第2話 火夜の後
翌日、俺は村の修復を手伝いながら恩人として迎え入れられた。
犠牲がいなかったわけではないが、仲間の死には慣れているのだろう。表に悲しみを出すものは少なかった。
消火も早い段階から手をつけていたおかげで目立った被害はなかった。
「此度の加勢に心より感謝する。私は長のログルドだ」
「俺は旅人のセン・シルヴァです。どうぞよろしく」
最初に手厚く迎えてくれたのはロゼリーの父だった。
傷は深そうだったが獣人は回復力も人間よりは上らしい。既にピンピンしている。
「今はあまり良いものは出せぬが、これで我慢してくれ」
そう言うと俺の目の前に料理が運ばれてきた。
見た目は肉っぽいが、何の肉だこれ。
「これはガブルフの肉よ」
運んできたのはロゼリーだ。打撃を喰らわせられたりもしていたが、目立った外傷はなくログルドと比べてもピンピンしている。
「迎えてくれるのは有難いんだけど……村の復興もあるし、料理とかはださなくてもいいよ。気持ちだけで充分だから」
村の所々は焼け、負傷者や死人だって出ているところにそんな待遇をしてもらおうなどとは思わない。
むしろ村が落ち着くまでは、復興を手伝いたいぐらいだ。
「なあセン。次に向かうところは決まっている のか?」
ふとログルドに聞かれた。
行く場所なんて決まってないが、俺には一つだけ目的がある。それを目指して俺は旅をしている。
「決まってないですよ」
「なら、西の方にあるブリセンドに行くといい だろう。そこなら長期滞在もしやすいかな」
「行ったことがあるんですか?」
「……昔にな」
少し間があったのが気になるが予定地も無かったのでブリセンドに行くとしよう。
「そこで1つ頼みがあるんだがいいか?」
「可能なことならいいですよ」
「その旅にロゼリーも一緒に連れて行ってくれないか?」
思わぬ頼みに驚いた。
てっきり、昔あったことを俺の代わりに晴らしてきてくれとでも言われると思っていた。
「はぁ!?お父さん勝手なこと言わないで!」
「お前は外に出て色んなことを学ぶべきだ。な により、センと一緒ならば私も安心できる」
「だとしても行くか行かないかは私が決めるこ とよ!」
気が立った様子でロゼリーは部屋を出ていってしまった。
遠回しに俺と一緒なのが嫌って言われてるみたいで、ちょっと傷つくなあ。
話も一段落つき少し出ていようとしたとき、足を誰かに掴まれた。
足元を見てみると、なんともまあ可愛らしい獣人がくっついているではありませんか。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんの魔法使ってるところかっこよか
ったから僕にも教えて欲しいな」
この子はなんて可愛らしいんだろう。
そんなに可愛い上目遣いされたら好きになっちゃう!
「もちろんいいぞ〜」
「わ〜い やったー!!僕はロペル!お兄ちゃん
は?」
「俺はセンだ。よろしくな」
ロペルと共に部屋を出て森に入る。
森の中にちょうどいい岩があった。あれを的にして練習しよう。
「ロペルはどんな魔法を使うんだ?」
「僕はね、"︎︎︎︎ ︎︎物を縛る ︎︎"︎︎魔法を使うよ」
「じゃあ、あの岩を縛って絞め壊すことはでき
るかい?」
「あんなに硬いものは無理だよ」
今の状態だとまあそうだろうな。
だが、魔法はイメージだ。解釈の仕方で仕様は180度変わる。
「なら、あれがお肉だったらどう?」
「それならできると思う」
俺は岩と同じくらいの大きさをした氷の塊を創り出した。
「氷でもできるか?」
「氷くらいならできると思う」
ロペルは右手を前に出し集中しだした。
────パリィン
その音がなった頃には氷の塊は粉々になっていた。
「すごいなロペル!」
「えへへ、これくらい余裕だよ!」
「今の氷の塊は横にある岩よりも硬かったんだ
ぞ。それを壊せるなら、岩も壊すことが出来るはずだ」
ロペルは静かに頷き、集中を高めていく。
だが岩は壊れず、縛り付けの文様がでているだけだ。
「岩は無理だよ〜」
「いいや、出来るさ。魔法ってのはイメージだ
から、今は難しくても続けていれば出来るよう
