187.思わぬ姿を目撃して
無事にコロニーに到着した日は流石に疲れていたので大人しく船で休んでいたが、翌日には全員復帰したので引き続きルスク・ヴェガスを楽しむことにした。
コロニー内は豪華客船の乗客で大いににぎわっており、その中に宇宙軍の軍人らしき人も交じっている。
一応私服ではあるようだけど、姿勢であるとか目つきであるとかその辺が明らかに一般人とは違う。
でもまぁ彼らにとっても今は非番、それにここでは身分は関係ないというルールなので気にせず羽を伸ばせるのだろう。
「さて、今日はどうする?」
「前のカジノに行く?」
「前のって、ミラージュか?」
「一応貸しもあるし、折角の軍資金を増やすのにはちょうどいいんじゃない?」
「確かに最初から上の部屋には案内していただけるとは思いますが、前以上に厳しい目で見られないですか?」
「イブ様の指摘はもっともです。ですが折角増えた軍資金を倍にするのであればあそこが一番手っ取り早いでしょう」
ルスク・ヴェガス内のカジノはある程度まわってしまったので、行くとしたらこの前のミラージュかもしくはまだ行っていない一番店という事になる。
因みに増えた軍資金というのはこの間倒した宙賊の懸賞金で、総額はまさかの2200万ヴェイル。
一隻一隻の単価が高い上に、かなりの数を撃墜したこともあり想像以上に懸賞金が膨らんだ。
僅か数時間でこの儲け、そりゃ命を懸けて戦った結果ではあるけれどまともに働くのが馬鹿らしくなってくるよなぁ。
しかもまだまだ残っているとなれば俄然やる気も沸いてくるというもの、とはいえ例のジャミングでかなりのダメージをおっているはずだからしばらくは再起不能だろう。
「で、どうする?」
「私はどこでも大丈夫です」
「私も、皆さんについていきます」
「だって、どうする?また勝負する?」
「いいですね、今度は誰と一緒がいいですかマスター」
「俺に聞くな・・・ん?」
前はアリスが付いたので今度はまたテネス・・・と思っていると、少し離れた所を見慣れた人物が歩いて行った。
どうやら人が多くてこちらには気づかなかった様子、全員の顔を見回すとどうやらみんな同じ考えのようだ。
予定変更、適度に距離を取りながらその人物を追いかけていくと思わぬ場所へと入っていく。
「まさかあそこに入るなんてね」
「あの人の事ですから何か考えがあっての事でしょう」
「どうだろうな、単なる思い付きかもしれないぞ」
「どうします、中まで追いかけます?」
「ここまで来たんですから行っちゃいましょうよ」
まったく、うちのクルーはほんと面白い方を選びたがるよなぁ。
そんなわけでやって来たのはルスク・ヴェガスナンバー2コロニー『ミラージュ』、たくさんあるカジノ中でわざわざここを選ぶあたり流石というかなんというか。
流石に現地で追跡し続けるのは難しいので、偶然を装い話しかけることにした。
「まさか中佐殿とこんなところで会うとはな」
「あら、皆さんお揃いで。今日はオフですから私がどこにいても別に問題ありませんよね?それに私は中佐ではありません、ただのナディアです」
「おっと、そりゃ失礼。もちろん遊びに来たんだよな?」
「そのつもりだけど、貴方達がいるってことは悪いカジノではなさそうね」
突然の登場にも拘らずそこまで驚かなかったナディア中佐、もしかするとここに来るのがわかっていたのか?なんて邪推してしまうが、結構自由な人なので本当に偶然なんだろう。
「あの、どうしてここにしたんですか?」
「そうね、一番のお店に行くほど遊びたいわけじゃないし下の方に行くとカモにされそうだからかしら。そしたら貴方達がいたでしょ?つまりここは安全ってことになるわね。逆に聞くけどあなた方はよく来るの?」
「よく、というわけではないが色々あってVIP席で遊ばせてもらってる」
「色々ね、こういう所にはヒューマノイドは入れないはずだけど?」
