245.変わったものを仕入れに向かって
「と、いう感じで彼女が遺跡から来たのは間違いなさそうだ」
オークションが終わる前に会場を出た俺達はそのままソルアレスへと帰還した。
買取の手続きとか発送とかは全部遠隔で行い、購入者への発送まで終わらせてあるそうだ。
その分俺の懐からはごそっとお金が消えていったわけだが商品が到着次第振り込まれていくのでいずれふえていく・・・はずだ
因みに送料は勿論運営持ち、梱包や発送をどうするのか心配だったんだがその辺はプロに任せられるので安心だな。
「遺跡から出てきたのか、それとも遺跡から逃げてきたのか、どっちなんでしょう」
「この子の感じからすると逃げてはいないと思うけど、プログラムを書き換えちゃうぐらいだからよくわからないのよね」
「そもそもコロニーで作られたヒューマノイドですらないってことになる。もう一度スキャンし直した方がいいんじゃないか?」
「一応スキャンはかけているんですけど、別段特別というわけではなさそうです」
「見た目は普通かもしれませんけど、そもそも遺跡から出てきたのならものすごい貴重ってことになりませんか?」
情報が錯綜して、というか突拍子もなさすぎて全員がパニックになっている。
時系列の整理をしないといつまでも答えが出てこない。
というか答えを出すためのピースすら正しいかわからない状況だ。
「なんやようわからんくなってきた」
「同感だ」
当の本人は特に気にする様子もなくメインモニターから見える惑星を楽しそうに見つめている。
自分の出自よりも自分がいた場所へ戻れる方が彼女的には嬉しいのだろう。
しっかし、遺跡ってのは知れば知るほどよくわからん場所だなぁ。
「なんにせよ、やるべきことは変わりません。オークションへの出席義務も果たしましたので、後はコロニー運営が連絡を入れてくるまで黙々と仕事をするだけです」
「結局仕事はするのか」
「むしろマスターがぐーたらしている方が想像できないのですが。その時までゴロゴロできますか?」
「・・・無理だな」
「ぶっちゃけそのあたりが気になってたのよね、イブさん達はどうなの?コイツみたいに働きたい?それともゆっくりしたい?」
突然テネスに意見を求められて顔を見合わせるイブさん達。
アリスとテネスは別として彼女達には彼女達のペースがある、今までは俺に合わせてもらっていたけれどここで意思疎通を図っておく方がいいかもしれない。
「私はどちらでも大丈夫です。お役に立てるなら嬉しいですし、それに戦闘が無ければゆっくりさせてもらっていますので」
「ウチもお姉様と一緒や。荷物の搬入搬出が終われば自由にさせてもろてるし、それに働けば働くほどお金が増えるやろ?正直こんなにもろてええのか不安になるけど、でも増えるのは大歓迎や」
「私もどちらかと言えば船を動かしている方がいいかもしれません。一人でいると余計な事を考えてしまうので」
「私が言うのもなんだけど、皆も大概ワーカホリックよね」
「マスターの元にはマスターに似た考えの人が集まってくるものです。ということで、満場一致でお仕事をすることが決まったわけですが・・・次は何をしましょうか」
いや、自分で話を振っておいてそれを聞くのかよ。
兎にも角にも運営にお声をかけてもらえなければ意味がないので、ノクティルカをアピールするための仕事をすることは決定。
食料も適度にしいれてこないといけないのと、やはりアルコールの需要があるのでそっちを仕入れて売りさばくことになった。
前に傭兵ギルドに行った時面白い飲み方をしている傭兵がいたので、彼の真似をして一つ売り込んでみたいものがある。
「炭酸水、ですか」
「あぁ、前に傭兵ギルドで見たんだがウイスキー系の酒を炭酸で割るのが美味しいらしい。それもただの炭酸ではなく、ボトルに入ったやつを自分で調整するんだってさ」
「そんなもの合成機にかければいくらでも出て来るじゃない」
「わかってないな、合成機で出すんじゃなく専用のボトルに入ったもので入れるから美味しいんじゃないか」
「人間の感覚ってさっぱりわからないわ。同じものなのに味が変わるの?」
