144.こつこつと依頼をこなして
「え?」
想定していなかった答えに向こうの表情が一気に変わる。
まさか断られるとは思ってなかったんだろう、だがこっちの面々は俺の回答に納得しているようだ。
「別にアリスを調べるってのはどうでもいいんだが、それをもとに金儲けをするっていうのはどうも違うきがする。確かに新しいボディは欲しいけどアリスと引き換えにというのであればお断りさせてもらうう。折角見せてもらって申し訳ないがこの話はなかったことにしてくれ」
「え!?あ、あの、怒らせてしまいましたか?」
まさかの答えにドロシー社長が動揺して泣きそうな顔をしている。
頼むからそんな顔しないでくれよ、まるで悪いことしている気分になるじゃないか。
「マスターは怒っていませんよ。ただ、そういう方法でボディを手に入れたくないんです」
「私にはよく理解できません。少し調査するだけで貴方方は2000万ヴェイルの最新式ボディを手に入れられる。いくら我々アンティークが故障に強いとはいえ機械は機械、この機に調査するのは悪い事ではないと思いますが」
「それはそれ、これはこれだ。俺達は最新機種を見せてもらうという話でここにきている、見せては貰ったがその条件では手に入れたくないと思っただけだ。アリスの身を案じてくれるのは嬉しいが、結果としてその情報をもとにそっちは金儲けするんだろ?それが2000万ぽっちじゃ割に合わないとおもわないか?」
「じゃあいくら積めばよろしいのです?」
「そうだな・・・100億ってところか」
別に冗談で言ってるんじゃない。
アリスにはそれだけの価値があるからこそその値段を提示しただけだ。
アリスの情報をもとにして作られたボディがあるとしよう。
値段は様々だがアンティークの技術を使ったとなればかなりの人気になるだろうし、最上位機種だけにその情報が使われるわけじゃないはずだ。
何百何千という全ての機種にその技術が使われるとして、一台当たり1万ヴェイルの使用料を取るとどうなるか。
年間10万体売れるとして10億、それが10年続けば100億になる。
世界中でここのヒューマノイドが売られているんだ、年間10万体ぐらい売れているだろうしなんならもっと売れている可能性もある。
世界で限られた台数しか現存していないアンティークヒューマノイド、その価値を考えれば100億ぐらいなんてことないと思うけどなぁ。
「100億積めば調査させて頂けると?」
「んーやっぱ1000億で」
「つまりその気はないという事ですね」
「理解してもらって何よりだ。そういう事だから今日はこの辺で失礼させてもらおう、アリス」
「もう向こうに戻られたようですよ」
「おっと、そうみたいだな」
さっきまで自立していたヒューマノイドがその場に崩れ落ち、代わりに机の上に座っていた例の人形が勢いよく立ち上がりそのまま俺の肩によじ登ってきた。
そのまま踵を返して帰ろうかと思ったその時だ、肩に上ってきたアリスから通信が飛んでくる。
「あー、ドロシー社長」
「え、あ、はい!」
「アリスから伝言だ。調査とかを抜きにして話をするのは大歓迎だからまたいつでも船に遊びに来てくれってさ」
「良いの!?」
さっきまでこの世の終わりみたいな顔をしていたのに、目をキラキラとさせてこちらを見てくる。
一体どういう経緯で社長になったのか知らないけど中身はまだまだ子供みたいだなぁ。
「残念ながらあの噂のせいで出歩くことはできないが、そっちが来てくれる分には問題ないだろう。もちろん横の彼が認めてくれるんだったらだけどな」
「私はマスターが望むことをするだけです」
「だってさ。ただし来るときは事前に連絡してくれよ、俺達も仕事してるからいないときもあるしな」
「わかりました!」
「そういう事だからまた。みんな、帰るぞ」
アリスを調査に出したことで彼女がいなくなるわけじゃない、だがそれで大事なものが失われるような気がしたのでどうしても受け入れることができなかった。
ま、金さえ積めば買えるわけだし職人通りのを買うにしてもとりあえ仕事をこなしてもう少し金を稼ぐとしよう。
会社を出た俺達はその足で輸送ギルドと傭兵ギルドへ挨拶に行き、登録を済ませるといくつかの仕事を引き受けてからソルアレスへと帰還した。
