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第十一話『ネコネコニャンマーのミムカにゃん!』

 第十一話『ネコネコニャンマーのミムカにゃん!』


 いつしかウチの心に芽生えた、『ひとりずつ現われるにゃんて、まるで演芸みたいにゃ』との気持ち。ネコの本能が、『喋ってしまえにゃ』とそそのかす。でもにゃ。口にした途端、全てがぶち壊しとにゃる気がするのにゃ。今か今かとスタンバっている相手に対しても申しわけにゃい。にゃもんで苦渋の決断。『いわずが花』とばかりに、ぐっ、とこらえた次第にゃん。


 お次に地面から現われたのはミムカにゃん。体型は翅人型のまま。どうしたわけか、こじんまりとした透明の机と椅子も一緒にゃ。椅子は向かい合うように一つずつ置かれていて、ミムカにゃんは奥の方に座っている。開いた両目が、とり憑かれた印を示しているのにゃ。

「ルールは判っていますですねぇ? ミムカの目からこの赤いものを消せたら、ミアンたちの勝ち。逆にミアンたちの目をくるくると回せたら、ミムカの勝ち。早い話が、気を失ったほうが負けでありまぁす。よろしいですかぁ?」

「悪いといったら、変えてくれるのにゃん?」

「これはこれは。鋭いツッコミですねぇ。

 ああでも、大変申しわけありませんですが、ご期待に添え兼ねるのですよ。はい」

「まぁ、判っていたのにゃけれども……。

 それで、ここでのゲームはにゃんにゃのにゃ?」

「よっくぞ、聞いてくれましたです。なにを隠そう、これですよぉ」

 そういって肘を曲げた左腕を顔のそばに。

 ミムカにゃんの左手って、いろいろにゃものに変えられるのにゃ。

 でもって今はといえば……おもちゃのようにゃものにゃ。握り拳がネコ顔とにゃっていて、左右のおっ立ったネコ耳の下、ほおの横には、肉球部分を外側に向けている前足の先っぽがくっついている。『茶トラ』とでもいうのにゃろうか。白毛の身体に薄い茶色毛を上から被せたようにゃネコがモチーフみたい。前足部分は、叩けば、ぽわん、と弾みそうにゃ柔らかさに見えるのにゃ。

(はて? どこかで見たようにゃ……)

「ミーナもミアンも良ぉくご存知なのではありませんかぁ?

 これはですねぇ。昔、移民たちの間で流行ったとかいうお遊びの一つに使う小道具の頭部分なのでありまぁす」

「もちろん、知っているわん! っていうか、知らないでどうするわん!」

 ミーにゃんは狂喜したように叫ぶ。一方ウチは、

(にゃんにゃっけぇ?)

 恥ずかしにゃがら、ちと、ど忘れにゃ。

「ミムカん! それじゃあ、それじゃあ、これからやるゲームっていうのは、

 じゃんけんで負けたら相手をぶっ叩けるっていう、『アレ』わん?」

 ミーにゃんの目が、どうしたわけか、きらきら、にゃ。

「そう! 『アレ』でぇぇす!」

 ミムカにゃんの目も負けず劣らず、きらきら、にゃん。

「やったわぁん!」

「はい。やったぁ! でありまぁす!」

 ふたりとも開いた手を上に掲げてのバンザイ格好。

「ミーにゃん。『アレ』ってにゃんにゃ?」

 横から真摯に尋ねたウチに対し、ふたりは揃って力強く答えたのにゃ。

『名前なんて知らないっ!』

「…………あのにゃあ」

 二つのきらきらがシンクロする中、まるで意気投合したかの如く、机を間に挟んで手と手が取り合わされた。どちらも息遣いが荒く、かにゃりの興奮状態みたいにゃ。

(アホにゃん。これぞまさしく、『類は友を呼ぶ』の典型にゃん)

 そう思うのは……ひとり除け者にされたみたいで、さみしかったからかもしれにゃい。

 決して、ひがんでいるわけじゃにゃい。でもにゃ。羨ましいとは思うのにゃ。


「それでは、と。ミムカはこれを使いますですけど、ミーナは?」

「あっ。ちょっと待つのわん」

 さささっ、とミムカにゃんやウチから少し離れるミーにゃん。

 がさごそ。がさごそ。

(また秘め事が始まったにゃ)

 見れば背を向けたままで、両手を使っての作業みたいにゃ。

(一体にゃにをしているのにゃろう?)

 思えば、お布団からにゃ。度重にゃる行為に、好奇心を抑え切れにゃい。

「あのぉ、ミーにゃん。一体にゃにを?」

 ウチが寄って覗き込もうとするや否や、

 ぐさっ!

 身体の向きを変えることにゃく繰り出された突然の肘打ちにゃ。警戒にゃど一切してにゃいウチが、もろに浴びてしまうのは、いわずもがな。おまけに、顔面を、とくれば、たまったもんじゃにゃい。ぐわあん、と仰向けにぶっ倒れてしまったのにゃん。

「ミ、ミーにゃん。あんた……」

 ようようの思いで立ち上がるウチには目もくれず、いまにゃ、がさごそ。がさごそ。

(いつまでやっているつもりにゃん?)

 ゲームの相手は、と見れば……、

 右手であごを支え、おもちゃと化した左手で、ねこねこ、と机を叩くありさま。

(ミムカにゃんも退屈そうにゃ)

 そう思った矢先、歓喜の雄叫びがウチの耳に届く。

「そう。これ、これだわん!」

 ミーにゃんが勢いよく右手で掲げたのは。

 頭のほうは、色を除けばミムカにゃんのおもちゃと、にゃんら変わらじ。ネコ頭から下は、ちょっとばかし、長い柄とにゃっていて、終わりのほうを握っているのにゃ。こちらはどうしたわけか、ウチをモチーフにしたようにゃ色。にゃもんでちょっと照れくさい。

(そうにゃ。叩けば、にゃおぉぉん、と吠え立ててくれる楽しいおもちゃにゃん)

 モノを実際、目の当たりにしたからにゃろう。記憶が呼び戻される。名前にゃって想い出した。

「ミーにゃん。それって、『ネコネコニャンマー』とかいう妖玩具ようがんぐにゃろう?」

「そうそう。かなり前になるけど、遊びで良くモワンをぶっ叩いた奴わん」

「あのにゃあ……。にしてもにゃ。にゃんでここにあるのにゃん?

