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日々着々と覚悟が固まってきた。色んな振られ方のパターンも考慮に入れた。手ひどく振られてもオレは諦めない、諦められないと思う。結衣が好きなんだ。その純粋な気持ちだけ固めて行く。何があっても受け入れる器を自分に。

大丈夫。

告白はホワイトデーに合わせようかな?桃姉の攻略最終期限で切りが良いし。

ホワイトデー、オレも手作りの品を渡そうと思う。手作りの香水だ。香水の瓶も選んだ。ブルーのガラスで蓋の部分が満月になっている綺麗な瓶。結構揮発するらしいので大きめの瓶にした。

トップノートをレモンやメロン系の香りで。ミドルノートもフルーティーな香りを選ぶ。ベースノートにはムスクと数種。2週間以上熟成させるのが良いんだそうだ。今からいけばぎりぎりホワイトデーに間に合うな。香水をつくるのは初めてでいい出来かどうか自信ないけど香水作りを趣味にしている義母さんは「大丈夫そうよ」と言ってくれた。レシピをメモする。今後香水が無くなったらいつでもプレゼントできるように。



2週間後。香りを確かめる。全体的にフルーティーな感じでいい香り。おいしそう。気に入ってくれると良いな。それ以前に完璧に振られたら受け取ってもらえないかもしれないけど。

ホワイトデー、結衣には時間を取ってもらえるように約束した。



ホワイトデー当日。場所はミルククラウンの先にある公園だ。どっちかの家を場所に指定してしまうと完璧に振られた時気まずいからな。出来れば人に聞かれない所であって完璧に振られた時脱出が容易な場所。

ミルククラウンの先にある公園はいつ来ても人気のない公園だ。樹木がこんもり生えていて人目にもつかない。

いつも通り早めに着いた。

人がいたら新里に移動することも考えたがどうも必要なさそうだ。誰もいない。

円形のジャングルジムのような遊具の傍に立って告白の言葉を考える。一生覚えてるかもしれない言葉だ。慎重に選ぶ。冗談だと思われるかもしれないし、からかってるとか思われるかもしれない。最悪激昂されることも考慮に入れる。結衣はあんまり怒らないタイプだけど。

緊張する。多分人生の中で一番緊張していると思う。

二宗もこんな緊張味わったのかな。ぼんやり思う。

結衣はいつも通り待ち合わせ時間よりちょっと早いくらいに着いた。今日は眼鏡してないんだな。結衣は眼鏡コレクターだけど、どっちかって言うとコンタクトの方が似合う。


「お待たせ。」

「時間ぴったりだよ。」


にこりと笑う。


「雪夜君、なんか怒ってる?」

「怒ってないよ。」


苦笑した。怒ってるように見えたか。

多分やっぱり普段と違う雰囲気出ちゃってるんだろうな。すごく緊張してるし。オレもまだまだだね。


「それならいいけど…」

「やっぱり緊張してるの顔に出ちゃってるかな。」


結衣はオレの正面に立った。正面に立つと分かるがオレ達の身長は今大体同じくらいだ。

初めて会った時はオレはもっとちっちゃくて、結衣とぶつかっただけで尻もちついちゃったんだよね。


「…雪夜君、初めて会った頃に比べるとだいぶ背が伸びたね?」


結衣も同じ感想を持ったようだ。


「初めて会った時から6cm以上伸びてるからね。もっと伸びるとは思うけど。」


オレの背が6cmも伸びる間ずっと結衣と一緒に過ごしてきた。初めてぶつかっちゃったあの日から。それは酷く感慨深い。


「なんだか初めて会った日から随分たった気がするね。」


結衣に話しかける。


「そうだね。」


結衣が頷く。


「色んな事があったよね。」

「うん。」


結衣は目を閉じて今までの事を回想しているようだった。結衣を投げたあの日からノートの事を知って、オレは結衣に桃姉の情報を提供して、二人で悩んだ。GW、体育祭、プール、花火大会、夏祭り、結衣の誕生日、文化祭、ハロウィン、遠足、オレの誕生日…無事ノートの事解決できて良かった。結衣の前世の話も聞けた。結衣が他の誰でもなく結衣だという事伝えてみたけれど、それから結衣が前世と違う道を自分の手で選び取ってゆく様子に安堵したっけ。桃姉は自分の誕生日から何かが吹っ切れたような感じで元の天真爛漫さを取り戻しつつある。オレには話してくれないけど、きっと結衣が何とかしてくれたんだと思う。

