突然すぎるもとの時代
*お話は2011年春当時に書かれたものです。戦争の終った1945年を始め、
いろいろな「何年前」などの表記が2015年から考えるとおかしな事になって
きてしまうので、ご注意ください。
もう、「読んでいる今は2011年なのよ~」とかいう気持ちで読んでいくのが
bestです。
2011年―――
和子は、N市に向かっていた。
今日は萌子は仕事なので、車ではなく、電車を使って。
萌子に勧められて、乗り換えのないK鉄道を使っていた。
電車の中で、ふと、和子は記念メダルを取り出した。
2011・0 7・ 28 KAZUKO KAWASHIMA
萌子は、ローマ字と言っていた。
今度は、空襲のなかった都市と、焼けてしまった都市を調べあげたメモに目を落とす。
頭には、しっかりと刻み込んだ。
もし、このメモを、首から下げるお守りに入れていたら、もとの時代に帰る
時、いっしょに持っていけるだろうか・・・。
着ていた衣服は、そのままこちらに来れた。
手荷物は、ダメだった。
もし、このメモが持って帰れても、私の字では、母さんでさえ、真実と信じて
はくれないかもしれないんだわ。かといって、戦後の資料を写して持って・・・は、かさばるし・・・
燃えたり、破れたりしない、頑丈な物に・・・情報を刻むことが出来たら・・・
メダルみたいに。
メダル?
・・・このメダルに刻み込んだらどうだろう。
これ、・・・何文字くらいまで入力できるのかしら。
和子は、文字を数えてみた。
刻字してある部分が、26文字。
あいている部分が10文字くらいだろうか・・・。
めいっぱい刻字して36文字入るだろうか。
ここに、都市名を刻み込んだら、どう?
ローマ字を覚えて、燃える町と燃えない町・・・
どちらか、それか両方を。2枚つくってもいい。
そしたら、母さん説得するのに、使えるかもしれない。
萌子さんは、あの時なんて言ってた?
日付が自動的に入る。ローマ字しか打てない。
そう、言ったわ。
日付が入ってしまうと、かえってまぎらわしいわね。
入れないですむ方法が、あるかもしれない。
もし、入れたい日付が入れれたら、空襲の日付さえ入る!
記念メダルの機械・・・どこにでもあるんだろうか。
有名な観光地・・・とか?
確実あるのを知ってるのは、N城。
あそこへもう一度行ってみようかしら。
まずは、図書館へ行って、ローマ字表を写して、それからN城へ行こう。
N城へ行くまでに、ローマ字表記で、36文字までに刻字する文を考えなけりゃ。
和子は、やる事を整理すると、記念メダルを大切に、首から下げたお守り袋に
しまって、窓の外のN市へと近づいてゆく景色に、目を移した。
N駅に着くと、迷路のような地下街を歩き、地上にあがってしまったり、地下
鉄を探してまた地下にもぐったりした。
人に何度も聞き聞き、ようやくN城に最寄りの駅に止まる線に、乗り換えて、
へとへとになった。
図書館まで歩いて、やっと冷房の効いた館内に入ると、人心地がついて、調べ
物をする元気を回復した。
ローマ字表を、書き写していると、図書館司書の人が通りかかって、コピーと
いうのをしてくれた。
一瞬のうちに、紙に印刷されて、元の表と全く同じ物が、写されて出てきて、
和子は、びっくりした。
印刷されたきれいな表を、お守り袋に小さく折りたたんで入れると、せっかく
なので、書き写した途中の表を完成させて、その場で、燃えた町と燃えなかった町名を、ローマ字で表記してみた。
N市に住む母と姉が、行ってしまいそうな都市と、行ってくれそうな近郊の都
市ということで、中部地方の都市を最小限にして、選んだ。
燃えてしまった都市
「NAGOYA, HAMAMATSU, SHIZUOKA, TSU, GIFU・・・」
もう、入らない。軽く36文字を超えてしまう。
ローマ字表記にすると、字数が倍以上増えてしまうんだわ。
全部入らないなら、どう端折ればいいんだろう?
燃えなかった町を、2枚にわたって刻字した方が、いいかしら。
あれ・・・
日本地図に示された、空襲で消失した都市を見ていて、気がついた。
○○市とつくところは、全部焼けてしまっている・・・?
特に海岸線の都市は、みんなだ!
なんで?
