愚か者、異世界にて大地を踏み締め咆哮する
一寸先は闇
その日は、前日までの澄んだような青空とは違い曇天だった。
エネミー群に対抗すべく、異世界に展開する自衛軍の第6陣に物資を納入したサトシ達は、朝早くに燃料と水を補給し、食糧の配給を受けて友好都市へと出発した。
友好都市へと移送するエルフである、白銀のサーシャが何だか落ち着かない様子だったのが、サトシは気になった。
魔法の事はよく分からないが、朝から何度も風を使った索敵魔法を使い、サキやエリナと話し込みながら、厳しい表情をしていた。
「皆様、索敵ではエネミー群は発見出来ませんが、何だかおかしな空気です。この先、今まで以上の警戒をお願いいたします」
サーシャは服も着替えていた。体に張り付くような薄いドレスだったのが、全身を足首まで隠すローブをまとい、両手両脚には、その二つ名通り白銀の籠手と脚絆を身につけていた。
さらに、薄い白銀の胸当てを装備し、直径30センチほどの小さな盾を24個も、体の周りに浮かせている。
腰には短剣と小さな棒を佩いて、右手には身長より高い木の杖を持っていた。
「わたくしはドーリーの上にて、索敵と警戒をさせていただきます。皆様もご用心のほど、お願いいたします」
優雅に一礼をして、ドーリーの上に軽やかに飛び上がると、そこで微動だにせず、結界魔法を張り、風を使った索敵魔法を展開し出した。
「サーシャ様はこちらの世界で、人類とエネミー群の支配地域緩衝地帯にある前線要塞にて、長年戦い続けていらっしゃる歴戦の魔道士です。その感覚を信じて、わたしたちも今まで以上に警戒しながら進みましょう」
朝の打ち合わせでのエリナは、いつも通りに落ち着いてはいたが緊張感を漂わせていた。
「うむ、シーカーを12台に増やして展開しよう。副門もいつでも撃てるようにしておく」
「俺がいつも通り駆け抜けてやんよ!任せてくれ」
サキとユウキは、分厚い装甲のドーリーの中で、比較的危険な操縦室組だ。3重強化ガラスとはいえども、視界を確保するための小さな窓は明確に弱い場所である。
「わたしが近寄らせないからね〜がんばろ〜」
いつも通りのんびりした口調のセイラも、朝から何度も麒麟型対物ライフルを点検し、大量の専用弾丸を一発ずつ慎重にチェックしていた。
「サトシ、いつでもチャクラを回して氣を纏わせられるようにしとくんだよ。もし、囲まれた場合、ボクはまず最初に1番強いのを叩きに行くからね。サーシャは強いし、守りも上手い。だけど、他のみんなを守るのはサトシの仕事だよ」
ジュリアはいつも通りの、肩までむき出しの戦闘用補助服姿だが、腰には小太刀を佩いて、ブーツは戦闘用に強化されたものを履いていた。
そんな仲間たちの様子に、サトシも緊張しながら主砲である朱雀型迫撃砲と砲弾をチェックし装填しておく。
そして、薄いボディアーマーの上から、さらに戦闘用装甲を身につける。
準備が終わると、ジュリアに教わった通りにチャクラを回して、体中に氣を巡らせて、ヘソの下にゆっくりと貯めていく。その使い方を前日の夜に、疲労困憊するまで、徹底的に叩き込まれていた。
「何にも起こらないといいんだけど」
自分に言い聞かせるように呟いたが、なんだかそれは無理な予感がした。
サトシの予感に反して、行程は順調だった。
今日もユウキのドーリー捌きは鮮やかで、揺れの一つもなく、警戒しながらも軽快に進む。
2つめの休息地点まで何事もなく、そこで昼食をゆっくりとる。
その間もサーシャは警戒を続けて、誘いはしたがドーリーの上で、懐に入れていた非常食を少しかじり、水を飲むだけだった。
昼食休憩後、しばらくすると小雨が降り始めた。ユウキが少しスピードを緩めると、無線で伝えてきてしばらくしてからソレは来た。
空気が粘つくような不快感を感じる。生ぬるく生臭いような異臭が漂いだし、サトシは息を飲み主砲をいつでも撃てる態勢になる。
「アーク級2体グレーター級21体!」
サーシャの声がしたと同時に、何の反応もなかった索敵レーダーに巨大な無数の赤い点が現れ、ドーリー内に警報が鳴り響く。
「サーシャ!ボクは奥のを潰す!時間を稼いで!」
ジュリアは全身に緑色の紋様を浮かび上がらせ、氣をまとい、前方のハッチから飛び出す寸前、サトシを振り返る。
「死んじゃダメだよ、サトシ!みんなは任せるからね!」
そう言って、砲弾のように飛び出して行った。
「目標、デーモン群!各員戦闘開始!弾幕を張る!撃てぇ!」
エリナの号令に、サキが管制を担当する左右6門ずつと、エリナが担当する後方4門の自動制御された機関砲の唸るような音が響き渡る。
デバイスに4分割された、前後左右のカメラが写す画像が表示され、ドーリーの近くに現れたグレーターデーモン達を倒せはしないまでも、一定のダメージを与えて近寄らせない効果があるようには見えた。
後方から追ってくる巨大な悪魔を、エリナが白虎型機関砲で掃射し、確実に倒していた。
左右に現れた個体は、サーシャが操っている宙を飛ぶ小楯で殴りつけられ、動きを制限され、無数の風の刃のようなもので解体されていく。コアも潰されているらしく、悪魔の巨体が消滅していく。
離れた位置に現れた個体は、セイラが麒麟型対物ライフルで撃ち抜く。こちらもコアを的確に撃ち抜いているようで、魔石を残して消えていく。
サトシは前方に固まっているグーレーダーデーモンの群れに、朱雀型滑空砲を連続で叩き込む。腹に響く反動と共に、魔法処理された砲弾は着弾と同時に大爆発を起こし、4体を殲滅する事ができた。
前方のハッチから見える視界の遥か先では、ジュリアが全長10メートルを超えるような、巨大な異形と戦っているのが見える。
凄まじい速さで移動しながら、ぶつかり合い、空間が震えるような衝撃音が、花火のように連続して響いてくる。
「残存敵勢力アーク級2体グレーター級6体」
サーシャの声がした。
ジュリアが戦っている巨大な異形が、アークデーモンの1体である事はわかる。では、もう1体は?