 おもちゃ箱に仕舞ってあるはずじゃにゃいか」

「そんなこと、どうでもいいわん」

 ミーにゃんは、『ミアンなんか眼中にないわん』といった表情で、びしっ、とネコネコニャンマー……長すぎるから、『ネコニャン』にゃ……の先端を相手に突きつける。

「ミムカん。これで相手をするわん!」

「おおっ!」

 感動のあまり、といった様子で、ミムカにゃんは立ち上がったのにゃ。

「ついに伝家の宝刀を引き抜きますですかぁ。

 ならば、ミムカも負けてはいられませんですね。さぁ、椅子へお座り下さいませです」

 手招きで引き寄せるミムカにゃんにうなずくミーにゃん。両者ほぼ同時に着席にゃ。

(いよいよ始まるのにゃん)

 観客として見届けるつもりにゃったウチの目の前で、ミーにゃんがにゃにやら、おかしにゃ行動を。

「ちょっとルールについて話があるわん」

 そういうと、ふたりで、ひそひそ話を始めたのにゃ。気ににゃるのは時々、双方がウチを見ていることにゃん。

(にゃんか不吉にゃ予感が……)

 ウチが不安に思う中、ミーにゃんの右隣にもう一つ、透明にゃ席が浮かび上がったのにゃん。

「さぁモワン。早くアタシたちと同じ背丈になって」

「どうしてにゃ?」

「ここへ座るからわん」

「ええと……ウチも?」

(近くで見ていて欲しいということにゃのにゃろうか)

 後ろを振り向いて椅子を指差しにゃがら、話しかけてきたミーにゃんの言葉。ますますもって不安を覚えたのにゃけれども、にゃんせ相手はウチの親友にゃ。イヤともいえず、いわれるがままの大きさとにゃって隣の席へ。ネコ人型モードで座ったのにゃん。

「準備が出来たみたいですねぇ。それじゃあ始めても構いませんですかぁ?」

「望むところだわん」

 ミムカにゃんの左手自体がネコニャンの頭部分であることから、『こうしないと不公平だわん』とミーにゃんの左手にもネコニャンが握られているのにゃ。そのせいにゃろう。テーブルの上には、こちらと向こうとで頭を守る為のヘルメットが一つずつ。どちらに座っていようとも、右側ににゃるよう置かれているのにゃ。

 ふたりのいずれもが空いている手に拳を造っていて、『じゃんけん、いつでも来い』の、臨戦態勢といったところにゃ。

「ではではぁ……始めぇっ!」

 ミムカにゃんのかけ声でゲームの幕が切って落とされたのにゃん。

(にしても、にゃんでこの遊びを?)

 ルールはウチも知っている。グー、チョキ、パーのじゃんけんで、勝ったほうは相手をネコニャンで叩く権利を持つ。負けたほうは相手が叩く前にヘルメットを被れば、それでセーフにゃ。仮に叩かれたとしても、頭への衝撃は少にゃくて済む。もちろん、遅ければアウト。もろ直撃にゃん。ネコに平手打ちを食わされた感じを覚えるものの、ふんわりと柔らかにゃ素材で造られていることから衝撃度は少にゃい。遊びに適した遊びにゃん。

 たにゃ……今回は上手く当たれば一発で相手の気を失わせられる、つまりにゃ、ケリをつけられる力に設定してあるとのことにゃ。ふたりとも、『ぴりぴりとした雰囲気に包まれた』といった表情に変わっているのは、それが理由にゃろう。

(遊びが真剣勝負とはにゃあ。いかにもミムカにゃんの考えそうにゃことにゃん)


『じゃんけんぽん!』

 声を上げた、と同時に、勝敗の行方を左右する右手の形を相手に見せたのにゃ。

 結果は……、ミムカにゃんがパーでミーにゃんがグー。

(にゃんにゃあ。初っ端からミーにゃんの負けにゃあ!

 ……って、そういえばミーにゃんって、じゃんけん、弱かったのにゃん)

 次の瞬間、意外にゃ出来事を目の当たりに。てっきり、『ミーにゃんが叩かれるぅっ!』と可哀想に思っていたのにゃん。

 ところがにゃ。

 にゃおぉぉん!

「ふにゃあん!」

 叩かれたのはウチにゃ。

「にゃにすんのにゃん!」

 思わず抗議の声を。

「ミムカにゃん。にゃんであんたはウチを叩くのにゃん!

 返答次第ではウチにも覚悟があるのにゃよぉっ!」

 意気込んでみせるも、対するミムカにゃんの答えもまた意外にゃもの。

「えっ。だってルールで決まりましたですよ。ミーナが負けた時にはミアンが叩かれるって。判っていたんじゃなかったのですかぁ?」

「にゃんと!」

 立ち上がってミーにゃんを睨みつける。

「ウチはそんにゃルール、一言にゃって聞いていにゃいのにゃけれどもぉっ!」

 ムキににゃってみせるも、ミーにゃんは、あっけらかんとしたものにゃ。

「忘れていたわん。てへっ」

 舌を、ぺろっ、と出したまま頭をかいているミーにゃん。楽しそうにゃ顔つきで悪びれた様子は欠片もにゃい。毎度のことにゃと、怒る気も失せたのにゃん。ウチが肩を落として椅子に座ると、ミムカにゃんが、念の為に、とばかり、話しかけてきた。

「最初にもいったと思いますがぁ、このゲームはどちらかが気を失うまで続けられますです。……それじゃあ、再開しますですよぉ!」

「うん。いつでもいらっしゃい、だわん!」

 ウチ以外は盛り上がっている。恐る恐るといった感じで聞いてみたのにゃ。

「にゃあミーにゃん。負けたらまたウチは叩かれるのにゃん?」

「全然心配する必要なんてないわん。要するに負けなきゃいいんだから」

 あっさりと答えるミーにゃん。

(無理にゃん)

 どうやら、このまま叩かれ役でいにゃければにゃらにゃいようにゃ。顔には出さず、心の中で我が身の不運を嘆くこと頻りのウチ。少しでも早くこの責め苦から抜け出したいと切に願ったのはいうまでもにゃい。


 ともあれ、ネコの嘆きにゃど、一切お構いにゃしにゲームは続けられたのにゃ。

 予想は的中。いうまでもにゃく、『悪いほうに』にゃん。

 にゃおぉぉん! 「ふにゃん!」

 にゃおぉぉん! 「ふにゃん!」

 にゃおぉぉん! 「ふにゃん!」

 …………………………………………。

 …………………………………………。

 あれから何回目にゃろうか。何回叩かれたのにゃろうか。気を失いはしにゃいものの、顔はぼこぼこにされたみたいにゃ。ほおを触ると、妙にゃ感じに突き出ているところと、へっ込んでいるところとがあるのが判る。ミーにゃんに頼めば鏡を出してくれるのにゃけれども、見る勇気がにゃいので口にはしにゃい。

 ミーにゃんが悔しそうにゃ顔でこちらを振り向く。

「このぉ。アタシのモワンになんてひどいことを」

 そういって右手に造った拳をワナワナと振るわせているのにゃ。

「ミーにゃん。あんたが提案したルールにゃのにゃけれども」

「昔は昔。今は今だわん。このぉ。ミムカんめぇ」

 聞く耳持たずにゃ。がたがた、と貧乏ゆすりが次第に大きくにゃっていく。ミーにゃんも負け続けて苛立ち始めているみたいにゃ。

 そして……ついにキレたのにゃろうか。じゃんけんをしようとする直前、口からこんにゃ言葉が。

「ミムカん! これからアタシはパーを出すわん!」

「はぁ?」

 聞き返すミムカにゃん。

「パーを出すっていっているわん!」

 怒ったように繰り返すミーにゃん。

(にゃんでそんにゃことを?)

