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12月25日はオレの誕生日だ。出来れば今年は結衣お姉ちゃんに会いたい。折角の誕生日、好きな人と過ごしたいって思っちゃダメかな?でも12月25日って一般的にはクリスマス。普通の人はパーティーとかに行ってるよね。結衣お姉ちゃんに「ちょっとだけで良いから会えない?」と聞いたら「勿論いいよ。」と快諾された。嬉しい。「でも学園のクリスマスパーティーと被るよね。大丈夫?」と聞いたら「パーティーは顔だけ出してくる。ちょっと遅くなっちゃうけどいい?」と聞かれた。「勿論。折角のパーティーなのに邪魔してゴメンね。」と何度も謝った。「邪魔なんかじゃないよ。折角の誕生日、会えたら私も嬉しいから。」って…無意識なんだろうなあ。オレは今回の誕生日、ぐっと間を縮めたいと思っている。出来れば「結衣」って名前で呼びたい。「結衣お姉ちゃん」と呼びかけている限りずっと年齢を意識し続ける。年上の女性に呼び掛けていると言う距離感が縮まらない。だって恋人に向かって「お姉ちゃん」って呼びかけるヤツいないだろ?オレの目指すポジションに到達するためには絶対必要な事だと思う。



当日。結衣お姉ちゃんの家の前で待ち合わせだ。いつもの癖でやや早め。でも流石に家の前でナンパもキャッチもないだろうから安心して行った。家の電気は灯っていない。まだ帰ってないか……結構寒いな。厚着してるけど。

しばらく待つと結衣お姉ちゃんが帰ってきた。


「お待たせ。寒くなかった?」

「ちょっとね。でもオレは冬って結構好きだよ。」


空が澄んでるし、身が引き締まる気がする。お風呂で長湯してると気持ち良いし。朝布団から出るのは辛いけどね。


「私も。」


結衣お姉ちゃんは空を見上げた。空が澄んでる。オリオンが輝いている。

玄関のカギを開けて招き入れてくれる。


「どうぞ上がって」

「お邪魔します。」


丁寧に断って中に入る。結衣お姉ちゃんの部屋まで案内される。今日も綺麗に掃除されてるな。塵一つないって感じ。結衣お姉ちゃんは暖房を入れてオレのジャケットを預かってハンガーにかけてくれる。結衣お姉ちゃん自身のコートも脱いでハンガーにかけている。結衣お姉ちゃんはコートの下にドレスを着ていた。クリスマスパーティーだから着てるかもとは思っていたけど。薄いピンクの生地の上に黒い蜘蛛の巣のレースが乗っかってる。ゴシック調の可愛いドレスだ。よく似合う。


「ドレスだね。」

「春日さんが私の為にデザインしてくれたドレスなんだって。」

「わざわざ?」


普通自分の店のバイトのためにドレスデザインしたりするかな?以前桃姉より好きだって話は聞いてたけど、結構本気で好きだったりする?恋敵ライバルにはならないって言ってたけど。信じていいんだよね?

とりあえずの関係、妹以上恋人未満っていう感じだろうか。


「そうなの。誕生日プレゼントにって。…似合わなかった?」

「すごく良く似合うよ。とっても可愛い。」


春日さんがどういうつもりか知らないが、可愛いものは可愛い。最高によく似合っている。


「ありがと…」


結衣お姉ちゃんは照れてもじもじとドレスの裾を直している。

ソファを勧められたので掛ける。


「今飲み物入れてくるね。」


外で待っていたオレに気を使っているようだ。


「お構い無く。今日も誰もいないんだ?」


結衣お姉ちゃんの家に行って家族がいた日って今までに一度もない。大切なご家族にご挨拶できなくて残念なような緊張しなくて済んでホッとしているような…


「うん。両親は仕事。妹はクリスマスパーティー。」

「クリスマスまで仕事って大変だね」

「ワーカーホリックなの。おかげで良い生活させてもらってるけどね。」


結衣お姉ちゃんはそう言うと部屋を出て行った。

今回こそキメるぞ。オレは気合を入れ直す。

結衣お姉ちゃんはケーキ、丸々1個とコーヒーを入れてきた。コーヒーの良い香りがする。ケーキはぱっと見チョコレートケーキのようだ。表面が艶のあるチョコレートで覆われている長方形のケーキだ。旨そう。

