43話 港町オーシャンテイル
「おぉ」
そんな声がついついこぼれてしまう。
街に入ると、さらに賑やかになった。
人々は笑顔を浮かべていて。
とても元気で。
外からではわからないような、この街特有の明るい空気が流れている。
「すごいね、シオン! 俺、ファーグランデよりも大きくて、たくさんの人がいて、なんか空気も違っているような感じがして……!」
「ふふ」
「どうかした?」
「すみません。ご主人様、子供みたいに可愛らしくて」
「う」
そう言われると、ものすごくはしゃいでいたような気がした。
恥ずかしくなってくる。
「あああ、す、すみません。私、なんて失礼なことを……」
「気にしないで。俺も、そういう自覚はあるから」
苦笑した。
「けっこうな田舎で育って、ずっと鉱山で働いていたから、こんな街に来たことなくてさ。なんか、見るもの全部が新鮮で楽しいんだ」
「それはよかったです」
「シオンはどう?」
「私ですか?」
「俺だけじゃなくて、シオンにも楽しいんでほしいからさ」
この際だ。
思っていることを告げる。
「北を目指す、っていう目的は変わらないし、あまり気楽に考えたらいけないんだけど……ただ、考えすぎるっていうのもよくない気がするんだよね。適度にリラックスして、行く先々で色々なことを楽しんだらいいかな、って」
「……ご主人様……」
「だから、シオンも楽しんでほしいかな」
「……ありがとうございます」
そっと、シオンが体を寄せてきた。
猫が甘えるような感じで。
でも、ちょっとドキドキするような感じで。
「私は、ご主人様と一緒なら、どこでもいつでも、とても楽しいです」
「そ、そうなんだ」
ふわっと、軽く触れるシオンの体。
柔らかくて、温かくて……
ついつい先日の夜のことを思い出してしまう。
って、いけないいけない。
昼からなにを考えているんだ、俺は。
「よし! とりあえず、オーシャンテイルの冒険者ギルドに行ってみようか。依頼っていうよりは、情報を買いに行こう」
「はい」
――――――――――
「えっ、船が出ていないんですか?」
冒険者ギルドを訪ねて。
船についての情報を尋ねると、そんな答えが受付嬢から返ってきた。
「はい、すみません……ちょうど今は海が荒れてしまう時期でして、客船は出港していないんです」
「それって、ずっと?」
「いえ、そんなことはありませんよ。海が荒れるのは、だいたい五日ほどで……安全確認に二日ほどで、一週間後には乗れるようになっているかと」
よかった。
一ヶ月とか足止めを食らうかと思ったから、まあ、一週間くらいなら許容範囲だ。
「よろしければ、船のチケットを手配しましょうか?」
「え、そんなことまでギルドでできるんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうしましょう?」
「じゃあ、お願いします」
書類に必要事項を記入して、前金を払い、チケットの手配をしてもらう。
これで一週間後に船に乗るだけ。
あとは、オーシャンテイルでどう過ごすかだけど……
ファーグランデのリヴァイアサンの騒動で、けっこうな額の報酬をもらった。
船のチケットを余裕で買えるくらいで……
まだまだ余裕はある。
決して油断したらいけないけど……
かといって、依頼などを無理に請けて、予定をギチギチにする必要もない。
シオンにも旅を楽しんでほしいから、オーシャンテイルではゆっくり過ごすことにしよう。
「それと、どこかいい宿はありませんか?」
「はい。でしたら……」
受付嬢からオススメの宿を教えてもらい、冒険者ギルドを後にした。
そのままオススメの宿へ。
幸いにも部屋は空いていたので、そのままチェックイン。
部屋に入り、荷物を置いて、ベッドに座る。
「ふぅ……馬車に乗っていただけだけど、なんか妙に疲れたね」
「大丈夫ですか? マッサージなどをしましょうか?」
「ううん、大丈夫。っていうか、そんなことシオンにさせられないよ」
「私はしたいのですが……」
妙に熱っぽい視線を向けられてしまう。
ちょっとドキドキしてしまう。
「そ、それもいいんだけど……」
立ち上がり、シオンに手を差し出す。
「船が出るまでの一週間、観光とかしてゆっくり過ごそう」
「よろしいのでしょうか? お疲れでしたら、私だけで依頼などを請けて……」
「シオンが一緒じゃないとダメなんだ」
旅の一番の目的は、北のノーザンライトにたどり着くこと。
ただ、それだけを考えて行動したら、とても窮屈だ。
先も思ったけど、適度にリラックスした方がいいと思う。
それに、せっかくの二人旅。
単純に北を目指すだけじゃなくて、シオンには、色々な思い出を作ってほしい。
「一緒に色々なことをしよう。それで、たくさんの思い出を作ろう」
「……はい!」
シオンはとびっきりの笑顔で頷いて、俺の手を取った。




