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新規ギフテッド所有者に関する、報告及び取り扱いに関する会議

説明会です。

 自衛軍異世界第一駐屯地の幹部用会議室では、白熱した議論が交わされていた。

 普段は多忙を理由参加を断る、現地協力団体の長たちやアドバイザーまで来ており、さらに前回までの会議では出席率60%前後だった、自衛軍の異世界駐屯地全幹部が参加している。

 その熱い議論を黙って見守りながら、竜胆ゲンジは午前中に出迎えに行った、民間志願警備員6名の事を思い返していた。




 日本に出現し固定されてしまった、大規模異世界ゲートを潜り、こちらにやってきた人間に低確率で付与される異能ギフテッド。

 その発現率はわずか0.3%しかない。

 先日、2年間の訓練を終えて異世界第一駐屯地に派遣された、自衛軍の新兵3000名からは、わずか1名しか確認されていない。


 その1名が取得したのは、日本語に無理矢理変換すれば『一騎当千』と呼称される強力なギフテッドだった。

 短時間の極めて高い身体能力増大に加えて、多数に単独で挑んだ場合に限り、身体再生能力すら付与される。

 こちらで冒険者や探索者と呼ばれている職業に就くなら破格の能力ではあるが、自衛軍という集団では使い道は限られてしまう。


 そもそも、軍隊である以上、単独行動をする作戦はほぼない。過去に数人が同様のギフテッドを得ているが、全員が殉職している。

 全員に、転生願望症候群と呼称されている、極めて強い承認欲求や自己陶酔がみられ、撤退戦にて単独で飛び出して、多数の友軍を救うが命を失ってしまっている。


 2年もの時間をかけて、莫大な税金を投入し育成してきた貴重な兵士の1人が、死地以外では役に立たない能力を得てしまったという事に、幹部は頭を抱えた。

 異世界での協力団体である冒険者組合には、似たような能力を持つ者を扱うノウハウがあるという事で、そちらに派遣という案も出ている。


 一方、本日、民間志願警備員として派遣されてきた120名の中からは5名が確認された。

 元々、ギフテッドが発現していた2名と新規に発現した3名。

 すでに発現していた2名に関しては事前に報告が上がっており、その強大なギフテッド持ちを、自分達が管轄する部署や地域に配備してもらおうと、異世界中から人が集まってきていた。


 そこに能力測定の結果、さらに同じ部隊に3名のギフテッドが確認され、会議室は凄まじい騒ぎになった。

 その騒ぎを見て、ゲンジは苦々しく思う。

 ギフテッド持ちは極めて重要な存在だ。戦局を変える能力の持ち主までいる以上、司令官という立場のゲンジにとってもありがたい存在である。


 しかし、ギフテッド所持者に頼り切り、精神と肉体が摩耗するまで使い、取り返しのつかない事になるまで頼り続けるのは許されない。

 個人に頼る軍などあってはならない。そんなものは容易く瓦解してしまう。


「司令、遅くなってしまい申し訳ありません」


 少し空気を変えるかと思っていたら、6名の面談を担当をしていた副司令のリリアと担当官の代表1名が入室してきた。


「構わん、なぜ遅れたかも大体分かっとる。それでは始める!リリア、報告を頼む」


 先程まで凄まじい勢いで議論を交わしていた全員が口を閉じ、手元のデバイスに送られてきた情報を確認する。

 誰も言葉を発しないが、先程以上の興奮で会議室の圧が昂まったようにゲンジは錯覚する。

 荒れやがるなと、心中で軽くため息をついた。



「柏原ユウキ25歳。立花ミユキ特務官の推薦により志願。ギフテッド『道しるべ』を確認。推定クラスは5となっております」


 前線担当の複数幹部から、うちに配備をとの声が挙がる。


 ギフテッド『道しるべ』は比較的よく見られる異能であり、移動の際に所属する集団にいくつかの補正がかかる。

 疲労軽減や精神の安定、移動速度の上昇等、軍には極めて需要の高い能力だ。

 しかも、発現した時点での推定クラス5は破格である。クラスは能力による影響を受ける人数を元に規定されており、クラス5は500人前後だ。

 危険な前線部隊からは喉から手が出るほどに欲しい人材である。

 