結衣お姉ちゃんはケーキとコーヒーをローテーブルの上に乗せると、オレの隣に腰掛けた。


「まずお誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。」


「生まれてきてくれて有難う」か…良い言葉だな。生まれてきたからこそ結衣お姉ちゃんとも友達になれたし、こうやって会話出来て、触れ合えたりする。


「祝ってくれて有難う。」


微笑んだ。今日は生みの母さんの命日でもある。複雑な気持ちが無いとは言えないが、母さんのおかげで今ここにオレはいる。有難う。


「誕生日だからケーキ焼いてみたんだ。きっと雪夜君、家でも食べるだろうからダブっちゃうけど。」

「ケーキの二つくらい余裕で食べられるよ。」


確かに家でもケーキは出るだろうが、2つくらい余裕だ。オレは結構健啖家だと思う。

結衣お姉ちゃんが一切れお皿に乗せてくれる。横からの断面が凄い。綺麗なストライプが何層にもなっている。


「おいしそうだね。早速食べてもいい?」

「うん。食べてみて?」


フォークでケーキを切り分けて口に運ぶ。濃厚なクリームとチョコレートがマッチして…ほのかに香るコーヒーの風味。旨い。かなり複雑な味がしている。断面を見ても思うが、そう簡単に作れるケーキじゃないだろう。


「…すごくおいしい。これかなり手が込んでるんじゃない?」

「折角の雪夜君の誕生日だから頑張ってみました。正直美味しいって言ってもらえてほっとしてる」


結衣お姉ちゃんははにかんだ。オレの為に頑張ってくれたのか…嬉しいな。


「すごく嬉しいよ。」


にこっと笑う。嬉しさ、伝わったかな?


「良かった。プレゼントもあるんだけど。」


結衣お姉ちゃんがプレゼントの包みをくれた。嬉しいな。何選んでくれたんだろう?何でも大切にするけど。


「ありがとう。開けていい?」

「どうぞ」


包みを開いて行って出てきたのは財布だった。オレがそろそろ買い換えなきゃと思っていたものだったから驚いた。黒の長財布。だけどただの黒じゃなくて内側にカラフルなマルチストライプの模様が入っている。ちょっと開いてみたが、使いやすそうだ。


「財布?」

「うん。雪夜君のお財布、端がほつれてるみたいだったから」


見られてたか。ちょっとカッコ悪いとこ見られたな。でもちゃんとオレの事観察して考えてくれたのは凄く嬉しい。

しかしこの財布ってブランド物だよね?多分オレのあげたプレゼントの倍以上値段がする…結衣お姉ちゃんは他の人にもこの価格帯の品物あげてるの?それともオレが特別なだけ?オレが特別なら嬉しいけど。

高いから貰えないと言うのはプレゼントをくれた人に失礼だな。

オレは笑顔でお礼を言った。


「ありがとう。すごく気に入った。大切にするよ」


絶対大切にする。結衣お姉ちゃんがくれたものだし、使いやすそうだし、格好良いし、凄く嬉しい。ホントは言葉で言い表せないほど感動している。


「良かった。じゃあこっちはクリスマスプレゼント」


結衣お姉ちゃんはもう一つ包みをくれた。こっちは結構大きな包みだ。大きさの割には軽い。


「開けていい?」

「いいよ。」


なんだろ~?楽しみだな。丁寧に包みを開けた。

出てきたのはマフラーだった。ベージュよりちょっと渋い茶色で…これ何色って言うんだろう?しかも綺麗な模様が入っている。


「マフラー?」

「寒いからいいかなと思って。一応手編みだよ?」


手編み!こんな綺麗に編めるもんなのか。

オレは感動した。しかも手編みの品物とかって憧れだよね。オレのこと考えて編んでくれたのかな。


「へー。すごい。売ってるやつみたい。結衣お姉ちゃん編み物も得意なんだね?」

「得意ってほどじゃないけど…」


これで得意じゃないとかって…どれくらいが結衣お姉ちゃんの合格ラインなんだ?