ドーリーの左前方に何かがいた。距離は300メートルほどと索敵レーダーに出ている。緑色の陽炎のようなものが、少しずつ近づいてくるのが、外部カメラ越しにデバイスに映し出されている。
凄まじい数のサーシャが放つ風の刃を煩わしげに振り払い、宙を滑るように近づいてきている。
セイラの狙撃が放たれ、体の一部が吹き飛ぶが、巻き戻しのように再生されている。
あれは近づけたら駄目だ。怖気が走りサトシは主砲で狙いをつけて、装填されている5発を連続で放つ。
凄まじい爆発が起こり、ユウキがハンドルを切って爆心地を避けるように、ドーリーが駆け抜ける。
「やりましたの!?」
エリナの声がした。
前方からドス黒い何かを感じた。
3メートル程の人型の緑色の何かが正面にいた。
形は崩れそうだが、凄まじい怒りを感じる。
サーシャの風が腕を切り裂き、セイラの狙撃が体に穴を開けるが、微動だにせず、黒い巨大な球体を発生させる。
いけない!とサーシャの悲鳴のような声がして、全身を風のようなものが包む。
ユウキがそれを避けようとハンドルを切り、急ブレーキを踏むのがわかった。
セイラが何とかしようと、狙撃を続けているのがわかった。
伏せなさい!とエリナの声がした。
だめだあれはだめだ皆んな死んでしまうどうにかしないとどうにかだれかだれか?
「サトシが守るんだよ」
ジュリアの星が煌めくような瞳を思い出す。
チャクラを回し、氣を全身に巡らせて、螺旋のように昂めていく。
氣を球形にして全身にまとい、前方ハッチから飛び出す。
地面に降り立った瞬間、目の前に黒い巨大な塊が迫っていた。
左腕に氣を集中させ、その塊に叩きつける。爆発するような音と共に、その黒い塊が消滅した。
左腕が無くなっていたが、血が出ていない。柔らかで暖かな風が傷口を覆っているのがわかる。
緑色のナニカは憤怒しているようだった。
雌は辱めて食ってやる1匹残らず食い尽くしてやる邪魔な雄は潰してやるという、不快な声のようなものが聞こえる。
その不快な波動に、腹の底から怒りが湧く。
辱める?あの美しく気高く一生懸命頑張っている女の子たちを辱めて食う?
潰す?必死に仲間たちを守ろうと、自分の出来る精一杯を出そうと頑張っている親友を潰す?
