第81話:知らない名前
網をボノに預けて宿を出ると、そのままギルドへ向かった。
今日は、いつものように依頼を探す前に、少し調べたいことがある。
昨日、網を買った店で修理の相談をした時、丈夫な縄に替えればその分重くなると言われた。今でも持ち歩くのに苦労しているのに、これ以上重くなるのは困る。
かといって、同じ縄で直しても、また魔物に引っ張られたら簡単に切れてしまうかもしれない。
……そもそも、何を相手にするかでも違うよな。
一昨日のラグルは、網に後脚を絡めて動けなくなっていた。
ただ、あれがもっと大きな魔物だったら、どうなっていたんだろう。逆に、あまり力の強くない魔物なら、今の縄でも十分なのかもしれない。
考えてみれば、魔物のことをほとんど知らない。
ラグルという名前だって、一昨日初めて教えてもらったくらいだ。
今まで何度も遭遇してきたのに、何という魔物だったのか、何が得意で、何を食べているのかもよくわからない。
ギルドには魔物についての資料があると聞いたことがあったので、今日はそれを見せてもらおうと思ったわけだ。
◇
ギルドへ入ると、掲示板の前には何人かの冒険者が集まっていた。
新しい依頼が出ているのか気になったが、今日は受付が先だ。
セラはちょうど書類を整理しているところだった。
「おはようございます、ライアスさん」
「おはようございます。あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「はい。何でしょう?」
「ギルドに魔物の資料ってありますか?」
セラは手を止めた。
「ありますよ。何か調べたい魔物がいるんですか?」
「一昨日のラグルとか、アルネの周りにいる魔物のことをもう少し知りたくて」
「ああ、なるほど。それでしたら、こちらの資料がいいと思います」
セラは奥から何冊か持ってきてくれた。
厚いものもあれば、何枚かの紙をまとめただけのものもある。
「全部の魔物が詳しく載っているわけではありませんけど、アルネ周辺で確認されているものは、ある程度まとまっていますよ」
「ありがとうございます」
空いている席に腰を下ろし、一番上の資料を開いた。
……結構いろいろ載ってるな。
魔物の名前に、姿や身体の特徴。どの辺りで見かけるか、何を食べるか、どういう行動をすることが多いか。
中には、冒険者が遭遇した時の記録も混じっている。
ただ、同じ魔物について書かれているのに、記録によって少し違うことが書いてある場合もあった。
群れで動くことが多いと書かれた魔物に、単独で見つかったという記録があったりする。
……まあ、人間だっていつも同じ人数で歩いてるわけじゃないもんな。
そんなことを考えながらラグルの項目を探していると、狼に似た魔物の絵がいくつも並んでいるところがあった。
どれも四本脚で、口が長く、耳が立っている。多少大きさや毛並みが違うらしいが、絵だけでは見分けがつかないものもある。
「……あれ?」
隣り合った二つの絵が気になった。
片方はラグル。
もう片方には、レグルと書いてある。
……似てるなあ。
同じ魔物の別の絵かと思ったが、説明を読むと違う種類らしい。
ラグルは首から肩、背中にかけて毛が束になって立っている。輪郭が少しギザギザしていて、普通の狼よりもごつごつした印象だ。
一昨日倒したやつも、確かにこんな感じだった気がする。
一方、レグルの方は脚が太い。特に後脚が発達していて、身体の後ろ側が随分しっかりしているように見えた。
……こっちは、どこかで見たような。
「何を見てるの?」
声をかけられて顔を上げると、リーザが立っていた。
「あ、リーザさん。おはようございます」
「おはよう。今日は仕事じゃないの?」
「まだ決めてないんです。ちょっと魔物のことを調べようと思って」
「へえ。珍しいね」
リーザは机に広げた資料を覗き込んだ。
「ラグルとレグル?」
「はい。一昨日初めてラグルって名前を知ったので、ほかの魔物についても調べようかと」
「ああ、そうだったね」
「それで、こっちの二匹なんですけど、結構似てませんか?」
「似てるよ。遠くから見ただけなら、私も間違えることがあると思う」
「リーザさんでも?」
「もちろん。毛の色とか大きさだけじゃ、わからないこともあるし」
リーザは向かいの席に腰を下ろした。
「ラグルは毛が特徴的だから、近くで見ればわかりやすい方かな。首の辺りとか、結構ごわごわしてるんだよ」
「そうなんですか」
「うん。皮も丈夫だしね」
言われてみると、ラグルの毛の描き方はほかの狼系とは少し違っている。
「じゃあ、こっちのレグルは?」
「脚が強いんだよ。走るのも跳ぶのも得意で、後脚で蹴ってくることもあるから」
……後脚で蹴る?
