凛はメイドさんね
「…あっつー」
開け放たれた窓から生暖かい風が入って来る。夏の爽やかな香りなどどこ吹く風。
一直線に伸びる廊下には誰も居ない。
あるのはグラウンドから聞こえる活気ある掛け声と笑い声だけ。
現在放課後。
当然といえば当然で、私だって部活動が無ければさっさと御いとましている。
はっきり言って憂鬱だけど部活動の連絡はいつも通り突然なのだ。
連絡が来たのは何と昨晩。差出人はもちろん部長である涼からで、
『依頼書が来た。明日、部室に来てくれ』、と。
最悪…とか思いながらも『一応部員だし』とか『やることも無いしな』とか訳の分からない言い訳をしているいつもの自分がいるから腹が立つ。誰が誰に対しての言い訳なのかは不明だが。
やっぱり連絡は前もってやって貰わないと。
これを涼に言ったら『いや、前もってしただろ? バカかキミは』とか平気で言ってくるだろうから言わないけど人間こうなっちゃー終わりだよね。勉強できても人の心は理解できないだなんて。お前はどこのAIだよ。
そういえば理解できない事といえばもう一つあった。
正しく言えば予想外って言葉が一番しっくりくるけども。
「あっついわねー。凛の部活が室内で良かったわ。手伝うにしても外だと大変だもの」
「…………」
さらさらと揺れる純正の金髪。
白人特有のキメ細かい白い肌。
窓からさした陽射しが更なる美貌を彼女に与える。
隣でぼやいたのは言わずもがなハーフの美少女、宝城香蓮だった。
「言っておくけど室内だって十分暑いわよ。依頼によっちゃあ外にも行くし。つーかなんで付いて来たのよ」
「そんなの決まってるでしょ。埋め合わせがまだ終わってないからよ」
ドヤ顔で言う香蓮。何を言うかと思いきや。どの口が言うのか。
「あれ無しになったわよ」
「何でよ!?」
いや当たり前でしょ。
あの約束は途中で帰すのは申し訳ないなという気持ちから来ているものであってたんなる遊ぶ約束ではないのだ。いわばお詫びみたいなもん。
それなのに、家の前で恥ずかしいやりとりしといて埋め合わせも何もないでしょ。虫が良いにも程がある。
「という訳で埋め合わせは無し。分かった?」
「ううう…ホントに凛は意地が悪いんだから」
「そんな目で見ないでよ…」
ジト目で香蓮が見てくるけど何も言って来ないから逆に怖い。
自ら言ったことを反故にするのは、さすがにかわいそうかなーとか何とか考えていると直ぐに部室へと到着する。
以前に裸だったし一応声を掛けてから中へと入る。無造作に開けるのは危険。…なんだか役割が逆なような気もするけど。
「遅かったな。…あと見慣れない金髪がいるが?」
実に不穏な言い方である。
嫌われ者世界代表―――宝城香蓮もさすがに気付いたのか顔をしかめる。そういえばアンタ達、期末の順位でマウント取り合っていたわね。涼が簡単に取られてたけど。
「そんな言い方しないでよ。香蓮よ、知ってるでしょ? 邪魔はしないと思うし手伝うって言ってるんだから別にいいでしょ?」
「…まあ別に構わんが依頼主が嫌がれば帰って貰うからな」
「なによその言い方は……んぐー!」
「はいはい少し黙りましょーねー」
何か文句を言いたげな香蓮の口を塞ぎながら無理矢理椅子に座らせる。ホントこの子はすぐキレるんだから。狂犬かよ。
「もういいか?」
「大丈夫よ。それより遅れてゴメンね」
「別に構わん。今さらだしな」
「そういってくれると助かるわ。で、依頼って何なの?」
「それなんだが…」
鞄の中から依頼書を取り出す。それはいつものことなのに釈然としないというか涼の頭に?マークがあるのが気になった。どういうこと?
「実はだな…この依頼書には部活の手伝いをお願いしたいと書いてあるんだ」
「そこまでは至って普通の依頼のようだけど」
「部活のお手伝いするのが?」
黙ってきいてた香蓮が疑問を呈する。
そっか、よく分かんないよね。まあ普通ではないかもしれないけど、これにはちゃんと事情がある。
夏休み前のこの時期はどこもかしこも県大会やら全国大会やらがあって忙しい。
当然のことながら大会にでれば審判や運営進行などで人が取られてしまう。
この学校は進学校にしては部活に力を入れてはいるものの人数の少ない部活も多数存在する。試合にも出て審判もやってでは結果を出せという方が無理だろう。今日まで頑張ってきた意味が無くなってしまうのは辛いだろうし。
しかし、なればこそここが私たちの出番という訳だ。
試合に出ることは出来ないけど手伝い、つまりは大会運営なんかでは手伝うことが出来る。もちろんその日限定で。
「つまるところ雑用ってこと? 料理も上手いし凛はメイドさんね」
「その言い方、すっごいムカつくわ」
腹が立ったので取り敢えず頬をつねってると涼はまだ難しい顔をしていた。
「なによ、まだ何かあるの?」
「ある。というかキミは勘違いしている」
「勘違い?」
訝しむ私に涼は依頼書を渡して来た。
すると…
「な、なによコレ!?」
「知らん。俺が聴きたいくらいだ」
「どうしたの?」
香蓮がこちらに顔をよせる。
妙に顔が近い気がしたが、そんなことは気にしてられなかった。
なぜならこう書かれていたからだ。
如月凛さんに空手の試合に出ていただきたい―――と。
読んでいただきありがとうございます。今回の話しはちょっと長めになる予定です。付き合っていただけると嬉しいです。
長くなりましたが、よろしければ評価の方もよろしくお願い致します。




