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柏原ユウキは、異世界にて友の為に駆ける

走れユウキ

 柏原ユウキは激怒した。自分たちを守る為、瀕死の重傷を負った友を救わねばならぬと決意した。

 ユウキに戦闘は解らぬ。だが、サトシが自分たちを守る為に命を張ったことだけは分かった。


「ユウキ、落ち着け。鼻から血が出ている。目的地まであと40キロを切っている。サーシャからサトシの容態は落ち着いていると連絡があったろ。だから落ち着け」


 隣からサキの冷静な声が聞こえる。こいつは大した奴だと思う。たった16歳のガキなのに、自分たちが死にかけたというのに、冷静に状況を判断し、テンパってるマヌケを心配してくれている。


「大丈夫だサキ、、、ちょっと興奮しちまった、、、ハンドル捌きは安定してんだろ?」


 さっきから頭ん中でギャーギャー騒いでいるチビがいる。もう力を使うな!死んじゃうぞ!と、喧しいが涙声で、こいつも心配してくれてんだなと笑みが出る。


「ユウキさん、友好都市との通信圏内に入り、連絡が取れました。サーシャ様が便宜を図ってくださいましたので、門は全て開いているとの事です。だから少しスピードを落としてくださいな。必ず間に合います」


 エリナはマジで成長したなと思う。いつも泣きそうになっていた、訓練期間からは想像すら難しいくらいに、頼りになるいい女になった。

 凛としたでも柔らかな声に、心配してくれているのが分かって嬉しくなる。


「ありがとうよエリナちゃん。見えてきたな、ちょっと速度落とすぜ。着いたら、ちょっと眠るかもだからサトシの事を頼む」


 エリナが少しだけ息を呑むのが分かった。自分は相当ヤバいツラしてんだろうなと思う。少しだけアクセルから足を浮かせ、こっちに来てから身に付いた謎力を緩める。

 あっという間にバカでかい壁が迫ってきて、開いている門にドーリーを飛び込ませる。

 送られてくるナビに従い、指定されたバカでかい木の下の空間に入り、指定された位置に寸分の狂いなくドーリーを停車する。


 仲間たちと頭ん中のチビの声を聞きながら、くたばんじゃねえぞサトシと、親友の顔を思い浮かべた瞬間に意識が飛んだ。






 座学で習ったデーモンってなんだよと思う。なんか昔にヤベェ事件があったのはユウキも知っていたが、ニュースとかほぼ見ないから、たまになんか騒いでんなくらいにしか認識がなかった。


 異世界ていったら、エルフアイドルのアーシアちゃんみたいな超絶美少女や、ケモ耳モデルのアナスタシアちゃんみたいなパツキンノチャンネードーンだろうとユウキは思っていた。


 それなのに、クソやべえバケモンがいる中での警備任務とかマジかよと思ったが、逃げ出すのはだせえと、必死に訓練を続けた。


 その訓練中に乗ったドーリーに、ユウキは何故か夢中になった。

 高校を出てから免許は取ったが、金がなかったので、バイクや車には乗っていなかった。そもそも、首都の移動は公共交通機関が圧倒的に便利だったし安かった。


 だけど、ドーリーに乗っていると不思議と落ち着いた。こんなデケエ乗り物を、まるで自分の手足のように、自由自在に動かせるのが楽しくて仕方なかった。

 整備のおっかねえおっちゃん達に、毎日怒鳴られながらも、必死に勉強した。

 異世界に来る前日におっちゃん達が、死ぬんじゃねえぞと、皮の手袋と整備セットをプレゼントしてくれたのが、たまらなく嬉しかった。



 異世界に来てから、仲間たちがまた成長したのはすぐに分かった。

 親友だと思っているサトシは、体がひと回りデカくなって、巨岩みたいな安定感を出している。それなのに、サトシが気になって気になって仕方ないみたいなジュリアにまとわりつかれて、嬉しいけど困っているのが丸わかりで、いいじゃないのと楽しくなった。


 サキとセイラがくっついた。2人が拐われて奪還した後、セイラがサキにちょっかいをかける関係だったのが、まるでサキが旦那でセイラが嫁みたいになってんのが面白かった。


 そして、エリナは凄みが出てきた。

 声を聞くだけで大丈夫だなって思えるくらい、安心感がある。

 特に警備の仕事初日の朝から、立っている姿を見るだけで、この子の命令なら命張れると改めて思えるようになるくらい、凛としていた。



 成長した仲間たちを頼もしく思いながら、どうしたもんかねえとユウキは思う。


「無視するんじゃない!あのでっかい壁開けてあげたじゃん!感謝しろ!」


 頭ん中で変なチビがギャーギャー騒いでいた。異世界に来たストレスみたいなもんで、変な幻覚を見るようになったのかと思う。


「幻覚じゃないぞ!変なチビってなんだコノヤロウ!あたしは機神だぞ!偉いんだぞ!やるか?やんのか?」


 シュッシュと口で言いながら、へなちょこパンチでシャドーを始めやがるし。15センチくらいしかないんだからチビじゃねえかと思う。


「仕方ないだろ!あたしは生まれて30年くらいしか経ってないんだからな!期待しかない新人さんなんだ!」


 助かるのは言葉を出さなくても、意思疎通出来ることくらいかなと思う。まあ、それでも


(サキとセイラを助けられたからな。ありがとうよキシン様)


