表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/46

30

ううん。桃姉に露骨なアプローチがあってからじゃないと修正液の効果は試せないし…今のオレに出来る事って何かあるかな?

ごろんとソファに寝っ転がった。ちょっと寒いな。暖房の温度上げよう。

リモコンを手にとって操作する。

着メロが鳴る。携帯を見てみると『朝比奈結衣[サブ]』と表示されている。結衣お姉ちゃんは携帯を二台所持している。片方はメインで使っている携帯。もう片方は契約すると料金プランが安くなるため契約してるんだと教えてくれた。サブの携帯は通話しかできないらしい。でもよくサブの方でオレと通話しながらメインの方で情報検索したりする。

取り合えず通話ボタンを押す。

いつもなら「もしもし、雪夜君?」と甘いソプラノが聞こえてくるはずなんだがガサゴソした音しか聞こえてこない。間違い電話?よく耳を澄ませると遠くでちょっと会話っぽいのが聞こえた。と思っていたら突然結衣お姉ちゃんの声が響いた。


「私と七瀬さんを誘拐して一条先輩にいくら要求するんですか?」


は?誘拐?一条?

一条の誘拐イベントだ!本来なら桃姉が一条の彼女だと誤解されて誘拐されるイベントだ。それで高額の身代金と引き換えに桃姉を取り戻す…

結衣お姉ちゃん巻き込まれてる!?

結衣お姉ちゃんが巻き込まれた場合、一条がどういう行動を取るかによって結末が大きく変わってくるだろう。桃姉は多分大丈夫だ。でも結衣お姉ちゃんは?一条は結衣お姉ちゃんの身代金も払うつもりある?払うなら桃姉と一緒に帰ってくるだろう。でも払わなければ…結衣お姉ちゃんの自宅に要求が行くか、殺される?いや、年頃の若い女の子だし売り払われたり…それはまずい。

まずは警察の介入は必須だな。

一条がどう対応取ってるか知らんが、呼んでしまえば桃姉の身代金だけ払って結衣お姉ちゃんを見殺しにするとか、そういうことはできないはずだ。

警察はオレみたいな子供の言う事信じるだろうか?多分信じないな。義母さんを巻き込もう。メモ帳にペンで『桃姉と結衣お姉ちゃんが誘拐されたみたい。今結衣お姉ちゃんの携帯と通話が繋がってるけど、犯人には隠してるっぽい。向こうに聞こえないように静かにしてね。犯人は光ヶ崎学園3年の一条誠の家に身代金を要求しているらしいよ。一条については月姉の方がよく知ってるはず。同じ生徒会って話だから。』と書きこんでそっと部屋を出て居間にいる義母さんの背を叩いた。

振り返った義母さんにメモを見せる。

義母さんは目を剥いた。

メモ帳にペンで『冗談じゃないのよね?』と書きこんだので真顔で頷いた。

『警察に通報してくれる?あと月姉呼んできて一条の情報引き出して』とメモ帳に書いた。

義母さんはいつもののほほんが嘘のように迅速に動いた。オレを静かな所にいるように促して110番した。それから月姉の部屋に行って月姉を引っ張り出してきた。携帯の向こうは男のぼそぼそした喋り声が絶えず聞こえている。目立った動きは無い。事情を説明されたらしい月姉がやって来てメモ帳に『なんで桃花と朝比奈さんが誘拐されて、一条に身代金の要求が行くのよ?』と書きこんだ。オレはメモ帳に『桃姉が一条の彼女だと勘違いされてるっぽい』と書いた。月姉が眉を顰めた。

すぐに私服の刑事がやって来て事情を詳しく聞くと数人が一条家へ向かった。オレは携帯を渡すように促されたので一旦携帯を渡した。別室で他の刑事さんに質問された。


「聞いていて何か言ってる事は聞き取れたかい?」

「相手が大きな声を出している時しか会話の内容までは聞き取れませんでした。でも場所については『市内の廃倉庫…』って言ってるのが聞こえました。」

「そうか!」


刑事さん達は市内の廃倉庫を地図でピックアップしているようだ。こんなことなら廃倉庫の詳細情報を追加記入しておけばよかった。今更後悔しても遅い。

一条は警察を介入させないつもりだったようだが、刑事さんがうちからの通報を聞きつけてやって来てしまったので渋々協力体制に出ることにしたようだ。

市内には思いの外廃倉庫は少なく、居場所はすぐに割れた。

あとは警官隊が突入する手はずなんだそうだ。普通なら別室に追いやられるところだが、がんとして携帯の傍を譲らなかった。オレの携帯だし。月姉と義母さんも譲らなかった。しばらく会話を聞いていると男たちの声が遠ざかった。それを刑事さんに伝えると突入のサインを出した。

突入は速やかに行われ、無事制圧できたと報告された。

しかしノートの展開とは大分違うものになっているようだな。イベント妨害が成功したということだろうか?

刑事さんが冷や汗をかきかきやってきた。


「お嬢さんたちを保護しました。しかし…」


何かあったのだろうか?不安が胸をよぎる。


「七瀬桃花さんはかなりの体調不良なようで今病院に搬送されました。」

「結衣お姉ちゃんは?」

「朝比奈結衣さんは顔を殴られているようなので同じく病院に搬送されました。ご家族の方も今すぐご案内します。」


殴られたって…オレは血の気が引いた。顔を殴られたりして、骨折したら?眼球に異常があったら?歯が折れたら?

