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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
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第5話 最後の神言語


 第5話です。


 タクミはいよいよ砂漠へ旅立とうとします。

 しかしその出発の瞬間、八百年もの間この場所に縛られて    きた水の亜神サラディンが、最後の決断を下します。

 それは、自らの残されたすべての力を使うこと。

 世界を滅ぼした禁断の魔法――

 神言語魔法。

 慚愧の念。

 赦されぬ罪。

 それでも未来へ託したいという願い。

 サラディンの八百年の後悔と贖罪が、今ここで一つの結末を迎えます。

 そしてタクミは、この世界で本当に一人になります。


 

 夜明け前の砂漠は静かだった。


 東の空が、ゆっくりと白み始めている。


 崩れた研究棟の外で、タクミは立っていた。


 背中には簡素な布袋。

 腰には水筒。

 両腕にはガントレット。

 魔獣解体用にと渡されたナイフ。


 装備らしい装備は、それだけだ。


 目の前には、どこまでも続く砂の海。


 そして背後には――


 八百年の時間に縛られた場所。


 サラトニア王立魔法学院の研究棟跡。


 その中心に、水の亜神サラディンが立っていた。


 半透明の身体が、朝焼けの光を受けて揺れている。


「……行くか」


 タクミは小さく呟いた。


 営業の出張のような気軽な旅ではない。


 だが、ここにいても何も始まらない。


 目指す場所は一つ。


 漁港町オルデ。


 ただし――


 どこにあるのかも、どれほど遠いのかも分からない。


 タクミは一歩、砂漠へ踏み出した。


 その時だった。


「待ってくれ」


 サラディンの声だった。


 タクミは振り返る。


「どうした?」


 サラディンは、ゆっくりとタクミに近づいた。


 蒼い身体が揺れている。


 今までよりも、明らかに不安定だった。


「私は……君に謝らなければならない」


 静かな声。


 だが、震えていた。


「君の人生を奪った」


「見知らぬ世界へ引きずり込んだ」


「そして」


 視線が下がる。


「亜神を殺す役目まで押し付けた」


 タクミは頭をかいた。


「まあ……そうなるな」


 サラディンは顔を上げた。


 その瞳には、はっきりと涙が浮かんでいた。


「私は」


 言葉が詰まる。


「八百年……後悔してきた」


 声がかすれる。


「七百万人」


「家族も、子供も、友も」


「全てを砂にした」


 蒼い涙が頬を伝った。


「私は赦されない」


「だが」


 タクミを見る。


「それでも……終わらせたい」


 長い沈黙。


 朝日が、砂漠を照らし始めていた。


 タクミは少し考えてから言った。


「なあ」


「何だ」


「営業やってるとさ」


 サラディンが首をかしげる。


「大体の人間、ミスするんだよ」


「大きいのも小さいのも」


 タクミは肩をすくめた。


「まあ……」


「お前のはスケールでかすぎるけどな」


 サラディンは小さく笑った。


 そして――


 深く頭を下げた。


「すまない」


 その姿は、神でも亜神でもなかった。


 ただの、一人の人間の謝罪だった。


「だから」


 サラディンは手を伸ばす。


「せめて、最後にこれを渡したい」


 空気が震えた。


 魔法陣が蒼く光り始める。


「神言語魔法……」


 サラディンの声が低く響いた。


 それは、この世界の根源に触れる言葉。


 人間が扱うことを許されない魔法。


「私はもう長くない」


「この力も……ここで終わる」


 蒼い光が強くなる。


 サラディンの身体が崩れ始めていた。


「だから」


 タクミを見る。


「これを君に託す」


 サラディンの口から、聞いたことのない言葉が紡がれた。


 それは言語ではない。


 世界そのものを揺らす音だった。


「――知れ」


 その瞬間。


 タクミの頭の中に、膨大な情報が流れ込んだ。


 言語。


 地理。


 魔物。


 植物。


 水の探し方。


 火の起こし方。


 この世界の生き方。


「ぐっ……!」


 頭が割れそうだった。


 だが情報は止まらない。


 そして――


 最後に、力が流れ込んだ。


 ガントレットが光る。


 体の奥に、何かが宿る。


「これで」


 サラディンが言った。


「君はこの世界で生きられる」


 蒼い身体が崩れ始めていた。


 砂のように、光が散っていく。


「おい」


 タクミが言った。


「消えるのか?」


 サラディンは微笑んだ。


「私の役目は終わった」


「ここから先は」


 タクミを見る。


「君の物語だ」


 涙が一筋、流れた。


「ありがとう」


 そして。


「どうか」


 最後の言葉。


「終わらせてくれ」


 その瞬間。


 サラディンの身体が光になって崩れた。


 朝日の中で、蒼い粒子が空へ消えていく。


 やがて――


 完全に消えた。


 静寂。


 風だけが吹いている。


 タクミはしばらく立ち尽くしていた。


「……マジか」


 ぽつりと呟く。


 さっきまでいた存在が、もういない。


 だが――


 頭の中には知識がある。


 この世界の生き方が。


 そして胸の奥には、重いものが残っていた。


「……託されたか」


 タクミは空を見上げた。


 朝日が砂漠を照らしている。


 広い世界。


 ここから全てが始まる。


 タクミは西を向いた。


 目指す場所は一つ。


 漁港町オルデ。


 どこにあるのかも。


 どれほど遠いのかも分からない。


 だが――


 歩くしかない。


「よし」


 タクミは一歩踏み出した。


 砂が靴の下で崩れる。


 それが――


 数年に及ぶ旅の、最初の一歩だった。



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第5話「最後の神言語」でした。


 タクミはサラディンから得た知識を頼りに、

 本格的な砂漠サバイバルを開始します。


 次回、第6話「砂漠の洗礼」


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