231.コロニー内を散策して
申し訳なさそうな顔をしながらも、キラキラと目を輝かせながらこちらを見上げる少女。
なるほど、この子が管制の人が言っていた無視したほうがいいというやつか。
他の女性陣には全く目もくれず一直線にこちらに向かってくる辺り人を見る目はありそうだが、郷に入らば郷に従えという事でまずはアドバイスに従っておこう。
「悪いがそういうのは間に合ってる。みんな、行くぞ」
「はい!」
とりあえずここは無視一択。
正直興味がある案件ではあるけれどまずは目的を達成しなければ。
てっきりしつこく追い下がってくるのかと思いきや、そこでぺこりと頭を下げるだけで追いかけてくる様子はなし。
やれやれ、なんとかなったか。
「よく我慢しましたね、マスター」
「一応助言は聞いておこうと思っただけだ。開口一番遺跡に興味があるかだって?怪しすぎるだろ」
「でも物乞いには見えませんでしたね」
「服も綺麗でしたし本当に興味があるかを聞きたかっただけでしょうか」
「仮にそうだとしても今話を聞くタイミングじゃない」
「仰る通りです。まずは目的を達し、それでも彼女に興味があるのなら話を聞けばいいだけです」
「一応こっちでも調べておくから安心しなさい」
アリスとテネスにかかれば彼女の出生まであっという間に調べてしまうだろう。
そこで何か怪しい物が見つかれば報告してもらえるはず、ということでとりあえず今はコロニーを満喫しようじゃないか。
「「「おぉぉぉ~~~」」」
「最高の反応ありがとうございます。左に見えるのが試飲所、このコロニーで飲めるすべてのお酒が集まっています。そして右が販売所、気に入ったものをすぐ持ち帰れるようになっています。メインストリートでありコロニーのすべてが集まっていると言っても過言ではありません」
「じゃあわざわざ飲みに行く必要ないんじゃないか?」
「わかっていませんね、マスター」
チッチッチと顔の前で指を振るアリス、非常にイラっとするがここは鋼の意志で耐えるところだ、きっとすごい返答があるに違いない。
「現場で飲むから美味しいんです」
「いや、飲めないだろ!」
「そういう統計が出ているんです。数字は正義ですよマスター」
「それを否定するつもりはないが、要は現場に来た方がその場の雰囲気でたくさん買ってくれるからだろ?」
「そういう現実的な話ばかりの男は嫌われますよ」
「うるせぇ、余計なお世話だ」
なんで正しいことを言って怒られなきゃならないんだ。
基本的に体験型の商売ってのは、その場の雰囲気で売上が一気に変わるから現地に足を運んでほしいもんなんだよ。
言い換えれば現地に行けば必要以上に買ってしまうという事、それをわかってわざわざ現地に行くなんて・・・まぁ、行くんだけどさぁ。
現地で飲む酒が上手いかはともかく、折角特別な場所に来ているのに何もしないなんてもったいない。
そんなわけでそれから丸二日、飲んで、飲んで、飲みまくって、酔いが取れなくて医療用ポッドで無理やりアルコールを抜きながらリング内の各酒造メーカーを飲み歩いた。
二日前の発言を訂正する。
現地で飲む酒が美味いからこそたくさん買ってしまうものだ。
そのせいで予定よりも大量にお酒を買い込んでしまっているわけだが、幸いソルアレスのカーゴには空きがあるのでそっちで保管する分には問題ないだろう。
ノクティルカはあくまで商売用、プライベートな物は別にしておかないと誤って売ってしまう事故が起きてしまう。
こんなにも美味しいお酒を売るなんてあってはならないことだ。
「いやー、今日も買った買った」
「素晴らしい買いっぷりでしたね、マスター」
「いったい何年かかって飲むんだって話だよ。買いすぎだろ」
「ですがここを離れればもう二度と買えませんから」
「そうなんだよなぁ。とはいえ体は一つ、わざわざ医療用ポッドに入ってまで酒を飲むつもりはないけれど、流石にちょっとやりすぎたと反省している」
最初はソルアレスのハンガーがあるからとか思っていたけど、気づけばそれもパンパンだ。