桃姉の体調不良も気になるけど…

顔面蒼白のオレを見て、月姉が「あんたがしっかりしなくてどうするのよ!」とどついてきた。

そうだ。オレがしっかりしなくちゃ。

オレ達は病院へ移動した。

対面した桃姉は憔悴していた。


「桃花、大丈夫なの?」

「き、気持ち悪い…頭ん中グルグルする…」


そう言うと桃姉はトイレにダッシュして吐いているようだった。


「もう吐きすぎて胃液しか出てないみたいよ。」


付き添ってた月姉が心配そうに戻ってきた。


「でもまた吐くかもしれないからトイレにいるって。」


相当ダメージ来てるみたいだな。


「桃花、どうしちゃったのかしら?誘拐犯に何かされたとか?」


だとしたら心配だな。義父さんも揃って、医者から説明を受けた。本人が「気持ち悪い」と言っている以外外傷は無い事。本人から「なにもされてません」と言われている事。

うーん、なにもされてなくてあのダメージっていう事は…ノートが関係している?イベントは桃姉の記憶に当たる部分だからそれを変更してしまったから異常をきたしている?

医者曰くとりあえず今晩は入院。脳に異常があるかもしれないので、詳しい検査をするようだ。


「オレちょっと結衣お姉ちゃんの方も見てきて良い?」

「そうだな、結衣さんも心配だ。雪夜、行ってきなさい。宜しく頼んだぞ?」


父さんに送りだされて結衣お姉ちゃんの病室に行った。

殴られたりしてどんな大惨事になっているか気が気でない。

結衣お姉ちゃんは病室に一人でいた。ベッドに腰掛けている。


「結衣お姉ちゃん!」

「あ、雪夜君。来てくれたんだ?」


にこっと笑っている。呑気な…でも頬にはでかい湿布が貼られている。


「怪我は?」

「2回殴られたけど、手加減されてたみたい。骨も目も歯も異常ないよ。口の中がちょっと切れてるけど。」

「良かった…」


オレは思わず結衣お姉ちゃんを抱きしめた。

それから向き直って叱った。


「結衣お姉ちゃん無茶しすぎ!」


こっちであった事を結衣お姉ちゃんに順序だてて伝えた。結衣お姉ちゃんは「ゴメンね」と謝っていた。


「他に助かる方法が見つからなくて。」

「結衣お姉ちゃんが帰らなかったら家族から春日さんに連絡がいくはずだし、春日さんからオレの家にも連絡が来たら、オレは気付いたよ。」


時期も限定されてるしイベントに巻き込まれたと気付くのにそう時間はかからなかったはずだ。まあ、電話があったからこそ刑事さんに「市内の廃倉庫だそうです」という報告が出来た訳だが。


「ゴメン。雪夜君が警察呼んでくれたの?」

「うん。一条は警察介入させないつもりだったみたいだけど、それじゃあ結衣お姉ちゃんが助かるか分からないからね。身代金払ってくれるなら良いけど、そうでないなら…」


結衣お姉ちゃんの安全は保障できない。


「ありがとう。」

「いいよ。こんなに腫れちゃって。美人が台無しだよ。」


結衣お姉ちゃんの湿布を貼られている方の頬は殴られたせいで腫れていた。撫でると痛そうな顔をしたので手を止めた。この様子だと喋ってるのも痛いんじゃないかな?


「七瀬さんの方どう?」

「何かずっと気持ち悪いって言って吐いてるよ。」


桃姉の様子を思い出して眉を顰めた。


「何があったんだろう?別に誘拐犯たちには何もされてないけどな?」


原因として考えられるのはやっぱり…


「ノートじゃない?」


結衣お姉ちゃんがきょとんとする。


「ノートに書かれた事と違う事が起きたから異常をきたしてるんじゃない?特にイベントは桃姉の“記憶”にあたる部分だから、無理やり記憶改竄されたようなものだし。」

「あ、そうか。そうなるとノートの部分どうなってるんだろう?」


結衣お姉ちゃんが鞄を取ってほしいと言ったので近くにあった鞄を渡してあげる。結衣お姉ちゃんは鞄からノートを取り出して開いた。

向かいから覗き見る。

ノートのイベントに関する記述は文字化けしていた。ペンのインクとかではないな。何か焼印のようなもので意味不明の記号と文字が並んでいた。不気味だ。これが桃姉の不調の原因か。

イベント妨害は不可な訳ね。


「これが桃姉の不調の原因だね。悪いけどイベント妨害する度に桃姉があんな異常起こすのは困るから、余程の事が無い限り今後イベント妨害はナシで。あ、今回みたいなのは別だよ?結衣お姉ちゃんも大事だから。」


結衣お姉ちゃんは素直に頷いてくれた。

自分も殴られたのに健気に「七瀬さん大丈夫かな。心配だね。」と言っている。明日になっても本格的に不調が治らないようだと確かにやばい気がする。

結衣お姉ちゃんには「頑張ったね。腫れ、早く引くと良いね。」と言って頭を撫でた。結衣お姉ちゃんは気持ち良さそうに頭を撫でられている。

オレは桃姉の事も気になるので結衣お姉ちゃんの病室を出た。



桃姉は翌日けろっとした顔で「もう大丈夫みたい」と言っていた。検査でも異常は無かったらしい。医者は急激なストレスによる不調ではないかと言っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