武神と不撓不屈と愚か者の帰還 急
メイドさんは増えるもの
石造りの壁に囲まれた広い部屋で、大山サトシは戦闘用装甲を身につけて体をほぐしていた。壁際にはびっしりと人が並んで囃し立ててくる。少し離れた場所には15人の武装した牛人族がいて、先頭にいる女性がこちらを睨みつけていた。
この決闘で早期決着をして、マリーとジュリアによる戦闘訓練時間を増やされないようにしなければと考えながら、氣を全身の内と外に纏う。なにせ2人の訓練は厳しいので、今以上に増やされたら体が保たないし。部屋の中心に立つ、この要塞の司令官であるルリハが頬が紅潮させ、どこかワクワクした様子で宣言をする。
「それではこれより、牛人族カルメンと牛人族マリーを代表とする決闘を行います。カルメン側は15名。マリー側は3名とゴーレム1体の集団戦といたします。カルメン側が勝利した際は、マリーがラーズに謝罪をして妾となる。オオヤマサトシが所有する豊穣神の踊り巫女サリーの守り髪を譲り渡す。マリー側が勝利した際は、カルメンがオオヤマサトシのメイドとして仕える。以上の条件で相違ありませんか?」
「相違ない!我が血族の汚名をここで晴らす!巫女様の恩寵が異世界人に与えられる事などあってはならない!不義をここで糾す!」
腰まであるまっすぐな艶のある黒髪を振り乱し、美貌を怒りに染めた長身の牛人族大戦士長のカルメンが叫ぶと、応!と大戦士14名が咆哮をあげる。空間がビリビリと震えるようなものすごい迫力だ。
「マリー、あの行き遅れをサトシのメイドにするんですか?もうちょっと若い子の方がいいのでは?」
虎人族のミラナが不思議そうにマリーに尋ねる。2人は少し話をすると仲良しになったようで、まるで昔からの友人みたいに接している。
「サトシはああいう背の高い、雄を見下す気の強いのが好きなんよ。闘気もそこそこ強いし、肉壁にはちょうどよさそうやからなあ。ミニスカートのメイド服を着せて侍らせたるわ」
へえそうなんだとミラナが頷いているが、人の趣味を勝手に決めないで欲しいとサトシは密かに憤慨する。別に背が高くて男を見下す気の強い女性が嫌いなわけではないけれど。あとミニスカートのメイド服はあまり好きではない。ご両親がメイド喫茶を経営している同級生の杉畑君も、ミニスカメイドは亜流だと言っていたし。
「サトシ!このアンジェリカのペットであるからには、身内以外との決闘での敗北は許しません!必ず勝利なさい!万が一、負けでもしたらお仕置きですよ!お仕置き!」
背後にいる武神アンジェリカが激を飛ばしてくるが、この人はまた僕の事をペット扱いしていると恐怖を覚える。
「ペット?」
「あの異世界人は武神様のペットなのか?」
「むうっ、あれは世に聞く異世界人の習性」
「知っているのか?サンダーライトニング」
「異世界人の中には、奴隷ハーレムなどと叫ぶ痛々しいのがたまにいるであろう?その亜種として強き女性に服従し飼われたがる者もいるそうだ」
「そんな特殊な性癖があるのか」
「異世界人やべえな」
「えーきもいー」
ほら、見物客に誤解されている。こういった些細な誤解により間違った認識が広まっていくのだ。サンダーライトニングとかいう、あの剃り上げた頭に日本語で昇天という刺青を入れている鬼人族には、後で抗議をしなければならない。
始め!というルリハの言葉と同時に、牛人族の大戦士たちが向かってくる。サトシの隣にいたゴーレム6号の姿が消えたと思ったら、盾を構えて先頭を走っていた5人が倒れて動かなくなる。兜が砕かれており、意識もないようだ。6号は地面を這うように高速で牛人族たちに接近して、足元から顎を拳や蹴りで打ちぬいたように見えた。
「やるなーマリーのゴーレムちゃん強過ぎないです?脳筋ばっかだけど、牛人族の大戦士たちなのに」
「油断しとるからや。6号は高速戦闘が得意やからなあ」
