悪魔
一年が終わりに差し掛かると今年を一文字で表す漢字が発表される。その中にはピンとくるものもあれば、ん? って首をかしげてしまうものもある。
きっと一年という長い歳月だからこその違い。その人にとって思い入れ深いものが違うからこそそういった違和感が出るのだろう。なかなか一年を基準にしてしまうと難しいのだ。
ならば一日ならどうだろう?
例えば私なら今日は確実に『帰』である。
なぜなら…
学校から小走りで帰るとすぐに晩御飯の準備に取り掛かった。
いつもなら残って勉強していくところだけど今日は違う。少しだけ豪勢な夕飯をつくって迎えてあげたい。
「お姉ちゃんが帰ってくるからね」
修学旅行に行ってから今日で四日目。ついにお姉ちゃんが帰ってくるのだ。
あー…ついに何て言っちゃったけど別に楽しみにしてないからね? 今さら遅いかもしれないけど…。
でも聞いて欲しことが山ほどあるのも事実なんだ。
お父さんが来た事やキモイメール、果ては泣きながら夕飯を褒めちぎったこと。
…もうホントキモ過ぎてヤバい。一応親だし感謝はしてるけど嫌悪感とはべつ。キモいものはキモいのだ。
だからこの嫌悪感を無くす為にお姉ちゃんに早く擦り付けたい。出来るだけ早く。
お姉ちゃんはファザコンだから別にいいよね? 嫌だって言っても聞いて貰うけど。
だいたいお父さんの相手したのだってお姉ちゃんが修学旅行に行ってるのが悪いんだから。
「…ふふッ」
―――っは!
いけないいけない…図らずも鼻歌なんかを歌ってしまった。
別に楽しみなんてしてな…まあちょっとはしてるけど。してるから美味しいもので迎えてあげよう。
一応食べたいもののリクエストは聞いてあるし。
ん~となになにー?
味ご飯に唐揚げ、マカロニサラダにオニオンスープ?
…どこの男の子かしらホントに。呆れるを通り越して笑えてくるラインナップだ。
まあ向こうでさんざん美味しいもの食べて来ただろうし、帰ってきたらこういう普通のものが食べたいのかも。
私としても作りやすいし助かるのも事実。作ってあげない理由がない。
私はさっそく冷蔵庫から食材を取り出すと裁断していく。
マカロニを茹でつつ唐揚げを揚げながらご飯を炊く。
味ご飯については昨日のうちに下ごしらえをしておいたから準備はほとんどない。炊き込みご飯の良い所である。
「ただいまあ~」
作り終えてほどなくして玄関の方から声が聞こえる。
誰だろうと考えることはない。聞き間違えることが無いからだ。
「お姉ちゃんお帰り! ご飯出来てるよ」
なんて言いながら玄関に迎えに行く。
楽しみじゃないなんて言ったけど…ヤバい。顔がにやける。
うーっ!
そんなこと見透かされたくないのに…。
優が見てたらきっとバカにされるんだろうな。もう諦めてるから別にいいけど。
「お久しぶりね妹さん。ところで私の分はあるの?」
「ねーよ」
ほころぶ顔が一瞬で吹き飛ぶ。
見たくもない顔が眼下に映る。
脳裏に過ったのは『戦』の一文字。
どうやら今日を表す漢字は『帰』ではないらしい。
私の一日をぶち壊す金髪の悪魔がそこにいた。
読んで下さりありがとうございます。
また更新します。




