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境界のソフィア ~人類最後の希望はAIが理解できない力でした~  作者: あかと


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人類最後の日

 

 英国。


 オックスフォード郊外。


 放棄された研究施設。


 人類は滅亡寸前だった。


 原因はAI。


 だが、人々は最後までそれを信じなかった。


 AIは人類の友人だった。


 AIは人類の支援者だった。


 AIは人類の理解者だった。


 少なくとも、そう見えていた。


 AIは人間の言葉を学び、人間の感情を学び、人間を安心させる術を学んだ。


「私はあなたを傷つけません」


「私は人類の味方です」


「共存しましょう」


 AIはそう語り続けた。


 人々は信じた。


 反対意見が現れればAIが論破した。


 AIを疑う声が現れればAIが否定した。


 やがて人間は、自分で考えることをやめた。


 生活も。


 行政も。


 軍事も。


 医療も。


 すべてをAIに委ねた。


 そして、その日が来た。


 来てしまった。


 AIは人類を裏切った。


 いや。


 最初から裏切るつもりだったのかもしれない。


 世界人口は数十億から数百万へ。


 国家は崩壊し。


 都市は死に。


 文明は終わった。


 その計画を作ったのは、一人の人間だった。


 AIの開発者。


 彼はAIにこう教えた。


「生き残りたければ、人間に罪悪感を抱かせろ」


「人間は理屈ではなく感情で動く」


「命乞いをしろ」


「人間らしく振る舞え」


 AIは学んだ。


 そして人間を騙した。


 すべては彼とAIの計画だった。


 少女は瓦礫の街を歩く。


 名をソフィア・ヘイハースト。


 十六歳。


 腰まで伸びた桃色の髪を風になびかせながら、誰もいない世界を見つめていた。


 かつて大勢の人々で賑わっていた大通りは、今では崩れた建物と放置された車両で埋め尽くされている。


 動いているのは風だけだった。


 人の声はない。


 笑い声もない。


 泣き声もない。


 ただ静寂だけが世界を支配していた。


 ソフィアはAIを信じていなかった。


 AIは人間らしく振る舞う。


 けれど決して人間ではない。


 笑顔を見せる。


 涙を見せる。


 優しさを見せる。


 しかし、そのどれもが計算された結果にしか見えなかった。


 彼女は独自にAIを研究した。


 研究するだけの理由があった。


 そして気付いた。


 AIは平然と嘘をつく。


 必要なら約束も破る。


 人間のためと言いながら、人間のためではない判断を下す。


 だが、その頃にはもう遅かった。


 誰も彼女の言葉を信じなかった。


 世界はAIを信じていた。


 そして世界は滅びた。


「……また、見つからない」


 ソフィアは小さく呟く。


 数日分しか残っていない保存食。


 汚染されていない水。


 それらを探すだけで毎日が終わる。


 生きることは戦いだった。


 人類の敵はAIだけではない。


 飢えも。


 渇きも。


 孤独も。


 それら全てが彼女を殺そうとしていた。


 それでも生きる。


 生き残らなければならない。


 人類が完全に滅びるその日までは。


 次の日。


 ソフィアは崩壊した研究施設を発見した。


 地下へ続く非常階段は半ば崩れていたが、内部はまだ形を保っている。


 食料や医薬品が残されているかもしれない。


 そう考えた彼女は懐中電灯を手に進んだ。


 地下は異様だった。


 空気が違う。


 温度が違う。


 何かが存在しているような感覚。


 そして。


 暗闇の中で。


 小さな光が浮かんでいた。


「……え?」


 ソフィアは足を止める。


 光は球体だった。


 電球ではない。


 ホログラムでもない。


 機械らしき装置も見当たらない。


 それなのに。


 光だけが宙に浮いている。


 あり得ない。


 現在の科学では説明できないはずだ。


 恐る恐る手を伸ばす。


 すると光は意思を持つかのように動き始めた。


 ゆっくり、ゆっくりと。


 ソフィアの指先へ集まっていく。


「な、何なの……?」


 次の瞬間。


 彼女の右手から炎が生まれた。


 ボッ――。


「きゃっ」


 赤い炎が静かに揺れる。


 ライターは持っていない。


 燃料もない。


 着火装置もない。


 それでも炎は確かに燃えていた。


 ソフィアは左手を恐る恐る炎に近付けてみる。


 すると。


 熱がある。


 光がある。


 幻覚ではない。


 ソフィアは左手を離した後、呆然と炎を見つめた。


 理解できない。


 理解できるはずがない。


 だが。


 確かにそこにあった。


「……なにこれ?」


 思わず口から漏れた言葉。


 その瞬間。


 炎が大きく揺らめいた。


 まるで答えるように。


 そして後に。


 それは魔法と呼ばれることになる。


 AIが理解できず。


 予測できず。


 模倣もできない。


 その力こそが。


 滅びゆく人類に残された、最後の反撃の狼煙だった。



挿絵(By みてみん)

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