いずれ上陸するのに、都合がいいから?
山間の村や町は、なんとか残っている・・・
でも、いちいち○○村、○○町、って刻字してたら、とても足らないし・・・。
MOETATOSHI KAIGANSENNO SYUYOTOSHI
(燃えた都市、海岸線の主要都市)
なら、どう? これなら33文字でおさまる。
どうして、漢字で刻字できないのかしら。
ローマ字にすると、なんのことか、わかりづらくなってしまう。
せっかく硬いものに刻字できるこの案は、だめかしら・・・。
萌子さんに聞いたら、現代のもっとすばらしい伝達方法を、考えついてくれる
かもしれないわ。
和子は、いったん出直すことにして、図書館をあとにした。
駅に向かおうとして、ふと、お堀端を歩いてみたくなった。
何もかもが、整備されて変わってしまったけれど、そこだけは、なんとなくあ
の頃のにおいがするような気がしたのだ。
「和子ぉ!」
突然、名を呼ばれて、和子はどきっとした。
まさか。私を知っている人が、今、ここにいるなんて!
見ると、老いた男の人だった。
うれしそうに笑って、その人が近づいて来る。
首から、名札がぶら下がっていた。
この時代にも、名札をつけて歩く人はいるのか・・・。
和子はそんな事を考えていた。
井川陣平 78才―――――――
名札の文字が見えた。
「陣平!?」
「やっぱり、和子ちゃんだ! 今までどこにいたんだよぉ。」
幼なじみの陣平だった。
陣平は、若いままの姿の和子を、ちっとも不思議に思っていないようだった。
「陣平・・・生きてたんだね! みんなは?」
陣平は、急に暗い表情になった。
「誰もいないんだ・・・。父ちゃんも、母ちゃんも、・・・姉ちゃんも。
和子ぉ、どうして、おいら達子どもだけ、生き残らなきゃなんなかったんだ?
おいらはもう、兵隊になって、戦う必要もねぇのに・・・父ちゃんや母ちゃ
んを失くしただけじゃねーか。なぁ、和子!」
「陣平・・・・」
「でも、和子は生きてたんだな! よかった。本当に、よかった。探したん
だぞ。」
「いたいた! おじいちゃん!」
若い女の人が、こちらに駆けて来た。
慣れっこなのか、ちっともあわてないで。
「お堀の周辺に、よく黙って出かけて来てしまうんです。気味悪かったねぇ。
ごめんね。」
と、和子に謝った。
「いえ・・・」
女の人は、和子に会釈すると、陣平を促して、来た道を帰っていった。
陣平は、もう和子を振り返りもしない。
「陣平!」
と呼ぶと、陣平はうつろな目で、和子の方を見た。
「会えて、よかったよ! 生きててよかったんだよ!」
和子が大声で叫ぶと、陣平は、少年みたいな笑顔で、顔をくしゃくしゃにし
て、手を振った。和子は、陣平が見えなくなるまで、後ろ姿を見送っ・・・・。
N駅は、和子には大きすぎた。
道順が全く頭に入らず、今朝乗ってきたK鉄道への道が、わからなくなってしまった。
駅員に聞くと、JRとK鉄道の2つの方法でT駅には戻れると、説明され、K駅で乗り換えるJRの方が、その場所からはすぐだった。が、乗り換えなしで一本で行けるのはK鉄道なのだ。
K駅!
和子は、駅名を聞いたとたん、JRを選んだ。
時代はちがうとはいえ、前に乗り換えた聞き覚えのあるK駅は、迷子の和子には、一本で行けるK鉄道よりも、飛びつく要素となった。
乗り換えが面倒なだけで、実質乗っている時間は、そんなに変わらないらしい。
急ぐ旅でもないのだし、考え事もゆっくりできる。と、いうより、もう一歩だって歩きたくなかった。というのが本音だった。
ホームにあがると、電車はもう止まっていて、出発までのんびりと扉をあけたまま、待っているらしかった。
各駅停車のそれは、人気がなく、和子のいた時代ののんびり感が残っていて、和子は妙に、心が落ち着いた。
反対側のホームの急行列車を、お先にどうぞ。と見送って、和子の乗る列車は出発した。
いつの間にか眠ってしまい、終点のK駅で、車掌にゆり起こされた。
T駅の方へと、まわる列車に乗り換えて、和子はまた、燃えた町燃えなかった町のメモを取り出して、考え事の続きを始めた。
陣平のおばさん達も、これを見て、逃げてくれたら・・・みんな死なずにすむかもしれないわ。
なんとしても、これを紙以外の何かに、刻字して、持ち歩かなければ・・・!