 長年の親友にゃがら、ウチにも今一つ、ミーにゃんの気持ちが判らにゃい。

「そうですかぁ……」

 ミムカにゃんも戸惑っているみたいにゃ。ウチの顔を覗いたのも、にゃにか手がかりがあれば、と考えたからに違いにゃい。にゃらば、ここは正直にと、『ウチにゃって、ちんぷんかんぷん』との意味を込めて、首を、ぶんぶん、と横に振ってみたのにゃ。

 そしたら……、顔に浮かぶ戸惑いの色が更に深く。『所詮、頼れるのは自分だけ』とでも思ったのにゃろう。腕を組んで、にゃにやら考えている様子にゃ。

(どうするつもりにゃろう?)

 どうやら時間がかかりそうにゃ気配。にゃもんで、『ウチがミムカにゃんにゃったら?』という仮定の元、ネコ頭にゃりに考えてみることにしたのにゃん。


 ええと……、幾らにゃんでもパーは出さにゃいにゃろう。出したらそれこそアホ……じゃにゃい。ミーにゃんはアホじゃにゃいのにゃ。とにゃれば、チョキかグーにゃ。『パーを出す』っていっている以上、相手に対して、チョキを誘っているってことも考えられるにゃ。すると……、ミーにゃんが出すのはグー? もしそうにゃら、ミムカにゃんはパーを出せば勝てることににゃる。でもにゃあ。これも誘っているのかもしれにゃい。

 うぅぅむ。……しょうがにゃい。ここは一つ様子見にゃ。チョキかグーを出すというにゃら、グーを出すのが賢明かも。それにゃら、最悪でも負けることはにゃいもの。


 ウチの考えが一応まとまった、まさにどんぴしゃのタイミングで、ミムカにゃんが口を開いたのにゃ。

「ちょおっと自信はありませんですが……、

 こうなれば、『当たって砕けろぉ!』でありまぁす!」

(ミクリにゃんみたいにゃ。ミーにゃんといい、ミムカにゃんといい、勝負事が結構好きにゃのかもしれにゃいにゃあ)

 両者、再び、右手に拳を造ったのにゃ。

『じゃんけん』

 見合って見合ってぇっ、みたいにゃ感じの末に、

『ぽん!』

(にゃ、にゃんと!)

 結果は……想定外にゃん。

 ミムカにゃんのグーは、ウチの予想通りと、にゃんか嬉しい。

 でもにゃ。意外や意外、ミーにゃんはパーにゃのにゃ。

 にゃごにゃおぉぉん!

 ミーにゃんのフルスイング。ネコニャンがミムカにゃんの横っ面に炸裂にゃん!

「うぉっ!」

 ばたん!

 殴られた方向に椅子ごとミムカにゃんは倒れたのにゃ。いや、吹っ飛ばされたといったほうが正しいのかもしれにゃい。果たして結果はと、ミーにゃんと急いで駆け寄ってみる。

「やったわん!」「ミーにゃん、お見事!」

 ミムカにゃんは、『……まさか……まさか裏の裏をかかれるとは……』といったっきり、ぐったりと。両目の赤い光も点滅状態で、今まさに消えようとしているみたいにゃ。

 ウチは感動の思いを口にする。

「ミーにゃん。ウチは、ミーにゃんがあんにゃワナを思いつくにゃんて夢にも思わにゃかったのにゃよ」

 ウチの言葉に、はて? と首を傾げるミーにゃん。

「ワナ? なんのことわん?」

「にゃから、相手の心理を利用してワナを張ったのにゃろう。ミムカにゃんもいってたにゃ。『裏の裏をかかれるとは』って」

「違うわん。アタシはただ、自分がいった通りにしただけだわん」

「どういうことにゃん?」

「『アタシがパーを出すんだから、あなたはグーを出しなさい』。そう意味だわん」

(あれは命令にゃったのか……)

 それでもウチは、『ミムカにゃんのいった言葉はまんざら間違ってはいにゃい』と思ったのにゃ。どうしてかといえばにゃ。

(裏の裏は表にゃもん)

 こうしてウチらはミムカ戦にも勝利した……と思っていたのにゃけれども。

「はっ!」

 ミムカにゃんが直ぐに気を取り戻してしまったのにゃん。目も真っ赤に戻っている。

「おかしいわん。もっと威力があるはずなのに」

 ミーにゃんは首を傾げていると、ミムカにゃんも首を傾げて、

「そういえば、ミムカも、あれっ? と思いましたですよ。一体、どうしてですかねぇ」

 ふたりとも答えをくれるのを待っているかの如く、机に置いたネコニャンをじっと見つめているのにゃ。でもにゃ。そんにゃことを続けていたって、答えてくれるはずもにゃし。とどのとまりが、『まぁ起きちゃったのなら、しょうがないわん』といって、ミーにゃんはゲームを続ける気を示したのにゃん。……とはいうもののにゃ。

(困ったにゃあ。今のようにゃ奇策がまた通用するとは、とても思えにゃい)

 にゃもんでウチは提案することに。

「にゃあミーにゃん。今度はウチにやらせてもらえにゃいにゃろうか?」

「えっ! ……で、でもアタシ、叩かれるのはイヤだわん」

(ぶふふっ。ミーにゃんらしいにゃあ。まぁ、無茶されるよりはいいかもにゃ)

「心配は要らにゃい。叩かれるのもウチがやるから」

「あっ。それなら、いいわん」

(お軽いミーにゃん)

 相談が済んにゃところで、ウチは机に座っているミムカにゃんにも声を。

「あのにゃあ」

 言葉を継ごうとしたら、先に向こうから、『聞いていましたですよ』との言葉が。

「だったら、ミムカもネコ型になりますですね」

 そういうにゃり、あっという間に変化。おなじみ、白地に黒の縞模様という、ちょっとばかし、嫉妬でもしたくにゃるほどの綺麗にゃネコにゃ。もちろん、ウチとおんにゃじ小さにゃ身体で、左手には琥珀色のネコニャン頭もある。ミーにゃんから借りたネコニャンのと、おんにゃじサイズにゃ。

(来る時が来たにゃ。いよいよ、ウチの闘いにゃん)

 準備は整った。いざ出陣にゃ。ウチは身の引き締まる思いでミムカにゃんの向かい側に座ると、机の左側、いつでもつかみやすい位置にネコニャンを置いたのにゃん。ミーにゃんのように握ったままでは、じゃんけんに集中出来にゃいと思ったからにゃ。

 そしてゲームは再開。……そして終わったのにゃん。

 にゃおぉぉん!