「案外そういう物ですよ。同じものでも、誰と食べたのか、どこで食べたのかによっても味が違いますから」
「そやね、一人で食べるご飯よりもお姉様と食べるご飯の方が何倍も美味しく感じるもんや」
「データでしか把握できない私達には一生わからない感覚ですが・・・そこが人間とヒューマノイドの根本的な違いなのでしょう」
アリス達からすれば味はあくまでもデータ上の物、同じものを出したらそりゃ同じ結果になるだろう。
だが人間はそこに付加価値と言うか、何か別の感覚を加える事であたかも味が変わったように感じることが出来る。
というわけで食料買い付けのついでに天然の炭酸水を仕入れることが出来るコロニーへと向かう事にした。
何をもって天然と言うかは難しい所だが・・・まぁ行けばわかるだろう。
「そもそも炭酸水って炭酸ガスが入った水よね?」
「そうですね、エールなどと同じくシュワシュワと発泡する水です」
「美味しいの?」
「んー、美味い不味いで言えば難しいが・・・。まぁピュアウォーターを飲むよりかは美味い」
「え!ピュアウォーターより?」
「再生水が美味くないのはまぁ当然として、ピュアウォーターっていい意味でも悪い意味でも味が無いんだよ。ただ飲んでいるだけ、その点炭酸水は何かしらの刺激を感じるからどっちかっていうと美味しく感じるんだよなぁ」
「ますますわからないわ」
さっきと同じくこれも人とヒューマノイドの感覚の違いという奴だろう。
刺激は刺激、味は味。
その辺を二人に理解しろと言うのは酷な話だ。
「よし、到着っと」
「何の変哲もない中継コロニーだけど、こんなところにあるの?」
「アリスが調べた限りではある、だよな?」
「はい。先方にはアポを取っていますので・・・っと、来られたようですね」
今時珍しい四輪の駆動車がハンガーの中を走って向かってくる。
エアカーじゃない奴なんてまだ現役で動いているのか。
「ほっほっほ、これまた大きな船じゃなぁ」
「初めましてスパーク様、わたくしはアリス。キャプテントウマ付きのヒューマノイドで炭酸水を買付けに参りました」
「話は聞いておるよ。すぐに飲みたいとのことじゃったからいくつか持ってきたが・・・ここで構わんか?」
車から降りてきたのは一人の老人。
腰は曲がり、小刻みに手が震えているのは酒のせいなのかそれとも年のせいなのかはなんとも言えないけれど、なんにせよ癖のありそうな人だ。
「問題ありません。マスター、人数分のカップを、それと何か瓶をお持ちください」
「カップと瓶だな、了解」
「私が行きますよ」
「アリス直々のご指名だからな、大丈夫だ」
ローラさんが気を利かせて取りに行こうとしてくれたけど、別にそのぐらいは俺でもできる。
カップは台所から各個人用の奴を、瓶は自室から観賞用に置いておいた奴を何本か持参する。
老人の車にはタンクが積まれており、そいつに蛇口らしきものが突き刺さっていた。
蛇口をひねるとシュワシュワと音を立てながら炭酸水がカップに注がれていく。
「まずはカップで飲んでみてください」
「ん・・・これは、結構きつめだな」
「でもシュワシュワとはじけてのど越しがいいですね」
「美味しいです!」
「ほっほっほ、そんなに褒めても値段はまからんぞ」
「それでは次に瓶に入れた方をお願いします」
「ん?これは!」
「もっと美味しくなってる!?」
最初にカップで飲んだ方は、まぁいつもの炭酸水。
だが、瓶詰めしたほうに直接口をつけて飲むと同じ場所から出てきたはずなのに明らかに味が違っている。
炭酸の強さもそうだし、どことなくすっきり感と言うかそれこそレモンのような酸味を感じた。
「どうなっているんでしょう」
「これが先程マスター達が仰っていた『何で飲むか』というやつなんでしょう。正直私達にはわかりませんが、目の前にすると納得せざるを得ません」
「こんなにうまい炭酸水があるのか・・・で、ぶっちゃけ何が天然なんだ?」
確かに美味い、だがそれを売るにせよ何をもって天然とするのかが気になるところ。
俺の問いかけに老人はニヤリとした笑みを浮かべた。