初めて『結衣の手を握っていたい』って感じた日から、オレの小さな戦略。結衣に届いてるかな?結衣に選んでもらえるかな?オレの心臓は破けそうに高鳴っている。


「今日はね、結衣に聞いてもらいたい事があるんだ。」

「うん?」


真剣な声で切りだす。オレの緊張感につられて結衣も緊張している事が伝わってくる。

噛んで含めるように言う。


「混乱するかもしれないけど、よく聞いてね?」

「うん。」


結衣は耳を傾ける態勢に入っている。

オレは一度大きく深呼吸した。

自分の鼓動がうるさい。脈がドクドク言ってる。

静かに、しっかり言葉を吐きだした。


「…結衣、オレは世界で一番結衣が好きだよ。」


結衣の表情の移り変わりを見逃すまいと目を凝らす。

最初、結衣は何を言われてるのか分からないような顔をした。それから徐々に言葉の意味が理解できるとかなり動揺している様子だった。

ああ、オレが結衣のこと好きなの、ホントに気付かれてなかったんだな。

こんなに好きなのに。目一杯愛情表現してるのに。少し寂しい。

結衣は自分がオレに相応しい人間じゃないと思ってる。きっと母さんの事とか考えてると思う。でもね。本当はオレの方が結衣に相応しい人間じゃないんだよ。オレは偏ってる。結衣にだけ優しくてクラスの女子とかには優しく出来ない。計算高くて好き勝手に周りを操作している。計略を持ってして結衣の心に食い込んで来た。結衣が好き。それは間違いないけど、少なくとも結衣に釣り合うほどに純朴ではない。

結衣の表情はみるみる変化し、最後には泣きそうな顔になっている。


「…雪夜君…」


『それは冗談なの?』という声が聞こえた気がした。やっぱりすぐに理解しては貰えないか。緊張しながらも冷静に分析している自分がおかしくてちょっと笑う。


「はは…言っておくけど、冗談じゃないよ?今、すげー緊張してる。足が震えそうだ。格好悪いとこ見せたくないのにな。」


実際足は震えそうだ。気力で堪える。

好きな子に格好悪いとこ見せたくないんだ。これくらいの意地、許してくれるよね?

オレは宝物でも扱うかのようにそっと結衣の手を取った。いや、実際に結衣はオレに取って宝物以上の存在だ。

結衣は小さく震えた。

その震えを包み込んで真っ直ぐ結衣の目を覗き込む。

オレの宣誓を聞いてほしい。


「背はまだ足りないけど、結衣の理想の恋人になれるよう努力するよ。一番大切にする。頼れる男になる。オレに結衣を守らせて?」


結衣はオレの理想の人なのに、結衣の理想にはまだオレは届かない。それが少し歯がゆい。これまでも結衣を一番大切にしてきたけど、これからも結衣を一番大切にする。結衣がオレを頼ってくれてたのは知ってるけど、もっと頼れる男になる。結衣を全力で守りたい。

素直じゃないオレの本心を宣誓する。


「オレは人生という道のり、結衣と歩いていきたい。結衣と一緒にいると幸せになれる。そしてこの幸福を結衣と分かち合いたい。嬉しいとき、その笑顔がみたい。悲しいとき、その涙をぬぐえる権利がほしい。」


目線を合わせて、手を取っているせいか、結衣が怖がってるのを敏感に感じる。


「心配しないで、全部受け止める覚悟を決めてきたから。怖がらないで?大丈夫だよ。大丈夫だからいつも信じて。他の誰でもなく、オレの手だけ取って。」


取った手をしっかりと握り込む。

今日は全部覚悟してきたから。振られても諦めない覚悟。結衣の心が屈折してしまってもいつでも結衣の心を受け止める覚悟。悲しみも喜びも全て結衣の一生を背負う覚悟。最後まで守り切る覚悟。結衣がオレの手だけ選んでも生きていけるよう努力し続ける覚悟。