「フヒ!そうだろ!そうだろ!あたしはすごくすごいからな!これからも助けてやる!困った事があったら呼べ!」


 そう言い残し頭ん中から消えた。



 仕事は順調だった。物資を4日かけて2カ所に納入して、おっそろしく綺麗なエルフを送り届けるだけの簡単な任務だ。しかも、デーモンとやらが全く出てこない。

 ハンドルが軽くて、ドーリーを10時間転がしても全く疲労がなく、スピードを出しても揺れない。仲間たちが褒めてくれのが嬉しくて仕方ない。キシンのチビがやってんのかと思った。


「違うぞ!それはお前の力だユウキ!あたしはちょっと力を貸してやってるだけだ!ありがたくおもえ!あと貢物よこせ!」


 どっかに行ったと思えば、突然頭の中に出てきやがる。自分の力だと知れて何だか嬉しいと、ユウキは思う。


(貢物ってなんだよ、菓子とか花か?)


「お菓子!お菓子がいい!なんか買って!食べてみたい!あたしの声が届くのユウキが初めてなんだ!貢物ほしい!」


 とにかく喧しいが、別に嫌じゃないなと思った。



 仕事は順調に進んだ。2日目の夕方に第6陣が見えてきて少し安心した。

 デーモンが出てこない事をおっそろしく綺麗で、サトシのハーレムメンバーになった、おっかないエルフのサーシャは不審に思っているみたいだった。


 第6陣の大隊長の佐伯という姉ちゃんは怖いなと思う。サーシャには心から敬意を持って接しているし、ユウキたちにも丁寧な物腰だ。

 だけど、この目はよく知っている。人間を数でしか見ていない嫌な目だ。エリナが警戒していて、理由を説明してくれて納得した。長居はしたくない場所だ。明日の朝に出て行けるのがありがたい。


 ようやくドーリーから降りられ開放感がある。大好きでもずっと乗り続けてんのは、気分が滅入ってくるのは仕方ない。

 女たちが風呂に行くというので、サトシと一緒に買い物に出た。親友の悲しき過去を知り、この世の無情を嘆き、傷を舐め合い慰め合った。


「おい!お菓子!お菓子まだか!忘れんなよ!」


 喧しいチビめ、親友との大事な時間を邪魔すんなとは思うが、約束は約束だ。サトシと別れて菓子屋を探して、いくつか買うと手の中から消えた。


「うまい!あまい!これがお菓子!これが貢物!力が溢れてくる!でかしたぞユウキ!」


 喧しいが嬉しそうにはしゃぐチビに、悪くないと思えた。


 そうして歩いていると、少し艶かしい雰囲気の場所に出た。こいつはビンゴだとユウキは鼻の穴を膨らませる。


「なんだ?サカるのか?仕方ないやつだ!あたしが見守っていてやるぞ!」


 ふざけんな、そん時は消えてないと、二度と菓子をやらねえぞと思う。


「なんだと!?よくそんな酷いことを言えるな!これだから人間は困る!だがお菓子は食べたいから消えてやる!感謝しろ!」


 そう言って頭ん中から消えた。食いしん坊なチビめと思いながら、良さげな店を物色していると声をかけられた。


「兄さん、寄ってかないかい?ウチはきっちり鑑札と検査受けてっから、安全に遊べるよ」


 その言葉にフラフラと引き寄せられ、言われるがまま、店の入り口にある身分を証明するというデバイスに、カードキーを差し込む。

 凄まじい音が鳴り響いた。さっきまでにこやかだった客引きのおっさんの顔が強張り、周辺の店の客引きからも睨みつけられる。


「兄さん、、、アンタ何したんだい?警戒レベル5ってどんな輩でもここまでの、、、ああ、あんた婚約者がいんのかい、じゃあ仕方ねえな。皆!婚約者持ちだ!怪しい人じゃねえ!身分もしっかりしている!心配ねえ!」


