もちろん嫌味
「空手の試合に出てくれってどういう事よ!?」
そう。
依頼は運営の手伝いや雑用なんかじゃなかった。
涼が難しい顔をしたのも頷ける。いくらなんでも無茶過ぎるし部員でもない人間が試合に出るなどありえない。手伝いの範疇を完全に超えている。
それに…
「ねえ…なんで凛が空手やってたこと知ってるの?」
香蓮が呟く。
そうなのだ。
私も香蓮と同じ疑問が頭に残った。端的に言って気味が悪い。
「キミはやったことがあるのか?」
「昔ね。親が道場やってるから」
「そうか。何故わざわざキミを名指しするのかと思っていたのだが理由があるらしいな」
「そういう問題じゃないわよもう…私、絶対試合なんかに出ないわよ。こんな依頼、却下よ却下。いい加減にしてよもう」
なんで空手のことを知っていたかはこの際気にしないことにする。ようは出なければいいのだ。もう随分やってないから自信もないし。さ、香蓮。帰りましょっか?
「凛の空手…ちょっと見たいかも」
「はああっ!?」
まさかの裏切り。なぜ頬を染めてるんだお前は。
「珍しく意見が合うな金髪。見直したぞ」
「涼まで何言ってんのよ。つーか何様よアンタ」
「興味がないと言ったらウソになるからな。まあ試合に出るか出ないかは置いといて取り敢えず依頼人に会わずして却下もあるまい。今から道場に行こう」
「ええ…マジで言ってんの…」
「「もちろん」」
二対一。
民主主義とはこうも残酷か。
私はこれ見よがしに溜め息を吐いてから立ち上がった。
溜め息はもちろん嫌味だった。