「ああっ!」

 ウチじゃにゃい。ミムカにゃんの悲鳴にゃ。

 一発。たった一発で相手の顔面を机の上に張りつかせることが出来たのにゃん。

(ウチらの勝ちにゃん!)

 そう思った。ところがにゃ。

 むくっ。

 ゾンビの如く、ミムカにゃんは顔を上げてしまったのにゃん!

 この成り行きに、ミーにゃんはまたもや首を傾げたのにゃ。

「さっきと同じなんて。やっぱり、変だわん」

 疑問を口にしたあとは、腕を組んで眉をひそめて、おまけに両目も落ち着きにゃく動きっ放し。いかにも『アタシは考えているわん』といわんばかりの様子にゃ。

「……ちょっと待ってよ。もしかしたら」

 にゃにを気がついたのか、ミーにゃんはネコニャンの一番上を覗き込む。

「そうかぁ! そういうことね。やっと判ったわん」

『謎は全て解けた』かの如く、目がきらきらしている。ウチも気ににゃっていたから、尋ねてみたのにゃ。

「どうしたのにゃ? ミーにゃん」

「あっ、モワン。あのね。ここ見て、ここ」

 ミーにゃんが指で示したのはネコニャンの一番上にゃ。赤色の丸っこいものが一つある。

「これがスイッチ。回転式なの。ほら、この白い目盛を良く見て。スイッチの黒い三角マークの示している先が『弱』になっているわん。本当は『強』にセットしておかないといけなかったの」

「それはつまり、……ええと……にゃんていうか……そうそう、『設定』にゃ。

 設定が間違っていたわけにゃん」

「そういうこと」

(やっぱりにゃ。大方、そんにゃことじゃにゃいかと思っていたのにゃ)

 ろくに知りもしにゃい癖に知ったかぶりをして。ろくに使えもしにゃいのに、さもベテランでもあるかの如く使いこにゃせるフリをして。マニュアル……にゃったっけ? ……があっても、『こんにゃの見にゃくたって』といって、ポイ。簡単簡単と無理矢理、使おうとする。で、とどのつまりが痛い目に遭う……のはウチにゃん。とほほの、とばっちりにゃん。泣くに泣けにゃいのにゃん。誰か変わって欲しいのにゃん。

 まぁこんにゃのってアホに良くあるパターンにゃ。とはいえ……、

 自然と、薄焼きせんべいよりも薄い目とにゃっていく自分を感じていたのにゃん。

「あのにゃあ」

「誰にでも過ちはあるわん。……なぁんちゃってね。てへっ」

(てへっ、って舌を出してもらってもにゃ)

 ウチはにゃあんか、ものすっごく疲れたのにゃん。

「どれどれ」

 ミムカにゃんも珍しいものを見るようにゃ目で近づいてきたのにゃ。見れば、翅人型へと戻っている。ウチらの間に割って入ると、ミーにゃんが手にしている問題のネコニャン、上部のスイッチを覗き込む。

「なぁんだ。そうだったのでありますかぁ。あぁっはっはっはっはっ」

「そうだったのわん。きゃあっはっはっはっは」

「そうにゃったのか。にゃあっはっはっはっは」

 この面子の中に居ては笑うしかにゃい。もちろん、『心で泣いて』にゃ。


 突然、『別なゲームにしませんですかぁ』とミムカにゃんが誘いの水をかけてきたのにゃ。すかさずミーにゃんは、『賛成だわん!』と叫んで手まで上げる。ネコの目からしても理由は明白。どちらも自分が勝利者とにゃりたいのにゃ。にゃのに、このままではウチが勝利者。ネコニャンのレベルを『強』にした今、次で必ず決着がつく。ウチ自身でさえそう思うもの。絶対にあってはにゃらにゃいことと、ふたりで歩調を合わせたわけにゃん。


「ではぁっ。第二ラウンドへぇ……おぉっ、と。その前にですよぉ」

 琥珀色のネコニャンで机と椅子をぶっ叩くと、がぐん! と二つとも壊れ、破片が地面に散らばり、……そして沈むように消えたのにゃん。

 ミムカにゃんの左手も五本指の手に戻ったのにゃ。

「後始末完了! ではではぁっ。あらためていい直しますですねぇ。

 うぉっほん! 第二ラウンドへ突入しますですよぉっ!」

 ウチはすかさず、このタイミングに、ばっちしの質問をしたのにゃ。

「第二ラウンドって、にゃにをやるのにゃん?」

「またなんかの遊び?」

 ミーにゃんもうきうきした調子で尋ねている。ところがにゃ。ミムカにゃんの顔は真剣そのもの。翳りすら射しているのにゃ。

「ミムカは間違っていましたですよ」

 いつににゃいマジメにゃ発言。ウチはミーにゃんとうなずき合う。口に出さずとも心はおんにゃじにゃ。黙って拝聴することにしたのにゃん。


(ふにゃ? そういえば……)

 ミーにゃんとミムカにゃんの向かい合っている姿を見て気がついたのにゃけれども、翅人型に変化している時のミムカにゃんの顔って、どことにゃく、ミーにゃんに似ているのにゃ。色も髪の長さも違うというのに。美しさがまにゃ影を潜め、可愛らしさが全面に出ている、幼児にゃらではの顔立ちがそう見せるのかも。とはいってもにゃ、おんにゃじ可愛らしさでも微妙に違う。ミーにゃんが駄々っ子みたいにゃ顔つきにゃのに対し、ミムカにゃんは、どちらかといえば、やや大人びた感じを受けるのにゃ。

(これは内緒の話にゃ。ウチがこんにゃ風に思っているにゃんてミーにゃんに知られでもしたら、それこそ大変にゃもの。ムキににゃって、『どういうことわん! ちゃんと説明しなさい』って、がなり立てるのに決まっているのにゃん)


 ミムカにゃんは『反省』ともとれる言葉を口にする。

「確かに遊びにも罰ゲームは、あっていいと思いますです。はい。でもぉ……、

 大事な大事な友だちなのですよ。なのに、気を失わせるばかりか、大切な霊力まで奪ってしまうのであります。こんな行為を果たしてその範疇に入れていいと思われますかぁ?」

 ……とても信じられにゃい思いにゃ。でもにゃ。間違いにゃくこれは、今の今まで楽しそうにゃ表情を浮かべて、さんざんネコをぶっ叩いていた妖精が吐いた言葉にゃのにゃ。

 まっ、それはそれとしてにゃ。

(遊び半分にゃったのが、いきにゃり本気まじにゃん。

 んもう。調子が狂ってしまうのにゃあ)

 世の中には、どうにもついていけにゃい『ノリ』があるのにゃ。

 今のウチらも、……そうにゃにゃあ、ミムカにゃんに誘われて一緒に遊んでいたら、そのミムカにゃんにさっさと抜けられ、置いてきぼりを食わされたって感じかにゃあ。

 にゃもんで、

「今頃ににゃって、そんにゃことを突然いわれてもにゃあ」

「困ってしまうわん」

 ふたり揃って苦言を呈するも、ミムカにゃんは聞く耳持たずとばかり、意気盛んに言葉を続ける始末にゃ。

「答えはいなっ! いいわけがありませんです!

