武神と不撓不屈と愚か者の帰還 破
暑い暑すぎる
大変な事になっちゃたなあと、大山サトシは立ち尽くす。深淵域種とかいう何だか不気味なエネミーの転移魔法により、深淵大陸とかいうゲームならラストダンジョン手前の場所に飛ばされてしまった。それでも、武神アンジェリカとマリーとゴーレムたちが一緒だったので、2人から見たら足手纏いのサトシでも、何とか無事に目的地である12種族連合の監視要塞に辿り着くことが出来た。
ようやく、転移装置を使って仲間たちがいる場所に帰れるかと思ったら、魔力の微調整にあと半日かかるらしく、準備が整うまで要塞を見学させてもらう事になった。安全な場所を観光気分で案内してもらっていたはずなのに、練武場という訓練をする広場でサトシは身長2メートルを超える牛人族の集団に囲まれていた。案内役の虎人族の女性が必死に説得をしてくれているが、殺気立つ牛人族たちは収まりそうにない。どうしてこんな事になったのかと、サトシは漏れそうになるため息を堪えて天を仰いだ。
「アンジェリカ様、マリー様、オオヤマサトシ様。無事に到着されて安心しました。道中は大変だったでしょう。転移装置はあと半日もすれば使用可能となりますので、それまではお体を休めてください」
海沿いの高台にある12種族連合の監視要塞。その司令室にサトシたちは招かれていた。漆黒のドレスを身につけた、ぬらぬらと艶のある真っ白な肌と黒髪を持ち、切長の目をした美女は柔らかく微笑み歓迎の意を示してくれている。
「ありがとうございますルリハ様。魔人族の皆さんのお心遣いと歓待も受けましたので、何事もなく辿り着く事が出来ました。隧道に居た亜龍はマリーが狩りましたので、交易再開の使者が来るかと思います。配慮を頂ければ幸いです」
蛇人族のすごく偉い人らしいルリハは、この深淵大陸監視要塞が出来た当初から、ずっと司令を任されている歴戦の指揮官だという事だ。何だかすごく優しそうな人で、色々と気遣ってくれている。到着してすぐにシャワーを貸してくれたし、サトシの戦闘用補助服も洗濯に出してくれ、予備用のものを貸してくれた。
「アンジェリカ様のお手を煩わせて申し訳ありません。あの狭い場所で魔法を使うと崩落の危険がありましたので、なかなか対処が出来ませんでした。マリー様のご高名は以前から伺っておりました。改めて感謝を致します。ありがとうございました。魔人族の皆様との交易は、以前にお取引のあったものを準備しております。すでに使者を出しましたのでご安心ください」
アンジェリカとルリハは知り合いらしく、和やかに会話をしていた。そんな中、何故かマリーがサトシの隣に座り体を密着させてくる。短い角を左腕に擦り付けるようにしてきて、何だか電流が走ったようにゾクゾクして気持ちよくなり、いかんいかんと顔を引き締める。ルリハの後ろに立っている護衛らしき2人から凝視されていて、サトシは居た堪れない気持ちになってきた。護衛の1人は牛人族だ。2メートルを超える立派な体格をしている。厳しい表情で睨みつけてきているが、マリーは気にもしないで甘えるように、柔らかく角を擦り付けてくる。
もう1人の護衛は小柄な虎人族の少女だ。腰に短剣を吊っていて、サトシと視線が合うと満面の笑みになり小さく手を振ってきた。ピンク色の柔らかそうなショートの猫毛は何処かで見たような気がする。
「魔人族の集落に寄ったとなれば、サトシ様は大変だったのではないですか?歴史的な背景がございますから、気を悪くなさらないでくださいね」
ルリハが気遣うように言ってくれるが、サトシに大変な事は別になかった。なかったが
「子供たちに懐かれたようで、別れ際に泣かれたのは困りましたね。それ以外は良くしていただけたと思います」
「魔人族が子供を?それはまた驚きですね」
困惑したようなルリハ。虎人族の少女はウンウンと深く頷き、牛人族の男性は顔を顰めて吐き捨てるように呟く。
「魔人族は他種族に子供を会わせない。これだから異世界人は」
「ラーズ、私のお客様ですよ。無礼は許しません」
「は!ルリハ様、申し訳ありません。しかし、明らかな嘘を見過ごす事は出来ません」
ラーズと呼ばれた牛人族は、汚いものを見るように睨みつけてくる。でも、魔人族の子供たちに懐かれたのは本当だしなあと、サトシは困惑する。