幸いまだあふれるところまでは来ていないけど、全員で好きな物を買いまくっていたらそりゃそうなるだろう。
イブさんはひたすら試飲していたのに一切酔わないし、ローラさんなんて例の香茶メーカーの所で棚ごと買いあさってたし。
まさかあんな買い方をするとは思わなかったが、あの安さであの味ならそうなるよなぁ。
ちなみにミニマさんは一応セーブしていたのか大人しく飲んではどうしても買いたいものだけ買っていた感じ。
金は出すって言ったんだが、流石にきて間もないのでそういうのには遠慮するそうだ。
まぁそれもそうか。
「明日はどうされますか?」
「とりあえずと行くべきメーカーはすべて回ったし、残りはノクティルカに搬入する酒を選ぶだけだろ?」
「こちらが買い付け候補の銘柄になります。左からメーカー、卸値、向こうでの推定販売価格と想定需要になります」
「こう見ると結構ムラがあるんだな」
「人気がある銘柄は総じて安いですが安定して販売が出来るでしょう。代わりに珍しいメーカーの場合は単価は取れますが数が売れません。もちろん何も考えずに最多需要のメーカーを仕入れるのが確実ですが、どうしますか?」
お遊びは今日まで、明日以降は自分達の収入に関わる仕入れを行わなければならないらしい。
うーむ、出来ればこういうのはアルコールが抜けてからにして欲しかったんだが・・・。
とりあえず手元にあった水を一気に流し込んで出来る限り脳内を綺麗にする。
「アリスの販売予測は?」
「こちらに」
「画面に出してくれ。それと、さっきの買い付け候補も一緒に頼む」
ホテルにはメインモニターがないので壁をプロジェクターにして中身を確認する。
なるほど、堅実だけど所々高く売れてるのを仕入れている感じか。
「三番の銘柄を増やした理由は?」
「ここ数日の販売数の動きが顕著でしたので。ホロCMで新しく起用された女優が可愛いとのことで人気なんだとか」
「そういうブームは大事だよな、採用。じゃあ七番は?」
「毎年この時期になると何故か売れているようですのでひとまず候補に入れました」
「理由は?」
「わかりません」
アリスでもわからないことがあるのかと思ってしまうが、でもまぁそれだけはっきり言われるとじゃあ仕方ないよなってなってしまう。
基本的にはアリスの作成した一覧を参考にしながら、あいまいな奴を俺の独断と偏見で変えていく。
もちろんアドバイスは貰うけれども、今後は俺もこういった仕入れの部分も見ていかないとなぁ。
一応キャプテンだし、何から何までアリスに任せっぱなしというわけも行かないわけで。
「ではこちらの銘柄で仕入れをかけます。しかし意外でした、まさかマスターがこんなにも数字にお強いとは」
「どういう認識だよ」
「いえ、今までは仕入れを全部任されていましたし、興味がない、もしくは数字に弱いとばかり思っていましたから」
「昔からこういうのは嫌いじゃないんだよ。貧乏だったからな、空想で物を動かすぐらいはするさ」
「それが最後の銘柄ですか」
「あの酒は美味い、売れてないのがわからないぐらいに美味い。だから俺が流行らせる」
「それに関しては数字上何とも申し上げられませんが、失敗してもたかが知れていますのでご安心ください」
失敗前提で話をされるのはなんだか癪だが、でもそれに賭けたいぐらいの味だ。
俺が昔から飲んでいる安酒の一つ、安酒という割には悪くないと思うんだがそれにとある細工をするともっとうまくなるのを俺は知っている。
だが、こんな最先端の場所でそれを披露したところでもっとうまい酒はいくらでもあるのですぐになかったことにされるだろう。
それならばやる場所は一つ。
酒好きの集まる場所でいかに安く美味い物が飲めるのかを提案すれば流行る、それが今回買い付けした理由だ。
まぁうまくいくかはわからないけど、自分の舌を信じようじゃないか。
というわけで今日の予定は決定。
買い付けが終わればいよいよ目標のセリオス・ステーションだ。




