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キラキラ拒否反応! 〜真面目すぎアイドルと陰キャオタクの秘密の共有〜  作者: 鎧塚 玲


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第10話 緊急秘密会議!泥沼の身代わり出頭宣言

「……ねぇ。ここ、本当にトップアイドルの部屋?」


健人さんの部屋に運び込まれたヒナは、死体のような目で室内を見渡していた。


そこにあるのは、ストイックに並んだ腹筋ローラー。机に鎮座する『漢検一級・完全攻略本』。そしてキッチンから漂う、サバの味噌煮の芳醇な香り。


「嘘だろ……。俺、あんたのあの『獲物を狙う獣のような色気』に憧れて……。自分もあんな風に、可愛さを脱ぎ捨ててかっこよくなれるかもって、期待してたのに……」


「ヒナ、何を言っているんだ。ジーク様(推し)の背中を見れば、自ずと道は開ける。まずはこの書き取りから始めようか」


「いらねーよ!! 絶望したわ! どエロタイガーの中身が『四字熟語マニアの健康オタク』だったなんて、全キティ(ファン)が泣くぞ!!」


ヒナが頭を抱えて叫んだその時。

リビングに、死の宣告にも等しい電子音が響き渡った。


【着信:聖母(スカイ)


「ヒィッ……!!」


三人の間に、氷点下の緊張が走る。


「……は、はい、スカイさん。……ええ、そうですね。ヒナの門限? いえ、心当たりは……」


健人さんの声が、かつてないほど裏返っている。


電話越しでもわかる、スカイさんの「慈愛(という名の圧)」に当てられ、健人さんの指がガタガタと震え出した。


「ひより! ダメだ、このままじゃポテチの擬装工作から半グレの件まで、全部懺悔してしまいそうだ……!」


「しっかりして! 半グレとの繋がりがバレたら、あなたのキャリアも、スカイさんの弟さんの学費も全部終わるの!!」


私が必死に健人の肩を揺さぶっていると、健人が何かに取り憑かれたように顔を上げた。その瞳には、ジーク様が捨て身の特攻を決意した時のような、悲壮な決意が宿っている。


「……分かりました。こうなったら、僕が……いや、『レオン』が身代わりになります」


「は? 身代わりって何を?」


「俺が、その半グレ集団と付き合っていることにするぜ!元々『どエロタイガー』で、夜の街を遊び歩いている設定ですからね。ヒナが関わるより、僕が『ちょっと刺激が欲しくて知り合った』と言った方が、世間も納得するはず……!」

「……正気!? イメージ通りっていうか、イメージ最悪の方向に突き抜けすぎでしょ!!」


「別にいい。ひよりとの同居がバレるよりは、不健全な交遊関係の方がまだ『アイドルとしてのキャラ』で押し通せる……多分!」


「押し通せるか!! どこの世界に、反社会的勢力と繋がることを『キャラ設定』で済ますアイドルがいるのよ!!」


健人の「真面目すぎる自己犠牲」と「ズレすぎた判断力」。


そして、自分より終わっている年上二人を前に、ヒナはついに、今日一番の乾いた笑い声を漏らした。


「……ねぇ。俺、やっぱりこのグループ辞めた方がいいかな……?」


「辞めさせない!! あなたのせいで私の平穏が崩壊してんのよ!!」


深夜のぶち抜き部屋。


三人の「特大スキャンダル」を巡る会議は、解決の糸口が見えないまま、スカイさんの執拗な着信音によってさらに泥沼へと沈んでいくのだった。


「……ところで、レオン、あんたの本来の性格って『脳筋バカ真面目』で合ってる?」


ヒナの言葉に、シーン……と静寂が訪れた。

(……あ、バレた)


私が心の中でそう確信した瞬間、健人は、持っていた漢検のテキストをガサリと落とした。


「バ、バカ真面目……。なるほど、『剛毅木訥(ごうきぼとつ)』ということか!最高の褒め言葉だぜ、ヒナ……!」


「いや、褒めてねーよ!! 脳筋って言ったんだよ、この四字熟語モンスター!!」


鳴り止まないスカイさんからの着信。その電子音が、まるで私たちの寿命を削るカウントダウンのように聞こえる。


私は、震える手でスマホを凝視している健人さんの肩に手を置いた。


「……もう本性出していいんじゃない? 健人さん」


私のその一言で、何かが弾けた。


「……そうだな。……ひより、覚悟を決めたぜ」


健人がガバッと顔を上げ、スマホの通話ボタンをスワイプする。


ヒナが「ちょ、待っ……!」と止める間もなかった。


「あ、スカイさん! 夜分にすみません。……はい、ヒナなら僕の部屋にいます。……ええ、そうなんです。実は彼、僕の『四字熟語の書き取り特訓』に付き合ってくれていて……。あまりに熱中しすぎて、門限を忘れてしまいました!」


「……は?」


「ちょっと待って!本性出していいの、ヒナくんだけだから!!!」


電話の向こうでスカイさんの思考が停止した音が聞こえた。


「今のヒナには、『不撓不屈(ふとうふくつ)』の精神が必要です! 半グレとかいう、よく分からない画数の多い連中と遊ぶ暇があったら、一文字でも多く漢字を覚えるべきだと、僕が、僕の部屋で、一晩中……叩き込みますから!!」


「ちょ、健人くん!? 半グレって言っちゃ……!」


ヒナが青ざめて叫ぶが、健人は止まらない。


「あ、スカイさん。ヒナが今、隣で『レオンさんの筋肉、マジ剛毅木訥っす!』って感動して泣いてます! というわけで、今夜は彼を預かりますね。おやすみなさい!」


プツッ、と通話を切った健人は、今日一番の爽やかな笑顔で親指を立てた。


「……よし。これで半グレの件は『漢字特訓』という建前で上書きされました。あの、ヒナくん、朝まで寝かせないぜ。……決まった!これでBL営業もばっちりだ!まずは『鬱』の書き方からだ」


「………………」


スカイさんからの再入電という名の「死」が鳴り響く中、三人の「終わってる」夜は、さらにカオスな方向へと加速していくのであった。

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