「ラーズさん!サトシ様は嘘はつきませんよ!だってすごくいい匂いがしますから!サトシ様!あたしのこと覚えていますか?自衛軍の要塞でお世話になったミラナですよ!」
満面の笑みで両手を可愛らしく振ってアピールしてくる虎人族の少女が誰だか、サトシはやっと思い出した。仲間のサキとセイラが拐われた時、ドーリー内で襲ってきた子である。虎人族の大戦士の妹だと、基地司令から聞いた覚えがある。あの時は緊急電源が作動せず暗かったので、小さな子供だと思っていたが、小柄なだけで子供ではない。しかも、サトシが苦手な陽キャの匂いをプンプン漂わせている。
サトシは学生時代にイジメを受けていた。男子からはとある出来事があり絡まれる事はなくなったが、女子からは高校を卒業するまでずっとイジメられた。
例外なく学校のカーストトップであるギャル達から標的にされていたのだ。あの子たちは何故か、サトシに焼きそばパンとエクレアと午睡のミルクティーを買ってこいとパシらせようとしてきた。断ると罵詈雑言が飛んできたのでひたすら俯いて耐えていたが、隣の席の杉畑君はギャルにイジられるなんて羨ましいと興奮していた。中にはサトシの家のそばで待ち伏せしている子までいて、家の中に入れろと凄んできた事まであった。
ちなみに杉畑君の夢は、ご両親が経営しているメイド喫茶を継いで、メイド派遣業を起業してメイド業界の覇権を取る事だと語っていた。高校の卒業式以来会っていないが、夢は叶ったのかなあと思い出に浸っていたら、裾を引かれたので顔をあげるとミラナの顔がすぐそばにあって、サトシは腰を抜かしそうになる。
「はい、それじゃ行きますよ!あたしが案内してあげますからね!」
周りを見回すとミラナ以外誰もおらず、サトシは思考が停止する。そのまま手を引かれ、部屋から連れ出された。
「サトシはどこ見たいです?あたしのお部屋行く?すぐそこだよ?」
ミラナからはすでにタメ口で呼び捨てにされている。めっちゃ体の位置が近くてグイグイ来る上に、めっちゃ可愛くてボディタッチが多いものだから勘違いしそうになり、これだから陽キャは罪深いとサトシは密かに憤慨する。アンジェリカはルリハとお話があるとの事で別室に移動し、マリーはラーズに稽古をつけて欲しいと侮った様子で要請されたそうで、無表情になり了承したそうだ。マリーの稽古はすごくすごい厳しい。サトシは身をもって知っているので、纏っている闘気が薄く見えたラーズは大丈夫かなと心配になる。そんな事を考えていたら、左腕にとても柔らかで暖かな何かが巻きついて体から力が抜けそうになる。
左腕に目をやるとミラナの長くて綺麗なしっぽがギュッと巻きついていた。
「異世界人ってシッポ好きだよね!自衛軍の要塞にいる時も、あたしがちょっとシッポ振ったげたら異世界人はみんなすごい目でガン見してきたし!サトシもシッポ好き?」
これだから陽キャはと呆れる。こやつらは自分たちの価値観が絶対だと思っているのだ。サトシの家には愛猫のモモがいる。黒白のハチワレで黒いシッポがチャームポイントの猫だ。自宅警備を任務としていたサトシの朝はモモのお世話からだった。タンスの上から枕元に飛び降りてきて、体をブラッシングするように要求されていた。ブラシで丁寧に毛をすくと、全身を擦り付けてきて、最後にシッポでぺシン!と叩いてご飯を食べに行っていたのだ。他所の子のシッポに興味などあるわけがない。
「別に……」
伝説のセリフを会心のタイミングで返してやった。陽キャめ!何もかもが自分の思い通りに行くと思うな!けれど、このシッポふわふわでなかなかやるではないかと、サトシは態度に出さずに心の中だけで愛でる。
「やっぱりサトシもシッポ好きなんだねえ!すごいことしたげよっか?番にしかしちゃダメなすごいことだよ?」
ニンマリと嬉しそうな顔をして、耳元で囁いてくるミラナに、絶対に屈するものかと決意する。凄いことって何なのか、微かに気にならないわけでもないような気持ちにはなるけれど。ミラナにからかわれながら歩き続けていると、バルコニーのような場所に辿り着いた。
「ここが物見櫓を除いたら、監視要塞でいちばん眺めがいい場所だよ!すごいっしょ?」
