219.匿名で告発をして
「おかえりなさい、マスター」
「ただいま」
「お疲れ様です。その、大変でしたね」
警備から無事釈放された俺はテネスと共にソルアレスへと帰還、出迎えてくれたローラさんがなんとも同情したような目で見てくる。
これでまた一つよからぬ噂が増えてしまったわけだが、まぁそれで死ぬわけじゃないし今更感はある。
これまでに何度このネタで命を助けられてきたか。
「まぁどういうやり方であれあの場を脱出できたのならそれでよし。俺がどう思われようが命さえあれば問題ない、だろ?」
「そういう事です」
「で、ここまでして奴らから虎の子のレアメタルを強奪したわけだが、向こうの動きは?」
「マスターのおかげで大騒ぎです。へそくりをかき集めて用意したレアメタルですから、いよいよ限界が来たという感じでしょう」
「端末を開けば中身は空っぽ、あの人には申し訳ないが大目玉だろうなぁ」
「義体化した目にカメラを仕込んでいたようですが、そちらには疑似情報を流しておきましたので保存されている情報は全てデタラメ、それをもとに商談を持ち掛けた所で使い物にはなりません」
「相変わらずやることがえぐい」
何をしても偽情報、一体何を信じればいいのだろうか。
俺が星間ネットワークを通じて入手している情報も実はアリス達が流した偽物、なんていう可能性も十分あるわけで。
うーむ、怖い世の中だなぁ。
とりあえず自室に荷物を置いてからコクピットへと戻ると、イブさんが鼻歌を歌いながら掃除をしてくれていた。
「あ!おかえりなさい!」
「レアメタル回収ありがとう。あれ、ミニマさんの姿がないな」
「ノクティルカの整備に行っていますよ、今日は向こうで泊まるそうです」
なるほど、暫定的な雇用とはいえしっかり働いてくれるのはありがたい。
今の所彼女がイブさんと揉めているという話は聞いていないのでおそらくは大丈夫なんだろうけど、それでも地が出てきているという報告も受けているのでここから先は様子見だな。
「ミニマさんとは問題ないか?」
「最初は驚きましたけど、真面目ないい子ですよ。ちょっと気になるところはありますけど、それでも気が利きますし前向きですし。それにメンテナンスのお仕事が好きなんだなぁっていうのが伝わってきます」
「もし気になることがあったらまた教えてくれ」
「わかりました!」
とりあえずイブさん的には問題なさそうなのでもうしばらくは様子を見ていくとしよう。
正直ノクティルカのメンテナンスが想定よりも大変なのでこのまま雇う事も考えているのだが、その為にも良好な関係を築けることが重要になってくる。
採用の方針で動いていても彼女の出方次第ではそれを止めなければならない可能性もあるわけで、なんにせよもうしばらくは滞在するのでそれまでの様子見だな。
キャプテンシートに座って用意されていた資料を読んでいるとローザさんが香茶を手に戻ってきた。
それに合わせて打ち合わせを終えたアリスとテネスも合流、久々のフルメンバーで今後について打ち合わせをすることにした。
「で、この後は?」
「向こうがいよいよ限界を迎えた所で本社に匿名で情報を流し社内で裁いてもらいます。本当は我々の手で裁きを与えたかったのですが、下手な事をして恨まれても困りますので」
「確かにな、それなりに汚いことをしてきた相手だし下手な事はしないほうがいいだろう」
「黒幕は分かったんですよね?」
「こちらに関しては中々苦労しましたが、なんとか」
アリスがそこまで苦戦するなんて驚きだが、例の光学迷彩の件もあるし中々のやり手なんだろう。
実際自分が出てくることはほとんどなく汚れ仕事は全て下っ端にやらせる手の込みよう、果たして何者だったんだろうか。
「誰だったんですか?」
「オルビタル・フロンティア・インダストリーの第三営業部部長、名前をオークというそうです。古代の文献に出てくる卑しい魔物、その名にふさわしい悪事を働いてきたようですね」
「ほほぅ、具体的には?」
「拉致、監禁、恐喝、詐欺、教唆、窃盗、強盗、賄賂、殺人未遂、他にも細々とありますがこんな感じです。後はミニマさんのような社員への一方的な解雇も当てはまります」
「ひどい、よくそれだけのことが出来ますね」
露骨に嫌そうな顔をするイブさん、ローラさんはなんとなく察していたのか静かに頷いている。
「やって当たり前、やられる方が悪いそんな考えで生きてるんでしょ。自分はそんな失敗しないからってたかをくくった結果がこれよ。まさか自分が食われるとは思ってなかったんでしょうね」
「もしかすると今でもそう思っているかもしれませんよ。現に逃げるそぶりは見せていませんし、何としてでもこのどん底から這い上がってやるという気概は認めますが、手を出した相手が間違いでしたね」
「それに関しては同情するが、結局は身から出た錆だからなぁ」
「悪いことをしたら罰せられる、当然のことです」
「ローラ様の言う通りです。なんにせよ集められるだけの情報は集めました、後は粛々と手続きを行うだけです。とはいえ、たった1000万ぽっちの賠償金で許すつもりはありませんので」
そう言ってニヤリと笑うアリス、マジで手を出した相手が悪かったな。
同情するのはそのしりぬぐいをさせられるオルビタル・フロンティア・インダストリーの本社だが、まぁそんな社員を雇っていたという事で諦めてもらうとしよう。
その日の夕方にオルビタル・フロンティア・インダストリー全社員へ向けて匿名の人物から例の男についての情報がリークされ、社内はスペースマウスが逃げ回ったかのような大騒ぎになったそうだ。
即座に緊急の役員会が招集され、悪事が明るみになった男はつるし上げに合いそれはもう凄惨な状態だったとか。
更に今回は全社員に向けて情報がリークされたことにより今までそれを黙認していた役員にも責任はあると社員が騒ぎ出し・・・まぁ、それはそれはすごいことになってしまったんだとさ。
まる。
そして次の日。
一通のメッセージがソルアレスの公式アカウントに送られて来た。
「マスター」
「今見てる。事情が事情だけにある程度予測はしていたが・・・いくらなんでも早すぎないか?」
「やってきたことを考えると当然かと」
「しかも賠償されるのは俺達だけ、公式には例の男が不正を行っていたから退職したっていう話だけだ。他の人まで手が回らないっていうのは分かるが、なんだかなぁ」
「幸い人死には出ていませんから。それに終わった話を蒸し返しても会社としてはマイナスですし、そもそもあの男に関わったような会社は表立って文句を言えないようなところですから。その点マスターは本社への訪問時に一方的に誘拐されたという最低最悪の状態でしたので、結果として賠償が認められたというわけです」
「なるほどなぁ。それなら一緒にミニマさんの面倒も見てくれたらいいのに」
「んー、それは難しいかと」
「なんで・・・いや、理解した」
彼女の場合は一方的に、ではなく素行の問題で解雇されているので戻ったところで同じような目に合うのは確実。
それならばここで働いてもらうほうがこちらとしても都合はいいので何も言わないのが得策だろう。
もちろん彼女が戻りたいというのならば止めはしないが、まぁ本人次第だな。
「先方はいつでもいいとのことですが、どうしますか?」
「エンジンは暖気されている時に動かすに限る、冷める前にさっさと終わらせてしまおう」
「かしこまりました」
さて、むこうはどんな詫びを入れてくれるのか楽しみだ。




