第十八羽
鎌の柄が俺の側頭部を強打し、よろめいたところを鎌の刃の部分が俺の首を刈る。
しかし、刃は肉を切り裂けず、ほぼ打撃として俺の身体を襲った。
「ほう」
地面に叩きつけられた俺に容赦ない追撃を続ける【殺害屋】。
俺をフルボッコするその姿はどこか楽しげだ。
「常人では余裕で100回は死んでるだろうに、相当頑丈な身体のようだな」
やはりただの一般人では無いのか、と死ノ原死神は嗤った。
確かに刃が通らない身体を持つ高校生とか明らかに一般人じゃないよなー。
俺、このまま一般人名乗ってていいんだろうか。
でも、羽切家の長男って名乗るのヤダしなー、かといって名前はクソみたいに呼びにくいしなー。
そんなことをおぼろげに考えながら、俺は天井の照明にぶち当たり、ガラスの割れる耳触りな音が響いた。
「が――弱い」
地面に叩きつけられた俺の頭を踏みつけながら、死ノ原死神は言った。
「一般人として最高クラスの身体能力を持ってることは認めよう、しかし、『仙人候補』を基準とすると、その程度、最弱より下だ。唯一耐久力が異常に高いようだが、それを生かす攻撃力も無い……」
正直がっかりだよ、と更に頭を踏む力を強めた。
「しかし――理解できないな」
死ノ原死神は独り言のように呟く。
「全く持って理解できない、母親に『仙人』、妹弟に『愚者』と『仙人候補筆頭』を持ちながら、どうしてこんなやつが生まれたのか究極に理解不能だ」
それは、俺が知りたい。
死ノ原死神は、俺を蹴飛ばして、部屋の隅に追いやった。
痛い。もうちょっと丁寧に扱ってほしいものである。
「まあ――痛いで済むからまだマシか」
呟く。今回の俺の役目はコイツの足止めであり、それ以上でもそれ以下でもない。
行動を全て耐久に振って、時間稼ぎをしてればその内弟があの三人を蹴散らしてこちらに来るだろう。
俺はそれまで耐えればいいのだ。
「さて、男は殺しちゃいけなかったんだったか。じゃあもういいか、勇大のほうの加勢に……」
――おっと、それはさせちゃいけないんだったか。
痛む身体を言い聞かせ、口を開く。
「……ま……て……」
「……もうお前に用は無い、殺さないだけ有難く――」
「いや……死ノ原死神――お前に一言言ってやりたいことがあってね……」
「……?」
「レインコート、眼鏡、大鎌とか……ファッションセンス無いな」
次の瞬間、鎌の柄が俺の鳩尾を強打していた。
「――――っが!」
呼吸が一瞬止まり、そしてまた壁に叩きつけられ、さらに呼吸が困難になる。
……鳩尾は反則だろ。
何にせよ挑発成功である。
まさか成功すると思ってなかったけどな!
「――殺す」
「げほ……おいおい、殺さないんじゃなかったかよ」
「うっかり殺してしまったことにすればいい――兎に角、お前だけは絶対に許さない」
どんだけ怒ってんだよ……なら最初からレインコートとか着てくんなよ……。
「…………」
「どうした? 言っとくが今更悔いても無駄だぞ?」
「……鎌だったら黒いコートのほうがよかったんじゃないか?」
「――黙れ劣等種が」
さらに叩きつけられ、ついに耐えられなくなったのか、壁が壊れた。
壁の向こうは隣の部屋だった。
使用者は居ないようだ、助かった。
しかし羽切勇大まだかなー、ちょい苦戦してんのかねえ……。
「あ」
そこで、死ノ原死神は何かを思いついたように声を漏らした。
「あー、成程」
「……どうした?」
「いやさぁ、思い出した、そしたら納得したよ、アンタのその弱さ」
……?
何が言いたい?
「そういえば父親が“あんなの”だったな」
――――。
「羽切那岐、だったか? いやぁ、運が悪かったね、きっとアンタはあのカスみたいな人間の血を濃く引き継いじゃったんだね」
―――――――――。
「あーあー、考えられない。俺なら自殺してるね、とてもじゃないけど耐えられない。何で君の母親はあんなカスに好意を持ったのか理解に苦し」「黙れ」
――――――――――――――――。
「……黙れ? もしかしてあんなやつのこと庇うの? うっわ信じらんねー」
「黙れと言ってる」
―――――殺―――――せ――――――せ―――――――――――――。
「はん、何回でも言ってやる、いいか? お前の父親は究極にカ――」
「もういい、殺すわ、お前」
殺す。
「は? 雑魚のくせに粋がらないほうがいいよ、今さっきまでフルボッコにされてた相手を殺すとか不可能――」
「よっこいしょ」
よっこいしょ、と俺は懐からとある一つの重火器を取りだした。
小型ミサイル発射装置みたいな形状をしていて、その半円型の筒の奥に一発の弾丸が収められてる武器。
小型核ミサイル、通称ヌカランチャー。
「大っ嫌いな妹からおススメされた武器なんざ使いたくないけど……父さんを馬鹿にされちゃ、しょうがねえ」
あ、ちなみに俺は魔改造の際、爆弾への耐性と放射能への耐性を主に強化されたから心配要らないよ。
放射能除去装置も持ってるしね。
「……なんだ? バズーカ? そんなのが効くとでも――」
「BAMG」
躊躇わず、引き金を引いた。
子気味の良い音を発しながら、弾丸は、真っ直ぐに飛んでいき、至近距離で撃っただけあって、速攻で敵に当たった。
鎌を盾にしたようだが、そんなもの関係なしに、着弾した瞬間、部屋全体を圧倒的爆炎が、熱風が、放射能が蹂躙し、淘汰し、あらゆるものを根こそぎ溶かして行った。
奈良の街に、小さなキノコ雲が一つ、立ち昇った。
*****
「……うっわ」
ドロドロに溶けたホテルの一室、俺は一人ぼやいた。
無傷――である。流石は妹、なんという技術力。
ホテルは無残な姿に変貌していた。
俺の居た階から上の階は全て吹き飛んでいるし、壁という壁が無くなって溶けた鉄骨があちこちから露出している。
やりすぎたか、と思ったが、母さんがなんとかするだろと開き直り、とりあえず立ち上がる。
ふと、足元を見降ろすと、灰になった元生物があった。
死ノ原死神だったであろうその物体を蹴り、撒き散らす。
父さんを馬鹿にするからこうなるのだ、当然の報いである。
「さてと、放射能除去装置(妹作)を置いといてと……」
どうみても缶コーヒーにしか見えない缶のブルタブを開けると、青色の煙が噴き出した。
この煙が放射能を除去するのだろうか、よくわからんが、妹の造ったものだ、信用していいだろう。
「おーい! 兄者ー!」
声がしたのでそちらを向くと、羽切勇大がこっちに向かってくるところだった。
アイツが来たということは、もう全て終わったのだろう。
どうなったかは別に知りたくもないし教えてもらわなかった。
兎も角、やっと悶着が終わり、日常に、修学旅行に戻れると考えると、ただただ安堵を浮かべるのであった。
ちなみに羽切勇大から報酬としてもらったフィギュアはパチモンだった、畜生。