和やかに話す2人を尻目に、仲間が倒れても吶喊してくる牛人族のひとりとサトシは相対する。2メートルを超え体重は150キロを超えているだろう。分厚く大きな金属で補強された木の盾を、風を斬る速さで体重を乗せ上から叩きつけてくる。体に触れる寸前、氣で強化した掌で捌いて逸らす。体勢を崩す巨体に拳を叩き込もうとするが、盾を手放して筋肉の力で強引に体勢を立て直し、刃引きされた斧を叩きつけてくる。今度は斧の腹に掌を叩きつけて体勢を崩すと、斧も手放し掴み掛かってきた。両手で組み合う手四つになる。とんでもない怪力だが、何故か技を使わずに筋力と闘気による力勝負をしたいようだったので、サトシも応えるように氣を増幅し押し返す。マリーが訓練の時によくやる押し合いっこだ。重心を低くし、全身の力を込める。牛人族の顔色が変わりさらに押し返してくる。均衡したのは数秒だった。慌てて避ける見物客の間を通り、サトシが壁際まで押し付ける。
「参った、俺の負けだ」
手を離し深く頭を下げる相手に一礼し、サトシは部屋の中央に駆け戻る。どうして技を使わなかったのかと不思議な気持ちになる。戦士としての技量は、サトシなどとは比較にならないくらい強い相手だ。力勝負で勝てたのは、ジュリアとマリーという次元の違う存在に鍛えられ続けられて、何とか身についた氣と筋力のおかげである。
部屋の中央では8人を相手に、小さなゴーレムがクルクルと回転しながら、踊るように縦横無尽に駆け回り続けている。牛人族たちも冷静に盾を低く構え、懐に入らせないようにしていた。そこにサトシが横から駆け込む。盾の下から突き上げて跳ね上げると、そこに6号が突っ込み、顎やこめかみを打ち抜き意識を奪う。
「何をやっているのだ!囲んで叩いてしまえ!」
後ろで腕を組んでいたカルメンが顔をどす黒く染めて怒りの咆哮を上げる。端正な顔立ちだけに、怒って表情が崩れるとものすごく怖いなあと思いながら、サトシは戦い続ける。しかし、牛人族の戦士たちは正面からしか向かってこない。手を抜いているわけではないようだが、この決闘にはあまり乗り気ではないように見える。6号の高速の拳の連打を捌き続けていた14人目の戦士が、素早く間合いを取り右手を突き出し制止した。
「もう十分だ。到底、我らが及ぶ力量ではない。これ以上はいけない。負けを認める」
この人は牛人族の戦士たちの中でも飛び抜けて強い。見た目の闘気の量はカルメンの方が多いが、戦闘能力ではこの人の方が上だろう。今も本気を全く出していない。
「ジオ!キサマァ!大戦士長だったとはいえ、族長の血筋の義務を果たさぬ愚か者に負けを認めるなど許さんぞ!どいつもこいつもわたくしをバカにしやがって!もういい!わたくしが終わらせてやる!」
「カルメン様、これ以上は決闘ではなくなります。このような人数差で争うなどあってはなりません。そもそもラーズの素行の悪さは常軌を逸しております。お考え直しを」
意識を失っていた戦士たちは、すでに全員が目を覚ましている。痛々しい者を見る目でカルメンを見つめている。
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!わたくしに逆らう者は皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
カルメンの浅黒い美しい肌が真っ赤になり、全身から蒸気のようなものが吹き出す。角が急激に伸びて、纏っている闘気の総量が跳ね上がり、可視化されるまでに濃密になる。
「こないな狭い部屋で狂乱化するんか」
「うっわイタすぎでしょ」
マリーとミラナが呆れたような顔をしているが、構える事すらしていない。見物客との間に美しい瑠璃色の結界が展開される。
「念の為、みなさんは結界から少しだけ離れてくださいね。ジオさん、カルメンちゃんには全て吐き出させましょう。溜め込んでいるものがありそうなので」
ルリハの言葉に見物客は従い下がる。カルメンを制止しようとする大戦士たちも結界に覆われた。サトシは僕も隔離して欲しかったと思いながら構える。
右手に持った巨大な斧を肩に担いだカルメンが咆哮をあげて吶喊してきた。石畳に脚がめり込むほどの踏み込みから、恐るべき速さで間合い詰めてくる。込められた闘気の強さは圧巻で、動きも力強いが滑らかだ。よほどの修練を積み重ねてきたのが分かる。
ふわりと跳んだ6号目がけて斧が振りおろされるが、空中でくるりと姿勢を変えて斧の腹を蹴り付ける。
「土偶如きの小技など効くかぁぁぁぁガッ!?」