その言葉に、少し引っかかった。
確か、前にもそんな魔物を見たことがあったような。
思い出そうとしていると、ギルドの奥から大きな声が聞こえた。
「おー、リーザ!」
向かいに座っていたリーザが、ぴくりと肩を動かした。
「……げ」
え?
リーザは声のした方を一度見て、それから席を立とうとした。
「あ、私、ちょっと用事を思い出したから」
「え、そうなんですか?」
「うん。またあとでね」
そう言って歩き出したところで、もう一度声がした。
「おい、リーザ! 聞こえてんだろ!」
「……もう」
リーザが足を止めた。
声の方を振り返ると、大きな盾を持った男が立っていた。
……あれ?
「デインさん?」
「おう、ライアスじゃねえか!」
デインがこちらへ歩いてきた。
「久しぶりだな。盾はどうだ?」
「お久しぶりです。まだ使ってますよ」
「そうかそうか。ちゃんと練習してるか?」
「一応、少しずつですけど」
「ガハハ! そりゃいい!」
相変わらず声が大きい。
リーザが横で顔をしかめた。
「兄貴、声大きい」
「おう、悪い悪い!」
……兄貴?
思わず二人の顔を見比べる。
「あの、お二人って……」
「ん? ああ、妹だ」
デインがリーザの方を指差した。
「えっ!?」
思わず声が出た。
リーザは少し困ったように笑っている。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよ!」
「そうだったかな」
「おいおい、何回も一緒に仕事してたんだろ?」
デインが言った。
「はい。でも、まさか兄妹だとは」
「似てねえか?」
そう言ってデインが自分の顔を指差す。
……どうだろう。
髪や目の辺りは、言われてみれば似ているところもある気がする。
ただ、何より声の大きさが違いすぎる。
「……言われてみれば、少し?」
「何だ、随分自信ねえな!」
「だから声が大きいってば」
リーザがため息をついた。
デインは笑いながら、机に広げていた資料へ目を向けた。
「何だ、二人で勉強か?」
「ライアスが魔物を調べてるの。私はたまたま来ただけ」
「ほう。何を調べてるんだ?」
「一昨日見たラグルとか、狼みたいな魔物です」
「ラグルか。この辺じゃよく見かけるな。あいつを相手にした回数なんて、もう数えちゃいねえぞ」
そう言って、デインは空いていた席を引き寄せた。
リーザが少し眉を上げる。
「兄貴、仕事は?」
「終わった!」
「本当に?」
「終わったって言ってるだろ」
リーザは何か言いたそうだったが、それ以上は何も言わなかった。
……仲が悪いわけじゃなさそうだけど、大変そうだな。
◇
デインはラグルの絵を指差した。
「こいつは毛と皮が硬いんだ。槍で突く時も、当て方が悪いと滑ることがある」
「そうなんですか」
「首や肩の辺りは特にごわごわしててな。毛が太いんだよ。普通の狼だと思って触ると、結構驚くぞ」
「触ったことがあるんですね」
「そりゃ、解体することもあるからな」
デインは絵の背中を指でなぞった。
「ただ、どこも同じように硬いわけじゃねえぞ。腹の方なんかは、背中ほどじゃない」
「兄貴、全部のラグルが同じとは限らないでしょ」
リーザが口を挟んだ。
「そりゃそうだが、大体はそんなもんだろ」
「ライアスは資料を調べに来てるんだから、ちゃんと分けて話してよ」
「細けえなあ」
デインは笑った。
「まあ、俺が相手にしたやつはそうだったって話だ」
ラグルの説明には、毛や皮が硬いことはよく知られているものの、魔力によってどの程度硬くなっているのかは、はっきりしないと書かれていた。
「これ、魔力を使ってるから硬いってわけじゃないんですか?」
「さあな。魔物なんだから、何かしら魔力を使ってるんだろうが」
