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柏原ユウキとエルフの異世界屋台グルメ巡り

幼い頃の夏の屋台に感じた、あの胸のトキメキを思い出す

 潮風が微かに混じる夕暮れの港町を歩きながら、ホントにあいつは心配ばかりかけやがると柏原ユウキは憤る。


「おい!ユウキ!見ろあれ!タコ焼きだって!あんなグニュグニュの海の悪魔を食うのか?すげー!」


 この町の郊外にある特設ステージでは、明日から温泉郷の王女にしてスーパーアイドルであるサーシャのライブが開催される。会場の収容人数は3万人にもなるがチケットはFC会員だけで完売しているという。

 しかし、チケットは取れずとも無料のライブビューが町の広場や飲食店で配信されるとあって、20万人以上の観光客が訪れていると、ユウキと同じくサーシャの護衛任務についているエルフの双子が語っていた。


「東西イカ焼き合戦!?なんだあれは!あの白いグニュグニュも食べるのか!?人族は恐ろしいな!」


 港町の宿発施設だけでは足りず、高台の防壁側にキャンプ場まで作られるくらい人が押し寄せていた。町でも観光客目当ての屋台が24時間立ち並び、まるでお祭りのような雰囲気になっている。


「おいユウキ!聞いてるか?お菓子あるぞ!あのドーナツ美味しそうだから買ってくれ!」


 そんな明るい雰囲気の中、ユウキの表情はイマイチ冴えない。同じ部隊の仲間であり心の友である大山サトシが、深淵域種とかいうエネミーの魔法で別大陸に飛ばされてしまったのだ。しかも、歴代の魔王が降臨するという異世界でも屈指の危険地帯らしい。

 約80年前に降臨した魔王により、その大陸にあった大半の人類国家は壊滅してしまったそうだ。そういえば、異世界に来てからは様々な種族を見たが、ユウキたちの世界のように類人猿から進化した種族には、まだ出会ったことがねぇなと思う。


「おい!ユウキ!コノヤローバカヤロー!友達が飛ばされて落ち込んでても何にも解決しないぞ!きちんとメシ食って元気出せ!ドーナツ買え!」


 頭の中で黒髪に巫女服を着たチビがギャンギャン騒いでいる。異世界に来てからユウキに発現したギフテッドにより交神できるようになった、こちらの世界でもっとも新しい神であるという『機神』だ。

 意思を伝えられたのはユウキが初めてらしく、何かとお供えを要求してくる。

 最初は貫頭衣のようなものを着ていたが、最近は巫女服姿で出てくるようになった。

 しょうがねぇなと、目の前の屋台で揚げたての小ぶりなドーナツを5個買うと、手のひらから紙袋ごと消えた。


「美味い!美味すぎる!やはり甘いものは最高だ!」


 ユウキにはどういう原理か理解出来ないが、はしゃいでいるチビに少しだけ気分が明るくなる。


「ユウキ!安心しろ!あのマリーとかいう牛人族はめちゃくちゃ強いし、ゴーレムたちもとんでもなく強いぞ!」


 サトシの介護を担当していたマリー。彼女は見た目は小柄でたまらんスタイルの牛人族の美女だ。あまりに美人すぎて一目惚れをしたユウキは、本能の赴くままに口説いて、手酷いお仕置きをされてしまった。

 あのお仕置きだけは思い出したくもねぇと身震いする。元々、牛人族の大英雄とまで称されている冒険者だったらしい。あの姐さんが一緒なら、ちょっと抜けたとこのあるサトシでも大丈夫かなと思う。


 少し安心したら途端に腹が減ってきて、ユウキは苦笑いする。

 昨日は深淵域種とかいうバケモンに寄生され、襲撃してきた牛人族の貴族であるバランや、同じく寄生されていたバランのメイドだというピンク色の髪をした牛人族の親子の事情聴取に参加した。機神の意見も参考にしたいと、サーシャの警護団より要請されたからだ。

 バランは10年以上前から寄生されていたらしく、記憶が曖昧だった。メイド親子はどこかおかしい事には気がついていたが、どうする事も出来なかったそうで、昨年辺りから記憶が曖昧らしい。機神のチビが見ても、すでに寄生されていた影響は抜けているらしい。

