表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
12/34

第12話 大樹司祭の法衣


 第12話です。


 ギガントワームの骨を西の目印に歩き続けるタクミ。

 旅の九日目、砂に埋もれた神殿を発見する。

 崩れた礼拝堂の奥で、彼はひとつだけ形を保つ木箱を見つけた。

 そこには八百年前の遺産が眠っていた。


 

 砂漠の夜は静かだった。


 風が止むと、音が消える。

 聞こえるのは自分の呼吸だけだ。


 タクミは神殿の石壁に背を預けていた。

 天井は崩れ、そこから星空が見える。


(静かだな)


 日本ではまずあり得ない静けさだった。


 車の音もない。

 人の気配もない。


 ただ砂の世界が広がっている。


 タクミは腕を組んだ。


「……まあ、なるようになるか」


 独り言が口から漏れる。

 砂漠を歩き始めてから増えた癖だ。


 人間、話す相手がいないと独り言が増えるらしい。


 神殿を見つけたのは昨日だった。

 半分ほど砂に埋もれていた石造建築。


 入口の柱は崩れ、礼拝堂も砂に覆われている。

 それでも内部にはまだ形を残す部屋があった。


 タクミは立ち上がる。


「昨日は暗くてよく見てないからな」


 奥の部屋をもう一度調べることにした。


 石の廊下を歩く。

 足元には砂が薄く積もっている。


 壁には古い彫刻が残っていた。


 巨大な樹。


 枝の上を飛ぶ竜。


「……ワイバーン?」


 サラディンの知識がぼんやり浮かぶ。


 旧サラトニア王国の宗教紋章。

 大樹信仰の象徴だったらしい。


「宗教施設ってやつか」


 やがて小さな部屋に出る。


 倉庫のような場所だった。


 壁際には木箱が並んでいる。


「……宝箱?」


 思わず笑う。


 異世界に来てから、それっぽい物を見ると少し楽しくなる。


 だが現実は甘くない。


 タクミが箱に触れる。


 ぼろり。


 箱は崩れた。


「うわっ」


 木は粉のように崩れ、床へ落ちる。


「やっぱりな」


 八百年だ。

 普通の木箱なら残っているわけがない。


 別の箱にも触れてみる。


 同じだった。


 触れた瞬間に崩れる。


 だが――


「……ん?」


 ひとつだけ、形を保っている箱があった。


 砂に半分埋もれている。


 タクミはしゃがみ込む。


 箱の表面に焼き印があった。


 円形の紋様。

 複雑な線が重なっている。


 サラディンの知識が反応する。


(劣化防止の魔法陣)


「なるほど」


 タクミは指でなぞる。


「木箱に直接焼き印してあるのか」


 魔法陣の効果で、この箱だけ劣化を免れていたらしい。


 慎重に砂を払う。


 蓋はまだしっかりしていた。


「開くかな」


 ゆっくり持ち上げる。


 ぎい、と木が鳴る。


 中には布が入っていた。


「服?」


 取り出して広げる。


 月光が差し込む。


 布は純白だった。


 長いローブ。

 袖が広い。


 胸元と裾には銀糸の刺繍が施されている。


 刺繍の図柄は――


 巨大な樹。


 その周りを旋回する飛竜。


「……かっこよすぎだろ」


 思わず声が出る。


 タクミはローブを広げて眺めた。


「司祭の服かな」


 布は驚くほど綺麗だった。


 八百年前の物とは思えない。


 裏側を見る。


 そこには細かい刺繍が並んでいた。


 円形の紋様。

 複雑な線。


 魔法陣だった。


 サラディンの知識が答えを出す。


(温度調整魔法陣)


「マジか」


 タクミは笑う。


「砂漠装備じゃん」


 この世界に来てから一番ありがたい発見だった。


 昼は灼熱。

 夜は凍える。


 このローブはそれを防ぐらしい。


「着てみるか」


 タクミはスーツの上着を脱いだ。


 ローブを羽織る。


 軽い。


 体を動かす。


 動きやすい。


 外へ出てみる。


 夜風が吹く。


 だが寒くない。


「おお」


 思わず笑う。


「これは助かる」


 タクミはローブの裾を払った。


 純白の布が月光を反射する。


 日本の営業スーツよりずっといい。


「街に着いたら自慢できそうだな」


 ふと空を見上げる。


 星が広がっている。


 遠くには、巨大な骨が白く浮かんでいた。


 ギガントワーム。


 助骨だけで百メートルを超える怪物の死骸。


 西の目印だ。


「……遠いな」


 タクミは小さく息を吐いた。


 砂漠は終わらない。


 だが少しだけ装備が増えた。


「まあ」


 タクミは肩を回す。


「なるようになんだよこんなもん」



 独り言が夜の砂漠に消えた。



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第12話「大樹司祭の法衣」でした。


 砂没神殿でついに最初の実用的な装備を発見。

 砂漠生活が少し楽になります。

 

 次回、第13話「星のまたたく夜」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