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ナマケモノ殿下の活動記-いくら防御に自信があっても、王都はやっぱりめんどくさい-  作者: 狭間 三日
第1章 ナマケモノ殿下とフォーグラム公爵家
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パウル侯爵とナマケモノ殿下

 パルム領 フォーグラム領に隣接し王都からは少し遠いが酪農が主となる国、比較的田舎ではあるものの先代のパルム公のおかげで十分に栄えた街もある。

 先代パルム公が急死したことでいい評判のない長男が後継となる、しかし甘やかされて育ったのか、親の前だけでは猫を被っていたのか、典型的なダメ貴族であった。

 パーマの入った短い茶髪に若干小太りな外見、剣術や算術はおさめているため能力だけはあるものの傲慢不遜を着た小物、それが現代のパルム侯爵であった。


 シンセイ率いる5頭の竜は少数ということもあり非常に早い速度でパルム侯爵の屋敷へ到着した。


 ---


 屋敷の外が慌ただしい、兵が叫んでいるようだ、一体何があったというのだ。


「おくつろぎ中のところ申し訳ありません、あのシンセイ殿下が、ド、ドラゴンを引き連れパルム侯爵様を呼び出しております」

 フォーグラム領の件がバレたか?まだ魔石については何も聞いていない、決定的な証拠はないはずだ。

 ドラゴン?まぁいいか、相手がナマケモノならまだなんとかなる。


「おい、屋敷の兵を全て集めろ、それと宝物庫から金の箱を持ってこい、全て大急ぎだ」

 ナマケモノ如きにくれてやるのは惜しい、がしかし、これで収められるなら安いものだ。


「これはナマケモノ殿下、いえ、シンセイ殿下、このような僻地までようこそいっしゃいました。相変わらずお暇なようで羨ましい」

 大勢の兵や騎士を引き連れ、我はニヤニヤと登場してやる。

 そこに立つやはりシンセイは格下、オーラも何もない、まさにナマケモノだ。

 ドラゴンについては少々驚いたが、所詮テンセイからの借り物、大した指示もできまい。


「パルム侯爵、お久しぶりですね、面倒な問答はやめにしましょう、フォーグラム領で起きている魔物、黒幕は貴方ですね」

 そういってシンセイは我に書類を投げつけてくる、まっ、華麗にキャッチするがな。

 まあまあ面倒な事が書いてある、しかしこれだけならまぁ問題ないな、我まで辿り着くことは出来ないし、何より事件は何も解決せんよ。


「ナマケモノでも書類の偽造は得意と見られる、是非とも教えていただきたいものですね」

「面倒な問答はなしだと伝えたはずです、で、この書類にいくらだします?」

 やはりか、評判稼ぎのためにここまで調べたが手詰まりと?しょうがない、お小遣いでもあげて返してあげよう、ナマケモノにしてはよくやったよ。


「なるほど、たしかに少々面倒な事が書いてある。よく調べたよナマケモノ殿下、我が買い取ってやろう、胸をはって王宮に帰るがいい。おい、金貨を500枚ほど包んでやれ」

「さすがはパルム侯爵、話がわかる、しかし今回はドラゴンを連れてきている、餌代がかかるからな、もう少し綺麗な貨幣が欲しいですね」

「ふん、強欲な男だな、さすが王族だ、これは貸しだぞ。おい、虹金貨をだせ」

 虹金貨、金貨1000枚分の価値がある非常に珍しい通貨だ、我が領にも一枚しかないが、まぁ王族に貸しを作ったと考えよう。


「ありがとうございます!やはりパルム侯爵は話がわかる、では私を買収しようとした件も報告させていただきますね」

「なんだと!?」

 何を言ってるんだこいつは、虹金貨だぞ、だいたいおまえが欲しいと言ったではないか!

 こ、こいつ、いや、考えろ、まだある、そもそも証拠は不十分だし、金を受け取ってるいるのはこいつだ。


「おまえ自分で何を言ってるのかわかってるのか?だいたい証拠は不十分だろ」

「もう少し情報収集力を強化するべきですねパルム公、今日まさに今、術式魔石の破壊が始まっています、50個ぐらいか?全部一気にやってますよ。その残骸とこの資料、これだけあれば言い逃れはできません。諦めてください」

 こっ、こいつ、絶対に許せん。

 ニヤリと笑いやがって、だいたいなぜ魔石が一気に壊されている?フォーグラム家ではまだ20日あとの作戦だったはずだぞ。

 いや、この資料さえなければまだ術式魔石の残骸だけならなんとかなる、この資料をここで消す!

 手袋を取ってシンセイに投げつける、決闘の合図だ、勝てずのシンセイ、楽勝だ。


「パルム公、決闘をご所望ですか?何をかけて?むしろ勝って私になんのメリットがありますか?」

 そこには少し残念そうにしているシンセイがいた、まさか決闘を挑まれるとは思っていなかったのだろう。

 

「私が勝ったらその資料と、そして今回の件を見逃せ、王国の王子としてだ、お前の名に価値はないからな。万が一にでも私が負けたら、そうだな、この地位をかけよう、降格でもなんでもするがいい」

「ふむ、わかりました。断ってケチがつくのいやだし、殺しはなしでいきますよ」

 決闘を前に死ぬことを怖がるとはやはりナマケモノ、俺のほうが相応しい。

 

 ---


 木剣と木剣がかち合う音が響く。

 やはりシンセイ、こいつは雑魚だ。

 まぁその辺の雑魚よりは確かにやる、しかしそれだけ、我は裏金などは使わず真面目に宮廷剣術の1つをおさめている、こんな奴に負けるはずがない。


「そろそろ降参したらどうだ?シンセイ、おまえの刃は我まで届かんよ、これで終わりだ」

 そういってシンセイの持つ木剣を弾く、いや、まだ弾けていない、まだ粘るつもりか。


「どうしたパルム公?どれで終わりだっけ?」

「おまえ、くっ、はぁ、いつまで粘るつもりだぁ!」


 ---

 

 カァン!