 客引きが張り上げた声に、睨みつけていた人々がなんだと拍子抜けしたようになり、兄ちゃん駄目だよ!とからかうような声もかけられる。


「こ、婚約者なんて俺いないんだけど、、、」


 なにそれこわいと思う。ユウキの呟きに、しょうがねえなぁと客引きのおっさんが慰めてきた。


「なあ、俺も男だ、、、惚れた女と一緒になる前に遊びてえって気持ちはわかる。分かるがよ、こっちじゃそれは御法度なんだよ。他も娶るって事ならいいんだがよ。嫁さんがダメってんならダメなんだ。遊びてえならきちんと許可とってきな」


 婚約者って誰だよと思い呟くと、読み取りしたデバイスを見せてくる。


「自衛軍に所属している立派な経歴の婚約者じゃねえか。こんないい女がいんだから、奉公明けまで我慢しな兄ちゃん」


 そこには、あの職安で出会い、ユウキが口説いた立花ミユキの名前と経歴が婚約者として表示されていた。




 フラフラと宿泊場所になっている、民間志願警備員用のコテージに戻る。頭ん中でチビがゲラゲラと笑っていたが、気にならないくらい衝撃を受けていた。

 サトシとジュリアは戻っておらず、サキとセイラとエリナがリビングでお茶を飲んでいた。


 酷い顔をしていたようで、珍しくセイラがお茶を淹れてくれた。暖かく香りが良いお茶に少し落ち着く。どうしたんだと尋ねられ、聞かれるままに話した。

 最初はゴミを見る目でみられたが、立花ミユキが婚約者になっているというところで、3人は考え込みコソコソと話し合いだした。


「あのさ〜言いにくいんだけど〜立花ミユキさんって立花家の人だよね〜ウチみたく成金じゃなくて〜ガチの名家のお姫様のはずだよ〜」


 セイラが気の毒そうに切り出した。


「その通りです。立花ミユキ様は、三大名家のひとつ立花家本家の次女です。その、、、ユウキさんのお誘いをプロポーズと捉えた可能性があります。何か仰ってませんでしたか?」


 エリナの言葉に、あの時の事を思い返す。そういえば言っていた。5年生き残れたら、なんでもしてあげるとかなんとか。


「あら、それは間違いありませんわ。わたしもそこそこのお家に生まれましたから分かりますが、それは完全にプロポーズをお受けしたという意味です」


 エリナが納得したという風に頷く。いや意味が分からねえ!と叫ぶ。


「うむ、庶民には分からぬ作法があり、ユウキの言葉はプロポーズと捉えられ、立花ミユキ氏は了承したのだろう。諦めろ、自分で撒いた種だろ」


 サキが強い視線で睨みつけてきた。


 じゃあ5年間どうにもなんないの?と呟くと、気まずそうに3人から目を逸らされた。



 少しして、ご機嫌のジュリアと疲れたようなサトシが戻ってきた。

 ユウキは泣きながら心の友に事情を話した。親友は頷きそっと、ピンク色に包装された道具をプレゼントしてくれた。説明書には、500回の使用に耐えられる仕様と書かれていた。