になるさ」
「わかった!僕、がんばるよ!」
その後もロペルは挑戦し続けたが、魔力の使いすぎで地面に倒れ込んでしまった。
誰しも魔力には限界がある。しかし、小さい頃にたくさん魔法を使っていれば魔力量は伸びることが分かっている。先人の知恵だ。
今日は引き上げて部屋に戻ることにした。
翌日からもまたロペルとの特訓をした。
少しづつ岩を削りだしてコツを掴みかけている様だった。
想像以上に飲み込みが早くて俺は驚いた。
俺がこの村にいるときまでには進展はないと思っていたから。
数日の間ロペルに魔法を教えていると、ロゼリーに声をかけられた。
「あんた、最近ロペルとなんかやっているそう
ね」
「ああ。魔法を教えているんだよ。ロペルは飲
み込みが早いから才能があると思うよ。ロゼリ ーだって魔法は使ってただろ?」
「そうだけど、まだ完全じゃないわ。本気をだ
したら体が耐えてくれないから」
おいおい、あの威力で本気じゃないとかマジか。本気だしたら世界吹っ飛ぶんじゃないの。
「ロゼリーはどんな魔法を使うんだ?」
「私は︎︎"︎︎︎︎ ︎︎活性化 ︎︎"︎︎よ」
体を活性化させて最大のパフォーマンスを発揮出来るようにするような魔法だろう。
活性化させすぎると体への負担が大きくなるのだという。そればかりは慣れだな。
「使い勝手が難しそうな魔法だな」
「そうでもないわ。私自身以外にも、作物の成 長を促すことだってできるのよ。だから、今の
村には私が必要なの。あなたと旅に出ることな
んてできないわ」
そう言う彼女の顔はどこか悲しそうで、自分の役目を果たすための覚悟が灯った目をしていた。
2週間ほど滞在した後、俺は旅立つことにした。
村も修復がかなり進んで、ロゼリーのおかげで食料もなんとか賄えているそうだ。
見送りには村人総出でしてくれた。
ロペルは涙を堪えながら
「セン、行っちゃうの?」
と言ってくる。
誘拐したいほどかわいいなほんと。
「ずっといるわけにはいかないからな」
「行かないで。寂しいよ」
「また来るから。それまでお利口に待ってろよ」
ロペルの頭を撫でながら言葉をかける。
「センのおかげで村は助かった。ほんとにあり がとう。またいつでも来てくれ。そのときは改めて歓迎しよう」
「こちらこそ数日の間お世話になりました。と ても楽しかった」
ログルドと固い握手を交わす。
いてててて。握力強いなこの人。
「ってかその後ろにある荷物はなんですか?」
「これか?これはなロゼリーの旅物資だ」
「ちょっと待ってなんで用意してるの!?」
「ロゼリーやっぱりお前は旅に行くべきだ。そ して色んなことを学んでこい」
「でも村はまだ完全じゃないよ!」
「お前がいなくても村のことはなんとかなるさ。安心して行ってこい」
しばらく沈黙が続いた。
彼女なりに色々考えているのだろう。
急なことだし仕方あるまい、もうちょっと待ってあげよう。
沈黙の後彼女は静かに荷物を持ちこちらに向かって歩いてきた。
どうやら決断を下したらしい。旅に出ると。
「セン。うちの娘をよろしく頼む」
「任せてください。ではまた今度」
「ああ。またな」
そう言うと村人達は手を振って送り出してくれた。
その間ロゼリーはずっと俯いたまま歩いていた。故郷からの旅立ちは寂しいものだもんな。
そりゃ仕方ない。
姿が見えなくなるまでずっと村人達は手を降ってくれていたと思う。
見えなくなったあと、ロゼリーとの間に気まずい沈黙が流れた。
「ふぅ」という呼吸音の後に彼女は顔を上げて気持ちの整理がついたような顔立ちをしていた。
「暗い気持ちになってて悪かったわ。もう大丈
夫よ」
「そうか。じゃあ改めて自己紹介を。俺はセン・シルヴァ。16歳のただの旅人だ」
「え!?私より一個下なの!?驚いたわ。私はロゼリー。これからよろしく」
「よろしくな」
そうして、ブルセンドを目指してセンとロゼリーの旅が始まった。
会話多めでごめんなさい……
それでも少し興味持っていただけたら幸いです。
ブックマークと評価のほうよろしくお願いします!
こういうストーリーを入れて欲しいなど要望があれば教えてください!!