巨大な3重城壁と水堀の向こうに、森を挟んで雪化粧がされた雄大な山々が見える。かなり標高が高そうな山脈である。
「あそこが絶望山脈って呼ばれる激ヤバな場所なんだ。あたしも生存能力とかくれんぼには自信があるけど、あそこには入りたくないなあ。すっごい強いエネミーが密集してるし、キャンプできる場所が殆どないんだ」
魔人族の郷はあの山を超えたところだ。そんな過酷な場所で一生懸命に生きている。亜龍を召喚して、魔人族の生命線である隧道を塞いだという、東にある都市国家とやらは何をしたかったのだろうか。こんな過酷な世界では、手を取り合うべきなんじゃないかとサトシは思う。しかし、それが甘い考えだと後に思い知ることにもなる。
「見てる分には綺麗なんだけどねえ……」
ミラナのよく動く表情が厳しくなる。山の方から何かの強烈な視線をサトシも感じた。まるで刃物を目の前に突きつけられたかのような視線だ。次の瞬間、山から何かが飛んできた。凄まじいスピードであっという間に城壁の側まで来た時に、それが小型自動車くらいの岩だと認識する。このままだとこのバルコニー辺りに着弾するとサトシは構えるが、ミラナは平然としていた。
「大丈夫だよ!ルリハ様の結界があるから」
その言葉通りに、城壁の少し手前で岩は弾かれて砕け散る。視線はまだ感じていたが、しばらくすると興味を無くしたように消えた。
「山のヌシってのがいるらしいんだ。城壁よりでっかいお猿さんみたいなんだけど、たまにああやって岩とか投げてくる。自衛軍から来た新しい結界発生器があるし、ルリハ様の神級結界は絶対に抜けないけどね!」
それって王様なコングじゃないかと思う。こっちの世界にはフィクションの大怪獣がいるらしい。でも、サトシの世界でもチンパンジーの力は人間などとは比較にならないくらい強いし、野生では残虐な行為を平然とする。猿というなら類人猿から進化して、大量破壊兵器を作った人間こそが、もっとも残虐で恐ろしい存在なのかもとも思う。そう、それは生きとし生けるものの原罪であり
「サトシ!お腹空かない?あたしはもうお腹ぺこぺこなんだ!食堂へ行こ?士官用のお部屋でご飯とお菓子奢ったげる!」
小難しいことを考えていたら、ミラナに手を引かれた。小さな体なのにものすごい力だ。この大陸の名物らしい料理の名前を色々と教えてもらいながら、サトシは食堂へと向かう。途中、驚愕するようなものすごい数の視線を感じたり、すれ違う人が会釈した後、信じられないものを見たように二度見してくるのが不思議だった。
案内された食堂は本部棟の2階にあった。この要塞は城壁と天然の岩壁に囲まれており、その中に約12万人が暮らしているそうだ。その胃袋を支えている大規模食堂は30ヶ所もあり、ほぼ全てが24時間稼働しているという。本部棟の2階食堂は士官用のものらしく、レストランのように各テーブルに給仕が付いていた。
こういう形式の食事は、幼い頃に母に連れて行ってもらっただけだから緊張したけれど、給仕の男性がとても親切だったし、ミラナが話し上手だから楽しめた。相変わらず周囲からは驚愕の視線が集まってきているが、ミラナが気にしていないようなので、よくあることなんだろうと思い、サトシも気にしないようにする。食後のコーヒーとチョコレートケーキを楽しんでいると、ミラナが目を伏せながら呟いた。
「今日は楽しかったぁ……遅くなったし、終電も無くなっちゃったね?」
チラリと左腕のデバイスを見ると18時を過ぎたところだ。そもそもこの大陸に電車などないはずだ。
「あの、ミラナさん?」
「あたし、何だか酔っちゃったみたい……」
頬を染めて上目遣いで見てくる。めちゃくちゃ可愛いけれど、2人とも水とコーヒーしか飲んでいない。
「いや、酔うようなものは飲んでいな」
「あたし、今夜は帰りたくないの!」
ミラナはこの要塞に配属されているんだから、帰りたくないって言われてもとサトシは困惑する。そもそも言っている事がおかしい。長いシッポが足に巻き付いてきて、艶かしく内腿を撫でてくる。このシッポなんだかおかしい。触れられると体の力が抜けて思考が鈍くなる気がする。ぴたりと体を寄せてくるミラナの左手に本があるのを見つけ、それを取り上げる。
