第30話 立ち止まるな
第30話です。
終わらない砂の旅。
タクミは歩き続けるしかなかった。
止まる理由も、戻る場所もない。
ザッ。
ザッ。
ブーツが白い砂を踏む。
砂。
空。
地平線。
それだけだった。
タクミは歩きながら拳を見た。
水色の宝石が埋め込まれたガントレット。
「……そういえば」
砂嵐のことを思い出す。
あの時。
硬化能力は徐々に消えていった。
「……ってことは」
拳を軽く握る。
「硬化した瞬間が一番硬いのか?」
空へ向けて軽く突きを出す。
もちろん何も起きない。
「次に岩でも見つけたら試すか」
小さく笑う。
白い地平線を見る。
岩など見えない。
それでも歩く。
ザッ。
ザッ。
単調な音が続く。
外套のフードの中で、タクミは小さく息を吐いた。
「あ〜……」
視線を空へ向ける。
「風呂入りてえなぁ」
誰もいない砂漠に呟く。
「ビールも飲みてえなぁ」
喉が鳴る。
「ジュースでもいい」
乾いた笑いが出た。
足は止まらない。
だが。
頭の奥が重い。
歩く。
また歩く。
景色は変わらない。
砂。
空。
地平線。
タクミはふらりと足を止めた。
そして。
そのまま座り込んだ。
白い砂の上。
ブーツが少し沈む。
「……」
風はない。
音もない。
タクミは空を見上げた。
青い空。
ただそれだけ。
(俺)
頭の中で呟く。
(何してるんだろうな)
しばらく動かなかった。
目を閉じる。
思い出す。
東京。
会社のビル。
営業フロア。
会議室。
上司の声。
『この数字どうするんだ!』
『もっと売れ!』
『やる気あるのか!』
タクミは小さく笑った。
砂を手で掴む。
さらさらとこぼれる。
「……あっちも大概だったけど」
誰もいない空に言う。
しばらく座っていた。
時間が流れる。
太陽が少し動く。
タクミはゆっくり目を開けた。
空を見る。
地平線を見る。
白い砂を見る。
何も変わらない。
何もない。
「……こっちも大概だな」
タクミは手をついて立ち上がった。
バックパックを背負う。
外套を整える。
ブーツで砂を踏む。
ザッ。
ザッ。
歩き出す。
(止まったら死ぬ)
それだけは分かっていた。
だから歩く。
砂の海を。
終わらない地平線の向こうへ。
(経過日数:276日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第30話「立ち止まるな」でした。
精神的疲労の限界。
それでもタクミは歩くことをやめません。
砂漠の旅はまだ続きます。
次回、第31話「平原の終わり」