 やっぱり、ここは『遊び』であってはならないのですよぉ」

「じゃあ、どうするのにゃん?」

「是非とも、教えて欲しいわん」

「ミムカが思うにはですね。『このゲームの敗者には、この罰ゲームを』という風に、闘うゲームの内容と、そのゲームに負けたことで与えられる罰ゲームの内容は、それぞれが見合って然るべき、とまぁかように思う次第でありまぁす。

 というわけで、ミーナたちの霊力を奪うという罰ゲーム。これに見合う、相応しいと、ミムカが選んだゲームの名前はぁっ!」

 こちらを向いているミムカにゃんの両目。赤色の輝きが更に増す。まるで、『これから話すのはメノオラの言葉でありまぁす』と宣言するみたいに、にゃ。

 でもって一呼吸置いてからぁ。

 ばっ、と両腕を左右に伸ばし、にこっ、と笑顔の口から放たれた言葉は。

「じゃんじゃじゃああん! ずばり! 『真昼の決闘』でありまぁすっ!」

(ミムカにゃん……。

 あんた、ふざけたいのか、本気でやりたいのか、どっちにゃん?)


 これはイオラにゃんとミムカにゃんのふたりから聴いた話にゃから、間違いはあるまい、とは思うのにゃけれども。

 にゃんと! ミムカにゃんは今は亡き森の精霊シャナにゃんがこの世に残した秘蔵っ子、形見らしいのにゃ。造られたのは、はるか昔。ある日のこと、外に出て、真上を、ぼぉっ、と眺めていたら、空からでっかいにゃにかが自分の頭に落ちてきた。記憶はここで、ぷっつん。気がついたのは今から二年前ぐらい。地中深く埋まっていた、というのにゃん。

 突拍子もにゃい話にゃったもんで、『本当にゃの?』と疑問を抱かずにはいられにゃかった。ミーにゃんと互角の力があることを鑑みれば、ここはうなずくのが妥当にゃ、とは思いつつも、やっぱり心のどこかで半信半疑。信じる決めてとにゃったのは、イオラにゃんが知っていたことにゃ。ミムカにゃんとは直接、面識はにゃかったものの、時折、お喋りをしに訪ねてくるシャナにゃんの話の中に出てきたみたい。ミムカにゃんの、ちょっと頼りにゃい記憶で語る身の上話を聴いて、『それって、あなただったのね』と気がついたのにゃ。二つの話に出てくる内容、一つ一つの符号がほぼ合っているらしく、『ミムカにゃんはシャナにゃんの造りしもの』とイオラにゃんも認め、それでウチとミーにゃんも納得したのにゃん。

 たにゃ……、シャナにゃんの秘蔵っ子にしてもにゃ。あとあとのことをろくに考えもしにゃいで造ったきらいはあるのにゃ。というのも実は、ミムカにゃんの妖体としての身分、というか、種としての位置づけが定まっていにゃいのにゃ。自分でも認識しているとみえて、ことあるごとに、『自分は、「森の妖精」でありまぁす!』と宣言している。それが高じて、というわけでもにゃいと思うのにゃけれども、『自分の棲み家はイオラの森全部でありまぁすっ!』とも豪語するようににゃったのにゃ。実際、イオラにゃんとミーにゃん……もちろん、ウチもにゃ……が暮らしている『精霊の間』にも寝泊りしに来ることがあるくらい。とはいっても大概はにゃ。遊びの広場の一角を占め、小川の水も行き来する沼の中に身を置いている。もっと詳しくいうにゃら、沼底近くに連にゃる岩場の奥深くを自分の棲み家としているのにゃ。ウチも部屋の真ん中よりは隅っこのほうが居心地がいい。にゃもんで気持ちは良ぉく判るのにゃ。


 ゲームの、いや、闘いの舞台は狭界の空へと移ってしまったのにゃ。ミムカにゃんは翅人型の姿に身を変え、ミーにゃんと間合いを十分にとって対峙。一方、ウチはといえば。

「にゃあミーにゃん。どうしてウチはこんにゃ格好にゃのにゃん?」

 焦げ茶っぽい色をした大小異にゃる大きさの木材二本が木の蔓で十字に組まれている。『こんにゃものをどこから持ってきたのにゃ?』と問う間もにゃく、ミーにゃんの念動霊波でウチはこの十字架へ、張りつけの目に遭ったのにゃ。首と前足と両足を、『霊紐れいちゅう』と呼ばれる霊力の紐で縛られ、親友の真後ろで、ぷかぷか、と浮いているのにゃん。

 実は、ふたりは飛ぶ前に、にゃにゃやら話し込んでいたのにゃ。終わったあと、ミーにゃんに尋ねても、『直ぐに判るわん』としかいってくれにゃい。にゃもんで、ウチにいいにくいことにゃ、と察しはつけていたのにゃけれども……。

(まさか、こんにゃ目に遭うとは夢にも思わにゃかったのにゃん)


 そして、ついに親友の口からその内容を知らされたのにゃん。

「モワン。『一蓮托生』って言葉、知っている?

