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桃姉は逆ハーレムを達成したらしい。結衣お姉ちゃんが報告してくれた。毎日毎日「~が攻略されたみたい」と報告され、次々に9人落ちた。春日さんは落ちていないらしい。でも桃姉は家でそんなことは言わない。幸せそうにも見えない。桃姉はちょっと結衣お姉ちゃんと似ている。恋愛したがっているように見せかけて本心では結衣お姉ちゃんと同じく恋愛拒否モードを展開している。
9人か…オレの希望で言えば義兄には春日さんが欲しかったけど…
月姉がアイス片手に部屋に訪れた。今日はラムレーズンか。旨そうだな。
「最近の桃花どう思う?」
月姉が勝手にベッドに腰掛けてアイスを食べながら尋ねてくる。
「『自分は幸せなんだ』って思いこもうとして失敗している感じ?」
「やっぱりあんたもそう思う?」
月姉もそう思ってたのか。
「学校でモテてるんだってね。」
「ああ、朝比奈さんに聞いたの?そうなのよ。一条も事あるごとに『桃花が、桃花が』って…勉強もろくに手がつかないみたいね。恋にどっぷりつかってるっていうのかしら?なんかちょっと気味が悪いわ。」
ノートによる不自然な恋心だからそうなるのか。
「桃花も桃花で、みんなに良い顔して笑顔だけど全然幸せそうじゃないの。『無理してるんじゃない?』って聞いても『そんなことない』って言うし。」
「桃姉は多分まだ恋出来ないよ。」
「それはあんたの勘?」
「そう。」
「ふうん。」
月姉は考え込んでいるようだった。
「あんたは朝比奈さんとどうなのよ?」
「別に何もないよ。」
「意外ね。あんたってもっと手が早い方かと思ってたわ。」
手が早いって…オレそういう認識なのか。結衣お姉ちゃんに関してはまだ攻めきれない理由があるからね。もうちょっと間を詰めてみるつもりではあるけど。
桃姉は…一条辺りで修正液実験してみるか。
「月姉は良い相手できたの?」
「出来たように見える?」
「見えない。」
「……私って案外モテないのかしら?」
月姉は本気で悩んでるようでちょっと吹いてしまった。睨まれた。
「完璧すぎるととっつき辛いもんだよ。クールぶるのを止めて家でやってるみたいにガキ大将やってみれば?」
「誰がガキ大将ですって!?」
月姉は拳を振りかぶった。
「ははは。そういうとこ。」
月姉はブータレてしまった。不満げにアイスを食べ終わるといつも通り出て行った。
ルティで春日さんと会った。春日さんに会うためにわざわざ土曜に来た。土曜にローテーションを振られてるメンバーには一人も知り合いがいないので誰もオレに注目しない。容姿が目立ってるという意味では注目されるけど。
春日さんはオレに目を止めると優雅に歩いてやってきた。
「あら、坊やが結衣ちゃんのいない日に来るのなんて珍しいわね。」
「今日は春日さんの顔でも見ようかなと思って。」
「あらぁ。嬉しい事言ってくれるわね。藍子ちゃんブレンド2つとチョコバナナミルクレープ2皿。」
春日さんがメイドさんの一人に声をかける。
「頼んでませんけど?」
「今日はアタシの奢り。」
春日さんはウィンクしてオレの正面の席に座った。
「それで?今日は結衣ちゃんの事?」
「いえ、七瀬桃花の事で。」
春日さんの目が細くなる。
「桃花ちゃんの?あらあら。何かしら?」
「オレ。桃花の義弟です。単刀直入に言って春日さん、桃姉に惚れてませんか?」
ノートで除外したオレが落ちてないのはともかくとして春日さんが落ちてないのはおかしいのだ。その理由が知りたい。
「惚れてるわよ。」
あっさりした答えに目が点になる。結衣お姉ちゃんは春日さんは落ちてないって言ってたのに、落ちてたのか。落ちててもそれを全く表に出してなかったってこと?
