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2011 デジャブ  作者: 森本 義久
14/17

高円寺 田中剛三

9   高円寺  田中剛三  2005  7月


新緑の季節 ペパーミントグリーンの桜の葉に夜露がきらきらと反射してる。。

 今日は親父さんの病院の日だ 家政婦のすみれさんは 早い朝食にバタバタしていた。。

テラスでゆっくりとコーヒーを飲んでいると 車椅子に乗った親父が入ってきた。

「おはようございます」「おはよう英樹 すみれさん」  「おはようございます剛三さん 先に顔洗ってうがいしてくださいね~~」 と 毎日の決まりきったことを言いながら すみれさんはテキパキとパン コーンスープ サラダと 中庭に面した窓際のテーブルに用意した。。車椅子ごと席についた剛三が新聞を読みながら「英樹が来て もう4年になるんだな~~幾つになった?」

「はい 先月で30になりました」「そうか すまんすまん 誕生日とかここ数年 考えた事が無かったもんで 君の誕生日も忘れていたよ  何かプレゼントしなければな」  「はい  ありがとうございます  でももうプレゼントを貰う年でもないので、、」 「そうか 何か欲しいもの考えておいてくれ」 と剛三さんは気分がよさそうに笑ってる。



剛三にとって 色んな事件があった2001年 剛三の退院と同時に南東京女子医大を退職した俺は そのままこの高円寺南口の氷川神社横の田中剛三の家に住み込んだ。

田中邸は800坪の敷地に平屋の100坪の母屋に日本庭園 離れに2階建てがあり2家族が住めるようになっている。。

その1軒に これまで住んでいた高円寺北口から歩いて10分の 大和町のアパートから 不動産屋から借りた 今では珍しいリアカーで少ない荷物を運んできた。。


田中剛三邸での仕事は 担当の里菜先生の指示の元 毎日の体温検査 血糖値など 水分量などの簡単な事を 毎朝記録するのが主な仕事で  月に1度の南東京女子医大での検査と 年に何度かの検査入院での付き添い 

それ以外の時間は本を読んで過ごしたり たまにお供で銀座に買い物に行ったりと 剛三の私設の秘書のような役目になっている。。

4年間に変わった事は 剛三が田中不動産の社長から引いた事と 江東区の香織さんの持ち物だった38階のマンションの管理を任された事 そして田中不動産の社員がみな 田中剛三の事を親父さんと呼ぶので 自然に俺もそう呼ぶようになったくらいで 親父の肝癌もこの半年は安定して 変わりない静かな日々を送っていた。。






2005年7月 2杯目のコーヒーを入れて朝食の席に着いた俺に 「英樹 少し頼まれてくれないか?」「はい」

「実は あいつがどうも出所したようなんだ」「、、、」「それで どんな生活をしているのか 見てきて欲いんだ」「小森連  ですよね? レナちゃんの事件の?」「うん そうだ」



「オヤッサン 何故?  っていうか 何故小森連の出所の事を知ってるんですか?」

「ああ  言わなかったが 弁護士に頼んでおいたのだ   年月が経てばもしかして忘れられるかも知れない でももしそうじゃない時に その時に考えようと、、  だから一応  出所だけは知らせるようにと」

「辞めたほうがいいと思います   あんな奴のその後なんか知ったって 親父さんが楽しい事なんかありえません。。」    「わかってる  でもな。。」

お車来ました~剛三さ~ん   と すみれさんが呼んでいる。。



ざわざわと喧騒の病院の待合で剛三の検査を待ってる時間も 今朝の話が頭から離れなかった。。

レナちゃんを殺した男 そう これまでも何度自分でも考え そして何度否定してきた事だろう。。殺してやる レナちゃんの敵をとつてやる  許せない  絶対に許せない、、もしもどこかで偶然に見つけたら 俺はきっと殺すだろう  出来ればレナちゃんと同じように 毎日毎日 叩いたり 蹴ったり 食事も与えず やせ細っていくのを見ながら レナちゃんの見た地獄の日々を 同じ日々をそいつに嫌と言うほど知らしめてやると  そして助けて助けてと命乞いするそいつに 本当の絶望を わずか5歳で死んだ レナちゃんが経験した本当の絶望を見せてやる  そいつの首がちぎれるくらい 頭を振って振って振りまくって 脳みそが腐った豆腐のようになるまで、、、

病院独特の患者たちのざわめきの音が蘇ってきて ふと見ると手のひらに血がにじんでいた  知らない間に 握り締めた爪が 皮膚を突き破っていた。。















2005   剛三82歳  ヨハン30歳  小森連32歳(出所)