蹴りつけた勢いで小さく回転した6号の爪先がカルメンの顎を蹴り抜く。カルメンは少しよろめいて膝を着きそうになるが、必死に堪えて顔を上げる。叫んでいたからか舌を噛んだようで口から血が出ている。
「バカな!なぜ当たらん!?あらゆるエネミーを叩き潰してきたわたくしの武技が!」
体勢を立て直し、必死に斧を振り続けるが6号にはかすりもしない。美しく力強く速い打ち込みだが、あまりにもまっすぐすぎる。多分、この人はエネミーとの戦闘ではお膳立てされてきたのだ。あのジオと呼ばれていた人をはじめ、牛人族の大戦士たちが場を整えて、最後に打ち込むだけで終わるようにしていてくれたのだろう。その事に全く気がついていないカルメンに対して、サトシは哀れみを覚える。心配し助けてくれる仲間がいるというのに、それが分からないのは哀れな事だと思う。牛人族の大戦士たちは、マリーやルリハに懇願するような視線を送っていた。
「しゃあないなぁ」
根負けしたようにマリーが呟く。訓練の時は厳しいけれどマリーはいつも優しい。大戦士たちの懇願するような視線に耐えられなかったのだろう。
「サトシ、うちが動き止めるからあれをぶち込んでな。日本で教わって言うてたあれや。あんなんでも牛人族の大戦士やから気にせんと叩き込むんやで」
そう言って歩くようにカルメンに近づく。重心が全くブレずに肩が動いていない。歩くだけでその隔絶した戦士としての技量が分かる。見物客からも感嘆の声が漏れたのが聞こえた。
ふわりと6号が場を明け渡すように間合いを取る。怒り狂っているカルメンはもはや悪鬼の如き表情で雄叫びを上げ、マリーに襲いかかる。
「高貴なわたくしの家の武名を汚した偽物めぇ!キサマを大英雄などと認めるものかああああああああッ!」
カルメンの斧に闘気が収束し真っ赤になる。あれはこんなとこで使っていい技じゃないだろうと、サトシは冷や汗をかく。下手したらこの部屋が吹き飛んでしまう。
「そやな、うちは英雄でも何でもない。昔も今もただのマリーや」
破壊的な力が込められ振り下ろされた斧を、マリーは素手で掴み取る。掴んだだけでなく、そこに込められた闘気が霧散し全て消えている。
「やっば、マリー強すぎでは?御伽話よりすごいんですけど」
後ろに来ていたミラナが興奮したように話しかけてくる。そうマリーはとんでもなく強い。近接戦闘ならジュリアに匹敵するくらいの次元にいるとサトシは思っている。
マリーが掴んだ斧を捻ると、呆然としていたカルメンが回転するように投げ飛ばされる。地面に叩きつけられる寸前、体勢を立て直して両足から着地したのは見事だと思うが、そこはもうサトシの間合いだった。石畳を踏み抜き脚を伝わって昇ってくる反動の力を、腹に溜めた氣と混ぜ合わせ、全身の関節と連動し力を加速しながら拳に伝える。当たる瞬間に拳に全ての力を収束し、カルメンの分厚い鎧に覆われた腹に叩き込む。
「バカな……竜拳を……異世界人が」
そう言って膝を突いて倒れ込みそうになるが、涙を流しながら立ち上がる。
「わたくしは負けない!絶対に負けない!家の汚名を必ず取り除くんだあああああ!」
音もなく近づいたマリーが拳を叩き込むと、カルメンの体を守っていた頑丈な鎧が砕け散る。
「そんな……貴陽石を混ぜ込んだ鎧が」
恐怖したように後ずさるカルメンの角をマリーが掴んで地面に引き倒す。カルメンは必死に起きあがろうとしているようだが、びくともしない。
「降参しぃお姫様の道場武技ではどうにもならんわ。あのジオという人に頭下げて、基本から習い直し」
マリーが諭すように語りかけるが、憎悪に歪んだカルメンには通じないのか、怯えながらも悪態をつく。
「ふざけるな!家に伝えてキサマを必ず叩き潰してやる!お前の大切なもの全てを必ず潰しヒッ!?なになに?うそでしょやめてやめてやめてよぉ!そんなうそうそ嫌だぁやべてぇ!やめてくださいそれだけはゆるしてぇ!謝ります謝るからぁ!ごべんなぎゃあああああああああああ」
マリーは悲しそうな顔をした後、掴んだカルメンの角を握り潰す。その握り潰した角をサトシに放り投げてきた。
「この人はうちが貰ってく。ここでは更生は無理やろからな。きちんと躾て返すさかいに。都の族長マリアにはうちから連絡する。ルリハ様、決闘の結果です。構いませんね?」