 持つべきものは友だと、お互いの明るい未来について語り、それぞれの部屋に戻り、スッキリしてからユウキは眠った。




 翌朝、朝から賑やかな頭ん中のチビの声をBGMに、仲間たちと朝メシを食い、おっそろしく綺麗なエルフを乗せて友好都市に向け、ユウキは軽快にドーリーを飛ばしていた。


 昨日までの抜けるような青空ではなく、小雨が降りだしてきた。いつもより慎重にハンドルを操作して、昼飯を食って、順調に距離を稼いでいた。


「ユウキ!なんかくる!あぶないのくる!」


 頭ん中のチビが騒ぎ出したと同時に、ドーリー内に警報が鳴り響き、おっそろしく綺麗なエルフとジュリアの声がほぼ同時にきた。


「アーク級2体グレーター級21体!」


「サーシャ!ボクが奥のを潰す!時間稼いで!」


 巨大な悍ましい生き物が次々と、ドーリー付近に現れて追ってくる。

 隣のサキが火器管制を使い、両サイドの機関砲を起動させるのを目の端に見ながら、化け物どもの隙間を縫うように、ドーリーを操り駆け抜ける。


 上から腹に響く音がする。サトシが主砲を撃ち、エリナが機関砲から弾をばら撒き、セイラが狙撃を繰り返しているのが、何故かわかる。


 デカい怪物たちが次々と消し飛んでいく中、視線の遥か先で、どデカい衝撃が花火のように弾けている。

 イケるかもと思った瞬間、チビの声がした。


「ダメ!ユウキ!避けて!」


 緑色の人型のナニカがいた。ハンドルを思いっきり左に回して、ナニカから来た真っ暗な弾のようなものを避けられないと分かり、ブレーキを踏みながらサキに覆いかぶさる。


 腹に響く爆発音。急ブレーキで停止したドーリーの窓から頭を少し出して外を見る。緑色の人型とドーリーの間に親友がいた。


 左腕がないサトシの姿に、ぞわりと全身の毛が逆立つ。


「俺の仲間に手を出すんじゃねええええ!」


 サトシが咆哮し、踏み込んだ脚が地面を砕き、突き出した残った右手から光のようなものが噴き出て緑色のナニカを消しとばした。

 少しの間があり、サトシが振り向いた。腕の下にいたサキが顔をだす。ユウキとサキの姿に、にこりと笑い力が抜けたように倒れ込む。


 遥か先で一際凄まじい衝撃音があり、流星のようにジュリアが降ってきた。

 残っていた化け物を無数の突風と射撃音が吹き飛ばし、おっそろしく綺麗なエルフがサトシの側に飛んでくる。


 思考が上手くできない。チビが何かを喚いている親友がサトシがなんで庇った庇われたからだ自分を庇って


「柏原ユウキ!しっかりなさい!サトシさんは生きています!サーシャ様が癒してくれていますが、危険な状態です!第6陣では佐伯大隊長から再生ポットの使用許可が出ない可能性があります!友好都市に向かいます、ユウキさん!今度はあなたがサトシさんを救うのです!」


 エリナの凛とした叱咤に意識がしっかりした。


「サキ、大丈夫か?」


 隣を見ると、心配そうに見ている年下の女の子がいる。


「平気だ。ユウキとサトシが庇ってくれたからな。ありがとう」


 その言葉に頷き、サトシを医療室に運んだというジュリアの声にドーリーを動かす。


「すまんが、ナビを頼む!最短で飛ばす」


「任せろ、ユウキは運転に集中すれば良い」


 打てば響くようなサキの言葉に頷き、エリナの出してください!という、悲鳴のような指示にアクセルを全開にする。

 友好都市まで420キロ。上等だと呟き叫ぶ。


「キシン!力を貸してくれ!2時間以内だ!頼む」


「無茶すんな!おまえが死ぬぞ!」


 サキが怪訝な顔をするが構わない。


「サトシが、、、命張って守ってくれたダチがいねえなら、生きてる意味なんかねえんだよ!」


 チビは何も言わず、力が全身に溢れてくる。

 頭が割れそうな頭痛を無視して、親友が助かる事だけを祈り、ユウキの操るドーリーは420キロをわずか1時間40分で駆け抜けた。




 唐突に目が覚めた。体を起こすと、病室のような場所だった。頭が割れそうな頭痛は消えていた。

 親友のことが気になり、立ちあがろうとするが、目眩がしてベッドに倒れ込む。

 ノックの音と共に、エリナが入ってきて叱ってくる。


「ユウキさん、あなた脳の血管が焼き切れる寸前だったんですよ!サーシャ様が手配してくださった治癒魔術師が悲鳴をあげていらっしゃるくらい酷かったんですからね!大人しくなさい!」


 エリナの心配そうな表情に、頭を枕につけて謝る。


「エリナちゃん、、、サ、サトシは、、、」


 続きが出てこない。もし間に合ってなかったら


「安心なさい。サトシさんも無事です。かなり酷い状態でしたが、助かりました。左腕も再生されて、2.3日で動くとのことです」


 その言葉に涙が溢れてくる。間に合った、命を張ってくれた親友が助かった。涙が止まらないのが恥ずかしくて、腕で顔を隠す。


「ゆっくり休んでくださいな。1週間の休暇が出ています。それでは」


 エリナはそれだけ言って、病室から出て行った。

 本当にいい女だよと思う。


「こんな無茶、二度と助けないんだからね!」


 喧しいチビが拗ねたように呟く。こいつにも助けられた。


「貢物すっから、そんな事言うなよチビ」


「アンタがいないなら、貢物なんて意味ないんだよ!ばか!」


 それだけ言って、頭ん中から消えた。退院したらまずは菓子を買わなきゃなと思う。


 ギリギリだった。ギリギリ命を拾えて、親友と仲間たちも無事だった。やべぇ仕事選んじまったとは思う。思うが、不思議な事にユウキに後悔は一切なかった

 また頑張るために、とりあえず寝るかと、目を閉じた。目が覚めたら、親友の顔を見に行こう。

 きっと、ジュリアとおっそろしく綺麗なエルフに叱られて、困ったような顔をしているだろう。

 その姿を想像したら、楽しくなって、意識が消えていった。

民間志願警備員の異世界での死亡率は35%前後です。

その内、85%は勤務初日から1週間以内となっています。

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