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羽切家の非日常  作者: ラウス
羽切那美
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第二十羽

第三章開始

 パチリと、目が覚めた。


 周囲を見渡すが、まだ暗い。


「……うっわ、新章突入していきなりかよ……」


 まあ起きてしまったものはしょうがない、ムクリと起き上がり、携帯で時刻を確認する。


 AM 0:00:06


「……マジ?」


 俺には、俺が早起きした日は何か嫌なことが起きるというある意味未来予知にも近い精度を誇るジンクスがあるのはもうご存じだろうが、このジンクスには実は一つの法則性がある。


 それは早起きすれば早起きするほど程度のでかい嫌なことが起きるのだ。


(日付が変更してから6秒しか経って無い……一体どれだけのことが起きるんだ……)


 考えても仕方が無い、が、出来得る限りの準備はしておこう。


 とりあえずここに居てもしょうがない、一階のリビングに降りて腹ごしらえでもしよう。


 そう思い、部屋を出て階段を降りる。


「……あれ?」

「おや、兄上、こんな時間にどうしたのですか?」


 珈琲を飲んでる妹と遭遇した、そしてそのセリフはこっちのセリフだ。中学生くらいの女の子が夜更かしなんてするんじゃありません。


「んー、いつものアレだよ、ほら、ジンクス」

「ふーん、こんな時間に起きてしまうとはよっぽどの事なんでしょうか。……あ、珈琲いります?」

「貰うよ、あとついでに軽食も頼めるか?」


 妹は便利スイッチを押し、テーブル上に珈琲が入ったカップとサンドイッチが出現した。


 もう慣れたし、別段驚くほどじゃない。


「ただいまっと……あれ? まだ起きてたの? 兄者、姉者」


 玄関のほうから、汗まみれの筋肉野郎が帰って来た。

 トレーニングでもしてきたのだろうか。


「ああ、なんか目が覚めちまってな」

「ふぅん」

「それはいいからシャワー浴びてきなさいよ、勇大」

「ほーい」


 そして暫くして、羽切勇大がバスルームから戻ってきた。


 珈琲も飲み終わったし、腹ごしらえも済んだ。

 何か起きるまで自分の部屋で勉強でもしてよっかなぁ。


 ――と、不意に、電話が鳴った。


「……こんな夜中に、誰でしょうか」


 そう言いながら、羽切朱音は受話器を手に取った。


 しかしこんな時間に電話か……なんか嫌な予感が……。


「え?」


 え。


「は、ははははは母上ぇ!?」

「」

「」


 俺と弟の動作が止まった。完全に止まった。

 このまま心臓も止まってしまえばいいのに、あ、駄目だ、母さん死者蘇生を軽々しく行うんだった。畜生。


「うん……えっと、うん、うん、わかった」


 ピッ、と妹は電話を切った。


「か……母さんは何だって?」

「……今日の昼ごろ、帰ってくるって……」


 よし、逃げよう。

 逃げようったら逃げよう。


 捜さないでくださいっていう書き置き書いて逃げよう。


「距離掌握と時空掌握、瞬間移動に千里眼、そして某青だぬきのピンクいドア持ってる母上からどうやって逃げるっていうんですか……」

「そういえばそうだったよ畜生!」


 くそ! 無駄にチートすぎるんだよあの母親は!


「諦めて歓迎の準備をするしかないのか……?」

「歓迎しないと怒りますもんね……母上」

「……便利スイッチで何とかなんない?」

「なんないですね……便利スイッチはあくまで便利なだけで、物事の解決とか逃避とか、そういうのは無理なんですよ……」


 成程、つまり経過を省略するってことか?

 珈琲を注ぐという行為で例えると、『珈琲を作る』という過程を省略して、『珈琲を作った』という結果だけを残す。


 充分便利だが、今の状況では役に立たないことがわかった。

 何故ならもう母さんが来ることは確定事項であり、『母さんの道程』を省略して『母さんが来た』という結果だけを残すことになってしまう。


 それはもう、本末転倒である。


「あ、そうだ、俺には学校という最大の逃避場所が――」

「明日――いや、もう今日か、今日は土曜日だぜ、兄者」

「ゆとり教育がなんぼのもんじゃい! 真の模範生徒というのは土曜日も学校に行き! 勉学に励むもんじゃないのかね!」


 焦って口調が変になってしまった。


「兄者成績良いから別に土曜日まで学校行くことないよー」

「が、学校行ってないお前らにはわからんかもしれんがな、成績とは一瞬の油断で落ちるものなんだ、俺はなんだかんだで将来それなりに安定したとこで働きたいと思ってるし? 成績には常に気を配らなければいけないのだよ」

「……そんな殺伐としたところだっけ? 学校って……」

「と・に・か・く! 俺は午前10時ごろから深夜まで明日帰ってこないから!」


 アデュー! と、カッコいいポーズを決めて二階に逃避しようと走り出した。


 その時。


 パキッ――と、空間に亀裂が走った。


「昼ごろに行くと言ったな?」


 そこから現れる、銀色の着物を羽織った一人の女性。

 俺は、金縛りにあったかのように、というか、実際に金縛りをかけられながら、人生へお別れの挨拶を心の中で済ました。


「すまんな、ありゃ嘘だった」


 絶対そのセリフ言ってみたかっただけだろ。







 『神に最も近い三仙人』が一人、羽切那岐。

 銀色の着物を羽織い、うねるポニーテールを靡かせる野獣のような鋭い目つきの持ち主、名実ともに世界で最強の人間。

 彼女の存在が、羽切家を世界に轟かせたと言っても、過言では無いだろう。というかそれ以外ありえないだろう。


 そして毎度のことながら、この物語の主人公は俺では無い。


 この第三章を飾る主人公は、何を隠そう。


 【正義の味方】、羽切家の母こと羽切那美、である。


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