「あ!ダメだよ!サトシそれダメ!」
本の表紙に書かれたタイトルを見て、サトシは頭が痛くなってきた。
『異世界人の雄を虜にする御作法 これであなたも異世界勇者をゲッチュ♡ 高町ラミア』
とんでもなく酷いタイトルだ。流し読みしてみるが、サトシの世界によくある恋愛指南本よりも酷い。それに、こちらの世界に苗字というものはほぼない。つまり、著者はサトシの世界の人間だという事だ。
「返してーサトシ返してよー!それ異世界人に見せたらダメなやつなんだよー!」
必死に手を伸ばしてくるミラナに本を返すが、ここはきちんと言っておかねばならぬとサトシは気合いを入れる。
「ミラナさん、その本は出鱈目ですよ。そんな事で虜になる男性なんていません」
「そんな事ないもん!ラミア様は8代前の異世界勇者様を追っかけて、次元と時間の女神たちをステゴロで殴り倒して、異世界渡航技術を手に入れ、空間と時間を超え、テレビから這い出て勇者様と再会して無事に結ばれたんだよ!本に書いてあるもん!勇者様も喜びに震えながら気絶したんだよ!」
そらテレビから女性が這い出てきたら、いくら勇者とはいえ震えて気絶するだろう。そんなの伝説のジャパニーズホラーではないか。怖すぎる。
「それにほら!これ見てよ!ラミア様の直筆サイン入り!すごいっしょ!」
巻末に書かれているサインをドヤ顔で見せつけてくるが、サインの隣に書いてある『夢はいつか叶うんだゾ♡』という丸文字に何だかイラつく。
「分かった分かりました。ミラナさんがその人のファンなのは分かりましたけど、僕で実践するのはやめてくださいね」
不服そうにしていたミラナの、それじゃあたしのお部屋に行く?という誘いを断り、マリーと合流する為、1階にある練武場へと向かう。要塞に詰めている戦士たちが訓練を行う場所らしく10ヶ所あるという。階段を降りてしばらく歩いていると、前から牛人族の集団が歩いてくる。2メートルを超えるような巨体ばかりで、全員が凄まじい闘気を内包している。
「サトシ、端に寄ろう。牛人族の大戦士たちだ。目を合わせたらダメだよ」
低い声で囁くミラナに従い廊下の端により顔を伏せる。戦士たちは丁寧に会釈をして通り過ぎようとしたが、先頭を歩いていた女性から腕に視線を感じた。
「もし、そこの異世界の方。わたくしは牛人族の大戦士長を拝命しているカルメンと申します。突然に声をかけるご無礼をお許しください。あなたが腕につけておられる紅い守り髪が気になりまして。よろしければ、誰から託されたものかお聞かせ願えませんか」
この戦士たちの集団の中で、カルメンと名乗った女性は小さな方だ。サトシより少しだけ背が高く、細身で滑らかな筋肉で覆われたモデルのような体型をしている。しかし、全身に纏う闘気は他の牛人族とは桁違いに密度が濃く大きい。もしかしたら、マリーに匹敵するかもしれないレベルだ。
「はい、これはエルフ温泉郷を出立する際、牛人族のサリーさんから頂いたものです」
そう言った瞬間、戦士たちの全身から殺気が膨れ上がる。カルメンは無表情のまま、左手を横に出して制する。
「豊穣神と雷神の寵愛を受けし、我ら牛人族の踊り巫女サリー様から頂いたと?異世界人である貴方が?」
頂いたというかサリーには尻を蹴られた上に、長時間のお説教をされた挙句、髪の毛で編んだミサンガを無理矢理括り付けられたわけだが、それを言ってしまうのは不味いような気がする。
「まあまあカルメン様、落ち着いてください。サトシは大英雄マリー様と同じ部隊なんですよ。マリー様とサリー様は幼馴染と伺った事があります。深い意味はありませんよ」
マリーの名前が出た途端、戦士団はさらに殺気立つ。カルメンも不快そうな表情になる。
「ミラナ殿、他種族の貴女には理解出来ないだろうが、マリー殿を我らは大英雄と認めてはいない。取り消して頂きたい」
「あはは!やだなー皆んな知ってる事じゃないですかー!味方に背中から撃たれながら、7体のゴーレムを率いてデーモンの大軍勢から都市を守り抜いた不撓不屈のマリー!アークデーモンを単独撃破し続けた牛人族の大英雄!御伽話にもなってますよー」
「口が過ぎるぞ小娘。ルリハ殿の側仕えとはいえ」
「ルリハ様だろ。様を付けろよ行き遅れが。ルリハ様の神級結界がなきゃ、この要塞は持たねえだろうが」
