カルチャーショック
*お話は2011年春当時に書かれたものです。戦争の終った1945年を始め、
いろいろな「何年前」などの表記が2015年から考えるとおかしな事になって
きてしまうので、ご注意ください。
もう、「読んでいる今は2011年なのよ~」とかいう気持ちで読んでいくのが
bestです。
1944年―――
もう日は高くなっていた。
ひと仕事終えて、子ども達の朝ごはんをつくりに戻ったみねは、まだ寝ている可菜に、びっくりした。
「もう、お客さんはおしまいだよ。」
布団を、思いきりはぐと、可菜は転がって、布団から落ちた。
「え・・・」
「いったい、いつまで寝てるの。学校も今日から行くんだよ!
・・・もう、慶子ちゃんが迎えに来てしまうよ。」
「あ、はい。」
「あなたが、朝ごはんをつくってくれたら、私は戻ってこなくても、そのまま
畑仕事に移動するだけで すむんだがね。」
「はい・・・」
怖っ・・・
昨日と、全然ちがうじゃんっ みねおばさん!
ごはんって・・・。
お米を研いでスイッチを入れるだけなら、何度かママに頼まれて、した事があるけど。・・・どうせここには、炊飯器なんてないでしょうし。どうやればいいっての?
じーっと、みねのやりようを見ていたが、よくわからなかった。
パパとママとバーベキューしに行ったことあったっけ。
それに、似てる・・・けど、着火剤もないみたいだし・・・。
マッチなんて、火遊びはいけません!って、触らせてももらえなかったのに・・・。
「これ・・・どうやって?」
「えっ、火をつけたこともないのかい?」
「はい・・・・」
マッチを擦るところから練習だし。
松の葉の枯れたのに火を移すのも、初めて知った。
水を汲もうと見回すと、水道がない!
うそっ
裏に回ると、井戸があった。
つるべが下がり、カラカラと汲みあげるという。
時代劇の世界だ・・・。
なんとか、ごはんの仕度がすむと、へとへとだった。
半分は見てただけなのに。
そうこうするうちに、慶子ちゃんが呼びに来た。
可菜はあわててごはんをかき込んだ。おいて行かれては、学校の場所さえわからない。
おもてに出て行くと、慶子は、弟をおぶっていた。
そのまま、学校へ行くらしい。・・・・マジで?
ランドセル以外に、背負っていくものがあるなんて、考えてもみなかった。
弟は、英郎くんというそう。
「私、・・・小さい子と遊んだ事ないの。何すればよろこぶのか、慶子ちゃ
ん知ってる?」
と、聞いてみた。
私は、耕作くんと友作くんと、うまくやっていきたかった。
「草や虫を渡すと、遊ぶよ。木の実とか、小っちゃい手でむいたり、ほじっ
たり、いつまででもしてるよ。殻まで食べそうになったら、取りあげるけ
ど。」
「へぇ。・・・家の中では?」
「家の中で遊んでる時間なんて、ないよ。うーん・・・もし時間がある時は、
かくれんぼかなぁ。」
「なるほど。」
草や虫か。
おもちゃがなくても、なんとか遊ぶ方法は、見つけられるんだぁ。私も何か考えてみよう。
慶子は、道ばたの雑草を1本抜くと、背中の英郎に渡した。
英郎は、うれしそうにぶんぶん振り回して、勢いあまって落としたりした。
学校に着くまでに、6本の雑草を抜いてもらっていた。
本当だ・・・。
あんな草一本で、機嫌よく遊んでいられるんだぁ・・・。
と、可菜は、今日何度めかのカルチャーショックを受けていた。
「N市から疎開して来た、川島和子さんです。」
「よろしくお願いします。」
教室に入ると、先生が紹介してくれた。
もちろん、本当の名前なんて言えない。
転入生はめずらしいらしく、可菜ひとりだった。
机が2つ分ずつつながっていて、全部木で出来ている。
教科書のない可菜は、隣りの子に見せてもらうことになり、ぴったりとくっついているみたいに一つの机だから、教科書も落ちたりしないなぁ。なんて、変な感心をした。
ふと、前の席の女の子の襟足に、白いものが見えて、じっと見た。
フケ? ・・・にしては立体的な。
いや、あんまり見ないでおこう。失礼だよね。
教科書に目を戻すと、黒い小さな虫が、這っている。
げっ・・・何!?
