第13話 岩崖都市ガンザバーテ
ブリセンドを発ってからおよそ1週間。
ガンザバーテへの道を歩き続け、ようやく建物が視界に入るぐらいまで近づいてきた。
建物といっても見えているのは山のような崖だ。ガンザバーテは山の中に造られているのだろうか。
ここまで平野が続いていたから、想像してる都市と違って正直驚いた。
「ガンザバーテって石造りの家が多いのね。それも崖に埋め込まれてたりする家もあるのね」
「ここからよく見えんな……さすが獣人」
「獣人が目いいんじゃなくて、私の目がいいだけよ」
まだ歩いて小一時間はかかるという距離であるのに、建物の材質までも見えてしまうとは。これから偵察とかする時はロゼリーに頼もう。
平野の真ん中辺りを歩いていた時よりもかなり少なくなった魔物を倒しつつ、距離を縮めていく。
決して少ないと言えるような数ではないが、数日前までの道中を越えてきた身としては、苦戦も無く、とても快適になったと思ってしまう。
そうやって過ごしているうちに、気付けばガンザバーテの目前まで歩を進めていた。
「こりゃ重々しさがあるな……」
ロゼリーが言っていたとおり、建物は石で造られているようで、その多くが崖壁から出ている。
そして目の前には、ガンザバーテの入り口と思われるトンネル。人が六人は並んで歩けるほどの幅で高さもそれなりにある。明かりも付けられていて整備はそれなりにそれているようだ。
「なんかここ入るのワクワクしますねっ」
「もしかしたら歩いてる途中で崩落して、生き埋めになるかもな」
「ステラにそんな怖いこと言ってやんなよエウル。案外ステラだけが生き残ってるかもしれないだろ?」
「僕は影に潜れるから僕も生き残るぞ」
そこは「影に潜れるから僕がみんな助けるぞ」ぐらいは言ってもいいと思うんですけどね。仲間意識があるのは俺の方だけなのかな?
言われたステラは「崩落」の意味がよく分からなかったようで、ロゼリーに意味を聞いてギョッとしていた。
都市なだけあって、トンネルの前には門番が二人。あらかじめギルドで作ってもらっておいた身分証を提示して無事入ることが出来た。
「この町に魔物増加の原因があるといいわね」
「あったらとっくに解決してると思うけどな。どっか離れた森とかそういう人気のないところに拠点を構えたいと思うけど」
「同感だな。こんなでかい町に拠点あったらとっくに潰されてる。それともわからないようになんらかの施しがされてる可能性もあるがな」
「それ考え出したらキリないわ。もっと気楽にいこうぜ」
「あなたは気楽すぎるのよ」
エウルの言うように、隠しようはいくらでもある。だが、敢えて人が多い場所で拠点を構えるのは些か不便だと思ってしまう。
薄暗いトンネルの中を歩きながら、ガンザバーテでの原因のある可能性を考えていく。
こんな狭くて明るくもないところで考えていても、思考は行き詰まるだけだし、一旦考えるのはよそう。
「出口が見えてきましたよ!」
ここからガンザバーテに入るのだし、入り口では?とも思ったが、予想以上にステラが目を輝かせていたので心に閉まっておこう。
「おお……これはすげぇな」
トンネルを抜けて都市を見て思わず感嘆が漏れてしまう。
俺達は平野の高さにあった入り口から歩いてきた。外から見た時は、山や崖が見えていたのできっと登った先に住宅だったりの建物が崖壁に沿ってあると思っていた。
しかし、トンネルを抜けていざ見てみれば、ガンザバーテは崖に囲まれた町だったのだ。しかも、半円に押し潰されたかのようにきれいに凹んでいるときた。
「すごい町の造りしてるのね。驚いちゃったわ」
「僕はてっきり山の中に洞穴を掘って生活しているのかと思っていた…」
ロゼリー達も驚いているようで、皆町を見渡しては「おお……」やら「わぁお」などと声を漏らしていた。
「ね!ね!あっちに一緒に行ってみませんかエウル!」
中でも特にステラは好奇心が止まらないようで、エウルの袖を引っ張って歯止めの効かない子供のようになっている。
されるがままにエウルはステラに連れていかれ、後で合流することにして行動を別にすることにした。
「ステラすごい楽しそうだったな」
「こんな大きい町に来たらそりゃ気分も上がるわよ。それにエウルもいることでテンションアゲアゲよ」
ステラはなにかエウルに対して特別な感情を抱いているようだし、それもそうなのかもしれない。
「じゃ俺らもぶらぶら歩きますか」
とりあえずガンザバーテがどういう町なのかを知ることは大切だ。
ガンザバーテは見たところ10段ほどの構造になっていると考えられる。
俺達が入ってきた場所はおそらく8段ほどの所だろう。
「一番下の中心部分に主要な建物があるっぽいし、まずはそこに行きましょうか」
中心と思われる部分にはガンザバーテで最も大きいであろう建物が建っていたため、まずはそちらに向かうことにする。
所々にある階段を使って一段ずつ降りていくが、その一段が長いし広い。
住宅などの建物も密集しているため、入り組んだ構造になっていて迷っていしまいそうだ。
「今どこら辺歩いてるのか分からなくなりそうね……」
「こればっかりは歩き慣れるしか覚える方法は無さそうだな。とりあえず下に行ければいいし、手当り次第で進むか」
俺にはこれしか方法が思いつかん。地形把握とかの魔法持ってる人がいたら、一緒に旅をするのもアリかもしれない。
「それにしてもなんかやけにわいわいしてるわねこの町の人」
「外が魔物だらけになってるのにな」
外は魔物のオンパレードだというのに、中はそんなことどうでもいいかのようにお祭り騒ぎのように賑わっている。
これはこれで外から来た身としては、気分が良くなりそうで悪い気はしないけども。
流石に魔物が流れてくる可能性を考えて無さすぎでは?と思えてしまう。
まあ何かしら大丈夫な理由でもあるのかもしれない。深くは考えないでおこう。
賑やかな人々を横目にしながら、一段、また一段と中心へ近づいていき、一番大きな建物……ではなく、その近くにあったギルドと思わしき所へ入っていく。
「なんでギルドに入るのよ。近くに大きな建物あるじゃない」
「情報集めるならギルドのほうがいいんだよ。一般の人よりも冒険者のほうが情報持ってるからな」
正直なところギルドよりかは大きな建物に入りたかった気持ちもあるが、情報の為ならば仕方あるまい。
自分の気持ちを抑えつつ、ギルドの重厚な扉を開けた。