「ラグルの場合は、毛や皮の硬さに魔力が関係していると考えられてるみたい。でも、どこまでが元々の身体の丈夫さなのかは、わからないんだって」
リーザが説明の一部分を指差した。
「なるほど……」
「硬いってこと自体は間違いねえけどな」
デインはそう言って、隣の絵に目を移した。
「お、レグルも載ってるじゃねえか」
「あ、それです」
思わず身を乗り出した。
「さっきリーザさんから、後脚が強いって聞いたんですけど」
「ああ。こいつは後脚がよく発達してるんだ。蹴られると結構な衝撃が来るぞ」
「……あ!」
そこで、ようやく思い出した。
「デインさん、前に商隊の護衛で一緒だった時、魔物に盾を蹴られてませんでした?」
「おう、あったな!」
「結構大きな音がしたの、覚えてます」
「あれもレグルだぞ」
「えっ、そうだったんですか?」
「そうだ。あの時は四匹だったな。俺の盾を蹴ってきたやつがいただろ」
覚えている。
初めてベルドへ行った時のことだ。
《緑の風》と一緒に商隊を護衛していて、街道の林から狼に似た魔物が飛び出してきた。
デインの盾にぶつかる音がして、そのあとも戦いの音が続いた。
あの時は馬車の近くにいて、反対側から近づいてきたもう一匹の音に気づいて声を上げたんだった。
……あれがレグルだったのか。
「じゃあ、前に採取の仕事で戦った二匹も?」
「ああ、あれもレグルだったぞ」
デインが頷いた。
「ガイルたちと倒したやつだろ。お前、あの時は棒で相手の動きを邪魔してたよな」
「はい。そういえば、あの二匹も脚がしっかりしてました」
一匹は狼より随分大きく見えたし、もう一匹には大きな牙があった。
二匹ともよく動いて、近づかれないようにするだけで精一杯だったのを覚えている。
「……じゃあ、あの時食べた肉もレグルですか?」
「そうだぞ。何だ、知らずに食ってたのか?」
「知らなかったです!」
デインが声を上げて笑った。
「ガハハ! うまかっただろ?」
「はい。あれは美味しかったです」
「あいつの肉は結構いけるからな。ラグルとは違うぞ」
……そうだったのか。
初めて食べた魔物の肉。
あの時は、魔物って食べられるんだなと驚いたことばかり覚えている。
何の魔物なのか、聞いておけばよかったな。
「レグルの後脚も、魔力を使って強く動かしていると考えられてるみたいだよ」
リーザが隣から教えてくれた。
「じゃあ、あの蹴る力も魔力のおかげなんですか?」
「関係はあるんだと思う。でも、元々脚が発達してる魔物だから、どんなふうに魔力を使ってるのかまではわかってないみたい」
「そうなんですね」
資料にも、後脚の働きと魔力の関係について、詳しい仕組みは不明と書かれていた。
◇
「そういえば、この辺りって狼みたいな魔物が多いんですね」
そう尋ねると、リーザが頷いた。
「そうだね。狼系ってまとめて呼ぶこともあるけど、同じ種類ってわけじゃないよ」
「ラグルもレグルも、似てるけど随分違いますもんね」
「ああ。名前が似てるからって、同じように相手をすると痛い目を見るぞ」
デインが答えた。
「特にレグルの後脚は気をつけろよ。前から噛みついてくると思ってたら、跳んだり蹴ったりしてくるからな」
「はい」
その先には、もう一つ似た名前があった。
シャグル。
絵には、やはり狼に似た魔物が描かれている。
ただ、説明には少し変わったことが書いてあった。
「……毛が光る?」
思わず声に出すと、リーザが覗き込んできた。
「ああ、シャグルだね」
「知ってるんですか?」
「名前はね。アルネの周りでも、たまに目撃されるんだって」
「毛が光るって、どういうことですか?」
「書いてあるとおりだよ。興奮した時とか、強く魔力を使っている時に、毛先がぼんやり光るらしいの」
常に光っているわけではなく、身体の毛の一部が淡く光ることがある。暗い場所なら、それで見分けられることもあるらしい。
