斜め上だったんだよ
翌日。
周りの目がこちらに注視している。
いや注視って言い方は語弊があるか。
正しく言えば気にされてるって感じかな。
まあでも仕方がない。
私だって他人がため息ばかりしてたら何処かおかしいって思うもの。しかもスマホ見ながらだったから彼氏とのケンカ? って思われてそう。…いないけど。
でも、しょうがないじゃない。どうしたもんかと考えるけど良い考えが思いつかないんですもの。
それに張本人はこんな感じだし…
『覗きぃ~~? もう凛ったらまたそんな冗談言って。いくらわたしが日本に疎いからってそんな冗談信じると思ってるの? 今どき風呂が見えるような旅館なんて存在してるはずないでしょ? ホント凛はバカね。大好き❤』
LINEで伝えたらこれである。
教室の隅で物思いにふけるだなんてらしくないって分かってるけど、そういう時ぐらい私にもある。
それがコレである。
香蓮がバカで助かることもあるけどこういう時に困るのよね。だって話しが通じないもの。
「頭いた…」
今日何度目かの溜息は虚空へと消えていき、グラウンドから聞こえる学生の声にかき消される。
風になびかれて転がる枯れ葉が何故だか酷く哀れに見えた。
授業が終わると真っ先に涼のところへと向かった。
釘を指すって言ってたしその後の動向が気になった。
思えばこれで終わり、覗きはなしってなればこの話しはこれ以上の広がりを見せないのだ。確認して損をするという事もないだろう。
「涼のクラスは……っと。あったあった」
涼のクラスは廊下の真ん中らへん。全八クラス中、四組にあたる。
ちなみに私が一組で香蓮が七組である。
教室の前までいくと近くの人に声をかける。
「ねえ、ちょっと良い?」
「な……!!? き…如月さんっ!? どうしてここに!!?」
「いやちょっと…涼に話しがあるんだけど…」
「土屋君ですね!? すぐ呼んできます!」
「……なにごと?」
慌てて駆け出す少女。
顔を真っ赤にしてどうした病気か?
その子の友達らしき子達もきゃあきゃあ叫んでるし。ここは動物園かしら。
「来てくれて悪いがここはマズい。場所を変えよう」
「なんでよ。ちょっ…引っ張んないでって!」
今まで見た事がないようなスピードで現れた涼は私の手を取ると階段の方へと移動する。わざわざ場所変えるような大した話じゃないんですけど?
「分かってる。昨日の話しだろ?」
「分かってるならどうして場所変えたのよ。面倒くさいなあ」
「面倒臭いのは俺も一緒だ。お前といるとクラスで何言われるかわからん」
「は?」
「は? じゃない。お前はあの反応見てなんとも思わなかったのか? だからバカにされるんだぞ。俺にも楓くんにもな」
「何の話ししてるか全然分かんないけど…そんなことどうでもいいわ。ねえ単刀直入に聞くけど主犯格には言っておいたのよね? どうだった、諦めてくれた?」
「ああ言ったさ。朝のHRで如何わしい計画を立ててる奴はいないか、居るならすぐに止めておけってな」
「ものすっごい直球ね…」
「遠回しに言っても仕方がないだろ。ただ…少しその時の反応がおかしくてな」
「全っ然意味わかんない。返って来た反応におかしいも何もなくない?」
釘を指された人間ならば反応は一様に同じような気がする。主犯格ならば尚更に。
逆上するか取り繕うかは分からないが予想の斜め上ってことはないだろう。
「それが斜め上だったんだよ」
「どんな感じだったの?」
「…なかったんだ」
「はい?」
「反応がなかったんだよ。クラス全体が静まり返ってた。まるで俺だけが取り残されてるような感覚だった」
「何それ怖っ!」
確かにそれは斜め上かもしれない。
クラスにどういった想いが埋もれていたかははかり知れないが、ある意味バカにされたり笑われたりするより辛いかもしれない。
「だろ? だから期待されても困るぞ。引き続き金髪のことは頼む」
「ホント使えないわねこの部長さんは。これだから顔の良い男は信用ならないのよ」
「ところで金髪には連絡したのか?」
「したよ。でも今どき覗きが出来るような旅館なんて存在しないの一点張りで全然信じてくれなかった」
「変なところで常識があるんだな…」
涼はこめかみあたりを押さえると頭を振った。
まだ半日も経ってないが相当お疲れのようである。
きっと私の知らないところで涼は単独で動いているのだろう。口数は少ないし肝心な所でポンコツだけど行動力はある男だ。少なくとも私だけ動かして自分は何もしないなんて事は絶対にしない。
次の授業を開始するチャイムが鳴る。
涼と別れると同時に気持ちを入れ替える。
半日でダレちゃうくらい頑張ってる奴がいるのなら本気で人肌脱いでやろう、と。
〝ま、修学旅行に水差されたくないしね〟
そんなこと思いながら、まだ見ぬ観光地へ想いを馳せる。
何とかなるでしょと、楽観主義も忘れずに。
読んでいただきありがとうございました。
また更新します。




