第13話 退院。(最終話)
「皆さま、大変お世話になりました」
そう言って深々と頭を下げるクリスティンは、短い髪に麦藁帽子をかぶり、半そでシャツにスラックスに編み上げ靴。ぱっと見は少年のように見える。その彼女がゆっくりと顔をあげる。迷いのない、素敵な笑顔だ。
「本当に行くのかい?」
バルトルトは彼女に何度か聞いた質問を繰り返す。
「ええ、バルト先生。ダメだったら泣いて帰って来て、ここで見習い看護師でお勤めしますよ」
(この子はそんなことをけろりと言ってのけるほどになったんだな)
バルトルトは彼女のセリフに驚いた。まるで別人のようだな。
「…そうか…でも、知らせぐらい出したらよかったんじゃないのか?」
「あははっ。そんなことしたらフェルナンドさんに断られちゃうじゃないですか」
馬車の前で、彼女の兄上が深々と頭を下げるのが見える。
このまま彼女の兄上がよこしてくれた馬車で港まで向かうらしい。イング国行きの船は、明朝早くの出航の予定だ。
クリスティンは小さな旅行カバンを持って、右手で大きく手を振って馬車に乗り込んでいく。
無事今日退院の彼女を、手の空いている病院関係者が一列に並んで手を振って見送る。彼女の担当だったフローラも手を振っている。
「なんだか、随分すっきりとした顔でしたね」
遠ざかっていく馬車に手を振りながら、エルザさんが話しかけてきた。
「うん。大丈夫かな…」
「きっと、もう、大丈夫ですよ。しかもあの子は王太子の婚約者候補になったほどの子ですからね。異国に行ってもそうそう困らないんじゃないんですか?」
あははっと笑いながら、エルマさんに背中を叩かれる。
「次はバルト先生のお嫁さんを探さなくちゃね?やっぱり10歳ぐらい年下がいい?」
「ええええ???」
カンカンカンッ、と召集の鐘が鳴って、みんなで慌てて駆けだしていく。
バルトルトは一緒に走り出しながら、玄関先で振り返った。
青い夏空が広がっている。
いつもすました顔をしている友人の驚く顔を想像して…バルトルトは口元がにやけてしまう。
「先生!早く!」
「はーい」