ポトン・・・・
隣りの子の前髪から落ちた虫は、教科書の上を這う黒い虫と、同じだった。
ガタンッ
可菜は、金切り声をあげて、席を立ってしまった。
みんながいっせいに、可菜に注目する。
「何? 何?」
「こいつ、しらみにびびってらぁ。」
「えー、しらみ知らないの?」
「都会っ子は、もやしっ子!」
「疎開っ子! 疎開っ子!」
「すましてんなぁ。」
「あんな髪してりゃ、すぐうつるさ!」
「一番住み心地、良さそうだもんな、あの長さ。」
セミロングの髪を、はっと押さえて、可菜はぞっとした。
しらみ!? 前の子のは、もしかして卵!?
だってフケにしては、立体的だった!
可菜は飛び出して行って、学校に来る時に見た足首くらいの水の流れる小川に入った。
髪を、狂ったように洗った。
この時代の女の子達が、どうしてみんなワカメちゃんみたいな髪型なのか、わかった気がする!
ぜったい、うつりたくない!
可菜は、毎日、学校帰りに小川で髪を洗うことに決めた。
だって、お風呂には毎日入れないし、2度沸かし直したりすることが、後にわかってきたから。
川の水の方が、まだ清潔と判断した。
3日めになると、その小川で、髪を自分で切った。なるべく短く。
ほんの少し、サイドだけ長く残して、あとはみんな。ひどくざんばらな、ふぞろいな髪型になった。
慶子が、見るに見かねて、可菜の見えない後ろの髪を、切りそろえてくれた。
「ありがとう。」
「すてきな髪だったのに・・・おしいね。」
「ううん。いいの。髪はまた、のびるもん。」
「うん、そうだね。私もいつか、髪の毛のばしたいな。」
「そしたら私、髪の毛結ってあげる。」
「そんな時が早く来ればいいのになぁ。」
「うん・・・」
クラスメートが、はやしたててやって来た。
「やーい、やーい、疎開っ子!」
「また、お洗髪ですかぁ? すかしてんなぁ。」
と言って。
可菜は、びっくりだった。
昔も、いじめってあったんだ。まさか自分がいじめられる側になる日がくるなんて、思いもしなかった。
なんでもそつなくこなして、勉強もそこそこついて行けるし、運動神経だって、どんくさい方じゃないから、今までクラスメートにいじめられたり、からかわれた事なんてなかった。
いじめられてる子を、遠目で見て、通り過ぎてく方だった。
くっだらない。子どもだなー。って。
でも、他人に認めてもらえないっていうのは、つらいものだね。
居場所がないものなんだね。
居心地が悪くて、移動したくなる。けど、居場所なんてどこにもないって感じ。
ママが、新しいお継母さんから受けてたいじわるって、こんな感じかな。
もっと、ひどい感じ?
お家の中に居場所がなかったら、もっとつらいだろうな。
がんばろうって気持ちも、くじけるだろうな。
慶子ちゃんがいなかったら、しゃべってくれる人なんて1人もいない。
・・・13才で家を飛び出して、ママはどうやって生きたの?