 ユウキから見て、あのバランとかいう野郎は、何だか雰囲気がサトシに似ていて負の感情を抱きにくかった。出会い方が違ったらダチになれたかも知れねぇとため息が漏れる。


「あー美味かった!あ!ユウキ!あれ見ろ!なんか焼いてるぞ!美味そうだ!」


 広場に近い場所にその屋台はあった。20人もの行列が出来ているが、ものすごいスピードで客を捌いている。しかし、すぐに新しく客が並んでおり、かなりの人気店のようだ。

 ふんわりとした甘い香り。まだ若い虎人族と鬼人族の職人が熟練の手つきで、丸い穴が空いた鉄板に水で溶いた小麦粉を流し込み、その上に餡子を乗せていく。大量に焼いているのに次々と売れていく。大判焼きの店だ。


「お兄ちゃん、大判焼き!エリカ大判焼きがいい!」


 遠い昔の幻聴が聞こえた。

 ユウキが実家を出た18歳のあの日。前夜に無言で強く抱きついてきた妹のエリカを思い出す。母や義父とは折り合いが悪かったが、妹とはそうでもなかった。家族の中で唯一、ユウキが出ていくと気がついていたのもエリカだった。大判焼きが大好物で、ユウキにバイト代が入るといつもねだってきた。

 思い出さないようにしていたが、懐かしい香りにふと甘ったれな妹の笑顔が脳裏をよぎった。行列に並び順番が来るのを待つ。


「らっしゃい!いくつになさいますか?」


「赤と白を3個ずつ頼む」


「あいよ!ありがとうございます!赤白3個ずつで大銅貨3枚になります!」


「あんがと、美味そうだ」


 またお越しくださいという気持ちのいい声を聞きながら、座る場所を探す。広場には沢山のテーブルと椅子が並べられていた。それにしても安いなと思う。大銅貨1枚は150円くらいの価値である。大判焼き1個75円はユウキが幼い時の価格だ。

 長方形の紙箱に詰められている中から2個が消える。


「美味い!豆を甘く煮たのが美味いとは信じられない!美味すぎる!」


 確かに豆を甘く煮るという調理法は日本以外ではあまりない。近隣諸国ぐらいであろうと思う。さらにそこから手を加え、粒餡に漉し餡に白餡などというレパートリーを作り出す手間と情熱は凄まじい。

 異世界では普及しているのかと思ったが、ユウキが見た屋号は日本にある店と同じものだった。


「おい!ユウキ!ここ空いてるぞ!」


 広場の真ん中あたりから声が飛んでくる。目をやるとサーシャの護衛である双子エルフのひとりシアが手招きをしていた。


「よう、シア。休憩時間か?ミアは一緒じゃねえのかよ」


 テーブルに大判焼きを置き、椅子に腰を下ろす。双子エルフはいつも一緒にいるので、ひとりだと違和感がある。


「昨夜、温泉郷から増援が来たから人員に余裕が出来たんだ。ミアはこの町のお偉いさんのとこに行っている。あの子は元々、そっち側の訓練を受けているからな」


 そう言ってシアは豪快に巨大な豚バラ串へとかぶりつく。見た目はスラリと背が高い涼やかな美女なのに、仕草がやたらとおっさん臭い。

 異世界に来てユウキが受けたカルチャーショックのひとつに、エルフは肉を好むものが多いというのがある。


「そっか、増援が沢山来てたもんなぁ。それにしてもシアは肉好きだな。エルフアイドルのアーシアちゃんは肉食べられないって言ってたぜ」


「アーシア?異世界に行っている銀髪の猫被りアーシアか?あいつ、温泉郷の調査員だぞ。草なんか食えるかバカが口癖だ。あたしらと同じ姫さまの養護院出身だ」


「マジかよ!調査員って何してんだ?軍事とか探ってんのか?」


 大ファンのアーシアちゃんの正体を知り、ユウキは驚く。お肉は食べられないんですと、出演したテレビでよく言っていたのに。


「そんなんじゃない。そっち側のファッションや生活習慣に慣習とかを調査して学者連中に報告出してんだ。慣習を事前に把握しとくとお互いに楽だからな」


 あの背が高くクールビューティな外見なのに、ちょっと天然なアーシアちゃんが調査員とは、ユウキにはまだ信じられない。


「若いのに健気に頑張ってんだなぁアーシアちゃん。清楚だし推せるわ」


「清楚?何言ってんだ。あいつ父親が誰か分からん子供が5人いるぞ。養育費の為に姫さまに頼んで許可とってもらって、そっち側に出稼ぎに行ってんだぞ。男も女も食いまくりだからな」


