246.今ある物を有効に使って
「・・・なぁ、天然の定義って何なんだ?」
「一般常識で言いますと、『人の手が加えられていない自然の働きによって存在しているもの』でしょうか」
「なるほど、そういう意味ではこれも天然になる・・・のか?」
例の老人が見せてくれたのはとある石。
火山性の惑星で入手したものらしく、これを水に沈める事で強力な炭酸ガスが発生し炭酸水が出来上がるのだとか。
そんなまさかと思ってしまったのだが、実際自分達が持参したピュアウォーターが炭酸水になるのを見せられてしまうと納得するしかなかった。
天然の素材を使って炭酸を作ったから天然炭酸水。
これはさぞすごい物なのだろうと思いながら、とりあえず拳大の石を1万ヴェイルで買い付けたわけなのだが実際は少し探せば手に入るようなものだった。
「コア・バルブ鉱石は刺激によって超高圧のガスを噴出する為市場にはなかなか流通していませんが、手に入らないわけではありません。このサイズですと約一カ月ほどですべてのガスを出し切ってただの石になってしまいますが、一カ月間炭酸水を作り出せるともいえますね」
「因みに市場価格は3万ヴェイルだから、まぁボッタクられたわけではなさそうよ」
「なるほど、世の中にはよく知らない物がたくさんあるもんだ」
「でもこれを買ってどうするんですか?確かに炭酸水の味は違いましたけど、これだけじゃどうにもならないと思いますけど」
「まぁそれに関しては考えがある。とりあえずその鉱石を安定的に購入できる方法を探しておいてくれ、サイズはまぁこのぐらいでいい。下手に大きいと危ないしな」
「よくわからないけど、とりあえず探すわね」
簡単ではなくとも手に入る方法があるのであればそれに越したことは無い。
今回の買い付けはあくまでも仕入れてきたアルコールをより高く売るための仕込み、別にこの石そのものを売りたいわけではない。
ノクティルカをアピールしつつ、自分達の存在をしっかりと認知してもらうためのとっておき。
わざわざこんな場所まで来たのもより高く商品を売るためだ。
という感じで仕込みを終えた俺達は一路セリオス・ステーションへ帰還。
今回もアルコールや食料を積んでいるという事で、外に待機している船とは別に優先的に着艦させてもらえることになった。
ありがたい話だ。
「マスター、手配しておいたものがハンガーに届いておりますが、どうしましょうか」
「とりあえずソルアレスのカーゴに運び入れておいてくれ」
「かしこまりました」
「テネス、頼んでおいた機械は?」
「それも一緒に置いてあるはずよ」
「了解、とりあえず買い付けてきたものの搬出はあの三人に任せるとして・・・手伝ってくれるよな?」
ここまでお膳立てしておいて何もしないという事はないだろう。
俺のそんな視線を浴びてアリスが盛大なため息をつく。
まったく、うちのヒューマノイドときたら・・・いや、何も言うまい。
「それで、今回はこれを?」
「あぁ、折角ここまできて酒を飲むのならこのコロニーに特色のある物で飲むべきだろう。ということで、物は試しだ一杯やってくれ」
やってきたのは傭兵ギルド。
別に普通の店に売り込みに行ってもよかったんだが、やはり知名度があるのと無いのとでは話を聞いてもらえる可能性が全然違う。
加えてここなら酒を飲むやつも多い、なんだかんだ酒の販売はギルドの貴重な収入源でもあるのでそれを助けるという意味合いも含んでいる。
「いつもの味だな」
「じゃあこの炭酸水を入れてみてくれ」
「これはあれだろ?今流行っている奴だろ?」
「まぁとりあえず飲めばわかる」
エドモンドさんは胡散臭そうな顔でウイスキーの入ったコップを見つめると、そこに合成機で作った炭酸水を入れる。
琥珀色の液体がシュワシュワと泡を立てながら混ざり合っていくのがわかる。
古来よりハイボールと言う名前で伝わっている酒の飲み方、最近では廃れてきているという話だけど古い物が好きな一部の傭兵には人気の飲み方らしい。