「ふふふ。坊やがそんな顔するなんて珍しいわね。いつもは結衣ちゃんたじたじさせて余裕の表情なのに。アタシとしてはなんで坊やがそれを知ってるか興味があるけど…もしかして聞かれたくなかったりするのかしら?」
「できれば。」
チョコバナナミルクレープが来た。
「ありがと、藍子ちゃん。坊や、食べて良いわよ。」
と、言われて食べないのも失礼かと思って一口口にする。クレープのふんわりした食感の中に薄く延ばされたチョコレートのパリッとした食感が混じる。それとは別の濃厚なチョコソースがバナナと絡みあって…絶妙に美味しい。
「おいしいです。」
「そう。良かったわ。坊やが聞かれたくないなら聞かないわ。」
「有難うございます。結衣お姉ちゃんは春日さんが桃姉に惚れてる様子は無かったって言ってます。アプローチとかしないんですか?」
「うふふ。してほしい?」
春日さんは口元を手で隠して上品に笑った。
「ちょっとしてほしいですね。春日さんみたいな義兄が欲しかったので。」
「あらぁ。ありがと。アタシはねぇ…何か変なのよ。」
春日さんはちょっと遠くを見るような目をした。
「変…ですか?」
「桃花ちゃんを愛おしく思う気持ちはあるわ。でも比べちゃ悪いかしらね?結衣ちゃんの方が好きなの。」
オレは息をのんだ。
「別に坊やの恋敵になるつもりはないから安心して。なんだか桃花ちゃんを好きだと思う気持ちの中に作為的なものを感じるのよ。人知の及ばない領域で操られてる気がする。だから桃花ちゃんにアプローチはしない。作られた気持ちで愛するなんて不実だと思うから。桃花ちゃんは桃花ちゃんを自然に愛する人と幸せになるべきなのよ。」
春日さんは…誠実な人だった。こんな誠実な人が義兄だったらきっとそれは素敵なことだろう。
「残念です。オレは本当に春日さんを義兄に欲しかったです。」
「ふふふ。ありがとう。」
春日さんが大きな手でオレの頭を撫でた。オレは結衣お姉ちゃんの頭とかよく撫でたりしてるけど逆の立場はなんか新鮮だな。ちょっと気恥ずかしくもある。
「坊やの結衣ちゃんへの気持ちは固まったのかしら?」
「固まりつつあります」
「結衣ちゃんのこと幸せにしなきゃ承知しないんだから」
「オレはやるからには全力ですよ?」
「あらあら、頼もしいわね。今日は結衣ちゃんいなくて寂しいんじゃない?」
「袖がしとどと濡れるほど」
「情熱的ね」
春日さんは小さく笑った。
それからは深い所まで立ち入らず、桃姉の働きぶりなんかを話題にした。やっぱりドジらしい。でもすごい数の信者を集めて春日さんはうはうはしてるらしい。
店を出ようとしたら春日さんに呼び止められた。
「坊や、いつまでも坊や、じゃ格好つかないわね。名前、教えてくれる?知ってるかもしれないけどアタシは春日奏多よ。」
「失礼しました。七瀬雪夜です。」
「そう。雪夜君。これからもよろしくね。」
春日さんは嫣然と微笑んだ。
結衣お姉ちゃんに電話で相談された。二宗には好きな人物が二人いるらしい。恐らく結衣お姉ちゃんと桃姉の事だろうと思うけど、それには全く気付いていないようだ。清々しいほどに鈍い。
「――――というわけで二宗君の人物欄に心変わりを記入しようと思うんだよ。」
結衣お姉ちゃんは説明を終えると切り出した。
「心変わりもいいんだけれど、一つ試してみてくれないかな?」
丁度誰かで試そうと思っていた所だし、実験台が転がり込んでくれたならそいつで試そう。二宗は同じクラスだし、結衣お姉ちゃんと親しいみたいだから観察しやすいだろうし。
「何を?」
「『桃花を好きになる』っていう文章を修正液で消すの。上手く行けば10人の問題解決の手段になるよ。」
もし上手くいったら二宗の好きな人物が結衣お姉ちゃんだけになるのか。急いで間を詰めないとダメだな。二宗が到底入り込めないくらいに。
でも修正液作戦が上手く行けば結衣お姉ちゃんの悩みが無くなる。
結衣お姉ちゃんは嬉しそうに弾んだ声で「試してみるよ」と言っていた。
結果要観察。