私、戻れるのかな。
いつまで続くのかな。
私は、2才下なだけだけど、とても家飛び出そうとは思えない。
おばさんの手伝い、いっしょうけんめいして、あそこに置いてもらわなきゃ、どうしようもない。
食べる物が、こんなに大切なんて、考えたこともなかった。
おなかが空いたら、ごはんが食べれるって・・・
空いてなくても食べるものがあるって、当たり前だった。
今は、ひもじくて、あられや炒った豆を、あめ玉みたいになめて過ごしてるなんて。
ごはんの時間まで、体をめいっぱい使って働くから、本当におなかと背中がくっつきそうなくらい、きゅ〜〜っとする。
痛いくらい。
ごはんが炊けるまでの少しの間、耕作くんと友作くんに、炒り豆が「どっちの手にあるか。」
ってして、遊んだ。
当たると、口にほおばって、うれしそうにするけど、私の持ち方がうまい(えっへん)ので、なかなか当てられず、二人ともいつまででも、やってほしがった。
毎朝、可菜は、自分でごはんが炊けるようになると、白いごはんや、ふかしたさつまいもを、弁当に持って行かせてもらった。
お昼になると、弁当を広げるグループと、外へ駆けてって、外遊びを始めるグループがあるのに、気がついた。室内組の慶子ちゃんに聞くと、
「うちへ帰って食べてもいいんだけど、帰っても食べる物がないから、外で遊んで、私たちが食べ終わ
ってしまうのを、待ってるんだと思うわ。」
という答えだった。
「白いごはん・・・」
「え・・・」
慶子が、可菜の弁当箱の中を見て言った。
「私も、前は白いごはん持って来てたんだ。ほら、かっちゃんとこや私らのと
こは、農家だから、少しくらいは米があるでしょう? 親も、あるものは食
べさせたがるし。 ・・・でも先生に、他の子がうらやましがるからよしな
さい。って、言われて・・・・やめたの。
おうちでだって、食べられるものね。わざわざみんなの前で、見せて食べな
くてもいいんじゃないか ってさ。」
「・・・・。じゃあ、私もやめるよ。」
「うん。そうした方がいいよ。たまにね、お弁当分けてあげるんだ。」
慶子はそう言うと、さつまいもを半分に割って、いつもは外遊び組の沢田しまに、半分のさつまいもを渡した。
今日はどうして中にいるのかな。って、ちょっと不思議に思ってたんだけど、慶子ちゃんが、朝のうちに誘っておいたんだそう。
私は毎日、食べられるから、気づきもしなかった。そんなに食糧事情が悪い家があるなんてこと。
「うちは、少しは食べられるから大丈夫よ。」って、みねさんや兵作さんが言ってくれてた意味が、やっとわかった。
特別な方なんだ。農家の子ってだけで。
普通は、もっとひもじいんだ・・・。
これだけ毎日食べてても、おなかと背中がきゅ〜っとなるって、思ってたのに・・・!
私は、兄弟もいないから、半分こしなさい。なんて、言われた事が一度もない。
慶子ちゃんは、えらいな。おなか空いてないわけないのに、他人に分けてあげられるなん
て・・・。
このお弁当を、誰かに半分あげたら、夜までにいつもよりももっと、おなか空くってことでしょう!?
私・・・あげられないや。
平成の私なら、あげられたかもしれない。
また買えばいいや。って思って。
でも、・・・この時代の私は、いじわるだ。
自分の分のお弁当を、誰かに半分あげるのは、いやなんだもん・・・。
ママ・・・おやつ、自分だけもらえなくて、つらかっただろうな。
今になって、わかる。
あの、外で遊んでる、いつも憎ったらしい男の子達も・・・つらいのかな。
畑に変わってしまった運動場のすみっこで、影ふみをして走りまわっているカラ元気な男の子達を、可菜は、じっと見つめた。
2011年―――
昼休みを終えて、萌子が大学に戻って行くと、和子はマンションの1室に、ひとりになった。
家に置いてもらえることになったので、和子は、何か役に立ちたくて、はた、と立ち往生した。
・・・薪もない。
燃えつけの松葉も、小枝も見当たらない。
マンションの高い所に、あがって来た覚えはあったので、井戸もないのは、わかった。
水道の蛇口をひらくアレもないし、風呂場らしい小部屋を見つけたが、水は入ってなく、風呂を沸かす釜戸も、見つけられなかった。