言われるがままコップを口に運ぶと、少しだけ驚いたような表情に変わった。
「美味いだろ?」
「まぁな」
「そんでもって、最後がこれだ。今度はこっちのコップにこのグラスの中身を入れてくれ」
「これは?」
「ただの炭酸水だが・・・そうだな、遺跡ソーダとでも呼んでみるか」
机の上には先程と同じウイスキーの入ったコップ、そしてその横に先程仕込んだものをドンと置く。
くすんだ黄緑色をした瓶、その中には先程買い付けてきたコア・バブル鉱石を使った炭酸水が入っている。
もちろんただの瓶に入れただけでは炭酸が抜けてしまうので、専用の蓋を使ってしっかりと封じ込めてある。
「遺跡ソーダねぇ・・・このくすんだ黄緑、遺跡から出土したやつか」
「流石、よく知ってるな」
「それをわざわざ使って炭酸水を封じ込めたのか」
「ただの炭酸水じゃない、天然の炭酸水だ」
「天然?」
「まぁ飲んでみたらわかる」
先程と違って明らかに興味津々と言う感じで瓶の蓋を外すと、シュポン!という音と共に中の炭酸水が軽く噴き出す。
慌てた様子でそれをコップに注ぐと、炭酸の強さからかあっという間に中のウイスキーと混ざり合った。
意を決したようにそれを手に取り口に運ぶエドモンドさん。
「なんだこれ!」
「な、美味いだろ?」
「嘘だろ、同じウイスキーでこんなに違うのか?」
「これが天然物と合成機との違いだ。だが、そのまま天然モノって打っても味気ないからな、この瓶に入れて売ればさらに客は喜ぶだろう。美味い酒があれば傭兵は集まるし、それ以外の客が来れば護衛だなんだと仕事には事欠かないはずだ」
「だがこれを俺に紹介してアンタはどうしたいんだ?こんなに美味くなる方法を知ってるなら自分で売ればいいじゃないか」
酒の上手さに驚きながらも冷静に俺が何をしたいのかを探ってくる。
確かに自分でやるのが一番なんだが、それをするためにわざわざあそこまで行ったんじゃない。
「そうしたいのは山々なんだが俺はここに住んでいるわけじゃない。やることをやったら次の場所に行くのが傭兵、それなのにどうやってこれを売り続けるんだ?」
「それはまぁそうだが・・・」
「単刀直入に言うが、この炭酸水を俺の代わりに売ってくれ。瓶は洗浄して使いまわす必要はあるがここなら割れてもすぐに代わりを手配できるだろう。俺はこの炭酸水を作る方法をアンタに売り、アンタはそれを使って金を稼ぐ、悪い話じゃないだろ?」
「それはその値段しだいだ。言っとくがうちは貧乏傭兵ギルドだ、輸送ギルドみたいに高い値段出せないからな」
「別にアンタからふんだくるつもりはないさ。同じ傭兵のよしみ、俺の好きな酒を広めてほしいだけだよ。そうだな、この酒と炭酸水を売って得られる売上の一割でどうだ?」
「・・・ん?それだけでいいのか?」
「アンタは客を呼ぶネタが出来て、俺は継続的な収入を得る。別に酒に使うだけでなくこの炭酸水をどう使うかはアンタの好きにすればいい。俺は金が手に入れば文句はないが・・・ただし不正はするなよ、すぐにわかるからな」
「あんたんとこのヒューマノイドが優秀なのは俺も知ってる、そんな恐ろしいことはしないさ」
どうやらアリスとテネスが優秀だという事は傭兵ギルド内でも周知の事実のようだ。
なんにせよ商談は成立、こうして俺は継続的な収入を手に入れつつ、輸送ギルドだけでなく傭兵ギルドにも恩を売ることが出来た。
コロニー運営だけじゃなくギルドにもしっかり顔を売っておく事で、確実に惑星へと降りる仕事を回してもらえるというわけだ。
実の所惑星降下には傭兵ギルドも一枚かんでいるらしいので、その辺の外堀を埋めていこうというわけだな。
あとは、前に買付けた俺が好きな酒があまり人気がないからこうやってテコ入れしようっていう思惑もあるわけだけど、なんにせよ気に入ってくれたようなので目的は達成。
これがいずれ物凄い収益を上げるようになるわけだが、その時の俺はまだ知る由もない。