和子は、帰宅したら萌子に、相談するのを 楽しみにして、決意を新たにした。
その時、列車は、トンネルをくぐり始めた。
1944年―――
可菜は、いやいやながら列車に乗り込むと、人でごった返す車内を、後ろへ後ろへと歩いて、よねを先導した。
「できるだけ、後ろの方へ。念のためだから。」
「まあ、はいはい。・・・あ、すみません。前を失礼いたします。
すみません。」
よねは、人の前をどんどん行く可菜の後ろから、乗客に詫びながら、ついてきてくれた。
列車が動き始めたので、床に座り込んで、よねと向かい合わせに座った。
可菜は、防空ずきんを後ろへぬいで、自分の顔をよく見せて、よねの手を握った。
「私・・・石田可菜といいます。和子ちゃんじゃありません。」
「あ・・・・・」
まっすぐに目を射るように見つめてくる可菜の正面顔を見て、よねは、やっと目の前の娘が和子とは別人だということに、思考がついてきたようだった。
でも、なんとなく面差しは似ているのだった。
「びっくりさせて、ごめんなさい。」
「いったい、これは・・・・」
「みねおばさんの家に着いたら、くわしくお話しますけど、疎開した日から、
私と和子ちゃんは、入れ替わってしまったんです。」
意味を理解しかねて、よねは言葉が出ないでいた。
「・・・正確なことなんて、わかりません。ただ、そうなってしまったん
です。・・・私は2011年に生きていた小学5年生の女の子なんです。
その未来の人間の私が言うってことを、頭に置いて、聞いてくださいね。」
「未来・・・・?」
こくんと、うなずいて、可菜は声をひそめた。
「逃げて来てください。みねおばさんの住む田舎へ。ぜったい危ないんです。
あなた達の住む市街地は。」
本当はよく知らないけれど、可菜は、断言してしまった。
たぶん。や、きっと。では、よねを説得できるはずがないと、思ったから。
本当は、どこが危なくて、どこが爆撃されるのかなんて、知らない。
でも、夏に見る戦争のドラマで助かるのは、田舎にいた人達・・・だったと思う。
焼け野原になった町に、家族を探しに行くシーンが、いろんなドラマにあった記憶があったから。
なんの知り合いもいない田舎に、逃げてくれるわけがないから、ここも安全なんて自信全くないけど、みねおばさんのところなら来る理由くらい、つくり出せると思う。
今回の墓参りみたいに。だって実家なんだから。
「約束してください。つやさんも、一家みんな連れて、もう1度みねおばさん
のところ に来るって。」
「でも・・・・」
その時、列車はトンネルに入った。
ぐらりっ
と、めまいがして、可菜は、目を閉じた覚えもないのに、目の前が真っ暗になって、何も見えない時間を、少しの間経験した。
気持ちが悪くなって、それで目をつむってしまったのかもしれない。
とにかく、次に目を開けた時には、現代の、平成のJR線の列車に、乗っていた。
「え?・・・・」
あたりを見回す。もんぺ姿の人物など、自分ただ一人だった。
スーツや、おしゃれな普段着を着た人が、ぱらぱらと、座っている。
床に座っていたはずの可菜は、きちんと最後列の座席に座っていた。
自分の座席シートに、2枚のメモが、落ちていた。
も・・・戻った?
戻れた!? 今、こんな時に!?
よねに、話は通じただろうか。
今、和子ちゃんが入れ替わって、あの列車の床に、お母さんと向かい合って、座っているんだろうか。いや、67年前の今なんだけど・・・。
可菜は、メモを拾った。
燃えた町――――東京、名古屋、大阪、神戸の四大都市
1944年12月13日から終戦までに空襲で焼けてしまった町―――――
名古屋市、浜松市・・・・
と、都市の名前が、ずらずらと書いてあった。
2枚目のメモには、
焼けなかった町―――――
愛知県内は、江南市、尾西市、稲沢市・・・・
三重県内は、久居市、名張市、尾鷲市・・・・
岐阜県内は、高山市、中津川市、恵那市・・・・
と、あった。
和子ちゃん・・・いっぱい、調べてたんだね。どこが安全で、どこが危ないか。
やっぱり、よねさんの住んでた所は、超危ないとこじゃんか!
