頭痛が痛い
「そうじゃないっていってるでしょ!」
時刻は十七時過ぎ。
学校から我が家へと場所を変え、香蓮からスマホの一連の操作を学んでいた。
「何度言ったら分かるの!? どうして画面のバックでホームにいくの!?」
「すみません…」
…ただし、もの凄い罵声を浴びながら。
結果から見るに香蓮は案外スパルタだった。
必要以上に無駄な知識を蓄えていたのもあるのか、それとも人に教える行為が嬉しいのかわからないが(多分後者)これでもかというくらいに私に色々指南してくる。
機械に疎く、自分で調べる気がまったくない私にとっては確かにありがたいが、ここまでくるとありがた迷惑という言葉がぴったりである。つーかホームボタンどこいった。完全に改悪だろこれ。
「そんなこと言っても仕方ないでしょ。ほら、さっさと画面をスライドしてみなさいよ」
「別にいいわよこんなの出来なくても」
「ホントに面倒臭がりね。拡大どころか画面のバックも出来ないなんて驚いたわ。今までどうしてたのよ」
「ああ。それはこう……」
スマホの画面を両手でいじくる。
当然のことながら私の手の動きに反応して様々な動きをする。
「ね?」
「〝ね〟じゃないわよ」
香蓮が頭痛が痛いと言わんばかりに深い溜息を吐く。言っておくけどその使い方間違いだらけよ?
「勝手に思考読まないで。凛ってあんがいバカなのね」
「あら今更? そんなの妹にしょっちゅう言われてるわ」
「あら、そういえば妹さんは?」
「部活。そういえば帰って来るならもうすぐかな?」
言いながら時計を確認する。バカなやり取りをしていたらいつの間にか十八時を過ぎていた。
「陸上部ですっけ? こんなに暑いのに大変ね」
「そうね。でも、自分が好きでやってることだから仕方ないわね。―――という訳で香蓮帰って」
「なんでよ!?」
香蓮が心底信じられないといった感じで激怒している。ん、どうしたどうした?
「どうしたじゃないわよ! 文脈おかしいでしょ! なにが『という訳で』なのよ!!?」
「いや分かるでしょ。あんたらが顔合わせたらまた喧嘩が始まるじゃない」
「うっ…! それは否定できないけど…」
以前に一度だけ顔を合わせた時、二人はくだらない喧嘩を繰り広げている。取るに足らない喧嘩かもしれないが家の中で争われるのは勘弁だ。単純にうざいし。
「ね? だから今日のところは帰って」
「いやよ! まだ一緒にいたい!」
ごねる香蓮。めんどくせー。
「お願いよ香蓮。また今度埋め合わせするから」
「ホント! じゃあ今日は大人しく帰ろうかしら」
御機嫌な香蓮。単純だなー。
「分かってくれてありがと。じゃあ玄関までおくるわ」
香蓮は荷物を手に取ると足早に玄関へと足を運ぶ。聞き分けの良い単純さと行動の素早さは見習いたいとこである。
「埋め合わせ楽しみにしてるわ」
「ええ。今日はありがとね。おかげで助かったわ」
「親友の為なら当然だわ。じゃあまたね」
お互いに手を振って玄関で別れる。
嵐のように過ぎ去った以前とは打って変わった香蓮の来訪。まあこんだけ穏やかに過ぎてくれれば非常に助かるし、私としても正直楽しかったりする。
(ごめんね香蓮)
家に来るのを嫌がったのを心の中で謝る。埋め合わせは楽しみにしてて。
そんなことを考えながら今日の晩御飯についても思考する。
すると…
『お姉ちゃんと何してたんですか! ちゃんと答えて下さい!!』
『中学生が知るには早すぎるわ。そもそも貴女持ってもいないでしょうに』
『持ってない……! ま、まさか胸の話し!? エッチなことしてたの!!?』
「あのバカ二人……」
家を追い出すのが少しばかり遅かったのか、はたまた楓の帰りが少しだけ早かったのか。
答えはわからないが、香蓮への感謝と謝罪を見送ると共に私は頭を押さえて溜息を吐いた。
「近所迷惑というより私に迷惑だわ」
それこそ頭痛が痛いと言わんばかりだった。
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