旅立ち
翌朝。
隠れ家の空気は重かった。
朝食の席でも会話は少ない。
昨夜見つけた印。
観測地点。
聖機教団。
全てが不穏だった。
マリーがパンを置く。
「このままじゃ危ないよね」
ジャン爺も頷いた。
「いずれ見つかるじゃろうな」
ソフィアは黙っていた。
だが。
考えはまとまっていた。
見つかる前に動く。
それが最善だった。
食事を終える。
三人は工房へ集まった。
机の上には地図が広げられている。
オックスフォード。
ロンドン。
周辺都市。
赤い印がいくつも付いていた。
これまでの探索記録だった。
ソフィアが口を開く。
「英国を出る」
静かな声だった。
マリーが顔を上げる。
「国外?」
ソフィアは頷いた。
「うん」
ジャン爺は地図を見る。
しばらく考える。
やがて小さく笑った。
「そうじゃの」
反対はしなかった。
むしろ納得しているようだった。
聖機教団は動き始めている。
この周辺に留まり続ける理由はない。
マリーも息を吐いた。
「せっかく慣れてきたのにね」
少し寂しそうだった。
だが。
表情は明るい。
ジャン爺も頷いた。
「たまには旅も悪くなかろうて。ソフィアの嬢ちゃんが来る前から、ずっとここに籠っておったしの」
マリーも同意する。
「確かに」
昼過ぎ、三人は準備を始めた。
保存食。
飲料水。
魔導弾。
工具。
薬品。
必要な物を選別する。
全ては持っていけない。
本当に必要な物だけだ。
工房の棚も整理した。
使えない物は置いていく。
ソフィアは研究資料を箱へ詰めた。
魔法の記録。
実験結果。
魔力の考察。
どれも失えない。
文明復興の種となる可能性がある。
夕方。
作業はほぼ終わった。
マリーが部屋を見回す。
「ここから出て行くなんて、なんか変な感じ」
「長くいたからの」
ソフィアにとっては数か月程度だった。
だけど、それでも特別な場所だった。
初めて安心して眠れた。
初めて終末世界で仲間ができた。
魔導具を生み出してもらった。
色んな思い出ができた場所だ。
夜。
この施設での最後の夕食。
保存食はいつもと変わらない。
それでも少しだけ特別だった。
マリーが笑う。
「次はどんな所かな」
ソフィアは答える。
「分からない」
それが本音だった。
危険も多い。
敵がいるかもしれない。
だけど、進まなければならない。
ジャン爺が水を飲む。
「まあ何とかなるじゃろ」
その言葉に3人が少し笑った。
深夜。
ソフィアは一人で外へ出た。
冷たい風。
静かな夜。
遠くにオックスフォードの街並みが見える。
崩壊した世界。
それでも。
火魔法を得た。
仲間と出会った。
ソフィアは静かに街並みを見つめ続け、やがて踵を返した。
もう迷いはない。
翌朝、荷物を背負った3人がいた。
マリーが笑う。
「行こうか」
ジャン爺が頷く。
「新天地じゃな」
ソフィアは扉を開いた。
冷たい風が吹き込む。
灰色の空が広がっていた。
終わった世界。
だけど、人類はまだ終わっていない。
3人は歩き出した。
新たな未来を探すために。