 最前線部隊からの叩き上げであるゲンジに、その気持ちは痛いほど理解できる。生存に大きく関わる能力の持ち主は1人でも多く欲しいものだ。

 却下するとのゲンジの言葉に、普段冷静な部下まで声を荒げるが、資料を示し静かに返す。


「立花から警告が来とる。5年間は前線配備しない事を条件に推薦するとな。無視をすればどうなるかは分かっとるだろう」


 『セイレーン』立花ミユキ特務官。

 彼女が推薦して送り込まれてくる人材には、高確率でギフテッドが発現する。そのあまりの発現率の高さに、幕僚たちは戦況を変えられると狂喜乱舞した。

 しかし、彼女は推薦する際に警告をつける。

 配属部隊や配属地域、果ては待遇まで注文をつけてきた。

 失うわけにはいかない人材だが、あり得ない越権行為に複数の幹部は鼻白み、その警告を無視した。

 もちろん、慎重に適正を判断して、適切に配属したつもりだった。

 結果、ギフテッド発現者21名全員が殉職又は、再起不能の怪我により退職した。


 それ以降、『セイレーン』の警告は絶対遵守。

 これは、自衛軍の不文律となった。


 立ち上がっていた幹部の1人が、拳を握りしめ椅子に座る。


「前線の厳しさはよく分かっとる。1月後に新兵2000名に教導部隊を付け、精鋭3個大隊と共に前線基地に配備させる許可を出させた。もう少しだけ堪えてくれ」


 異世界に来ない政治屋や背広組は、自衛軍の正規部隊を、出来るだけゲートがある要塞に留めようとする。

 大侵攻時に、この要塞の最終防衛ラインまで押し込まれた事が、何とか退けたとはいえ、奴らのトラウマになっている事は理解出来る。

 この要塞が落ちれば、ゲートを通りエネミーどもが日本に行ってしまうからだ。

 それを、憎悪していた竜胆の名前を使い、25年間戦い続けている実績でねじ伏せ、要求を飲ませるのが自分の仕事だとゲンジは思っている。


 ゲンジの言葉に、先程立ち上がった幹部が顔を真っ赤にして恥いる。

 予算の大部分を握られ、それほどの要求を通すのがどれほど困難か、この場にいる全員が知っているからだ。

 申し訳ありませんと項垂れる部下に、構わんと宥める。


 前線は膠着状態ではあるが、正規部隊から毎日のように重症者が出て、補給や拠点警備を担当する民間志願警備員が散っていく事に、誰よりも心を痛めている男だ。

 この要塞から前線基地まで、自衛軍が軍として成り立っているのは、こういった部下たちがまとめ上げてくれているからだ。

 ここに集まった部下たちは、ゲンジの誇りであった。


「2人目は青山サキ16歳。ギフテッドは『叡智』を確認」


 ギフテッド『叡智』は汎用性の高い異能である。

 この能力の持ち主が作戦立案をすれば、成功率が平均30%近く跳ね上がる。未来視の一種ではないかとまで言われる能力だ。

 だが、今回は誰からも声が上がらなかった。


「分かっているとは思うが、未成年は前線には出せん。志願者とはいえ18歳以下を前線に出して、万が一があれば世論が許さん。自衛軍の常駐すら揺らぎかねん」


 6年ほど前に、自衛軍に強い影響力を持つ有力議員がいた。

 その議員は自分のまだ15歳の息子を、選挙活動前の支持集めに、自衛軍に志願させて、広報活動をするようにねじ込んできた。

 ゲンジは要塞内に留め置き、しばらくしたら帰すように見張らせはいた。


 しかし、その議員は札付きの冒険者連中を裏から手配し、息のかかった部下と共にドーリーを持ち出させて、前線に突入させた。

 わざわざ、抱き込んだマスメディアに中継させた結果は、放送開始10分で全滅という結果になった。


 デーモンに貪り喰らわれる姿が、お茶の間に中継されたのだ。

 その議員はデーモンを大きいだけの猛獣程度だと思っていたらしく、武器を装備していれば大丈夫だと思っていたと、捜査を担当した調査部隊に供述した。


 それ以来、たとえ志願したとしても18歳以下の未成年は、前線には行けないように、何重もの安全機構が構築された。


「青山警備員は、極めて冷静な人格の持ち主です。誠実に対応をすれば、将来的に自衛軍に所属する可能性はあります。推薦した千反田少尉からも誠実な対応を求めるとあります。無理に囲うべきではありません」


 リリアの言葉に頷き、異論が上がらない事を確認したゲンジは、3人目の測定結果に頭を抱えたくなる。


「3人目は伊知地セイラ18歳。母親が妊娠時にこちらにツアーで来た際、ギフテッドを授かったようです。事前に敷島教官から報告が来ている通りのギフテッドでした。『必中の魔眼』と『衝撃吸収』の2つを確認。さらに遺伝性ギフテッド『万死の魔眼』を確認。調査により『万死の魔女』の孫と判明しました』