双方から強烈な殺気が立ち上り、サトシは息をするのも苦しくなる。ミラナの体からは陽炎のように濃密な闘気が立ち上り始めた。牛人族たちは腰にある武器に手をかけている。双方の緊張感が頂点に達した時に、左にある壁をぶち抜いて何かが飛んできた。ルリハに面会した時にいたラーズだ。身につけていた戦闘用重甲冑は砕け散り、右手に握っている斧は刃の部分が無くなっている。
「だらしないですね。これが大戦士?マリア叔母様はこの程度の者をわたしの番にしようとしたのでしょうか?呆れるしかないですね」
壁の向こうから小さな体が現れる。サトシは緊張しながら、日本語の関西弁ではなく異世界語で呟くマリーの両手を見た。素手である事に少しだけ安心する。たとえ模擬戦用の武器だとしても、マリーが握ればそれは兵器になってしまうからだ。
「マリー、待たせてごめんね。ミラナさんにお食事をご馳走してもらっていたんだ」
いつものように声をかける。無表情だったマリーの表情がふにゃりと溶けて笑顔になってくれた。
「そうなんや。ミラナ様、おおきに。サトシに優しゅうしてくれて、うち嬉しいわあ。これからも仲ようしたってなあ」
「もちろんです!マリー様、お話があるので少しだけお時間を頂けませんか?横入りをするつもりはありませんから」
「ええよ。サトシを守ってくれる人数は多い方がええからなー。お母ちゃんはまだみたいやし、ちょっとお茶でも飲みながらお話しよか。あ、サトシはちょっと外してな?大事なお話やから」
きゃっきゃとはしゃぎながら、何事もなく立ち去ろうとする2人に、呆然としていたカルメンが怒りに顔を歪めながら怒鳴りつける。
「マリー殿!いかなる理由があるにせよ、高貴なる血筋のラーズに対するこのような暴挙は許せん!説明を求める!」
めんどくさそうに振り返ったマリーの表情を見て、サトシの全身が震える。これは不味いブチ切れていらっしゃる。
「稽古をつけてほしいと言うので、練武室に行って待っていたら、武装をして後ろから油断大敵と叫びながら襲いかかってきたんですよ。未熟者なので、少しお仕置きするくらいで許してあげました。もう少し教育をなさった方がよろしいですね」
「戯言を!末席とはいえ、誇り高き牛人族の族長の血筋のラーズがそのような事をするはずがない!決闘を申し込む!わたくしが勝てば、ラーズに謝罪し妾になって頂く!」
何言ってんだこの人と、サトシはカルメンを見つめる。不味い不味過ぎる。マリーが暴れ出したらサトシではどうしようもない。
「あはは!面白そう!マリー様とあたしとサトシが組んで、集団戦でいいんじゃないですか?一方的になりそうですけどー(笑)」
「うーん、そやなあ。サトシの訓練にちょうどええかもなあ。ほなら、そっちはここにおる15人全員でええよ。こっちはうちとミラナ様とサトシ。それに6号の4人で相手したるわ」
「その言葉、お忘れ無く!異世界人!決闘の後、その守り髪は戦利品として頂くからな!1時間の準備期間をくれてやる!謝罪の言葉を考えておけ!」
怒髪天をつくような怒りの表情で、カルメンと戦士たちは去っていく。サトシは見送りながら、顔を真っ青にする。
「マリー、本気は出さないよね?力比べだよね?」
「それはサトシ次第やなあ。うちに手加減して欲しかったら、サトシが全員を打ち倒すんよ。6号はつけたるさかいに。危なくなったら、ミラナ様とうちが介入するさかい。そんな事になったら、ジュリアちゃんと相談して、訓練の時間増やすからなあ」
とんでもないことになってしまったとサトシは項垂れる。牛人族たちとの決闘はまあいいとして、訓練時間を増やされたりしたら体がもたない。
「6号、よろしくね……」
ずっとそばにいてくれた、マリーのゴーレム6号は任せておいて!というように、親指をグッとサムズアップして突きつけてくる。その小さな姿に心強さを覚え、サトシは牛人族たちと決闘をする為、戦闘用装甲を取りに駆け出した。
『孤風刃ミラナ』
虎人族の大戦士長の末の妹。風魔法と隠蔽魔法の達人であり、家族とルリハ以外の何者にも心を開かないことで有名な少女。『暴風シェラ』と呼ばれる英雄級冒険者の姉以外、何者も触れられれない速度を誇る。