確信なんてなかったけど・・・よかった。私の話信じてくれてなくても、和子ちゃんが戻って、この事話したら、きっと逃げてくれる。
だって、真実なんだもん。たぶんの話じゃないんだもん。
2011年に旅してきた自分の娘が話す話なんだもん。信じるに決まってる!
うん。
いいタイミングで入れ替われたのかも!
・・・私じゃ説得しきれたかどうか、あやしいもんね。
安全な場所をこんなに調べあげた和子ちゃんなら、あの戦争を生き抜いて、現代のどこかに、78才のおばあちゃんになって、生きてるかもしれないんだ!
ああ!
もし生きていてくれるなら、会って、話を聞いてみたい・・・!
みんな助かったよ!って。言ってくれないかな。
可菜は、さっきまで降りるはずだったS駅に停車した列車から、外を見つめた。
そうか・・・ここで降りないなら、私は、どこで降りればいいんだっけ?
和子ちゃんが向かってた先は・・・萌子さんちだよね。
メモ・・・も、もうないし。
家を知らないよぉ。
住所なんて、覚えてない。
携帯の番号も・・・確か聞いたはず・・・なんだけど、う――・・・全然覚えてない。
どうしよう。どうやって帰ろう。
Uターンして、おうちへ帰っちゃおうか。
パパやママのいる家へ。
・・・ううん、もうあのトンネルを通るのは、いや!
また、戦時中のあそこへ戻ったりしたら・・・怖いもん。
ママに電話!
・・・次の駅で降りて、ママに電話するってのは?
ママは、電話を待ってる。・・・萌子さんと心打ち解けて、橋渡しがスムーズにできるように、なったよ。っていう電話を。
・・・私、まだ何もやってないや。
今、逃げて、すべてを打ち明けて、家へ帰っちゃうってのもありだけど・・・
そんなの、また「逃げ」だ。
・・・あの時、私は橋渡しが面倒くさくて、現実から逃げた。
だから、わけのわかんない世界へ、迷い込んだんだ。
やった事のない火おこしや、腰がつりそうなくらいしんどい水汲みを、私はがんばれたんだもん。・・・今度こそ、こっちで、こっちの世界で、がんばってみなくちゃ。
萌子さんだって、たぶん和子ちゃんを助けて、いろいろがんばってくれてたと、思うし・・・
今逃げちゃ、ダメだ。
・・・まず、萌子さんに会わなくちゃ。うん!
「あの・・・ 」
通りかかった車掌に、思いきって声をかけると、
「ぎゃっ」
と、ひと声あげて、車掌は後ずさった。
「あれ・・・前にもこんな事あった。防空ずきんみたいなのかぶった、
・・・もんぺ姿の女の子が・・・」
「あ、それ! 和・・・私! 私です!」
「あ、そうなんですか? そういえば、戦争中の亡霊みた・・・はっ・・・
失礼いたしました。」
「私・・・行き先のメモをなくしちゃって・・・」
「あー! まるで、デ・ジャ・ヴュだ。あの時は、確かピンクの携帯を
拾って・・・」
「あー! それ! それ、私の携帯です! ストラップに、うさぎとキラキラ
の宝石みたいな、もちろんプラスチックですけど、散りばめてあるやつ、つ
いてたでしょ!?」
「そう! そうです。忘れて行かれて・・・確かK駅の遺失物預かり所の方
へ、移しました。」
「やった! じゃあ、次にタクシーの確実いる駅って、どこですか。」
「それはやっぱり、T駅ですね。」
「ありがとうございます。」
「では、よい旅を。」
車掌が行ってしまうと、可菜は座席に座り直した。
T駅・・・そういえば、ママのメモに書いてあった、迎えに来てもらうはずだった駅だ。
もう、萌子さんのマンションの近くまで行くのに、T駅まで行って、またK駅まで携帯取りに戻るのは、二度手間だけど・・・携帯になら、萌子さんの連絡先も入ってる。
萌子さんに、和子ちゃんと入れ替わっちゃったこと、話して、助けてもらおう。
大丈夫よ。萌子さんが、きっと力を貸してくれる・・・
タクシーに乗って、K駅まで戻ってもらってから、K駅の中までタクシーの運転手さんに、ついてきてもらった。お金を全然持ってなかったから。
遺失物預かり所で、ピンクの携帯を見つけると、身分証がわりの物を何も持ってなかったので、自分の家の電話番号と、携帯番号を言って、その携帯の自己プロフィールと合うか、で許してもらうことになった。
買ってもらったばっかりで、覚えにくい番号を、替え歌にして覚えてたんだもんね?