 『必中の魔眼』は自衛軍の超エースであり、20年に渡り最前線で戦い続けた『羽虫狩り』山田タカシと同じギフテッドだ。

 『衝撃吸収』は、あらゆる身体負担を軽減するギフテッドで、巨大な指揮個体狙撃用ライフル麒麟型を使う狙撃手とも相性もいい。


 問題は3つめのギフテッドだ。

 まさかあの『万死の魔女』の孫とは、想像の埒外であった。


「魔女の孫とはなぁ、、、あのババアから連絡は来たのか?」


 『万死の魔女』キーラは30年前にゲートが開いた際に協力を要請した、いつから生きているか分からない腰まである金髪を靡かせた美女である。

 気まぐれに力を貸して、気まぐれに消える。

 そして、恐ろしく強かった。大侵攻時にあの魔女が戦場に来て、気まぐれに睥睨するだけで、幾千ものエネミーが石になり砕け散った。


「つい先程、日本から非常回線で連絡が来ました。1時間ほど前に、統合幕僚長に直接連絡が来たそうです。もし孫を最前線に出すような危ない真似させたら、一切合切、石にして砕くとの事です」


 それが単なる脅しではない事をゲンジはよく知っている。

 実際に欲に駆られた人間が、秘密裏にキーラの末娘を誘拐しようとして、一族郎党石にされ砕け散った事件が起こっている。


「それともうひとつ」


 まだ何かあんのかよと、ゲンジはため息をつきたくなる。


「山田タカシから連絡が来ました。15年前の俺程度にはやれるように仕込んだ。5年生き残れば俺を超える、との事です」


 どよめきが起こる。

 20年もの間、自衛軍と12種族連合の精鋭部隊からなる特殊作戦群において中核をなし、甚大な被害をばら撒くエンジェル種を堕とし続け、異世界各地で救世主とまで慕われている自衛軍の超エースだった存在。

 その山田タカシを超える才能があると、本人からのお墨付きがある。

 しかし、ゲンジは嫌な感覚が膨らんでくる。同じ時期にこれほどの力が集う事に、体の奥底にある何かが警告を発していた。


「4人目は宇部ジュリア18歳。説明は不要かと思います。3歳の時に母親の里帰りに、姉と付き添いギフテッドを得ています。ギフテッド『不敗』を確認しました。さらに、母親からの遺伝性ギフテッド『戦神の愛し子』と、、、もうひとつはセンシティブなギフテッドの為、開示は出来ません。危険なものではないのでご安心ください。本人から解決策の提示があり、担当官も了承しております』


 リリアの隣にいる虎人族の女性担当官が頷く。


「問題ないなら構わん。カウンセラーだけは用意しておいてくれ」


 ギフテッド『不敗』はジュリアの姉である宇部ウルスラにも発現した超級ギフテッドである。

 常軌を逸した肉体強化と身体能力向上に加え、再生能力まで得ることができ、120時間を超えて戦い続けられ、デメリットが一切見られないというものだ。

 しかも、遺伝性ギフテッド『戦神の愛し子』は、母親であるダークエルフの戦巫女が、邪竜狩りの際に授けられたという、この世界でも伝説の異能である。


 それほどの能力を持つ宇部の麒麟児が、民間志願でこちらにやってきた事がおかしい。

 続きを促すと、リリアは頷き詳細を話し始めた。


「姉の宇部ウルスラから連絡がありました。母親の戦巫女としての血を一番濃く継いでいるのがあの子だそうです。そして、高校在学中の自衛軍採用試験では体格規定に弾かれ、正規隊員になって、こちらに来る事ができる6年後では『間に合わない』と確信していたという事です」


 ゲンジの中の予感は確信に近くなる。


「つまり、5年以内に何かが起こる可能性が高いという事だな。これだけのギフテッド所持者が必要な何かが、、、」


 ゲンジの重々しい声に、会議室が静まり返る。

 あの大侵攻からわずか4年である。あれを超える何かがあるとは想像すらしたくない。


「まあ、先の事だ。今はやるべき最善の備えをするだけだな。よし、最後の報告を頼む!あいつの面談で遅くなったんだろ!」


 沈んだ空気を打ち払うゲンジの明るい声に、光が差すように雰囲気が変わる。

 この人となら戦えると、空気が変わる。


「はい、5人目は大山サトシ37歳。立花特務官からの推薦による志願。ギフテッドは『愚直なる肉体』『貫く意思』『豊穣なる開拓』の3つです』


 『貫く意志』と『豊穣なる開拓』の2つのギフテッドは良く知られているものだ。

 どちらも、エネミー群の襲撃が頻発し、人口が大幅に減った、こちらの世界では希少で尊ばれる能力でもある。


 『貫く意志』はエネミーへの攻撃の際に、大幅な耐性貫通と威力増大が付与される異能であり、かなりの確率で遺伝する。

 『豊穣なる開拓』はあらゆる種族との間に子孫を残す事が出来るという、基本は女性に発現する異能だ。

 男性に発現する例はほぼなく、大侵攻時に多くの戦士を失った種族の代表たちの目がギラつく。


「立花特務官より、強制はしないようにとの警告が来ています。大山警備員に近づく場合は、本人が納得して同意を得てからにしてください」


 リリアの言葉に、隣にいた虎人族の代表でもあるタチアナがあんぐりと口を開け、目を見開く。


「ちょ、ちょっと待ってください!さっき、リリア様は面談室で大山様を押し倒そうとされていましたよね!?立花様の警告があるのに、あ、あんな破廉恥な姿であんな事をされたのですか!」