 

 「おお、怖い怖い、今のが渾身の一撃ですか?」

 「黙れ!!!」

 

 また決めにいった俺の剣が流された。

 この調子だ、ずっと続いている、何分経った?何時間だ?

 何度決めに行ってもその都度弾かれる、ずっと我が優勢なのは間違いないんだ、なのにこいつ。


「ガァァア!!!」

 渾身の力を込めて力を押しをすると、優しく受け流される。


「シッ」

 素早さをいかして連撃を加えてもこちらに合わせて慌てる事なく冷静に対処される。


 最初はまだ驚いていた魔法を使った剣術も防御結界を合わせて完璧に対処されている。


「ふむ、パルム公、もう終わりですか?決闘は試合と違って時間制限はないからゆっくり攻めてきていいですよ、降参ならいつでも言ってください。」

「シンセイ貴様ァア!」

 渾身の力で渾身の技を放つ、しかし届かない。

 すぐに終わると思った決闘、後少しで届いていた刃、剣を重ねるたびに、技を使うたびに、どんどん遠くなる、どんどんシンセイが大きく見える。

 もう勝てる気がしない、このままでは何もかも失ってしまう。


「おっ、おまえら、こいつを、ハァ、シンセイを殺せ!こいつさえいなければいいんだ!」

 兵は誰も動かない、長くパルム家に仕えている騎士も、1人も動かない。


「なんで誰も動かない、何故だ!おい、恩を忘れたか?おまえの妹がどうなってもいいのか?人質がどうなってもいいのか?あぁ!?」

 やっと動き出した騎士と兵がシンセイを囲む。


「シンセイ殿下、申し訳ありません」

「人質取られてるなら、しょうがないですね。」

 諦めたか?これで終わりだよシンセイ。

 兵と騎士が5人ほどシンセイに突っ込んでいく、集団リンチが始まった。

 勝った、いくら防御に優れていても数には勝てない、それだけの兵がここにはいる、決闘中の事故で殺してしまったということになる。

 


「包囲結界発動」

 パチィン

 シンセイがニヤリとして指を鳴らしたように見えた。


 剣を持った兵の突撃、魔法部隊による魔法、シンセイは助かるまい。

 だがそうはならなかった、シンセイは変わらずそこにいる、そして剣を持った兵と騎士がシンセイの前に立ち尽くしている。


「どうしたぁ!?さっさと殺せ!くっそ忌々しいそのナマケモノを!」

 だが殺せない、シンセイをよく見ると囲むように円柱型の綺麗な結界が出来ていた。


「こっ、これは物理防御にも長けた防御結界である二重結界?しかしこれほど、人を囲むほど大きな二重結界を使える者が?」

 兵と騎士、魔術部隊が、剣も魔法も全てが通じず、ただ立ちすくんでいる。


「申し訳ない、これは俺が独自に開発した包囲結界というんだ」

「貴様そんな奥の手を、何故だ、今までそんなもの見たことないぞ!王立学園でも、剣術大会でも、何をしたぁ!」

「まぁ聞いてくれ、俺は防御には自身があるんだ、剣による防御、防御結界による防御。まぁ攻めるのは苦手だから百戦不勝と呼ばれたんだけどね。何せ試合では時間切れでいつも負けだったからな、ちなみに、二重結界を崩せるものはここにいるか?このあとフォーグラム公がくるぞ、時間かけて大丈夫か?」

 そういってナマケモノのシンセイは防御結界の中で小型の折りたたみ椅子を取り出して、本を読み始めた。


 ---

 

「・・・炎帝の炎、イフリートボール!」

 我の手から放たれたのは火の上級魔術たるイフリートボール、全てを焼き尽くす豪炎である。

 実戦ではおおよそ使い物にならないほどに長い、完全な詠唱を行って我の全ての魔力を込めた上級魔術、二重結界程度簡単に貫通する威力がある。

 放たれたあとの地面はえぐられ、大きな跡となってしまった。シンセイがいる場所以外は。

 

「ふぅ、動くのをやめたら少し冷えてきたな、パウル侯爵、すまんがもう少し強火で頼む」

 王都に名を轟かすナマケモノ殿下は、本を読みながら、こちらを一度も振り向く事なくそう言った。

 決闘でも勝てず、脅した兵を使っても勝てず、とっておきの上級魔術も防がれた、だがまだ、まだ何かあるはずだ。

 人質を、民の命ならこいつも無視できないだろう、ひとまず逃げなければ。


「シンさまーーーー、ご無事ですかーーーー」

 上空から声が、大きな声が、美しく、透き通るような声が、そして大きな空獣グリフォンが数頭降りてくる。

 グリフォンのうち一頭からクリスティーナの声が聞こえてくる。


「我のクリスティーナが何故ここにいるんだ、どうなっている?」


「シンさまー、なんで炎と兵に囲まれた状態で本を読んでるんですか!その結界はなんですか!教えてください!」

 我に見向きもせず、声は全く届いていないかのように、見たことない本当の笑顔で、シンセイに問いかけるクリスティーナがいた。

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