「へえ……そんな魔物もいるんですね」
「この辺では、ラグルやレグルほど見かけないみたいだけどね」
「俺もそうそう見たことはねえな」
デインが言った。
「でも、毛が光るなら見つけやすそうですね」
「光ってる時ならな」
「……あ、そうか」
いつも光っているわけじゃないんだった。
どうして毛が光るのかは、まだよくわかっていないらしい。
「わかってないことも結構あるんですね」
「そりゃあるだろうな」
デインが答える。
「俺たちは魔物と戦うことはできても、あいつらが何をどうやってるのか、全部わかるわけじゃねえからな」
確かに、そうだよな。
自分の《聴力強化》だって、どういう仕組みなのかはよくわかっていない。
魔物の場合は、それを外から調べなきゃいけないんだから、もっと難しそうだ。
◇
しばらく読み進めていくと、魔物から取れる素材について書かれた部分が出てきた。
皮や毛、牙、爪。
同じ狼系でも、役に立つ部分や使い道は違うらしい。
「これ、皮が丈夫な方が高く売れるんですか?」
尋ねると、リーザは少し考えた。
「必ずしもそうじゃないかな。使い道があっても、たくさん手に入るものなら安くなるし」
「ああ。ラグルなんかはそれだな」
デインが頷いた。
「防具に使える皮は取れるが、この辺じゃ珍しくもねえからな。わざわざ剥いで持ち帰っても、大した金にはならん」
「一昨日もそう言われました」
「だろうな。肉もあんまりうまくねえし」
「それも聞きました」
「じゃあ、食ったのか?」
「食べてないですよ!」
デインが笑った。
リーザも少し笑いながら、レグルの項目を指差した。
「その点、レグルは肉を持ち帰ることもあるからね」
「前に食べましたけど、美味しかったです」
「うん。でも、魔物の肉なら何でも食べられるわけじゃないから、知らないものを勝手に食べない方がいいよ」
「それは気をつけます」
ほかの魔物についても調べてみたくなったが、どの資料にも食べ方まで詳しく書いてあるわけではなかった。
食用になるものと、ならないもの。
素材として値段がつくものと、ほとんど買い取ってもらえないもの。
……これは、覚えるのに時間がかかりそうだ。
「そういえば、魔物って魔石が取れることもあるんですよね?」
デインが頷いた。
「ああ。ただ、普通の魔物からはまず出ねえぞ」
「そうなんですか?」
「魔石が見つかるのは、普通よりずっと強く魔力を使える特殊な個体だ。そこらの魔物を何匹倒したって、そう簡単に手に入るもんじゃねえ」
「特にアルネの周りは魔力が薄いから、そういう個体自体がほとんど見つからないんだって」
リーザも教えてくれた。
「じゃあ、この辺りで魔石が取れることって……」
「滅多にねえな。俺だって、そう何度もお目にかかれるようなもんじゃねえ」
デインはそう言って笑った。
「じゃあ、一昨日のラグルにも、まずなかったんですかね」
「そう考えるのが普通だろうな。特別な個体だったって話でもねえんだろ?」
「はい。普通のラグルとの違いなんて、わかりませんでしたけど」
「まあ、そうだろうな」
デインは資料の端を指で押さえた。
「でも、解体する時は一応探すぞ。もしあったのに見落としたら、もったいねえからな」
「ああ、そういえば……」
前に《緑の風》と倒した二匹を解体した時も、フェンが魔石を確かめていた。
結局、どちらからも見つからなかったんだった。
「念のため、ってことですか?」
「そういうことだ。出ると思って探してるわけじゃねえよ」
「なるほど……」
魔石について書かれた部分にも、どうして一部の魔物だけがそれほど強く魔力を使えるのか、詳しい説明はなかった。
「そういえば、討伐の仕事を受けた時って、魔物を倒した証明はどうするんですか?」
「そりゃ、指定されたものを持って帰るんだよ」
デインが答えた。
