表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
32/34

第32話 砂漠の谷

 

 第32話です。


 限界の先で、人はようやく止まる。

 だが、止まることは終わりではない。

 回復は、次に進むための準備だ。



 岩山を見つけ、タクミはその場に崩れ落ちた。


 そのまま、眠る。


 初日は、丸一日。


 意識が浮かぶことはなかった。


 魔獣の警戒。


 頭では分かっている。


 だが――


 身体が、それを許さなかった。


 疲れの方が勝っていた。


 ……


 目を覚ます。


 岩陰。

 風がある。

 熱が違う。


 白砂地帯の焼けるような空気じゃない。


 外套の内側。

 法衣。


 重ねているのに、暑くない。


 むしろ――


 ちょうどいい。

 心地いい。


 息を吐く。


 また目を閉じる。


 眠る。


 ……


 気がつけば、五日目の朝だった。


 ゆっくりと体を起こす。


「……ふぅ」


 息を吐く。


「無事……か……」


 呟く。


 指を動かす。


 力は戻っている。


 立ち上がる。


 荷物をまとめる。


 背負う。


 歩き出す。


 六日目。


 岩壁に囲まれた道。


「……渓谷か」


 谷。

 風が弱い。

 日陰が続く。


 歩きやすい。


 視線を巡らせる。


「……広いな」


 ぽつり。


「……五十メートルくらいはあるか」


 谷の幅を測るように見る。


 腹が鳴る。


 干し肉。


 もう、残りは少ない。


 サンドバラクーダの干し肉はない。


 ロドスの干し肉だけ。


 それも、わずか。


「……尽きそうだな」


 歩く。


 白砂地帯は抜けた。


 気温も下がっている。


 何かがいそうな気配はある。


 だが――出てこない。


「……まあいい」


 小さく吐く。


「なるようになる」


 歩く。


 しばらくして。


 右側前方。


 岩壁に、ぽっかりと空いた空洞。


 黒い穴。


「……洞窟?」


 目を細める。


 幅は広い。

 高さもある。


 その時。


 中から、何かが出てきた。


 こちらを見る。


 そして――走る。


 一直線。


 タクミに向かってくる。


 口の端が吊り上がる。


「……肉だ!」


 笑う。


「な。なるようになるんだよ、こんなもん」


 魔獣が向かってくるのに。

 食欲が勝つ。


 タクミも走り出した。


 砂を蹴る。


――軽い。


 前に出る。


 速い。


「……おっ」


 声が漏れる。


「なんだ……?」


 身体が、速い。


 日本にいた頃と違う。


 砂漠で走る。


 本来なら自殺行為。


 だが――


 止まらない。


 この世界に来て。


 初めて、走る。


 距離が一気に詰まる。


 魔獣が目の前まで迫る。


 タクミは勢いのまま、右足で地面を蹴り込む。


 左足が前に出る。


 大股に構えた瞬間――


「硬化!」


 両足が固まる。


 ガチィッ!!


 地面を噛む。


 止まらない。


 ザザザッ!!


 身体が流れる。


 腰を捻り、左手を引き絞る。


 肩の回転に乗せて、そのまま右拳を突き出す。


 右ストレート。


 一メートルもない。


 魔獣が口を開く。


 飛びかかる。


 牙が迫る。


「硬化!」


 拳から肘までが固まる。


 振り抜く。


「くたばれ部長ッ!!」


 ドッキャ!!


 重い衝撃。


 骨が砕ける手応え。

 肉が弾ける。


 魔獣の下顎から頭頂までが消し飛ぶ。


 血と肉片が飛び散る。


 巨体が横に吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


 ドサッ……


 動かない。


 静かになる。


 タクミは息を吐いた。


「……ふぅ……すっきりした」


 少し笑う。


「肉ゲットだぜ」


 近づく。


 見下ろす。


「てか、なんだこいつ?」


 しゃがむ。


 観察する。


 狼っぽい。


 だが、でかい。


 体長、一・五メートルほど。


 背中。

 鎧みたいな甲殻。


 指で叩く。


 硬い。


 頭の奥に流れ込む。


 サラディンの知識。


 フォレストダイヤウルフ。


 森に生息。


(フォレスト……森って意味だよな)

(ここ、砂漠だけど?)


 鋭い牙と爪。

 背中に硬い外皮。

 毒性なし。

 昼行性。

 危険度――中から高。


「……中~高?」


 眉をひそめる。


「弱かったけど?」


 肩をすくめる。


「まあいい」


 ナイフを抜く。


 腹を裂く。


 肉。

 赤い。


 腹が鳴る。


「……干し肉にするか」


 視線を上げる。


 洞窟。

 影。

 風は弱い。


 ちょうどいい。


「……あそこで休むか」


 肉を担ぐ。


 立ち上がる。


 洞窟へ向かって歩き出す。


 足取りは、軽かった。


(経過日数:304日)


 

 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます


 環境が変わり、獲物も変わる。

 そして、タクミ自身も変わっていく。

 

 次回、第33話「岩壁のオアシス」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