凄く上手に見えるけど。編み目も間違ってる所とかないし、手触りふかふかであったかそうだし。

凄く嬉しい。


「ううん。上手だよ。これ、オレからのクリスマスプレゼント。受け取ってくれる?」


鞄からプレゼントの包みを取り出した。結衣お姉ちゃんに渡す。


「ありがとう。開けてもいい?」

「うん。開けてみて」


中身はチョコレートカラーのカメラだ。無いと意味ないのでフィルムもつけておいた。


「ポラロイドカメラ?」

「富士フィルム産のカメラだよ。まあ、ポラロイドみたいにその場で写真が出てくるやつ。」


フィルムのサイズはやや小さ目だけど。


「結衣お姉ちゃんがこれからも思い出を作っていけるように。」


プレゼントを贈る際、結衣お姉ちゃんとの思い出を思い返してた。ファンタジアランドで「一瞬一瞬がちゃんと思い出になってくのが嬉しい。この一瞬を逃したらもう二度と見られないんだって光景を残せるのも貴重だし嬉しい。」って言ってたのを思い出した。デジカメも便利だけどその場で写真が出てくるカメラも良いかもしれないと思ったのだ。画像が若干粗いらしいが、その分人物を取った時のアラは隠せるんだとさ。


「ありがとう。嬉しいよ。」


結衣お姉ちゃんはぎゅっとカメラを抱きしめる。


「ね、写真撮らない?」


勿論頷いた。オレが結衣お姉ちゃんの、結衣お姉ちゃんがオレの写真を撮った。

フィルムに徐々に映像が浮かび上がった。結構綺麗に撮れてる。ドレス姿の結衣お姉ちゃんいいな。フィルムの余白部分に文字を入れることになった。結衣お姉ちゃんは油性ペンで「12/25雪夜君の誕生日☆お・め・で・と・う☆」と書いていた。オレにペンを渡してくれたので余白部分に「オレの誕生日。カワイイ結衣お姉ちゃん♪」と書いた。結衣お姉ちゃんはそれを見て照れているようだった。カワイイな。

良い雰囲気。今なら言えるかも。


「…オレは欲張りだからもうひとつプレゼント欲しいな。」


コーヒーに口をつけて心を落ち着けた。


「うん?何か欲しい物あるの?」


胸が高鳴る。

結衣お姉ちゃんを逃がさないようにひたっと目線を合わせる。


「結衣って呼んでいい?」


ランクアップ…望んでいい?

拒否されたら凹むな。オレは結衣お姉ちゃんを見据えたままだ。

結衣お姉ちゃんはすごくもじもじしながら答えた。


「…い、いいけど…」


ものすごく恥ずかしがってる。頬が真っ赤だ。


「結衣、誕生日を一緒に過ごしてくれてありがとう。オレにとって最高の誕生日になったよ」


嬉しい気持ちを最大限に表現して微笑む。

結衣は耳まで真っ赤になって口をパクパクさせている。この反応は脈ありじゃない?オレは上機嫌になった。

最高の誕生日を作ってくれて有難う。

結衣の口元にケーキを刺したフォークを持っていく。


「?」

「口、パクパクしてるからケーキ食べたいのかと思って。ほら、おいしいよ?」


結衣はポカンと口を開けた。そこへさっとケーキを放り込む。もぐもぐ食べているようだ。おいしそう。

それから結衣もケーキを食べることにしたようだ。

オレもケーキを食べた。あんまり美味しかったから二切れ食べてしまった。コーヒーもおかわりを注いでくれたので有り難く頂いた。


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