仕方がないので、ベランダに干してあった洗濯物を取り込んで、たたんだり、食器かごに入っていたわずかばかりの食器を、ふきんで拭いて、食器棚に並べたりして過ごした。
が、萌子一人分の洗濯物や食器は、すぐ片づいてしまい、ヒマをもてあましてしまった。
新聞が、積んであるのを見つけて、読んでみようとしたが、読めない漢字ばかりだった。
カタカナは読めたが、知らない外国の言葉のようだし、読む方向が逆で読み直してみたり。
と、ちっとも書いてあることが、わからなかった。
敵性語も、もう自由に使っていいんだわ。
と、考えていると、やっと萌子が帰ってきた。
仕事を終えて、帰ってきた萌子に、なんの準備もしていない自分を、和子は恥ずかしく思い、正直に、やりようがわからないことを、告白した。
萌子は、「あ、そうか。」と、親切に説明して、和子の疑問を解いてまわった。
火は、ガスコンロで、一瞬で点いた。
水を出すコックが、回すタイプではなくて、上下に動かすタイプだったので、わからなかったのが判明した。水は水道からとめどなく流れ、お湯も、蛇口からすぐに出て、お風呂をいっぱいにした。
ちょうどよい量で、自動的に止まった。
「・・・・・・・!!」
びっくりだらけだった。
何度も水を運び、重い桶をあけて、風呂をいっぱいにするのに、泣いた日。や、煙にむせて顔を真っ黒にした自分を、思い出した。
和子は、やり方がわかったので、次の日には、洗面台で水を溜めて洗濯をし、お米を鍋で火にかけて炊いて、萌子をびっくりさせた。
洗濯は洗濯機で。お米は炊飯器で。
スイッチを入れておけば出来あがる。と、萌子に説明されて、今度は、和子がびっくりし・・・のくり返しだった。
知らない同士が、1つ1つを埋めて、知り合ってゆく・・・。
萌子にとっても、和子にとっても、別の意味で、よい経験となった。
萌子が、吉子(可菜のママ)は悪い人と、聞かされて育ち、人づきあいが苦手となった事。
父が亡くなり、天涯孤独の身となった事。を知った和子は、言った。
「私も、67年なんて後の時代に、ひとり放り出された身寄りのない者。
お互いに、調べませんか。」
「何を? 私は、調べ物は得意よ。協力しようか。」
と、萌子が言うと、和子は首を振った。
「ありがとうございます。でも、違うの。萌子さんは、今までの自分の人生を
再構築するんです。 何が本当で、何がうそだったのか。どんなつらい真実
が出てきたとしても。そして、私は、戦争のことを。終わった後、どうなっ
たのか。母さんは?姉ちゃんはどうなったのか? 父さんや兄ちゃんは帰っ
たきたのか。お互い、調べるんです。」
「再構築・・・・。そうね。本当のことを知らなければね・・・。まだ、ちょ
っと逃げてるとこあるのよね。だって、母と過ごしてきた年月の方が多いん
だもの。全部崩れそうで、怖いの。・・・でも、もしそれ全部 認めたら、
そしたらまた、人を信じることも怖くなくなるかもしれないのよね。」
「調べましょう。時間は、たっぷりあるみたいだし。なんでも自動で。」
「ふふふ。そうね。」
萌子は、さっき引っ張り出してきて説明した、使い捨てのシートモップと、和子の用意した雑巾バケツを見比べて、笑った。
次の日、和子がN城の近くに住んでいたと聞いて、萌子はN市に、車を走らせた。
今日は和子の調べものにつきあうと言って。
和子の言う住所の辺りを、車を降りて歩いてまわってみても、全く見覚えのあるものは、見つけられなかった。それもそのはず、N市中心部は、空襲により、一度焼け野原となっていた。
何もない更地を、再区画して、町を一から再建してきたのだ。
戦時中の和子の知る建物は、1つたりとも残ってはいなかった。
「あ、・・・お城だ。」
「うん。でも、木造じゃないそうよ。戦後、鉄筋コンクリートで立て直した
んだって。 行ってみる?」
「はい・・・」
和子は、思い出していた。空襲から守るため。と、金のしゃちほこが、地上近くに下ろされ、まだ出征してなかった父と見物に行った時のことを。
2011年の夏は、本丸御殿の素屋根と、西南隅櫓などが、修復工事をしていて、プレハブで御殿自体、すっぽりと覆われていて、まるで知らない場所のように見えた。
お城に入ると、エレベーターで楽々登って行けるので、和子は驚いた。