「私は仕入れ先を選定しますので少し席を外します」
「了解、そっちは任せた」
「私も作動確認して来ますね」
「私は・・・お茶にしましょうか」
中に入るなりアリスはそのままオペレーターシートへ、イブさんはカーゴへと消えていった。
特にすることのない俺はイブさんの淹れてくれた香茶を待ちながらものすごい速さで情報が流れるメインモニターをぼんやりと眺める。
複数のウィンドウが出ては消え出ては消え、あんなに高速で処理して間違わないんだからヒューマノイドってすごいよなぁ。
「おかえり、ねぇ随分と嬉しそうだけど何かあったの?教えなさいよ」
「そう見えるか?」
「だってアイツがあんな顔してることなかなかないわよ。あれだって普段はやらないミスでしょ?」
「向こうでアンティークに会ったんだ、それが嬉しかったんだろ?」
「それだけじゃないと思うけど。それよりもねえ私のボディ見つかったのよね?」
キャプテンシート横にホログラムが投影され、テネスが矢継ぎ早に問いかけてくる。
表情なんかは俺にはよくわからないが、メインモニターに作業を投影したままっていうのは確かに珍しい。
でもアンティークに会ったからってのもちょっと違うんだよなぁ。
「見つかったのは見つかったが、かなり高かったからこれから不足分を稼がないと。これから忙しくなるぞ」
「あー、だからあんな必死に安い商品を探してるのね。なんだ残念」
「悪いな」
「べ、別に期待なんてしてなかったし。ねぇそれよりもその肩のやつ何?」
「この前ショップで見つけたんだ、可愛いだろ?」
「可愛いっていわれたらまぁ、可愛いけど・・・」
テネスが指さしたのは俺の周りをくるくると回るドローン。
アリス用の人形を買うついでに買ったんだが、思っている以上に使いやすくて重宝する。
飲み物を載せたままついてきてくれるので両手が空くし、通信が入ってもそのままホログラムで投影しながら話すことができる。
充電式の割に消費電力も少なめなので中々いい買い物だったと自負しているんだが、アリスもそうだけどなんで彼女達はそんなに気になるんだ?
「マスター、そこはお前の方が可愛いよと言うところかと」
「どうした、依頼用の商材は見つかったのか?」
「おかげさまでよさげな店を発見しました。それで、テネスは可愛いですか?」
「お前と一緒で可愛いな」
「さすがマスター、よくお分かりで」
突然後ろから声をかけてきたアリスを華麗にスルー・・・しようとしたのだが、わざわざ二回も聞いてくるので無難な感じで返事をしておいた。
ここでテネスを先に言うと絶対にめんどくさいことになるからな、ここは申し訳ないが先輩の顔を立ててもらうしかない。
「ふん、別に可愛いって言ってほしくなんてないんだから」
「じゃあ言わないほうがいいですか?」
「一緒にしないでって言ってるの!」
「そりゃ一緒にはできないだろ。アリスにはアリスの、テネスにはテネスの可愛いところがあるからな」
「と言いますと?」
「んー、アリスはそんな風に見せないつもりでたまに失敗するところが可愛らしい感じで、テネスは頑張り屋なところが可愛いよな。スペックがそもそも違うのにお前に負けまいと必死に努力もしてるし、そういうところがすごいと思うぞ。アリスはそうだな・・・もう少し大人しくして優しくしてくれるともっと可愛く見えるんだが」
「それはできない相談ですが・・・でもありがとうございます」
満足げな顔で頷くとそのままオペレーターシートへと戻っていくアリス。
テネスはというと、うつむいたままフリーズしてしまったようだ。
ホログラムなので向こう側が透けて見えるんだが・・・大丈夫だろうか。
「おーい、テネス?」
「え!?あ!か、可愛いって言ってもらって嬉しかったとかそんなんじゃないから!」
「ん?」
「ほんと、そんなんじゃないから!誤解しないでよね!じゃあね!」
一人で騒いで一人で慌ててホログラムを消してしまった。
うーむ、何かやらかしてしまっただろうか。
とにもかくにも自前でボディを手配することになってしまったので、明日からしっかり働かなければ。
何事も地道にコツコツと。
一発逆転もいいけれど、やっぱり俺にはそれが一番合っている気がする。
さぁ、ここでもしっかり頑張るとするか。