 アタシは勝つ気まんまんだわん。でもね。勝負は時の運。どうなるかはやってみないと判らないの。勝敗は、『どちらかが気を失った』あるいは『負けを認めた』時点で決まるわん。アタシが勝てば、ミクリんたちみたいにミムカを解放してくれるけど、負けたら、もしくは、負けを認めたとしたら……、モワンともども、気を失わされようが、霊力をどれだけ奪われようが、文句はいわない。ミムカとの相談の結果、そういうルールになったわん」

「あんたにゃあ、いつの間に」

「もう決まったことなの。今更、変えようがないわん。

 それとも……イヤなの? アタシと一緒じゃ」

「ミーにゃん……」

 親友の目をみる。本気も本気にゃ。今の今まで、『自分をこんにゃ目に遭わせるにゃんて』と憤慨していた気持ちも、すぅっ、とどこかへ消えてしまった。残ったのは、かけがえのにゃい親友の為に、にゃにかしてあげられたら、と思う心にゃけにゃ。

「判ったのにゃん。こっちも覚悟を決めた。ミーにゃんの好きにゃ通りにやってごらん」

 ウチの答えに、『うっ』と声を詰まらせ、目を潤ませるミーにゃん。

「……有難う。モワ、ううん。ミアン」

 濡れたまなざし。感謝の言葉。そして……ウチの名前をちゃんと口にしてくれた。

 これらを全部、大好きにゃミーにゃんからもらえたのにゃ。もう思い残すことはにゃにもにゃい。

(そうにゃ。これにゃけは、いっておかにゃいと)

「ミーにゃん」

「うん? なにわん?」

「ミーにゃんに逢えて幸せにゃった。ウチこそ、有難うにゃん」

「ミアン…………ぐすん」

 親友と呼べる相手の瞳から零れた一滴の雫が、ほおに軌跡を残して、すうぅ、と流れ落ちていく。それを『美しい』と感じるのは、にゃにもウチにゃけではにゃいはずにゃ。


 ミムカにゃんの話に依れば、決闘は、もちろん、一対一にゃ。お互い、それぞれの奥義を繰り出して闘うという。

 ミーにゃんと向かい合ったミムカにゃんは、凛とした口調でいい放ったのにゃ。

「ミーナ。あなたが『妖力爆風波』を使えるように、ミムカにも切り札がありますです」

「えっ。そうなの?」

「はい。今まで話したことはありませんでしたが、ミムカには『流与りゅうよ』と呼ばれる奥義、霊技が使えますです。はい」

「流与って?」

「おのれの居る空間に満ちているもの。たとえば、空なら空気、湖なら水、地中なら土に対して『流れ』の力を与え、我が武器として使う。これを実現する技なのでありまぁす」

 そういうと、ミムカにゃんは不敵にゃ笑みを浮かべたのにゃ。


 そして……闘いは始まったのにゃん。

 ばじっ! ばじっ!

 ウチの目の前で緑の光弾と白の光弾がぶつかっては離れ、離れてはぶつかる、を繰り返している。衝突の際、きらきらっ、と撒き散らされる緑と白の混じった閃光がとても綺麗。まるでウチにゃけに見せたいが為、やっているようにゃ。

 ……とはいえ、見た目にも、双方が全力でぶつかり合っているのが良く判る。『これでは直ぐに疲れてしまうにゃ』と思っていたら、案の定にゃ。

「はぁはぁはぁ」「はぁはぁはぁ」

 二つの光は、ほぼ同時に動きをとめた。闘う前とおんにゃじぐらいの間合いをとっていて、どちらも、おんにゃじように身を屈めている。どうやら、両足の膝を両手でつかんでいるようにゃ。息遣いも荒く、早くも疲労困憊といったところにゃ。

(もうやめればいいのににゃあ)

 ミーにゃんの後ろ姿を見て、次に、ミムカにゃんへと目を移したところ、きっ、と向かい合っている相手を睨みつけるようにゃ視線と出くわしたのにゃ。

 しゅん!

 突然、ミムカにゃんの姿が消えた。でもにゃ。『どこへ行ったのにゃろうか?』と怪しむ間もにゃく、はるか向こうのほうに現われたのにゃん。

(これにゃけ間合いをとったのにゃ。当然、にゃにか仕掛けてくるはず)

 睨み合ったまま、沈黙の時が流れる。

(どうするつもりにゃ?)

 ごくん、とウチの生唾を呑む音すら聞こえる静けさにゃ。

 ふたりが浮かんでいるのは、通常空間とおんにゃじ、どこまでも透き通った青い空。

(いつもにゃら、うとうとと眠たくにゃるくらい、平和にゃ眺めにゃというのにぃ)

 静寂を破ったのはミムカにゃん。見れば、両手に造った拳を腰の脇に当てている。微かにゃがら、声も聞こえてきたのにゃ。

「妖力充填!」

 対するミーにゃんもおんにゃじ格好にゃ。呼応するかの如く、ミーにゃんも叫ぶ。

「妖力充填!」

 ミムカにゃんの全身が琥珀色に光り出す。と同時に、ミーにゃんの二枚翅も白い光を放ち始める。

 ぐううぅっ! 重い響きとともに、ミムカにゃんの光が輝きを増していく。

 ばああぁぁっ! 拡がるようにゃ響きとともにミーにゃんの光も輝きを増していく。

 ウチが、『眩しいにゃあ』と思い始めた矢先にゃ。

 最初に動いたのはミムカにゃん。両腕を真っ直ぐに伸ばしてこちらへと飛んでくる。自分の間合いへと入ったのにゃろうか。右腕の肘を、ぐぃっ、と引いて後ろへ。全身を覆う琥珀色の光が、引いた肘から拳までへと集中。輝きを増す中、間髪容れずに叫んにゃ霊技の言葉は。

妖力爆流渦ようりょくばくりゅうかぁっ!」

 ちょっと遅れてミーにゃんが口にした霊技は。

妖力爆風波ようりょくばくふうはぁっ!」

 ミムカにゃんが突き出した右腕からは琥珀色の輝きを放つ旋風が、ミーにゃんが羽ばたいた二枚翅からは白い輝きを放つ大風が放たれたのにゃん!

 渦巻く風と拡散する風。大きさから見れば、ミーにゃんの爆風波がにゃんにゃくミムカにゃんの爆流渦を呑み込んでしまう。そう思っていた。ところがにゃ。

 どどどどどおおぉぉっ!

「きゃあああっ!」

 すさまじい爆流渦の威力。霊力を伴う旋風の直撃に、ミーにゃんお得意の爆風波は、ずたずたに斬り裂かれたみたいにゃ格好。あえにゃく消滅にゃ。

 ひゅぅぅっ! ……べちっ!

 勢いに呑まれ、ミーにゃん自身も地面へと落下したのにゃん。

「ミーにゃん! ミーにゃん!」

 十字架に張りつけられたまま叫ぶウチ。しばらくすると、期待に応えて、みたいにゃ感じで、ゆっくりと、にゃけれども、ミーにゃんは起き上がったのにゃ。さぞや無念、と思いきや、どうしてどうして。見上げた目からは闘志が漲っているのが痛いほど感じられ、口元も、にやりと笑みを浮かべているのにゃ。

(ほっ。まにゃまにゃ余裕のようにゃん)

「あっははは。どうでありますですかぁ? 爆流渦の味は?」

 勝ち誇ったように両手を腰に当てて、上空から見下ろしているミムカにゃん。そんにゃライバルに返したのは、不敵ともとれる力のこもった顔と言葉にゃ。

「ふん。まだまだだわん!

