177.お互いの利害を一致させて
その宙賊の身長は2mぐらい、その巨体を支える体はもちろん大きく威圧感が半端ない。
俺の太ももぐらいありそうな巨大な腕、そしてその腕に刻まれた複数のタトゥー。
顔にはいくつも傷があり今までに何十人殺してますっていう目で俺を睨んでいる。
さっきの落札を根に持っているんだろうか。
でもそれをしないのがこのオークション、資金力に何がある奴が勝つのは理解しているはずなんだけど・・・。
「悪いが後にしてもらってもいいか?その顔で見られたら出るものも出なくなる」
「おっと、そりゃ悪かった」
「逃げたりしないから少し待ってくれ」
「なら俺も出すもんだしとくか」
少し離れた便器の前に立ったはずなのに、あまりの体のデカさに真横に立っているかのような錯覚を覚える。
そっちの趣味はないけれどついつい気になって見・・・なかったらよかった。
アレは駄目だろ。
あんなのぶち込まれたら普通に死ぬぞ?
セクサロイドなら大丈夫だろうけど・・・いや、これ以上は何も考えまい。
とりあえず出すもんを出してトイレの外へ、しばらく待つとすっきりした顔でその男はやってきた。
「お、ちゃんと待ってたか」
「そういう約束だからな。それで、話ってのは?」
「まぁそう急くなって、早漏は嫌われるぞ」
「トイレまで追いかけてきたやつのセリフか?」
「おっと、確かにそうだ」
この感じからするといきなりあの太い腕でぶん殴られるとか、そういう私怨ではなさそうだ。
流石に野郎が二人と入れれ前でたむろするのもあれなので壁際に移動したのはいいけれど、あまりのデカさに威圧感が半端ない。
過去に何度も客として宙賊と話をしたことはあったが、明らかにそいつらと次元が違う。
「ほぉ、俺を見てビビらないやつは久々だな」
「内心ビビってるから安心してくれ」
「てっきりどこぞのぼっちゃんかと思ったが、どうやらそうでもないらしい」
「ぼっちゃん?」
「アンドロイドを二体、それと女を二人連れてこんな場所に来るのは大抵が貴族のボンボンだろ?」
この顔を見てボンボンというあたりがちょっとアレだが、なるほど世間的にはそういう風にみられているのか。
確かに横にアンドロイドその横に女性を二人連れて男っ気ゼロとなればそういう風に見られてもおかしくはない。
残念ながらそんな身分でもないし、なんなら横のアンドロイドにはいびられている残念なオッサンだけどな。
「生憎とそっちには縁が無くてね、しがない輸送業者さ」
「それならかなり羽振りがいいと見える、あの銃にあそこまで値段を出すとは思わなかった」
「アレはうちの連れがどうしても欲しがったんでね、悪いとは思うがこれもオークションだ」
「なに、それぐらいの分別はある。そりゃ悔しさはあるがそれでどうこういうつもりはない」
「じゃあなんで俺に声をかけたんだ?」
「俺を見てもビビらず堂々と話ができるお前だからこそ、話が分かると今判断した。別に難しい話じゃない、オークションが終わってあの銃が手に入ったら一度見せてくれ。別によこせとは言わない、本物を実際に持ってみたいだけだ。知ってると思うがあれはとあるホロムービーで使われたやつでな、俺は昔からあれが大好きなんだよ」
手に入らなかったんならせめて触るだけでも許してもらえないか、という事なんだろう。
てっきり奪い取るとか倍で買うとかそういう話になると思ったが、見た目の割にやることは紳士らしい。
そういや前職の先輩が言ってたな、本当にやばい宙賊は小者と違って対応が丁寧だって。
権力も力もないからこそ小者はギャーギャー騒ぎ立てるが、それがある奴はそもそも騒ぐ必要が無い上に丁寧に接したほうが話が早く進むことを理解している。
だからそういう客が来たら気をつけろってな。
つまりこの人もそういう事だ。
ここで断ることもできるけれども、下手に抵抗しないほうが無事に話は終わるだろう。
「そういう事なら構わないぞ、ファンの気持ちを無碍にするつもりはない」
「やっぱり話の分かる奴だったか」
「とはいえ俺にも条件がある」
「なんだ、金か?」
「そんな無粋なことを言うつもりはない、なに、単なる交換条件だ」
「・・・言ってみろ」
交換条件、そういっただけなのに急に男の雰囲気が変わった。
まるで心臓をえぐられるような圧力、あまりの雰囲気の違いに思わず生唾を飲み込んでしまったほどだ。
周りの音が聞こえなくなり、次に発することが一つで自分の命が無くなるような感じすらする。
これが本当の宙賊なのか。
「別に大したことじゃないさ、さっき落札してた大開拓時代の本があっただろ?アレを見せてもらいたいだけだ」
「なんだその程度か」
俺の回答に男の表情がまた笑顔に戻る。
それと同時に威圧するような雰囲気もなくなり周囲に音が戻ってきた。
はぁ、マジでビビった。
「何を警戒しているかは知らないが、そうやって威圧するのは勘弁してくれ」
「これが貴族のボンボンならこれだけでビビっちまうもんだが、中々肝が据わってんじゃねぇか。どうだ、輸送業者なんてやめて俺の所こないか?」
「生憎とそっちの仕事には興味が無くてね。むしろ敵対していると言ってもいい」
「だがそれを理解したうえで俺と話をしてるんだろ?」
「ルスク・ヴェガスではそういうルールだからな、金がある奴が強い。」
「いいねぇ、益々気に入った」
大きな声で笑いながらあの巨大な腕で俺の肩をバシバシと叩く。
本人は軽く叩いているつもりかもしれないが、無茶苦茶痛い。
なんなら肩が外れそうになってしまうぐらいだ。
まったく、加減ってものを知らないのかこの人は。
「それで、交換条件は成立したと思っていいのか?」
「あの本はうちの仲間が気に入って落札したやつだが、見るだけなら問題ないんじゃないか?お互い条件は一緒、ならば断わる理由はない」
「ありがたい。可能なら撮影もしたいんだが大丈夫か?」
「それぐらいは問題ないだろ。なんだ、あの時代の物が好きなのか?」
「好きっていうか、最近集めだしたらハマったって感じだな。正直次の二重水晶結晶も狙ってる」
「だとしても譲る理由はない。そっちが勝つか、俺が勝つかそれだけだ」
名前も知らない厳つい宙賊の男と軽くにらみ合い、そして笑いあう。
宙賊は死んで当然の相手という感覚で今まで過ごしてきたけれど、こういう人もいるらしい。
が、それはここだからの話だ。
外に出れば俺達は敵同士、なんなら俺は彼らを倒す傭兵でもある。
向こうもなんとなくそれを理解しているようだけど、それはそれだ。
「・・・なぁ」
「ん?」
「今判断したってことは、話の分からないやつだったらどうするつもりだったんだ?」
「そりゃわかるまでお願いしたさ」
「だよな」
「お前が話の分かる奴でよかったよ。いいやつを殺したくはない」
「そりゃ命拾いした」
一体どういうお願いをするのかは正直考えたくもないが、少なくとも気にってもらえたようなのでその心配はなさそうだ。
「後五分後にオークションを開始します、皆さまお席にお戻りください」
「おっと、良い時間だな。それじゃあまた」
「あぁ、またな」
さて、オークションもいよいよ後半。
目的の物は手に入るんだろうか。




