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妻の膝枕は最高だった、、、



 その日、オルガは限界だった。


 王都の再建は順調だ。

 だが順調であるがゆえに、すべてが彼の元へと集まってくる。


 人員の配置、物資の管理、区画の再編、住民の受け入れ――。


 判断、調整、指示、確認。


(あと三人くらい自分が欲しい……。)


 そんな現実逃避が脳裏をよぎった時には、もう遅かった。


 視界が、揺れる。


「……おい。

 どうした、オルガ!」


 ルベリアの声が遠い。


「大丈……。」


 言い切る前に、世界が落ちた。



―――



 ……柔らかい。


 最初に浮かんだ感想は、それだった。


(……ん?)


 ゆっくりと意識が浮上する。


(なんだこれ。)


 頭の下にあるのは、硬い床ではない。

 妙に弾力があって、ふわりとした温かい何か。

 そして、かすかに香る……覚えのある匂い。


(……いや、ちょっと待て。)


 思考が一気に覚醒する。

 ここで、オルガはすべてを理解した。


(これ、絶対あれだろ!)


 結論。


(膝枕だ!!)


 しかも。


(ルベリアの!)


 確信した瞬間、心拍数が一気に跳ね上がる。


(ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待てー!)


 そして思考も爆発。


(まずは落ち着け、俺。)


 呼吸を整える。


 だが、体は動かさない。

 呼吸だけを整える。

 あくまで自然に。


 今は“気絶から回復途中の人間”を完璧に演じてみせる!


(ここで起きたら負けだ。)


 何に対してかは分からないが、とにかく負けだ。

 

(これは……俺の人生イベントの中でも上位に入るやつ……!)


 なぜかそう確信する。


(膝枕イベント!) 


「……まったく。」


 頭上から、声が落ちる。

 ルベリアだ。


「無理をしすぎだぞ、オルガ。」


 その声音は、普段よりもわずかに柔らかい。


(やばい、ルベリアが優しい!)


 その時。


(えっ……!?)


 ふわり、と。

 髪に触れる感触。


(今、触ったよな?)


 ルベリアの細い指先が、ゆっくりと俺の髪を梳いていく。


 ぎこちない。

 だが、丁寧だ。


(なにこれ、こんなイベント発生するなんて聞いてない!!

 いや、聞いてたら対策してたのかって話だけど!)


 内心が騒がしい。


(こんなの無理だろ……!)


 完全にパニックだが、顔は無表情。

 むしろ完璧な“気絶者”。

 

(俺、今すごくない?)


 ふと、ルベリアの指の動きが止まる。


(……なにか考えてる?)


 そして。


「人間の妻は、このような時どうするのが正解なのであろうな……?」


(ルベリアが俺の奥さんとしての役割を全うしようと考え込んでる!)


 再び、手が動く。

 そして、結論が出たらしい。


 今度は――頭を撫で始めた。


「……オルガはよくやっておる。」


 ぽつり、と。

 静かな声。


(……。

 今の、録音したい!)


 ルベリアからの褒め言葉で、脳内が悶えまくる。

 

(今の言葉、なにがなんでも脳に刻め!!)


 数秒。

 いや、数分かもしれない。


 時間の感覚が曖昧になる。


(……これ、やばいな。)


 頭の位置。

 柔らかさ。

 ルベリアとの近さ。


(ちょっと待て。

 これ冷静に考えて、どこに頭乗せてるんだ俺!

 いや、膝枕だから太ももなんだけど!!)


 ルベリアが身に付けていた衣装を思い出すかぎり……太ももって素脚だったよな!?


(ということは……。

 俺の頭の位置って、だいぶ危険なゾーンでは?)


 意識した瞬間、ダメだった。


(ダメだこれ以上考えるな!)


 理性が仕事しなくなりつつある、その時だった。


「……いい加減、そろそろ起きろ、オルガ。」


 静かな声。

 ぴたりと、手が止まる。


(え。)


「起きておるのは分かっている。」


(終わった。)


 観念して目を開ける。


「……いつから気付いてたの?」


 視界いっぱいに、ルベリアの顔。

 いや、顔だけじゃない!

 膝枕から見上げるルベリアの顔の手前には、豊満な胸が自己主張している!!


 近い。

 近すぎる。


 だが、目は逸らせない。

 逸らしたくない!


 そんな俺の心境に気付いているのか、ルベリアが呆れ顔で見つめてくる。


「最初からだ。」


「え、最初から!?」


「呼吸を意識的に整えていたではないか。」


「そんなとこ見てるの!?」


「当然だ。」


 腕を組むルベリア。


「妾の膝枕で寝かせているのだ。

 不審な動きは見逃さぬ。」


 夫婦とはいえ、物理的距離を詰めるのはなかなかに難しい。


「セキュリティが王城に侵入するより厳しいな……。」


 そんな俺のボヤキに、ルベリアは少しだけ視線を逸らした。


「……まあ。」


「?」


「その……。」


 言葉を選ぶように、わずかに間を置く。


「……もう暫くくらいなら、そのままでも構わぬぞ。」


 思考停止。


(許可出た!

 公式許可出た!!

 これ合法!!!)


「じゃあ遠慮なく!」


 すっと体の力を抜き、わずかに頭の位置を調整する。


「おい。」


 即座に声が飛ぶ。


「少しくらい遠慮しろ。」


「これでも結構遠慮というか、我慢してるんだよ?」


「どこがだ。」


「本音を言わせてもらうと……。

 我慢せずに全力でいったら、多分もっとルベリアに近づきたいです!」


「……っ、それ以上は言うでない!」


 即遮断。


 だが。

 再び、そっと頭に触れる手。


 さっきより、少しだけ自然で。

 ほんの少しだけ、優しい。


(……これ、毎日でも倒れるのアリか?)


 王として、完全にアウトな思考が浮かぶ。


(……いや。)


 目を閉じる。

 小さく、息を吐く。


(倒れなくても、日々の疲れを膝枕で癒してもらえばいいだけだ!)


 その結論に至った時。

 ルベリアに膝枕をしてもらう為にどうすべきかを、政務よりも優先して考え始めた。




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