 その指摘に、女性の比重が高い牛人族や蛇人族の代表から鋭い視線が飛んでくるが、リリアは平然と答える。


「だって童貞野郎の最初の相手になれば、あのタイプは自分から進んで婚姻を申し出てきます。納得と同意の方法は指定されておりません。我々エルフ族も人口減少は深刻な問題なのです。大山警備員の子供なら、最低でも200人は欲しい」


「う、うちだって戦士の数が少ないんです!欲張らないでシェアするべきです!」


 童貞とか言ってやんなよという男性陣の哀れみの空気と、女性たちのそれなら取り込みやすいという空気が混じる。

 そして、女性陣のチクチクした嫌味と当て擦りから、聞くに堪えない凄まじい罵倒合戦が始まる。


「やめんか!人口問題が重要なのは分かる!分かるが、会議の途中だ!この後に、関心がある種族だけでやってくれ!」


 ゲンジの仲裁に、今にも武器を抜きそうだった女性たちが、睨み合いながら席に着く。


「その『愚直なる肉体』というのは聞いたことがないが、どういったものなんだ?」


 ゲンジの疑問に長命種の代表たちも首を傾げる。

 全く聞いたことのないギフテッドだという。


「神堕としが似たような異能を持っていたと、口伝でのみ伝わっていますなぁ」


 発言したのは、古狼族の長老だった。1200年を生きるこの世界の賢者の1人である。


「エルフにも口伝でのみ伝わっています。果てのない肉体強化とされています。成長速度は加速度的に上がると伝わっていますが、今現在の能力はそれなりですね」


 リリアの言葉に、ゲンジは納得する。

 あの宇部の麒麟児と謳われるジュリアを出迎えた際、悪戯心を抑えきれず、当てるつもりのない攻撃を仕掛ける意を発した。

 ジュリアはそれを読んで平然としていたが、その意に反応し、ゲンジの前に立ったのが大山サトシである。

 あれは久しぶりに心の底から愉快になる出来事であった。

 まだまだ荒いが、動きそのものは目を見張るものがあった。


 あの年齢なら自衛軍に引き抜きもと考えていた時に、非常警報がなる。会議室にいた全員が緊張状態になり、すぐに動けるように立ち上がった。


「何があった!敵襲か!?」


 警備室にモニターを繋ぐと、担当官が混乱した様子で答える。


「民間志願警備員のドーリーの第一待機場に侵入者を感知!ドーリー内に居た民間志願警備員2名が拐われました!」


 その報告に顔を顰める。侵入者などありえない。

 それだけの警備を敷いてある。

 そして続報に会議室が騒めく。


「え、エルフ族の戦士です!エルフ族の戦士が青山警備員と伊知地警備員を拉致!要塞から第6陣に向けて逃走中!」


 全員の視線がリリアに向き、タチアナが非難の声をあげる。


「リ、リリア様!どういう事です!これは重大な連盟に対する反逆と、捉えてられても仕方ありませんよ!」


 しかし、さらなる続報にタチアナの顔が真っ青になる。


「虎人族の戦士団が同調しています!大戦士までいます!」


 全員の視線が、今度はタチアナに向いた。


「お、お兄ちゃん!何やってんのよ!」


 さらに、別の場所から緊急通信がきた。


「今度は何だ!」


 返答は管制室からだった。


「絵崎警備員よりドーリーの発進許可申請があり、却下しました!しかし、隔壁が操作不能になり自動で開き発進!その後、緊急事態条項14条の付帯要項を根拠に申請があり、管理システムが妥当と判断した為、許可を出すしかありません!なんだ!?何をするつもりだ、、、やめろ!その防壁はドーリーごときでは突破出来んぞ!」


 凄まじい轟音と地鳴りに、駐屯地全体が揺れた。


「ぼ、防壁が抜かれました。5層全てが抜かれた!こ、こんな事が、、、信じられん、、、」


 その報告にゲンジは天を見上げた。

 あの6人が異世界に来てから、まだ24時間も経過していなかった。

牛人族の代表は、女性ですごく強いです。

あらゆる意味で強いです(強い)

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