第38話 正解の記憶
目の前にあるのは三つの扉。
どの扉がどこに繋がっているのか、誰の記憶なのかは分からない。
ただ、扉が三つあるということが初めて起きたこともあり、進むことを躊躇ってしまう。
今はセン・シルヴァの記憶を見なければならない状況だけど、他の記憶を見たい気持ちもある。
「でも、疲れちゃうんだよね」
ひとの記憶を見るというのは、その人が体験したことを追体験する形で行われる。
感覚がある訳では無いが、情報が入りすぎると脳に負荷がかかってしまう。
数秒迷い、左側の扉を開けることにする。
やはり、迷った時には左を選んでしまうのが人間である。
扉を開けて中に入ると、記憶閲覧を発動した時に現れる、記憶の部屋に繋がっていた。
いつもと同じ、本がずらりと本棚にしまわれていて、それぞれに日時が記載されている。
そして最新の本にはこう記されていた。
「990年 10月15日」
昨日の日付だ。
これが意味するのは、この記憶の部屋はセン・シルヴァのものであるということだった。
少し残念な気もするけど、当初の目的はこれだったからいいか。
「うーんと見なきゃ行けない日は確か...あった、これだ」
インジェニスさんから聞いた、ガンザバーテでの出来事は約一か月前だ。
祈霊祭は日本でいうお盆みたいなものだと、本を読んで理解した。日本とはちょっと時期が違うけど。
「よし...見よう」
本の一ページ目を開き、記憶の中に入り込んだ。
〜〜
第二王女だと言うレナリアが魔法を発動してから大体十五分が経過した。
ドルクの時は五分くらいで終わっていたのに、ずいぶんと時間がかかっているようだ。
時間が経つにつれて、騎士団員達の目付きが強くなってるから早く戻ってきてくれ。
「すいません遅くなっちゃいました」
その声とともにレナリアの意識が戻った。
瞬間的に顔見た。するとレナリアもこちらを見ていたようで目が合った。
すぐに目は逸らされ、インジェニスに報告しに行ったが、意味のある微笑みがあった気がする。
「ずいぶん遅かったようですが、何かありましたか」
「ちょっといつの記憶見ればいいか忘れちゃって...ここら辺かなってところを手当り次第見てただけです」
「そうですが無事ならば良かったです。それで、セン・シルヴァはどうでしたか」
部屋に緊張が走る。
いや、緊張してるのは俺だけだな。
「セン・シルヴァが言っていることに嘘はありませんでした。むしろ、彼は元凶となる人物と交戦し、その上勝利しています」
「では、私たちが嘘を吐いたとお考えになられますか?」
「それは見ないとなんとも言えませんが、このお二方は解放して問題ないでしょう」
「承知しました。では、後ほど私の記憶を確認していただきたい。解放するのもその後です」
とりあえずはよかった。ちゃんと俺は無実だったみたいだ。
それにしても、騎士団側が嘘をついたのだろうか。そんなことをする組織には思えないけど。
王女と副団長には信頼関係はあるように見えたし、何か見間違えたのかもしれない。
「お前、記憶でもいじりやがったのか!」
またこいつか。
「いじってないですよ。王女様が見てくれたじゃないですか」
「俺たちははっきり見てんだよ...どうやって誤魔化してるか言え!」
「やめろ。お前はレナリア様が嘘をついていると考えるのか?」
インジェニスの一言が場を支配する。
その圧倒的な圧力に焦げ茶色髪の騎士団員はたじろぐ。
「そういうわけではありませんが...副団長も見たはずです、犯人だと名乗ったセン・シルヴァを」
「ああ。それは否定しないが、後で確認してもらうと言ったはずだ。失礼な言動は慎め」
騎士団員は怖気付きながら「すいません」と言っていた。上下関係は結構厳しめなのかもしれない。
「カルニオス、二人を牢に連れてってやれ」
そう指名されたのは、戦い前に絡んできたあの騎士団員だった。
「はい」
命じられたカルニオスは眉一つ動かさずに、「こちらへ」と先導してくれた。
あの時とは違って、なんだか雰囲気が柔らかい感じがする。気のせいだろうか。
「あの...カルニオスさん?ガンザバーテの時から雰囲気が変わった気がするんですけど」
「そうですね。むしろ今の方が自然体ですよ。あの時は、私の存在を少しでも引っかからせるために演じてましたから」
そうだったのか。てっきり結構性格がアレな人なのかと思っていた。
前を歩いているのと、帽子を被っていることもあり、その顔は伺えないが、なんとなく笑っている気がした。
「あなたには謝罪をしなければいけません」
カルニオスは立ち止まってから振り返ると、そう口にした。
謝罪とはなんのことだろうか。
「私にはあなたが無実だということが分かっていたのに、その意を最後まで通せませんでした…申し訳ない」
「そんなの気にしてませんよ。何があったのか詳しくは知りませんが、疑わしきは罰せよですよ」
「センの言う通りだ。いちいち気にしてたら身も心も廃れていくぞ」
ドルクも冤罪だったし、言葉の重みは十分だ。カルニオスは責任感が人よりも強いのだろう。
騎士団員にいて欲しい人材だ。
「副団長にも言われました、「気にしすぎだ」と。しかし、私も同行していれば良かったのではと思ってしまうのです」
「でも、魔物だって見過ごせなかったんでしょう?」
「そうなのですが…見ず知らずの方達に任せてしまった挙句、功績を団の物にし、冤罪までかけてしまった」
「功績なんて俺は求めてないですよ。ただ仲間を助けに行ったついでだったので」
そう言うとカルニオスは「ありがとうございます」と頭を下げ、再び歩き出した。
冤罪でここまで連れてこられたのは、自由もなく苦だったが、生きていればこんなこともあるだろ。
騎士団だってなんでもできる集団じゃないだろうしな。適材適所ってやつだ。
歩き始めると、ドルクに肩をトントンと叩かれた。
「ここを出たらどうするんだ?」
「そうですね…ドルクさんの仲間に話を聞きたいです」
「俺はどこにいるかわからんぞ」
「なので、また旅に出ますよ。仲間にも心配かけていると思うので」
ガンザバーテを離れてから大体一ヶ月が経っている。
きっと三人には迷惑をかけているだろう。
「ま、しばらくはフラーマにいてもいいんじゃねえか?お仲間さんも向かってきてくれてんだろ」
「それもそうですね」
しばらくはフラーマ王国にいることになりそうだ。