牛人族たちは俯き、ルリハは悲しそうに頭を下げる。
「ごめんなさいねマリー様。カルメンちゃんのお家と我々の種族との関係性で、強くは指導出来ませんでした。全てお任せいたします。マリアにはわたしからも伝えておきます」
こうして、決闘は終わった。大団円みたいな空気になってはいるが、角を折られてカルメンは泣きじゃくっているし、その角を渡されたサトシはどうしていいか分からない。
「へぇやっぱ綺麗だねぇ!没落したとはいえ、流石は牛人族3大貴族のお姫様の角だよ!すんごい力秘めてるし!アクセサリに加工しとく?この要塞に加工が得意な子いるよ?」
手元を覗き込んできたミラナの言葉に、サトシは顔が真っ青になる。
「カルメンさんって、牛人族の貴族のお姫様なの?」
「そうだよー知らなかった?数年前までは次の族長候補だったはずだよー。父親がなんかすっごい商人の長男で、母親が今の族長とライバルだったすっごい家柄だからさー。最近はかなり評判落としたけどねー」
返してお願いしますとしゃくりあげながら、こちらを上目遣いで見つめてくるカルメンが怖い。マリーに心を折られたようだけど、サトシを見る目にはまだ殺意を感じる。こんな怖い人がメイドさんになって側に居たんじゃ安心して眠れない。どうしてマリーは勝った場合の報酬としてカルメンをメイドさんにする事にしたのか。メイドさんなんて、エルフ温泉郷の謎のメイド長と銀髪メイド仮面だけで十分ではないか。
そもそも、サトシはメイドさんに思い入れがない。高校3年間ずっと隣の席だった杉畑君が、メイドさんについて語り続けていたから詳しくなっただけなのだ。むしろ、ギャル達に大山テメーメイド好きなんだろう?ご主人サマとか言われたいんだろ?キッモ!ギャハハ!と嘲笑された事が心の傷になっている。ちなみに、それを隣で聞いていた杉畑君は羨ましいと興奮していた。
「ほら、サトシいこ?こっちだよ!」
いつの間かミラナに手を引かれて廊下を歩いていた。過去のトラウマを思い出すと意識が飛んでしまうようなので、気をつけようと思いながらもどこに連れていかれるのか不安になる。
「ミラナさん、どこに行くの?」
「その角を加工してもらわないとね。流石にそのままだとマズイし」
左手に美しい真っ白なカルメンの角を握ったままなのを思い出し、サトシはダラダラと冷や汗を流す。
「これ、カルメンさんに返したいんだけど」
「それはダメ!ルリハ様が立ち合い人になった決闘だからね!顔を潰すのは許されない」
とにかくこの角はマリーにでも渡して、メイドさんになる約束はなしにしてもらおう。仲間たちのところに戻ったら、頼りになる我らがリーダーのエリナがいる。エリナなら何とかしてくれるやろと、サトシは考えるのをやめた。工房が集まる場所に連れて行かれ、ミラナの友人だというムゥという名前の鬼人族が、角をブレスレットにしてくれた。どういう技術かわからないが、わずかな時間で腕に巻き付くような形状に加工してくれたので、サリーから貰った髪のミサンガと同じ場所に付けておく。
「ミラナさん、ありがとうね。決闘は予想外だったけど何だか楽しかったよ」
「そうでしょそうでしょ!感謝するんだぞ!あと、あたしのことはミラでいいよ!家族はみんなそう呼ぶし!」
家族ではないんだけどとサトシは思うが、それは言ったら駄目な事はわかる。こんな遠い要塞にくる事はもうない。これでお別れかと思うと少しだけ寂しい。
「うん、ミラありがとう。元気でね」
「あたしはいつも元気だよ!じゃあ来月には会いに行くからね!サトシは沢山の女の子侍らせたらダメだよ!」
女の子を侍らせてなどいない。お尻を蹴られたりはしているけれど。
「来月、、、?ミラはこの要塞勤務じゃないの?」
「うん!来月には戻れるから、異動願出すんだ!サトシは温泉郷のサーシャ姫さまの護衛任務についてるんだよね!あたしもそっちに配属してもらうからね!」
「うん、それじゃあまた来月……」
「あたしはルリハ様の護衛に戻るからね!元気でねサトシ!今は時間ないけど、次はすっごいのしたげるからね!」
転移装置があるという部屋の前まで案内してくれ、満面の笑みで可愛らしく両手を振り、軽やかに立ち去っていくミラナ。可愛かったし親切にしてくれたけど、また会うのかとちょっと引っかかる。なにせ陽キャの雰囲気をプンプンさせている娘だったので。
