凛はホントにファザコンね
「はああッ!!?」
香蓮が凄い剣幕で私の手から依頼書を奪う。
見して良い物じゃなかったけど余りの手の速さに口と気持ちが追いつかない。
「だから言っただろ。他人を気にしている場合じゃないと」
呆れたように言ってくる涼だが私はそれどころじゃない。
だって…
「凛…で…デートするの…?」
信じられないといった様子で香蓮が伺う。
そう。
そこに書かれていたのは好きな人の名前だけじゃない。
その依頼書にはデートの日時も書かれていたのだ。
つまるところ総務部に依頼してきたのはデートまでの段取りをして欲しいといったところか。
「名前は田辺薫。三年生だし一年を誘うのは確かにちょっと腰が引けるだろうからな。故に総務部に依頼してきたんだ。デートまでのお膳立てをよろしくお願いします、と」
「冷静に言わないでよ…どうすんのよコレ…」
戸惑う…なんてもんじゃなかった。
空手なんかで修羅場やキツイ思いも幾度経験してるけどこれは何というか毛色が違う。
だってこの方、告白もしたこと無ければされたことも当然ない。
楓からは告白されたって話しは何度も聞くけど自分じゃないから本当に話を聞くだけだった。
そういえば誰かが言ってたな。
なんでも自分事で捉えろって。でもそれって第三者の勝手な意見だ。それこそ自分事で考えてみたらって感じ。
くうう~…しかし困ったことになったなあ…。
相談したいけど唯一相談できそうな女子はさっきからあっちの方向むいて呆けてるし。どうしたもんか。
「ちなみに何だが…」
涼が鞄から一枚の紙を取り出す。
後ろからタイトルが透けて見える。そこには『田辺薫調査書』と書かれていた。
なんだお前は探偵か?
「バカ言うな。一応相手の素性ぐらい調べておかないとな。それに俺も依頼されたからにはどんな奴か知る権利がある。当然の下調べさ」
フっ…と笑いながら得意気に眼鏡をくいっと上げる。本当にキザな奴。モテないわよ。
「大きなお世話だ。で、だ。調べて分かったんだが…」
「う、うん…」
涼が真剣な顔をする。
な…なによビビらさないでよ。そんなに変な人だったの?
「いや違う。奴は完璧だ」
「そうよね私に告白して来るようなもの好きなんて変なやつ…って、は?」
耳を疑うとはこのことだ。
てっきり最悪な調査結果が出ると思ってただけに余計である。
つーかまさかアンタの口から完璧だなんて言葉が出るとはね。端的に言ってどんな人?
「完璧すぎて気持ち悪い」
「バカなの? ただの感想でしょそれ。性格とかの話しよ」
「プークスクスwww」
「黙れ金髪。…コホン。聞いた話によると性格は至って温厚。しかも頭も良いらしい。実際俺もあってみて驚いたが優しそうな男だったよ」
「ん~…なよっとしてるのはタイプじゃないんだけど」
つい本音が口から漏れる。
男なら母親を女なら父親が理想のタイプになりやすいというが、これもその影響だろうか。マッチョがいいとは言わないけど筋肉質ではあってほしいわね。
「凛はホントにファザコンね」
「香蓮うるさい」
「みんなして何なの!?」
「あーあと如月、頭良いだけじゃなくサッカー部にも所属してるから運動神経も良いらしいぞ。おまけに父親はお医者さん。ハハハッ…どうだ。完璧すぎて気持ち悪いだろ」
「同意を求めないで。気持ちは分かるけど…」
「で、だ。…どうする?」
「急にそんなこと言われてもなあ…」
確かに完璧すぎて胡散臭い。
でもこれはただの偏見なのだろう。
涼は性格は悪いけどそれ故に人を見る力はある。
口では部長だからと言ってるけど一応私の心配して調査をしてくれたのだろう。そこは確かにありがたい。そこまでしてくれたのなら涼の顔を立ててあげたいとも思う。
でも…でも…
時刻は十五時。
セミの鳴き声は未だ止むことはなかった。
読んで下さりありがとうございます。
余談ですが「高台の魔女と偽りの少女」という小説を投稿しています。
異世界ものでもなんでもない魔術師ものですが宜しければ合わせて読んで
いただけると幸いです。
また投稿します。
よろしくお願いいたします。




