえばまだ説明してなかったわね。あのね今日来てもらったのは…」
周囲をキョトンとしながら見渡す我が妹にことの始終を説明する。
説明しとけよみたいな空気を周りから感じるけど無視。キミ達は練習でもしときなさい。
終始黙って聞いていた妹だったが説明し終わるとニコッと笑った。
「帰る」
「ちょちょちょちょっ!! 何でよ!? せっかく私が姉の威厳を曲げてまでお願いしてるのに!!」
「どこがっ!? これ以上くだらない事に巻き込まないで!」
この反応は予想外と言えば予想外だけど、おい未来。その通りだといわんばかりに頷くな。そんなんで引き下がる私ではないぞ。
「お願いよ、楓。足が速くて指導も出来る人ってなるとアンタぐらいしかいないのよ」
「だからってなんで私が…。一応これでも受験生なんだからね」
「それは知ってる。涼が勉強教えてくれるわ」
「おい巻き込むなって」
「うっさい黙れ。ねえ楓お願い! ほら私って友達いないじゃない? 頼んでも誰もやってくれないのよ。頼れる人も楓ぐらいしかいないし」
「…絶対そんなことないと思うけど」
「え、どうしてよ?」
「はあ…なんでもない。もう…今回だけだよ?」
「…チョッロ」
「帰る!」
「うそうそうそうそうそうそっ!! あーもうウチの妹ってなんて愛おしいのかしら!! こんな可愛い子見たことないっ! L・O・V・E・か・え・で!」
「きもっ…こんなんで姉の威厳とか無理あるからね」
楓がドン引きしながら後ずさる。お姉ちゃん悲しい。
「悲しいなら普通にしてて。じゃあ早速始めますか。勝ちたいなら練習しなきゃね。涼さんとか運動苦手そうだし」
「俺の扱いが雑過ぎないか? キミ達姉妹は」
「アンタなんか雑ぐらいでちょうどいいのよ。ホント名ばかり部長なんだから」
「こんの…おぼえとけよ如月…!」
「ふふっ…そのいきよそのいき。せっかくやるならそれぐらいの気合で練習しなきゃ! ね、楓。じゃあなにからやろっか?」
「まずはジョグでアップかな。ケガしたら元もこもないし」
「さすが我が妹、わかってるわね」
「えへへ…」
「何キロぐらいジョグすんの?」
「んー…十キロぐらい?」
「……は?」
「え…?」
まるで普通でしょといわんばかりの反応に不安がつのる。遠くで一人走る香蓮が聴こえないフリをする。
私は猛烈ダッシュで捕まえに行く。香蓮の顔が蒼ざめている。
心情が思わず口に出る。
「あいつヤバいわ…」
そんな情けない心の声は楓の気合にかき消されるのであった。
読んで下さりありがとうございました。
また更新します。