 イオラからもらった力を、森の精霊より受け継がれし力を、侮らないで欲しいわん!」

 ウチは見逃さにゃかった。ミーにゃんが『森の精霊』と口にした、ほんの一瞬にゃ。ミムカにゃんの両目が大きく見開かれ、全身も、びくっ、と震えたのにゃ。


 再びふたりは先ほどとおんにゃじぐらいの間合いで対峙。妖力の充填が終わるや否や、今度はミムカにゃんにゃけじゃにゃく、ミーにゃんまで相手へと一直線に向かって飛んでいく。

(ど、どうするつもりにゃん?)

 はらはら。どきどき。

 もう居ても立ってもいられにゃい心持ちで、ウチは見守っていたのにゃ。

(あ、あれは……)

 おかしにゃことが起こったのにゃ。飛んでいるミーにゃんの翅から右腕、そして右手へと銀色の光が移動していく。にゃんとも異様にゃ力の流れがウチの目を釘づけにする間に、

妖力爆流渦ようりょくばくりゅうかぁっ!」

 ミムカにゃんの右腕から、またもや旋風が放たれた。でもにゃ。ほぼ同時に、

「乾坤一擲! この一撃に全てを賭けるわん!

 それぇっ! 妖力爆風波ようりょくばくふうは、光の槍Version!」

 にゃんと! 言葉通りにゃ。親友の右手から槍の形をした銀色に輝く霊風波が放たれたのにゃん。

(ミーにゃん!)

 二つの力がぶつかり合うさまを固唾を呑んで見守るウチは、この時、不思議にゃ体験に遭遇。心を奪われてしまったのにゃ。でもにゃ。それも束の間。

 ばしゅうぅぅっ!

「はっ!」

 轟音で我に返った。ミーにゃんの槍がミムカにゃんの旋風、渦の中心である目へと突っ込み、内側から外側へと一気に粉砕したのにゃ。

「うわあああっ!」

 今度はミムカにゃんが勢いに呑まれて地面へと落下、叩きつけられた。それを見届けたミーにゃんは、やっとウチの戒めを解いてくれたのにゃ。ふたりでミムカにゃんへと駆け寄ると、そばに膝を突く。ウチは瞑っているミムカにゃんの目を半ば強引に指で開いたのにゃ。赤い光は消えていた。くるくると目を回しにゃがら気絶しているにゃけ。ウチはミーにゃんと顔を見合わせる。

「ミーにゃんの勝利にゃん」

「ううん。ミアンが我慢して張りつけられたままでいてくれたおかげ。『ミアンを守らなきゃ』って思いがアタシを支えてくれたの。この結果を生んだのよ。だから……、

 アタシたちの勝利だわん」

「ミーにゃん……。そうかそれで」

 ウチの心は、ほろっ、としてしまったのにゃ。


 ミーにゃんにもいわにゃかった、ウチの体験した不思議とは……。

 色の違う二つの力がぶつかった瞬間、どうやら、もう一つの狭界、『時の狭間』とやらに入り込んでしまったみたいにゃのにゃ。

 淡い白で彩られた空間の中、光が強くて顔は見えにゃかったのにゃけれども、琥珀色のひらひらの衣を纏った者と、銀色のこれまたおんにゃじひらひらの衣を纏った者が、手に手を取り合っていたように見えたのにゃ。声も……聞こえた気がした。


『やっとぉ、お逢い出来ました。お目にかかれて嬉しゅうございます、銀霊様』

『わらわもじゃ、釈奈しゃな

『それにしても、しばらく見ないうちに大層なお変わりようで。ずいぶんとまぁ老け込まれておしまいになられましたな』

『…………』

『いやはや。見るも嘆かわしく、この胸が張り裂けんばかりにございます。

 さぞや若き日のおのれの姿が恋しいことでありましょう。ご心痛お察し致しまする』

『…………』

『ですが、ご案じめさりますな。身どもが個の意志を持てるだけの十分な霊力を蓄えた暁には、必ずや森の精霊として復活。我が得意とする整形改造おなおしにて、必ずやご満足のいくお姿にして差し上げまする。

 どうか、それまではご辛抱のほどをひらに、ひらに」

『釈奈』

『いえいえ、礼などには及びませぬ。ただただ銀霊様への感謝の気持ちで』

『……はぁぅ』

『おや、どうなされました? 深いため息などお突きになられて」

『相も変わらずの冗舌、口達者ぶりよのう。されど、口は災いの元とかいうであろう?

 のう、釈奈しゃなよ』

『へっ?』

 どがっ!


 はるか昔のことにゃ。天空の村には、五にんの『森の精霊』……森そのものに宿る精霊にゃ……が棲んでいたとか。会話の中にあった『銀霊』にゃんは長を務める一番の古株。『シャナ』にゃんも、いい伝えられている名前のひとりにゃ。

 銀霊にゃんが棲み家としていたのは、自分の名前を冠した『銀霊の森』。今は『銀光虫の森』と呼ばれる森にゃ。この森のお隣に、名もにゃい森があったのにゃ。自由の森に次ぐでっかさではあったものの、霊気に乏しく、今にも朽ち果てそう。老いた森にゃった。それでもにゃ。活気を取り戻しさえすれば、天空の村にとってこの上もにゃく有益にゃ森に生まれ変わると信じた銀霊にゃんは、森の中でも一番若々しく、生命力に満ち溢れた樹木に自分の命の欠片を吹き込んにゃのにゃ。この手当てが功を奏したのにゃろう。『老』から『若』へと森は活性化。数年後には森の精霊までもが宿った、というか、生まれたのにゃ。新たにゃ精霊の誕生を記念してか、精霊には『シャナ』と、森には『シャナの森』と、こうにゃるきっかけを造った樹木には『イオラ』と、森の精霊らに依って名づけられた。それから更に数年後、ついにイオラの木にも精霊が宿ったのにゃ。これがウチらのイオラにゃん。考えるのが面倒にゃったのか、樹木の名前そのままにゃん。イオラにゃんが銀霊にゃんのことを『お母様』と呼ぶのは、こうした経緯があるからに他にゃらにゃい。

 でもってこの時にゃ。どうした心境の変化にゃろうか、『森の守護』という森の妖精にゃらではのお役目を、シャナにゃんはイオラにゃんへと譲ったのにゃ。にゃんでも、『森の守護は大地に根づいている者のほうが相応しいかと存じます。身どもには何卒、自由の翼をお与え下さいますように』とかにゃんとかいったとか。要するににゃ。職務を放棄して、フリーとにゃりたかったようにゃのにゃ。『身勝手すぎる』と思う者も居たとは思うのにゃけれども、それでもまぁ『やる気のないものに無理に続けさせても』ってことで意見が一致したのにゃろう。森の精霊らは了承。森の名前もにゃ。『イオラの森』へとあらためられたのにゃん。