「牙だったり、爪だったりな。何を持って帰るかは依頼による」
「じゃあ、一昨日のラグルも、何か持って帰った方がよかったんでしょうか?」
「一昨日の仕事は荷物の回収だろ?」
リーザが言った。
「はい」
「だったら、討伐依頼とは別だよ。遭遇して倒した魔物まで、毎回証明を取らなきゃいけないわけじゃないから」
「ああ。昨日は倒したことを報告したんだろ? それでいいさ」
デインも頷いた。
「正式に討伐を頼まれた時は、何を証明にするかちゃんと確認しとけよ。倒して帰ってきたのに、証明がないなんてことになったら面倒だからな」
「……確かに、それは困りますね」
今まで受けてきた依頼は、荷運びや採取、護衛のような仕事が多かった。魔物と戦うことはあっても、討伐そのものが目的だったことはない。
知らずに討伐依頼を受けていたら、後から慌てることになっていたかもしれないな。
◇
気づけば、随分と長い時間、資料を読んでいた。
デインは途中で知り合いに声をかけられ、そちらへ行くことになった。
「じゃあな、ライアス! リーザもまたな!」
「兄貴、だから声……もういいや」
リーザが手を振る。
「ありがとうございました!」
「おう! また盾の練習も見てやるぞ!」
そう言って、デインはギルドの奥へ歩いていった。
リーザが小さく息を吐く。
「……騒がしかったね」
「そうですね。でも、いろいろ教えてもらえました」
「それならよかった」
「まさか兄妹だとは思ってませんでしたけど」
「そんなに意外だった?」
「ちょっと」
そう答えると、リーザは笑った。
「兄貴は昔からあんな感じだからね」
「そうなんですか」
「うん。悪い人じゃないんだけど、どこにいてもすぐわかるんだよね」
「……声で?」
「そう。声で」
思わず笑ってしまった。
俺なら、もっと遠くにいてもわかるかもしれない。
ただ、それを言うと少し失礼な気がしたので、黙っておいた。
「私はそろそろ行くね。ロルフたちとも話すことがあるし」
「あ、はい。ありがとうございました」
「どういたしまして。またね」
リーザも席を立ち、ギルドの奥へ向かった。
一人になったところで、もう少し資料を読んでいくことにした。
◇
最初はラグルのことだけを調べるつもりだった。
けれど、レグルという名前を知ったことで、以前見た魔物のことも少しわかった。
商隊を護衛していた時に出てきた四匹。
採取の仕事で《緑の風》と倒した二匹。
あの時食べた肉も、レグルだった。
そう思いながら読み進めると、また知らない名前が出てきた。中には、目撃例が少なく、詳しい生態は不明と書かれたものもある。
……全部を覚えるのは大変そうだな。
今度は別の欄が目に留まった。
出現地域。
魔物が見つかった場所や、よく見かける土地の名前が書かれている。
アルネ周辺。
ベルド近郊。
そこまではわかる。
ベルドには何度か行ったことがあるし、街道の途中で魔物を見たこともある。
ただ、その下には知らない地名がいくつも並んでいた。
どれも、この辺りの地名ではなさそうだ。
……こんなにいろいろあるのか。
別の魔物の項目にも、また違う地名が載っている。同じ種類の魔物でも、いくつもの場所で見つかっているものがいる。反対に、限られた地域でしか報告されていないものもあるらしい。
しばらく、その欄を眺めていた。
そういえば、ベルドの先にも道は続いているんだよな。
前に荷物を運んだ時、チョロン行きの箱があったことを思い出した。
あれも、ベルドより先の町だったはずだ。
……その辺りには、どんな魔物がいるんだろう。
知らない地名がいくつも並んでいるが、どの町がどこにあるのかまでは、よくわからない。
開いたページをしばらく眺め、それから受付の方へ目を向けた。
……地図って、見せてもらえるのかな。