よかった、セーフ・・・
充電が切れてたから、駅員のFOMAの充電器をつないでもらって、確かめた。
ついでに、可菜は、萌子に連絡もそのままさせてもらって、萌子にタクシーの運転手に、お金を払ってもらう約束をしてもらったら、やっと、運転手も安心したらしい。
無一文の私が、うそついてるとでも、思ってたのかぁ。
気を悪くした可菜に気づいて、T駅近くの萌子の職場M大まで、乗せてってくれた時、運転手は謝った。
お金を持ってないってのは、こんなに不安なものなんだなー・・・
他人にも信用されないし。
誰かがいつもそばで守ってくれたら、こんなに怖くない。
そうか。パパやママがそばにいた時は、お金の心配なんてした事なかったんだな・・・私。
と、タクシーの中で、ぼんやりと考えた。
M大のロータリーに着くと、萌子がすでに待っていて、手を振った。
精算を済ませて、タクシーが出て行くと、萌子は、可菜をじっと見た。
「可菜ちゃんまで・・・そんな髪型になっちゃうんだ。」
「好きでしたんじゃないよぉ・・・しらみが怖くてさー。」
萌子は、ぷっと吹き出すと、
「おかえり。大変だったんだろうね。」
と、言って、ハグしてくれて、びっくりした。
「大変なんてもんじゃないよ・・・」
その夜、萌子は、現代に飛び込んできた和子ちゃんの珍騒動を、おもしろおかしく話してくれ、可菜は可菜で、戦時中の家事や学校の大変さを、のどがカラカラになるまで、しゃべり続けた。
二人とも、タイムトラベルが、まだ信じられないくせに、このリアリティーばっちしのお互いの体験談を語り合うと、信じなかったら、説明のつけようがない。と、結論づけることになった。
久しぶりに、石けんを使って(!)清潔なお湯につかった本物のお風呂に入っていると、電話が鳴った。
あわてて出ないで、全部洗い終わって気が済むまで入っていることに決めていた可菜は、お風呂を出ると、萌子に伝言を伝えられた。
「この間、和子ちゃんが、疎開先だったお宅へ、和子ちゃんの家族の消息を訊
ねに行ったんだけど、社会の宿題で戦争中の疎開を調べてるって言いな。
って、私が入れ知恵してさ。そこの、友作さんっておじいさんが、近所の岩
間英郎さんて方にも声をかけてくださって、少し思い出したことがあるか
ら、もう一度訪ねて来てくれないか。っ て、おっしゃるの。」
「友作くん! 英郎くんは、慶子ちゃんの弟だ!
そうかっ。おじいちゃんになっちゃってるのか!」
「ああ、可菜ちゃんは会ってるわけね。向こうで、でも、おじいさんの方の
友作さんは、初対面よね。どうする? 会いに行く?」
「・・・・。ね、和子ちゃんと私って、似てるの? また、なりすます事、
できると思う?」
「話し方やしぐさが、全然違うけど、そんな事はいっしょに住んでる人でもな
い限り、わかりゃしないと、思うわ。顔は、よく似てるもの。髪型がセミロ
ングだった時なら無理だったかもしれないけど、今のワカメちゃんカット
なら、まずバレない。なりきれる。と、思うわ。私。
あ、ちょっと、このサイドの長いとこがちがうか、・・・でも、気になんな
いかな、サイドくらい。」
「じゃあ、会う! 遊んであげた事は、ないしょにして・・・。
和子ちゃんがあれからどうなったのか、知りたいもん。もしかしたら、あの
辺りに住んでて、和子ちゃんにだって会えるかも!」
「おばあさんの和子ちゃんかぁ。私も会ってみたいわねぇ。」
と、萌子が笑った。
「萌子さん、私をフォローしてくれる? 一人じゃボロ出しちゃうかもしれ
ない。そしたら、大人の知恵で、ごまかしてくれない!?」
「わかったわ。」
「ありがとう!」
萌子さんが、急に頼もしく見えた。
つづく




