第25話 死砂の大平原(入口)
第25話です。
城塞遺跡を離れ、タクミは再び砂漠を歩き始める。
辿り着いたのは、これまでとはどこか違う砂原だった。
静まり返った大地が、彼を迎える。
白い砂だった。
目に入る地面が、すべて同じ色をしている。
乾ききった砂が、大地を覆っていた。
タクミは立ち止まり、ゆっくりと息を吐く。
「……砂の色が違うな」
視線を遠くへ向ける。
砂。
砂。
そしてまた砂。
起伏も少ない。岩もない。
ただ白い地面が、地平線の彼方まで続いていた。
風も弱い。
外套の裾が、かすかに揺れるだけだった。
静かすぎる。
耳が痛くなるほどの静寂だった。
タクミは一歩踏み出す。
サラトニアフロッグのブーツが、乾いた砂を踏む。
ザッ。
その音だけが、周囲に響いた。
しばらく歩く。
景色は変わらない。
どこまで行っても同じだった。
太陽だけが、ゆっくりと動いている。
タクミは肩のバックパックを軽く持ち直した。
サンドワーム皮のバックパックは、臭いが少ない。
中身も、まだ余裕がある。
ロドスの干し肉。
折りたたんだ大樹司祭の法衣。
ナイフ。
歩きながら、タクミは水筒を手に取る。
瓢箪型の水筒。
口を傾ける。
ぬるい水が喉に流れ込んだ。
「……ふう」
小さく息を吐く。
水筒を腰に戻す。
再び歩く。
砂は相変わらず白い。
影も薄い。
どこか現実感がなかった。
城塞遺跡を出てから、何日歩いただろうか。
もう振り返る気にはならない。
戻る場所はない。
タクミは干し肉を取り出す。
ロドスの干し肉。
歯で噛み切る。
硬い。
だが慣れた味だった。
噛みながら、遠くを見る。
「……次の拠点まで長そうだな」
呟きが砂に吸い込まれた。
白い地面は続く。
どこまでも。
タクミは干し肉をもう一口噛る。
ゆっくり噛む。
(ここで干し肉が切れたらヤバかったかもしれない)
少しだけ背筋が冷える。
だが。
(……大丈夫だ)
バックパックを軽く叩く。
(まだある)
歩く。
ただ歩く。
砂を踏む音だけが続く。
空は広い。
雲はない。
世界には、タクミしかいないようだった。
白い砂の海の中を、一人で進む。
方角は西。
ただ足を前に出す。
それだけだった。
やがて太陽が傾き始める。
白い砂が、淡く赤く染まり始めた。
タクミは歩き続ける。
止まらない。
止まれば、何かに負ける気がした。
だから進む。
砂漠の奥へ。
白い大平原の向こうへ。
(経過日数:175日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第25話「死砂の大平原」でした。
死の気配しかない砂原。
タクミの旅はまだ続きます。
次回、第26話「灼熱行軍」