「大丈夫きっと大丈夫。部隊に戻ってエリナに相談すればきっと大丈夫。報連相大事」
サトシは現実逃避をしながらも、部屋の前にいる警備の人に声をかけて入れてもらう。部屋の中は石造りになっており、中央にゲートが開いている。
ゲートの前ではルリハとアンジェリカが挨拶を交わしている。マリーの隣にはものすごくスカートの短いメイド服を着たカルメンが立っていた。必死に裾を引っ張り足を隠そうとしている。よく見ると確かにお姫様にしか見えない高貴さがある。今はパチモンにしか見えないメイド服を着せられているけれど。
「皆さん、すみません。お待たせしました」
「あら、サトシ様。我々も今きたばかりですよ」
「サトシ!遅いですよ!飼い主に恥をかかせるものではありません!」
ルリハは優しく微笑んでくれるが、アンジェリカは相変わらずサトシをペット扱いしてくる。部隊に戻ったら2度と近づかないようにしようと決意する。
「ほな帰ろか。なんや長いような短いような、変な3日間やったなぁ」
マリーが感慨深そうに呟く隣から、カルメンの視線がサトシの左腕に飛んでくる。
「わ、わたくしの角をブレスレットに……異世界人め……」
「カルメン、めっ!やで!サトシのメイドになるんやから。ちゃんとご主人様って言わなあかん」
マリーに注意され、申し訳ありませんと悲鳴をあげ怯えたような表情になるが、サトシを睨む視線には殺意が交じっている。
「ご、ご主人様。よろしくお願いします」
カルメンは今にもクッ殺とか言い出しそうな雰囲気を出している。サトシの好みではないので顔を逸らす。絡まれたくない。なにせ、ついさっきまで皆殺しとか叫んでいたしこの人。精神的な疲労を感じながらも、ようやく仲間たちのところへ帰れると、少しだけ安堵しながらサトシは転移ゲートを潜った。
転移ゲートを出ると何故か牛人族のメイドさんが2人いた。歳の離れた姉妹かなと思うくらいよく似ている。膨れっ面をしたジュリアが苛立つようにつま先で地面をタシタシ!と叩き、満面の笑みをしたエルフのお姫様か抱きついてくる。
「お帰りなさい旦那様!サーシャはきっとご無事に戻ってくると確信しておりました!」
サーシャの圧巻の柔らかな胸部装甲の質量に意識を持っていかれそうになる。相変わらずすごい凄すぎるけれど、ジュリアが睨みつけてくるので顔を慌てて引き締める。金髪のメイド長は笑いたいのを必死に堪えているように見える。
「わたくし、旦那様の為にお世話をするメイドを用意しておきました!もちろん、わたくしもお世話しますからね!嬉しい?旦那様嬉しい?」
背の高い黒髪のメイドさんが優しく微笑みながら頭を下げる。妹らしき方のメイドさんは不服そうだ。殺意溢れるメイドさんを引き取って貰おうとしたら、メイドさんが増えていて、サトシはもう訳が分からない。
「ただいま戻りました。ご心配をおかけしてすみません。あとメイドさんは間に合ってます」
サトシたちが深淵大陸に行っている間、こちらでも色々とあったようだ。ご機嫌のよろしくないジュリアを見て、これは荒れそうだとサトシは深く深くため息をついた。
「ルリハ様、ラーズさんが姿を消しました」
「やはりあの子でしたか。東の都市国家でしょうね」
「はい、懐柔されたか自分から持ちかけたか。カルメン様も色々と吹き込まれていたのでしょうね」
「困ったものです。平和に過ごしたいのに、それを状況が許してくれない。あちらでも何か異変があるのでしょうね。もしくは深淵域種に取り込まれたか」
「偽情報しか触れさせていないので心配はないかと思います」
「はぁ困ったものです。何もかも吹き飛ばしたくなりますねミラ」
「ルリハ様」
「冗談ですよミラ。来月にはサトシ様のところに行くのでしょう?あのギフテッドは凄まじいですね。アンジェリカ様が執着するくらいですから。うちからも何人かハーレムに派遣したいものです」
「マリーに話をしておきます。サーシャ様とも親交がありますのでお願いしておきますね」
「お願いしますミラ。あれだけのギフテッド保持者が異世界から来たという事は、次の大侵攻は近いですね。準備を急がないといけません」




