これだから元ヤンは
「はいどうぞ」
「ん~待ってましたっ! もうすっごいお腹減ったんだから」
お姉ちゃん達が食卓にやって来る。
お客二名分を追加で作っていたら案外時間が掛かってしまった。
まあでも適当につくる訳にもいかないし、しょうがないんだけどね。
「ホント律儀ね。適当で良いわよこんな奴ら」
しっしっとゴミをあしらうように手で追いやる。
相当お姉ちゃんは疲れてるようだ。まともに相手をするつもりはないらしい。
どうやらこの二人は無理矢理遊びに来たようだ。
「アナタはお客さんに対する態度じゃなさ過ぎるわね」
「そうよそうよ! 何でそんなひどいこと言うのっ!? 私のこと好きって言ってたのにあれはウソだったの!?」
「絶対言ってないでしょ。そんな虚言ばかり吐いてるから嫌われるのよ」
「うっさいわ元ヤン」
「あああああん!!? もっぺん言ってみろこの金カス頭!」
「いっただっきまーす! んっ!? あ~もう最っ高に美味しいわ!」
「カオス過ぎる…」
人様の家だとは少しも思ってないのか突然ケンカしだすバカ二人。この人たちが私の目指す高校の先輩だと思うと少しだけ憂鬱である。
それにしても無視を決め込んでご飯をかっ込むウチの姉は何とも男らしい。まるで部活帰りの男子高校生だ。
「しょうがないでしょお腹減ったんだから。修学旅行は楽しかったけどご飯はいまいちだったのよ。ちょびっとしか出なかったし」
「旅館の料理ってそんな感じじゃない? 〝量より質〟っていうかさ」
「そうなのよねえ…わかっちゃいるんだけど。やっぱり私には合わなかったみたい。贅沢は贅沢な旅行だったんだろうけどさ。私はやっぱり〝質より量〟ね」
「…ふーん」
質より量ねえ…。
悪気はないんだろうけどそれではまるで私の料理が不味いみたいではないか。失礼な姉だ。
「あー別に楓の料理が不味いって言ってる訳じゃないからね」
「今さら遅いけど」
「怒んないでって。お腹いっぱい食べれて嬉しい、家庭の料理が一番って意味だから。すなわち楓が一番ってことね。」
「バカじゃないの…」
自分のご飯をよそうフリしてそっぽを向く。
顔が熱い。こういう所は相変わらずで嫌になる。
「ちょっと楓さん。照れてないでわたくしのご飯もよそってくれないかしら」
「…うざ」
気分台無し。そういえばこいつらがいたっけ。
久しぶりに姉妹水入らずの会話を楽しんでいたのに。
「ウザって何よ。それがお客様に対する態度なわけ?」
「無理矢理押し掛ける客は客とは認識しません。それに姉からも適当で良いと言われてますんで」
「じゃあなに? 自分でやれって言うの?」
「いいえ。帰って下さい」
「バカなのっ!? まだ食べてないんだけど!?」
「あははは! ほらほら、金カスは早く帰れよ!」
「私はアナタにも言ってるんですが…」
私は関係ないとでも言わんばかりにおかずを平らげる磯山未来。
これだから元ヤンは。
「…なにか言った」
「いいえ何も」
「うふふ…」
「えへへ…」
「怖っ…」
世にも奇妙な笑顔の応酬にさすがの香蓮さんもドン引きみたい。
お姉ちゃんが割って入る。
「もう楓。適当で良いとは言ったけど仲違いして欲しいわけじゃないから喧嘩はやめて」
「ぷぷー! 怒られてやんの!」
「香蓮もよ。ちょっと静かにしなさい」
「もう! 私のこと甘やかしてくれるんじゃなかったの!?」
「香蓮のことが好きだから言ってるの。静かにできる?」
「うん!」
「…ちょっろ」
軽い舌打ちを混ぜながら傍観する。
怒られたのが気にくわないのだ。
そもそも原因を作ったのも連れてきたのもお姉ちゃんではないか。
少しだけ…いや大分イラっときた。
何で私が怒られるのっ!?
納得できない。全然納得できない!
「あっ!? そうだ、楓。お土産買って来たから後で一緒に食べましょ」
「お土産?」
「うん、当然でしょ? 可愛い妹の為に沢山買ってきたんだから」
「えへへ…もうしょうがないなあ」
「…ちょろすぎ」
あまりにちょろい私にドン引きする二人。
でもいいのだ。
見栄も大事だけど本心を隠さないのも大事じゃないか。
気にしない気にしない。
それにちょろいだなんてアナタ達には絶対言われたくないしね。
ま、お互い様かもしれませんけど。
読んで下さりありがとうございました。
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