70話 力と技術
「おらおらおらっ!」
クリフは距離を詰めつつ、連続で拳を繰り出してきた。
一撃一撃にしっかりと力が込められていて。
それでいて、適当な部分を狙っているのではなくて、俺の急所を的確に叩いてくる。
全てが攻撃というわけでもない。
フェイントも織り交ぜられていて、俺がそれに引っかかり……
そうなると、さらに倍の攻撃が飛んでくる。
「クロード様!」
「お兄ちゃん!」
シオンとナナが心配しているけれど、二人を安心させることができない。
それくらいに余裕がない。
クリフは……強い。
悔しいけど、俺よりも圧倒的に上だ。
自慢とか慢心とか、そういうわけじゃなくて。
単純な力だけなら俺の方が上だと思う。
ただ……
技術は圧倒的にクリフの方が上だ。
戦闘経験がまるで違う。
俺が10としたら、クリフは100。
単純に考えて、10倍の差がある。
俺は、ただ殴るだけ。
でも、クリフはしっかりと技術を取り入れて、いかに衝撃を伝えるか? いかに速く打つか?
そういうところが最適化されている。
俺との地力の差を埋めるどころの話じゃなくて……
簡単に追い抜かして、さらに差をつけてしまう。
強い。
「てめえは良い獲物だが……」
下段を狙った蹴撃。
……だと思っていたら、途中で軌道が変わり、クリフの蹴撃が俺の頭を打つ。
視界が揺れて、同時に意識も揺れてしまう。
まずい。
今、気を失うわけにはいかない。
耐えろ。
耐えるんだ、俺!
「ぐっ……!」
「へぇ……舌を噛んで耐えたか。つまらねえ獲物、って言おうとしていたが、訂正してやるよ。それなりに歯ごたえがあるじゃねえか」
「負けるわけには……いからないからな」
「そんなに、そこのガキが大事なのかねえ」
訳がわからない、という感じでクリフが言う。
「ダークエルフの嬢ちゃんならともかく、ガキは特に関係ねえんだろ? 旦那の調査によれば、ここに来てから知り合ったらしいじゃねえか。そんな相手を、わざわざ、ここまで体を張って助ける必要あるか?」
「それは……」
「どうでもいい相手だろ? ちと可哀想、って思っただけだろ? 本気で助けたいわけじゃねえだろ?」
「……」
「世の中、辛い境遇のヤツなんてたくさんいる。そこのガキよりも悲惨なヤツなんてたくさんいる。それを全部、助けるってか? だとしたら、すごい偽善者だな、おい」
クリフ自身、なにか思うところがあるのかもしれない。
その口調はとても攻撃的で。
視線も獣のように鋭い。
ただ……
「偽善者でもなんでもいいよ」
彼に屈するわけにはいかない。
「俺は、ナナの力になりたい、って思ったんだ……助けられるのなら助けたい、って」
「……」
「それが偽善なのかどうか……わからないけどさ。でも、どっちでもいいよ」
クリフをまっすぐに見て。
しっかりと言う。
「俺にとって、ナナを守ること……あんたから見たら偽善かもしれないけど、でも、俺にとっては善だよ」
「……ははっ」
クリフが小さく笑う。
楽しそうに。
嬉しそうに。
「いいな……いいねぇ!」
そう笑うクリフは、獰猛な獣のようだった。