「結衣、お願いだ。結衣の一番をオレに頂戴?」


結衣の掌にそっとキスした。掌へのキスは懇願のキス。

結衣の小さな声が聞こえた。


「ごめん…」


断られる覚悟はしてきた。それでも諦めるつもりはない。それに……結衣は多分オレのこと好きだから。傲慢だよね。だけどそれがオレの結衣を見て抱いた答え。

意志を翻さない事を告げようと唇を開くと、慌てて結衣が 言葉を重ねてきた。


「今やっと自分の気持ちに気付いた。私の一番はもうずっと前から雪夜君だよ。私やっぱり鈍いね。ずっと気付かなくてごめん。」


結衣はもう震えていない。満たされていて、でもちょっと申し訳なさそうな微妙な顔をした。唇は弧を描いているのに眉は微妙にハの字だ。

結衣がオレを選んでくれた。

オレが一番だと言ってくれた。

複雑な表情を作る結衣を前にして、オレは自然と微笑んだ。


「結衣…」

「雪夜君…大好き…」


結衣は綺麗に微笑んだ。が同時に泣きだした。ぽろぽろと透明な雫が頬を伝う。相変わらず泣き虫だな。ちょっと笑ってしまう。オレはそっとその雫を拭う。

それからそっと手を引いて抱きしめた。身長は同じくらいだけど華奢な結衣の身体はオレの腕にすっぽり収まる。結衣が愛おしくて愛おしくてたまらなくて優しく頭を撫でた。オレの肩には結衣の心の滴がまだ落ちている。ぎゅっと抱きしめる手に力を加える。オレは結衣が泣きやむまでずっとそうしていた。

ずっと抱きしめていたかったけど結衣が苦しくならないように、結衣の涙が止まったらそっと放してあげた。

結衣はきょろきょろ辺りを見回した。誰かに見られていないか不安になったのだろう。


「見られてないと思うよ。誰も通りかからなかったし。見られても自慢するだけだけど。」


オレは舌を出した。

可愛い結衣の彼氏になったんだもんね。見られたところで自慢できる以外の何物でもない。


「でも良かった。これでコレも渡せるね。」


ボディーバッグからラッピングされた香水を出す。ラッピングされているので今は中身は見えない。

きょとんとしてる結衣に渡した。


「これなあに?」


結衣は淡い包装用紙に包まれている香水を上から見たり横から見たりしている。


「ホワイトデーのお返し。」


この分じゃ今日はホワイトデーだって多分忘れてるな。

オレはチョコ嬉しかったよ?結衣の力作。応えてみようと思って頑張ってみたけどどうかな。


「開けてみていい?」

「いいよ。」


結衣はペリペリと包装用紙を開いて行った。中には割れないようにプチプチにくるまった香水の瓶がある。ブルーの長方形の瓶の上に小さなガラスの満月が乗ってるデザインだ。

中身は手作り香水。世界に一つしかない結衣だけの為の香り。


「嬉しい。…でも香水とは意外なチョイスだね?」

「マーキング。オレ、結構独占欲強いみたい。ゴメンね?」


オレの作った香りだけ纏って?オレは結衣を独占したい。

結衣は赤面した。カワイイ。

結衣の手を取って手首に口づけする。

手首へのキスは欲望のキス。でもそれは内緒。


「大好きだよ、結衣。オレが働けるようになったら、ちゃんとオレが稼いだ給料で指輪買うから。待たせてゴメン。」


最短でもあと4年はかかる。恋人の明確な形をあげられなくて申し訳ない。でも親の稼いだお金で恋人リングとか嫌なんだ。ゴメン。


「楽しみにしてる。でも頑張り過ぎないでね?匂いも指輪も無くったって私は雪夜君のものなんだから。」


こうして結衣はどうしようもない程オレを喜ばせるから始末に悪い。

結衣の頭を抱え込んで髪にキス。

瞼にキス。

唇にキス。

啄ばむような軽いキス。ずっと触れたいと思っていた結衣の唇は柔らかかった。嬉しくて、幸せで、どうしようもないくらい満たされている。寧ろこみ上げる気持ちにキャパオーバーだ。愛しくて、切なくて、溢れる、幸せ。結衣にもこの気持ち伝わればいいのに。

結衣と共に人生を歩みたい。

この幸福を分かち合いたい。

嬉しい時も悲しい時も傍にいたい。

幸せ。

ずっと二人で感じていけるかな?

結衣、この先もずっと結衣を守らせて?

大切な大切なオレだけのお姫様。

愛してるよ。

二宗君が結衣ちゃんに贈った月と雪夜君が贈った月。結衣ちゃんの手元にあるのはダブルムーンです。


皆さま、これまでお付き合いいただいて有難うございました。

蛇足編『ハッピーエンドをもう一度』を開始します。本当に蛇足です。ぶっちゃけいらない。それでも読んでくださるという優しい方のみどうぞ。

因みに時間軸は結衣ちゃんの高二と雪夜君の中一の物語です。

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