「ま、マジかよ……ちょっとした下ネタで真っ赤になって俯いちゃうあのアーシアちゃんが……」


「それ、興奮してんの悟られないように俯いてるだけだ。あいつすぐ発情するからな」


 人は外見じゃねぇなとユウキは改めて思い知る。そういえばマリーにお仕置きされた原因も見た目に惹かれて、手あたり次第に声をかけていたからだ。

 もっといえば、異世界に来る原因のミユキにも外見で一目惚れしたからだ。ミユキに関しては今は外見だけでなく、全てに惚れているけれど。


「そういや、あの温泉郷のアンジェリカって人なん」


 その名前を口に出すと、頭の中で美味そうに回転焼きを食べていたチビの姿が消える。周囲から怒りが混じった不審げな視線がいくつも飛んできた。


「ユウキ、アンジェリカ様だ。異世界から来たおまえは知らないだろうけど、あの方はこっちの世界では生ける伝説なんだ。鬼神の侵攻から人類種の生存圏を守護した英傑。呼び捨ては世間からあまりよく思われない」


 シアがよく通る明瞭な声で諭してくる。その内容に不審げな視線も無くなる。あの恐ろしいエルフはこっちの世界でかなり尊敬されているらしい。


「……助かったぜシア、ありがとうよ。アンジェリカ様はどういう方なんだ?サトシとマリー姐さんと一緒にいるんだよな?」


 シアは少し考えた後、テーブルの上に並べてある屋台で買った食べ物を示す。


「まあ、食いながら聞け………外見はあの通り可愛らしい方だが、あれは擬態だ。身体操作で体を小さくされている。有事のために闘気と魔力を延々と溜め続けておられる。温泉郷が襲撃を受けていた時は、ユウキたちの世界とは別の世界からの侵攻してきた深淵域種と戦っていたんだ。この世界の守護者の頂点のひとりだ」


 エネミー群の襲撃以外にも、こっちの世界は侵攻を受けているようだ。全くおっかねぇ場所に来たもんだと思う。


「飛ばされた大陸は世界有数の危険地帯だが、アンジェリカ様とマリーがいるならサトシは大丈夫だ。怪我なく帰ってくる」


「そんなにすげーのか?クソやべーのは何となく分かる。機神のチビは見ただけでぶるっちまってやがるしなあ」


 通りの先から港を挟んで、豚串で遠くに見える灯台を指し示すシア。


「ここは元々港町じゃなかったんだ。あの辺りも海じゃなかった。エネミーの生息地である隣の大陸との中間にある防衛都市だったんだ。アンジェリカ様は攻めてきた鬼神率いる大軍を大地ごと消し飛ばした。それ以来、この場所に遥か先にあった海が流れ込み、港町として発展したんだ」


 それはもう人型の兵器じゃねえかと、焼きそばを啜りながらユウキは思う。だが、英雄は都合よく作られるもんだとも思う。


「それは脚色なしでなのか?」


「民に恐怖を与えないよう、過少評価されるよう改竄はしているそうだ。エネミー群に自爆魔法で吶喊しようとしてた、温泉郷の古老たちは皆あの方を畏怖している」


 兵器どころか人型の自然災害レベルかよと理解する。そんな存在が万が一気まぐれをおこしたら?ユウキはそれが怖い。怖い事は怖いが


「どういう人だろうと、サトシとマリー姐さんが無事に帰ってくんなら、俺には何の不満もねえ。それが分かれば十分だ」


 近づかなきゃいい。

 危ない場所、物、そして人には近づかない。それがユウキにとっての護身だ。


「皆んなに土産でも買ってドーリーに戻るわ。色々と教えてくれてありがとうよシア。ミアにもよろしく言っといてくれ」


 外の人間に漏らせるような情報じゃないと思う。シアがそれを教えてくれたのは、ちょっとは仲間だと思ってくれてんのかなとも思う。


「ああ、また明日なユウキ」


「ああ、また明日」


 心友のあのでかい体が近くにいないと、何だか張り合いがない。はやく帰って来やがれとそう思いながら、仲間たちへの土産を買うため、屋台を覗きながらユウキは歩き出した。

「おらァ!わたしの注いだ酒が飲めねぇの?」


「ミアさん、勘弁してください。サーシャ姫さまの護衛には便宜をはかりますから」


「あぁん?わたしの注いだ酒も飲めねぇやつの戯言なんかに価値はないの。おまえはそれでも町長なの?絶対に許されないの」


「きみ!シアさんはまだかね!すぐに呼んできてくれたまえ!」


「はい!全員で探してはいるのですが、サーシャ姫さまのお側にはおられません!」


「町だ!屋台がお好きだから、きっとあの辺りにいらっしゃる!はやく!身が持たん!」


「ガハハ!今夜は気分が良いの!朝までハッスルなの!」

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