 ここでウチは考える。『ネコが考えても』とは思うのにゃけれども、ネコにゃって考えたい時がある。ムダと判っても考えずにはいられにゃい時がある。にゃもんで考えてみた。

 ええと……、銀霊にゃんの命の欠片はイオラにゃんの命にも内包されていて、そのイオラにゃんの命の欠片をミーにゃんとウチは分け与えてもらったのにゃ。

 とにゃると……、

 そうにゃん。ミーにゃんにもウチにも銀霊にゃんの命の欠片があるってことにゃん。

 ちょっとここでおさらいをしてみようにゃん。ミーにゃんには銀霊にゃんの命の欠片があって、ミムカにゃんにはシャナにゃんの命の欠片があるのにゃ。でもって、今回ミーにゃんとミムカにゃんは全力を尽くして闘った……。ああにゃるほどぉ。それにゃら、二つの命の欠片が発動してもおかしくはにゃいにゃあ。

(それで、『ふたりの精霊の再会と相成った』ってわけにゃん。銀霊にゃんはミーにゃんが、シャナにゃんはミムカにゃんが現わした精霊にゃのに違いにゃい)

 ……とまぁこれがウチの見立てにゃ。真実かどうかは別としてにゃ。

 ついでにゃがらイオラにゃんの話に依れば……、残念にゃことに今の時点では、どちらの精霊も完全復活は難しそうにゃ。シャナにゃんは個体を留めることが出来にゃいくらい、意志がすり減ってしまった為、今もって銀霊にゃんが持つ霊力の一つに成り下がったままらしい。でもって、銀霊にゃん自身も、おんにゃじ理由から、おのれの意志と力をたくさんの銀光虫に分けた形のままにゃとか。とにもかくにも、極めてややっこしい状態にあるらしいのにゃ。

 イオラにゃんに、『ガムラにゃんに頼めばいいじゃにゃい』といってみたことがあるのにゃ。そしたらにゃ。『そうよね。そう思うわよね』といって、いきにゃり、ぎゅぎゅうっ、と抱き締められてしまったのにゃ。その時は、一枚の霊布を纏った人間の女の子姿で、背丈はネコ人型モードのウチの三倍近く。ミーにゃん似ではあるものの、ちょっと大人びた感じににゃ。端正にゃ顔立ちを歪ませにゃがら、『ワタシも進言したことがあったわ。でもね。「イオラよ。森の精霊を甦らせるのに一体どれほどの霊力を使わねばならぬか知っておるのか? そのような余裕あらば、余らが悲願とする惑星ウォーレス再生の力に回すが道理、と心得るが」って、にべもなく断わられてしまったの。んもう、本当につれないお方で』とウチの胸で嘆かれてしまったのにゃ。

 非常にまずいのにゃ。というのも……。

 霊体は常に身体から霊波を自然放出している。でもって感情をゆさぶられればゆさぶれるほど、その力も強くにゃる。相手が精霊格ともにゃれば尚更にゃん。

 ウチが纏っている実体波も所詮は霊波。激しい感情を露わにしているイオラにゃんの身体から発せられた霊波がのしかかれば、ものすっごい霊圧が生じるのは必至にゃ。ウチの命を支えているのがイオラにゃん自身の命の欠片じゃにゃければ、どうにゃっていたことか。圧迫死か、さもにゃくば、窒息死するかもしれにゃかった。現に気がついてみたらにゃ。口から泡を吹いて、やや取り乱し気味にゃイオラにゃんに介抱されている真っ最中にゃったもの。いやはや、世の中どこに危険が潜んでいるか判ったもんじゃにゃい。


 本当に時の狭間へと入ったのか。本当に二大精霊の会話を耳にしたのか。今とにゃっては確かめようがにゃいし、『間違いにゃい』といえる自信もにゃい。でもにゃ。ミーにゃんがミムカにゃんを吹っ飛ばすシーン。あれを目の当たりした際、こんにゃ風に思ったのは事実にゃ。

『銀霊にゃんにゃ。怒り心頭の銀霊にゃんから繰り出された強烈にゃパンチが、お喋りのシャナにゃんを打ちのめした。それがこの結果をもたらしたのにゃ』とにゃ。


 ミムカにゃんのまなこが普通の銀目に戻ったのをウチとミーにゃんで確認。『にゃら、ネコダマへ』と思った矢先にゃ。

 つんつん。つんつん。

 にゃにやらウチの肩を後ろから、つついている者がいるのにゃ。

「ミーにゃん。どうしたのにゃ?」

 仰向けに倒れているミムカにゃんを見つめたまま、そう尋ねたのにゃ。

「えっ、なに?」

(にゃにって……とぼけているのにゃん)

 つんつん。つんつん。

 言葉を返してくるも、つつくのを一向にやめようとしにゃい。にゃもんで、にゃんにゃんと苛立ってきたのにゃ。

 つんつん。つんつん。

「にゃああ!」

 幾ら温厚にゃウチとはいえ、堪忍袋の緒が切れることもあるのにゃ。

「ミーにゃん!」

「うん? どうしたわん」

 ちょこっと横を振り向いたにゃけで、『?』の表情を浮かべたミーにゃんの顔が真正面。どうやら、ウチと顔を並べてミムカにゃんを見ていたようにゃ。

(とにゃると、あの、つんつんは……)

 つんつん。つんつん。

 ミーにゃんでにゃいのは一目瞭然。にゃのに、まにゃ、つんつん、は続いている。ここにはウチら以外、誰も居にゃいはずにゃのに。

 総身の毛が逆立つようにゃ不気味さ。それでもにゃ。ウチは好奇心旺盛にゃネコ。正体を知ろうと、振り向いたのにゃん。

「あんたは誰……ふにゃん!」

「うわん!」

 ウチとミーにゃんが驚くのも当たり前にゃ。つんつん、をやっていたのはネコダマ。おでこを使っての仕儀にゃん。見れば、『食べてもいい?』といわんばかりのいかにもフレンドリーにゃ表情。もちろん、そのつもりにゃったので、反射的に、こくりと。途端に、満面の笑みを浮かべたのにゃ。でもって、そのあとは……前とおんにゃじにゃ。顔を下に向けて口を開くと、友にゃちを、すぽっ、と回収。またどこかへと飛んでいく。

(心にゃ。ネコダマが心を持ったのに違いにゃい)

 今までに何度ネコダマを造ったことか。でもにゃ。こんにゃことは初めてにゃ。狭界という異空間ならではの不思議としか思えにゃい。

 ともあれにゃ。心を持ったというにゃら。

「ネコダマぁ! あんたを今の今からネコダマにゃんと呼ぶのにゃああん!」

 ウチは叫ぶ。上空を飛んでいる『ネコ耳のついた頭』を目で追いにゃがら。後ろ姿ではあるものの、こくり、とうなずいたようにゃ、そんにゃ気がした。



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