「もちろん、マスターが入りましたら私達は別行動です。今回は色々と消耗しましたのでそちらの補充を行う予定です。ではマスター、ナディア様のエスコートをよろしくお願いいたします」
何かを感づかれる前にアリスとテネスはくるりと反転、もと来た道を戻ってしまった。
まぁ、例によって例の如く上を飛び回るドローンとイブさんに乗る人形をハッキングしながら参加するわけだけど、ナディア中佐に言うとめんどくさいのでスルーしよう。
「それで、エスコートしてくださるの?」
「お安い御用だ」
わざとらしくこちらに向かって伸ばされた手を下からそっと支え、そのまま手を取ってカジノの方へ。
すると、こちらに気づいた黒服が慌てた様子でかけよってきた。
「これはトウマ様!ようこそお越しくださいました」
「今日は知り合いと一緒に楽しみたいから下で構わないか?」
「もちろんです!すぐに支配人が参りますので、どうぞ中へ!」
「悪いな」
最初はあんなに高圧的だったのに随分と変わったもんだ。
とりあえず中に入り適当にスロットなんかを見ていると、慌てた様子で支配人がやってきた。
「これはトウマ様!よくお越しくださいました、今日はご友人もご一緒だとか」
「あぁ、彼女と一緒に遊ぶつもりだから下で構わないか?」
「何でしたらその方も一緒に上でおもてなしさせていただきますが・・・」
「んー、あの様子だからしばらく好きにさせてやってくれ。そうだ、イブさん達はどうする?」
「では私達は上で遊んできます」
「了解、頑張ってきてくれ」
「お任せください」
あっちにはアリスがついてくれるからよほどのことがない限り負けることは無いだろう。
こっちには引き続きテネスがついてくれるはず、まぁナディア中佐の前で余計な事は出来ないので、適当な感じで遊ばせてもらえればそれでいい。
前回の負けを取り返すべく支配人はイブさん達の方について行ってしまった。
「まさか支配人とあんなに親しいなんて、一体何したんですか?」
「ちょっと大勝ちして上に案内された時にイカサマしてるやつと遭遇してな、そいつを捕まえてからよくしてもらってるんだ」
「ふーん・・・」
「なんだよその反応は」
「別に何も?ほら、そこまで親しいのでしたら色々と案内してもらえませんか?」
「ったく、一人で遊べよ」
「一緒にジャンク屋に行った仲じゃないですか、ほら早く行きましょう」
急に親しげなカニを出してくるあたり、本当に今日はただのナディアで通すつもりなんだろう。
まったくこんなオッサンと遊んで一体何が楽しいのやら。
その後もスロットやルーレット、カードなど様々な物に手を出し子供のようにはしゃぐナディア中佐。
普段硬い感じなだけに意外な一面を見せてもらった一方、ここは変わらないんだなという部分は一つ。
負けない。
いや、マジで何をやっても必ず勝っている。
俺の場合はテネスやアリスの力を借りたけれどもこの人は地でそれをやり、結果を出している。
観察眼がすごいのかそれとも持っている運なのか、なんにせよこの人にギャンブルをやらせると大変なことになるのは間違いないな。
主にカジノ側が。
「また当たった!見てください当たりましたよ!」
「はいはい、そうだな」
「なんですかその反応は、もっと喜んでくださいよ」
「もう十分驚いてるっての」
スロットから軽快な音楽が鳴り響き、払い出し口から大量のコインが排出される。
それを見て少女のようにはしゃぐナディア中佐、ルスク・ヴェガスでは身分は関係ないというけれど誰がこの姿を見て宇宙軍の中佐だと思うだろうか。
どこからどう見ても年相応の女性、いや、それ以下?
他の軍人がいたらさぞ驚くことだろうなぁ。
「ほら、こんなにたくさん!今度はこれを使ってあのマシンで遊びましょ!ほら、行きますよ!」
普段からこんなに親しげな感じだっただろうか。
意外な人物の意外な姿を目の当たりにしながら、しばしカジノ内を連れまわされるのだった。