といっても、天守閣までエレベーターで行けるわけではなく、最後は、鉄の階段を登ることになる。階段を登りきると、売店があり、色とりどりのお土産が売っていた。
そして、天守閣は、四方どこからでも町を見おろすことができた。
N市の町並み、家々の屋根群が、眼下からずーっと先まで続いていく。ビルも見える。
「ああ・・・。まさかお城の中に入って、こんな高いところからの景色が、見
られる日が来るなんて、思って もみなかったです・・・。」
北の窓に広がる、あの屋根のどれかが、私達の住んでいたつつましい民家の跡・・・なのだわ。
その天守閣の南側には、記念メダルの機械が置いてあった。
萌子は、自然と記念メダルの機械の方に、吸い寄せられるように向かっていった。
観光地に行くと、ついついメダルをつくってしまうのだ。
でも、今日はちがう。
機械にコインを入れて、和子に言った。
「やってみる?」
「これは?」
萌子は、KAZUKO KAWASHIMAと入力した。
ガタガタッ ガタッと、機械が音を響かせて、出てきたメダルは、キラキラと金色に光っていた。
それを、和子に渡す。
「わぁ・・・N城だ。」
「今日の記念に。」
「ありがとう。・・・これ、名前? 私の?」
「そう。ローマ字しか入力できなかったの。」
「アメリカ・・・みたいですね。」
「あ、そっか。これはローマ字といってね。日本名なんかを英語に表記する
時、使うのよ。自動的に日付が入るんだもの。今日の日、和子ちゃんは、
未来でN城を見たのよ。これは事実。」
和子は、渡されたメダルを、じっと見つめて、ポケットに大事にしまった。
ずっしりと、重い。お金じゃないのに、すごいお金を手にしたみたいだ。
母さんに見せてあげたいな。
姉ちゃんが見たら、びっくりするだろうなぁ。
「近くに図書館もあるの。こっちの方が行ってみたいわよね。」
「ええ。」
お城を出たところにある売店で、萌子はソフトクリームを買って、和子にも一つ勧めた。
「おいしい。」
今日初めてうれしそうな顔になった和子を見て、萌子は少し安心した。
和子は、ソフトクリームを萌子と2人食べながら、駐車場に向かった。
県立図書館につくと、和子は、戦争関連の本を探した。
焼失した地区、戦没者名簿・・・。
現代の電話帳で、川島の姓をくまなく探してもみた。
母さんは、もう年で亡くなっていても、生きていれば今年、姉ちゃんは82才。勝は67才になるから。
生きて、この辺に新しく家を建てて、住んでいるかもしれない。と、思った。
けれど、どの書物を調べても、一個人の川島家の戦後の動向など、わかるはずもなく、調べるのにも限界があった。
川島つやの名も、(姉は嫁にいって姓が変わってしまったかも。と半分あきらめたが。)
川島勝の名も、電話番号の記載も、見つからないのだった。
そうだ。陣平は・・・?
集団疎開したんだもの。どこかで、生きているんじゃないかしら。
ああ、会えたらいいのに!
戦災史を見ると、N城は1945年5月14日の空襲で、金シャチを下ろすために設けられた工事用足場に、焼夷弾がひっかかり、お城もろとも全焼することとなった。
あたりは一面焼け野原となる大空襲であった。とあるから、みんな無事ではなかったのかもしれない。
何度も、空襲をうけていたようだ。
一番最初の空襲を調べなければ。
父さんや、兄ちゃんは!? 生きて帰って来てくださったろうか。
南方の島へ行った兵隊の行方は、もっと知りようがなかった。
骨も帰らない人も、たくさんいた。というのだ。
調べれば調べるほど、絶望的な気持ちになっていった。
もう、本当に調べようがないの!?
私は、何をしたらいいの?
家へ帰りたい!
誰でもいいから、知っている人に会いたい!
・・・もう、戻れないのかな。
このまま、こんなわけのわからない時代に、たった1人生きていかなくちゃいけないのかしら・・・
母さんや姉ちゃん達は、空襲で亡くなったのだろうか。
みんな死んでしまったのなら、私もいっしょに死んでしまえばよかったのに・・・!
知っている人の誰もいないこんなところで、ひとり無事に生きのびられたとして、それがなんになるの?
さみしい・・・・・・・母さん。
萌子は、泣き出した和子に、言葉をかけることもできず、和子の肩を、ただ抱いてあげるしかできなかった。
つづく