サトシの全身を憤怒が駆け巡る。
許さないそんな事許せるわけがない絶対に許さない
「大山サトシ、お前が守るんだ」
教官の敷島スバルの声が脳裏に浮かぶ。
生きて帰ってこいと笑顔を見せてくれた、彼女に叩き込まれ、毎日毎日、愚直に続けたたったひとつの型。
大地を踏み締め、その力を螺旋にして、拳から放つんだ。おまえは不器用だから、それだけを極めるんだ。
スバルが見せてくれた、あまりにも美しい型は記憶に焼き付いて、繰り返し続けた事により体に染み付いている。
腰を落とし、大地を踏み締めた。
スバルに教わった時は分からなかったが、ジュリアに教わった氣の概念と合わさり、サトシの中で全てが噛み合った。
足元から轟音が響き、その力が両脚を通り、腰まで昇ってきて、ヘソの下でジュリアに言われた通りに貯め続けた氣と混じり合う。
腹から胸を螺旋のように通り、肩を回転させ、肘を捻り込み、手首をしならせて、インパクトの瞬間に全ての力を拳で握り込む。
「俺の仲間に手を出すんじゃねええええ!」
怒りを込めて振り抜く。嘲笑うかのように間近に迫っていた異形に触れた瞬間、その表情が驚愕に変わる。
人に許される力ではないとほざくバケモノに、知ったことかと叩きつける。
息を吐き、残心を意識する。緑色の恐るべき異形の姿はなく、巨大なエメラルドのように輝く石だけが大地に落ちていた。
体から力が抜けそうになるのを堪え振り返ると、ドーリーの窓ガラスから、ユウキとサキの姿が見えた。
ああ、守れた。他のみんなはだいじょうぶかなと思ったところで、意識が消えそうになる。無事でいて欲しいと、サトシはただそれだけを願っていた。
酷い夢を見た。凄まじい喉の渇きと不快な脂汗まみれの不快感の中、サトシは目覚めた。
太って醜い体だった頃の自分が、スバルとジュリアとサーシャに「ざぁーこ」と見下した目で罵られながら、尻を蹴り回され続けるという最悪の夢だった。
体を動かそうとするが、全く動かない。そういえば左腕無くなっちゃったなぁと思い、首を動かすと左腕があった。
しかも、目を閉じて眠っている、白銀の髪をしたエルフの、その雄大なる山々の間に挟まれていた。
艶かしい吐息がして、長いまつ毛が揺れて、大きな目が開く。トロンとした目と視線が合う。次第に焦点があい、少しの時間見つめ合った後、サーシャはいつものように可憐な笑顔で挨拶をした。
「おはよう御座います、旦那様。丸1日も眠るなんてお寝坊さんですね。めっ!ですよめっ!」
ぎゅっと左腕を抱えられるが感覚がない。何故だ何故感覚がないのか。
この宇宙が生み出した奇跡を味わえないなどという、そんな悲劇があっていいはずがない。
「旦那様、左腕は触媒を使い再生させました。2.3日中には動くようになりますよ。あらまぁまぁどこを見ていらっしゃるの?いけない旦那様ですね」
つまり、味わえないという事だ。何たることかと思う。その上、山々を押しつぶすようにしてくるくせに、どこを見ているかなどと、よくも言えたものだ。おのれこれだから異世界エルフは
「サトシ、、、悪い子だね、、、死にかけたのにそんな駄肉に夢中になって、本当に悪い子、、、」
右から凍えるような声がした。恐る恐る首を右に傾けるて、ジト目のジュリアが右腕にしがみつきながら睨みつけていた。
何とか言い訳をしようとするが、声が出ない。
「あらあらまぁまぁ、ジュリア様。そんな怖いお顔をなさってはいけません。殿方というものは大きいものに惹かれてしまうのです。これは本能というものです。責めてはなりませんよ」
めっちゃ煽るやんこのエルフ。サトシは怖くなりジュリアから目を逸らす。
「黙れ!駄肉め!わざわざそんな丸出しの服に着替えてきたくせに!エロフめ!ボク知ってるもん!サーシャみたいなのエロフっていうんだ!」
その言葉に、左側から殺気が高まる。
「あらあらまぁまぁ。はしたない格好で旦那様のベッドに潜り込んだのはジュリア様が先でしょう。お小さいのに無理をなさって。お子様はお子様らしくなさっては?」
ジュリアとサーシャの仁義なき戦いは、様子を見にきたエリナに叱られるまで続いた。
水を飲ませてくれたエリナに、流石は我らのリーダーだと、サトシは心から感謝する。
なんだか、小気味良いマーチまで奏でられているような気までする。やはりエリナなのだ。彼女をリーダーに選んだのは正しかった。
「サトシさん、私たちを守ってくれて、頑張ったあなたに言いたくはありませんが、奥さんたちをしっかりまとめなさいな。仲良くさせるのは、夫の責任というものでしてよ」
まだ、何にもしてないよ!と言いたいが、声すら出ない。
そんなサトシを呆れたように見下し
「いい加減、諦めて覚悟を決めなさいな」
そう言い捨てて、我らのリーダーは去っていく。
こんな時、頼りになるのは友だと思う。
ユウキが来てくれないかなと思いながら、また言い合いを始めて、姫様!お客様!と、看護師さんに怒鳴られて謝るジュリアとサーシャの声を聞きながら、サトシは再び深い眠りについた。
「姫様、あれのどこが、気に入ったんです?」
「失礼ですよ。それにギフテッド持ちは逃せない。女ばかり余っている、我々の郷では当たり前の事です」
「はぁ、そうですか、、、姫様、これはチャンスですよチャンス」
「何が言いたいのです、、、」
「ほら、姫様ってまだじゃないですか?ご無事でなによりでしたって、谷間を見せつけながら、目を潤ませて言えば、あのタイプは一撃ですよ。その場で押し倒してきますよ!」
「そ、そんなはしたないこと出来るわけないでしょ!弁えなさい!」
「えー、、、そんなんだとあのちっちゃな子に奪われちゃいますよ、、、シェアするならいいですけど」
「ミリア、、、服を選ぶ手伝いをなさい!作戦を考えますよ!」
「流石は姫さま!メイド隊集合!みんな!姫さまを磨くよ!」




