第29話 砂の地平
第29話です。
終わらない砂の地平。
歩くことだけが、前へ進む手段だった。
静かな砂漠で、タクミはあることを試す。
砂。
空。
地平線。
それだけだった。
ザッ。
ザッ。
ブーツが白い砂を踏む。
タクミは歩き続けていた。
景色は何も変わらない。
どこまで行っても同じだった。
砂。
空。
地平線。
「……マジで変わらんな」
小さく呟く。
外套のフードの奥で、汗が額を流れる。
だが歩く。
止まっても何も変わらない。
タクミは地平線を見ながら思考を沈めた。
頭の奥。
そこにある、もう一つの知識。
サラディンの記憶。
(……ちょっと借りるぞ)
意識を潜らせる。
古い言葉。
聞いたこともない文字。
意味の分からない記号。
膨大な情報の海。
「……」
タクミはその中を探る。
魔法。
この世界には魔法がある。
なら。
(俺も使えるよな)
そう思う。
知識へ手を伸ばす。
その瞬間。
視界が暗くなった。
思考が――
真っ黒になる。
「……っ」
タクミは足を止めた。
頭の奥が重い。
何かに押し戻されたような感覚。
「なんだ今の」
砂漠を見渡す。
当然、誰もいない。
だが。
その時だった。
頭の奥に声が流れ込んだ。
言葉というより、感覚に近い。
サラディンのものだった。
『この知識を欲しているということは困っているということか』
タクミは眉をひそめる。
『だが私の魔法の知識には禁呪が含まれている』
静かな声。
『だから渡すわけにはいかない』
少し間が空く。
『すまない』
タクミは空を見上げた。
『大丈夫だ』
『君に渡した兵装は魔法など効かない』
沈黙。
タクミは口を開いた。
「……そういうことじゃないんだよなぁ」
誰もいない砂漠で呟く。
空を見上げる。
「水出したりさ」
指を立てる。
「火出したりさ」
もう一本立てる。
「生活魔法が欲しいわけ」
白い砂を見渡す。
「わかる?」
沈黙。
返事はなかった。
タクミは歩き出す。
ザッ。
ザッ。
ブーツが砂を踏む。
しばらくして、また口を開いた。
「……ていうかさ」
空を見る。
「転移魔法とかで」
地平線を指す。
「オルデまで飛ばしてくれりゃよかったじゃん?」
数秒の沈黙。
そして。
また声が流れた。
『そんな魔法は理の外』
短い言葉。
『神言語魔法でしかできない』
それだけだった。
「……」
タクミは立ち止まる。
空を見る。
砂を見る。
遠くの地平線を見る。
「……不便すぎだろ」
ぽつりと呟いた。
風もない。
砂も動かない。
ただ静かな世界。
タクミは肩を回す。
バックパックが背中で揺れる。
サンドワーム皮のバックパック。
中にはロドスの干し肉。
サンドバラクーダの干し肉。
まだ少し余裕はある。
腰に水筒。
腕にはガントレット。
それだけだった。
ザッ。
ザッ。
また歩く。
休む。
また歩く。
それだけの日々。
何も起きない。
何も変わらない。
ただ時間だけが進む。
砂。
空。
地平線。
タクミはそれを見ながら歩き続けた。
(経過日数:251日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます
第29話「砂の地平」でした。
終わらない砂の地平。
タクミの旅は、静かに続いていきます。
次回、第30話「立ち止まるな」