レナ5才死から4年  



そいつは 新宿駅南口を出て青梅街道を渡り 歌舞伎町を抜けて歌舞伎花道通りを右に曲がって 風林会館横のファミマに入った。。

5分ほど入り口を見張っていると コンビニの袋を提げた小森連が 鼻歌でも歌っているのか リズムをとりながら出てきて 風林会館裏の雑居ビルのエレベータの中に消えた。。

何気なく近づいて エレベーターに書かれている店名を確かめると 5F CLUB AAC 歌舞伎町2丁目25  確かに 弁護士の言うとうり 小森連の新しい勤務先らしい。。


あの日 病院から帰って 正式に剛三に頼まれた  小森連の行動を見張って 日々報告して欲いと    弁護士の持っている私立探偵に頼めばいいじゃないですか? 

というと  考える事があるので わしと英樹だけの秘密にしてほしい  との答えだった。。

なにかおかしい・・・  と想った まさか・・と想ったが親父に聞き返すことも出来ずにしぶしぶ引き受けた。


さっそく小森連の住んでいる荻窪のアパートを見張っていると いわれたとおり午後4時ごろ ボロアパートの2階のドアから これも安っぽいスーツ姿の小森連が出てきた。。

そして中央線に乗って新宿駅で降り この仕事場に着いたところまで尾行して今日は帰ることにした。。


それから数日間 吉田幸一の出勤前に荻窪のアパートに行き そこから尾行して歌舞伎長のクラブに  そして夜中2時~3時頃に歌舞伎町の店を終えた小森連をまた尾行した。

小森は時には友人らしき男達と青梅街道の養老の滝で朝まで飲んだり、ある日には女と待ち合わせて新大久保のホテルに入ったりと まあ32歳の水商売の男の それが普通の暮らしだろうと思えた。


そしてそれを すみれさんの作った朝食を食べながら 毎朝報告するのだが 今ではそれが剛三の唯一の楽しみのようだった。。



そして1週間目 小森連がホストクラブで働いている間 店への入り口のエレベーターが見える 向かいのビルのファーストフードの2階の席で 3杯目のコーヒーを飲んでいると仕事を終えた小森連が出て来た

時間を見るとAM3時 さすがにこの時間になると歌舞伎町も人はまばらだ、、


ゆっくりと席を立って1階の自動ドアから外に出て いつもどうりコマ劇場方向に角を曲がろうとした時 正面のワゴン車が俺の身体ギリギリに来たので思わず立ち止まった

真横に来た時 いきなりサイドドアが開いて 中から手が伸び俺の髪の毛をつかんで車の中に引きずりこまれた、、ワ~~っと思わずドア周りに手を絡めてしがみついたが 車の中からは何人もの男の手が伸びて 俺の腕や腰のベルトをつかんで強引に引きずり込もうとした。

本能的に(拉致されたらやばい、)とあちこちぶつけながら必死に抵抗した時   ドカ~~ンと後ろから車がぶつかってきた   そのはずみで男達の手が外れ歩道に思いっきり投げ出された俺は 道路標識の柱に頭をぶつけ一瞬意識が飛んだ。。


「おい ヨハンしっかりしろ、、乗れ、、」 「、、、」  「いいからはやくしろ」

「、、、ライアン?」  驚いた 目を開けるとあのライアンが覗きこんでいた。。

ライアンにひきずられて後ろの車に乗せられると 「よし 行け」とライアンが命令すると車はガリガリいいながらバックして 猛スピードでUターンして走りだした。。走りながらこの車の中でもあちこち頭をぶつけて頭が馬鹿になりそうだ。。


5分ほど走った時に「もう大丈夫だ おいそこを右に曲がったらゆっくり走れ」「はい」  

「おい ヨハン 大丈夫か?」  「いやダメだ 頭が割れた 脳みそを落としちゃったようだ、、」

「そうか 冗談が言えるようなら大丈夫だな」と笑ってる。。

「ライアン 懐かしいな~ 1杯やりたいところだが その前に俺の頭が何故こんなに痛くなったのか  説明してくれるか?」 あちこち打ち身で痛いが気持ちは落ち着いてきた 「ちょっと待て、、、どこかに入ろう」

ライアンはしばらく考えていたが 運転手の若者に ロイヤルホテル中野に予約を入れるように言った そして 「駐車場で降ろしてくれ この車じゃあマズイから取り替えてまたも戻ってきてくれ」と言った。。








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