49話 闇夜で蠢く者
「……失敗した?」
オーシャンテイルのとある家。
廃屋と間違えられそうなボロボロの家の中に、二人の人影があった。
どちらも男。
ただ、ローブをまとい、フードを被っているためその人相はわからない。
「申しわけありません……」
「色々と小細工をして、あのような場所に誘い出すことができたのだぞ。千載一遇のチャンスだったはずだ……それで失敗した?」
「も、申しわけありません……! 私が手配した者はトラブルで遅れてしまい、その間に、別の冒険者らしき者が接触をしてしまい……」
「……もういい」
声から判断して、一人は高齢の男。
今しがた落胆の吐息をこぼした者だ。
もう一人は、若い男。
許されたと思い、安堵の吐息をこぼしていた。
……が、それは間違い。
「お前のような能無しを雇った儂が馬鹿だった」
「え?」
タンッ、と乾いた音。
鼻を突くような匂い。
若い男は、なにが起きたのだろう? と怪訝に思い……
そして、自分の胸に穴が空いて、血が流れていることに気がついた。
どうして?
疑問の声を出すことはできず、そのまま絶命して倒れる。
「使えない者が多い……次は、駒は厳選しないとな」
――――――――――
「むにゃ……」
宴の席も終わり。
雰囲気に酔ったらしく、ナナは寝てしまっていた。
メイドさん達はぺこりと頭を下げて、ナナを連れて行く。
「……はふぅ」
シオンもけっこう酔っているらしく、顔が赤い。
視線もとろんとしていて、妙な色気があってドキドキしてしまう。
「シオン、大丈夫?」
「大丈夫……です」
あまり大丈夫そうじゃなかった。
「よいしょ」
「ご、ご主人様……!?」
抱き上げると、シオンが慌てた。
赤い顔がさらに赤くなる。
こうして照れるところはすごく可愛い。
「お客様、私共が……」
「いや、大丈夫。シオンは俺が運ぶよ」
「ですが……」
「大事な人だから、そうしたいんだ。ダメかな?」
「……かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
仕事を奪うような真似をして申しわけないけど……
ただ、シオンは、ちゃんと俺の手で運びたかった。
メイドさんに案内してもらい、今夜、俺達が泊まる客室へ。
「なにかありましたら、そちらのベルを鳴らしてください。では、失礼いたします」
案内をしてくれたメイドさんが立ち去り。
俺は、シオンを、二つあるベッドの一つに寝かせた。
シオンはそのまま、すやすやと眠り……
「んぅ……ご主人様ぁ」
「うわっ」
いきなり抱き寄せられた。
突然のことで、そのままベッドに倒れ込んでしまう。
シオンに迫るというか。
抱き寄せられたのに、押し倒すというか。
そんな形になってしまっていて……
「えっと……」
「……ご主人様は、私のことはお嫌いですか?」
「え? どうして、そんな話に……」
「その……あれ以来、一度も……」
「一度も、って……あっ」
思い出したのは、シオンと結ばれた夜のこと。
つまり……そういうことだよな?
「いや、それは……!」
忘れたことなんて一度もない。
嫌いになるなんてこともありえない。
ただ、妙な恥ずかしさがあって。
あの話題に触れるのはタブーのような気がして。
どうしていいかわからなくて……って。
「……ダメだな」
これは全部言い訳だ。
俺のあやふや……というか、煮えきらない、ごまかすような態度がシオンを不安にさせてしまっていたのだろう。
今まで、それを表に出すことはなかったものの……
それがついに、という感じ。
「シオン」
「……はい……」
「えっと、その……このまま一緒にいてもいいかな?」
できる限り言葉を選んだ、精一杯のもの。
でも拙くて、情緒もなにもない。
けれどシオンは嬉しそうにして、
「はい」
にっこりと笑う。
あぁ……
そうだな。
俺は、この笑顔が好きなんだ。
この笑顔をずっと側で見ていたい。
そんなことを思いつつ、俺はシオンに体を寄せた。




